2話 王都へ
体術スキル、とあるように主人公は体術で戦うので、表現が分かりにくくなるところがあります。
その際はコメント等で指摘していただけると幸いです。
ふと思ったが、どうやらこの館には私の両親は不在らしい。それとなく他のメイドに聞いてみると、どうやら王都での仕事が忙しいようだ。
そして、わたしが転生したこの家はガルフォード家というこのリュート国の中で一二を争う名家なのだとか。
というか転生と言う割にはある程度育ってからの状態で第2の人生が始まったなぁ……。
「この世界のアタシについては、前の世界のことを思い出したあとでもある程度知ってたよ。」
「わたしも。自分のことについては既に記憶にあるみたい。あとこの世界の基本情報かな。」
一からというわけではないく前世の記憶が目覚めたみたいな感じか……。
それから、他のメイドを見ると、ランプをつけるのに火を使うのだが、何も無いところから火を出したり、なんなら浮いているメイドもいる。
「魔法がある世界に転生した感じだね。」
「そうなんだよね!それだけでもアタシは結構テンション上がってるよ!!」
「パルクール的には嬉しくないんだけど……。空飛べちゃったらまた意味が変わってくるよ。そういえば、悠里はなにか魔法を使えるの?」
「もちろん!火や水、雷とか相手の情報を見る魔法だったり、万能だね!」
「なんだ異世界チートか。」
「そんな言い方しないでよ!!それに、そこまで威力は大きいものじゃないみたいだし、攻撃魔法よりも補助魔法の方が覚えているものが多いよ。」
「ふーん……。魔法、か……。」
魔法のことも気にならなくはないけど、とにかく、この世界のことをもっと知りたいし、このリュート国の帝都とやらを目指そう。
手紙の中に地図が同封されていた。この家から北西に向かえばいいみたいだ。
「あ、『サキ』。準備できた?」
「うん。ていうか『ユウリ』、外にもう出てるんだからあんまりフランクな話し方してると、変なメイドだと思われるよ。」
「…幼馴染に敬語とかキツくない?」
「確かにそうだけどさ……。まあ、人がいないところならいいか。」
家のことはメイドたちに任せて、ユウリと一緒に王都へと向かう。そこまで遠くないそうだ。
歩き出してからしばらく経った頃わたしはあることに気付く。
「…なんか、心做しか身体が軽い気がする。」
「この世界では自分の情報を可視化できるみたいだよ?それこそRPGみたいに。アタシは一回見たけど。サキも一回見て見たら?」
この世界はそんなことが出来るのか……。
自分の情報を見るのは、安直だが『インフォ』という魔法らしい。
ユウリは魔法力が高いおかげか、相手の情報も見られるらしい。…私は無理だけど。
「…というか、わたしのステータスなんか……。」
「ん?どうしたの?アタシも見ていい?」
「いいよ。」
ユウリがわたしに向かって手をかざし、呪文を唱える。
なんというか、ユウリは記憶が目覚めてから適応するまで早いな。本当にすごいや。
「…たしかに。なんというか、尖ってるね。」
「でも、この世界でもトレイサーが出来るならそれでいいや。ステータス的に、トレイサーでも問題なさそうだし。」
「まあ、それが目的だしね。転生先でも一緒にトレイサーとサポーターの関係でいようって。」
だけど、まさか……。
魔法の世界でこんなステータスってあるものなのか……。特殊なんだろうなぁ……。
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王都に続く道を歩く。
目の前に街が見えてきたので、恐らくあそこが王都だろう。
「ユウリ、多分あそこだよね。」
「いやー、そこまで歩かなかったね。結構かかると思ってたんだけど。」
そんなことを喋りながら歩いていると、
謎の気配を感じた。
「…ユウリ、止まって。」
「え?」
「あの辺になにか適当な魔法を打ち込んでみて。」
「えぇー。アタシそんなにここに来てから攻撃魔法使ったことないんだけど……。」
「まあ、練習だと思って。」
「分かったよぅ……。『ファイア』!」
ユウリは呪文を唱えると、目の前に現れた魔法陣から火球を飛ばす。…魔法陣なんて見られると思わなかった。
そして、地面に着弾した途端、轟音が響いた。
爆発だ。
「うわぁ!?」
「…やっぱり。罠が仕掛けられてたみたい。」
「サキ、なんで分かったの?」
「…多分、さっきのスキルのおかげかな。…ユウリ、気をつけて。誰か来るよ。」
転移魔法で現れたのは一人の若い男だった。
恐らく、罠に反応があったので見に来たのだろう。
「…アレェ?反応あったんだけどなぁ。…もしかしてお嬢さんたち、見抜いちゃった感じ?」
「まぁそんなところですね。」
「というか、人の通る道のど真ん中にこんな危ない罠魔法仕掛けるなんて何考えているんですか!?」
ユウリが男にキレる。それには同意だ。
「そりゃあ理由はたったひとつさ。おニーサンは盗賊だから。まさか、ガルフォード家のお嬢さんが釣れるとは思わなかったけどな!!」
「あれ?身元割れてる?」
「そりゃあ一二を争う名家のお嬢様なんだから。顔くらい知られてるでしょ。」
「うわぁ活動しにくいなぁ……。」
「盗賊を目の前にしてるんだからもっと焦れよ!
…いや、もういいや。とりあえず、身ぐるみ剥がさせてもらうぜ…!なんならその後、2人ともじっくり味わってやるよ。」
え、戦うの……?
魔法至上主義っぽいこの世界で……?
「大丈夫だって。サキの能力はこの世界には適してないように見えるけど、元の世界で見たアクション映画っぽく動けばいいんだって。」
ユウリから為になるようなならないようなアドバイスを貰う。…でも、確かに元の世界よりは、いや、この世界だったらパルクールと組み合わせれば人間離れした動きが出来そうだ。
「ユウリ、相手のステータス、見れる?」
「もちろん。…えーと、うん。爆発魔法をよく使うけど、爆発箇所に魔法陣が現れるタイプの下位魔法だから、いまのサキなら反応出来ると思う。」
「危ないと思ったら助けてね……?元々格闘とかしてた人間じゃないんだから。」
「りょーかい。言ってアタシも得意じゃないけどね。」
とりあえず向かい合う。
さっき見たわたしのステータスが正しければ、体術が凄いことになっている…らしい。
「じゃあなガルフォードのお嬢様!『クレイモア』。」
「…ここか……!」
ユウリの言った通り、確かに爆発する箇所に魔法陣が現れた。こんなの、魔法を知らない人でも勘のいい人なら避けられそうだ。距離を詰めるために男の方に走る。
(うわっ……!?自分で走り出してなんだけど、なんなんだこの速さ……!?こんな速度で走れるなんて夢みたいだ……!!)
男との距離を1秒にも満たないうちに、あっという間に詰める。男は当然、見切れない。目の前から少女が消えたように見えたのだ。
「……え?」
「下ですよ。」
男の懐に潜り込み、腹に拳を入れる。
そこからさらに、パンチのコンボを入れ、最後に蹴りを入れる。
「がっ……!?魔法使わねぇのかよ……!」
(うおぉ……。む、無意識で叩き込んじゃった。これもスキルなのかな?)
「てめぇ……!魔法なんかなくても倒せるって言いてぇのか!」
「いや、なめてる訳じゃなくて、魔法が使えないのはわけがあって……。」
「こ、こんのアマ……!舐め腐ってんじゃあねえぞ……ッ!!!!」
男は浮かび上がり、更に魔法陣を広げる。
広範囲に爆発を起こす気だ。
「……!ユウリ!下がって!!」
「サキ!?サキもはやく!!」
「大丈夫。わたし、トレイサーだよ?道は地面だけじゃない。」
「あ。…そうだね。頑張れ!サキ!!」
ユウリは安全な場所まで下がり、サキに優しい笑顔を送る。
その直後、目の前は大爆発に包まれた。
土煙が晴れる。
そこに、サキの姿はなかった。
「は、ははは……!木端微塵だぜ!ガルフォード家かなんだか知らねぇが、クソアマが俺をおちょくるからこうなるんだ!!おい、そこのお付さんよ!俺のもんになれよ……。そうすりゃあ、命だけは助けてやるぜ……?」
男はユウリの腕を掴む。
「……。」
「…おい、何無視してんだよ。」
「死体は、確認した方がいいよ。」
「…は?何言ってんだよ。お前のご主人様は、もう死んだって言ってる―「死んでないよ。」……。は?」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、男は振り返る。
そこには、今蹴りを男にかまそうとする勢いで宙を舞うサキの姿だった―
―わたしの勝ちだ。
わたしの蹴りは男の頭を捉え、男の体は吹っ飛ぶ。
近くの木に激突した。
「あ。気絶した。」
「いや多分頭蹴った時点で気は飛んでるから。」
「いや、でも、もうダメかと思った。周りを見渡して、周りに木がいっぱいあることに気が付かなかったら死んでたよ。」
「まあそうなったらアタシが助けに行ってたけどさ。爆発寸前の時、サキのアタシを見る目が完全にパルクールで新しいルートを見つけた時と一緒でさ。輝いてたんだよね。」
「わたし、そんな目してるの?」
「うん。」
さっき、わたしがやったのはいわゆる壁キックだ。
木に足をつけ、壁キックをして、空に逃げたんだけど、どうやらスキルのお陰で高度とスピードが異次元のレベルで上がっていた。
それを利用して、キックをする際に身体にひねりを入れて回転させ、その勢いと落下スピードで蹴りを食らわせたということ。
「だけど、まさか本当にできるとは……。こんなトリック、元の世界じゃできっこないよ。」
「この世界だからだね。」
「…でも、わたしのこれは魔法じゃない。」
「そうなんだよね。サキのその能力はただただ体術のスキルによるものだから、魔法とは別物らしいんだよね。アタシも、詳しくはわからないんだけどさ。」
「まあ、そこはゲームみたいなアクションができるから楽しいんだけどさ。…まさか、わたしのステータスが……。」
「体術スキルに全振りで魔法適正がほぼないって言う方が問題だよ。」
2話は、初のバトル回でした。
サキのバトルスタイルは、身体に叩き込まれたパルクールの動きと、スキルによる天性的な格闘術、そして、飛躍的に強化された身体能力を武器に戦います。
その分、体術スキルに全振りしたので、魔法の方はからっきしです。
今回は描写はありませんでしたが、ユウリの方は魔法の才能がかなりあり、強い魔法なども軽々と扱えるほどの実力者です。
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