1話 トレイサーとサポーター、転生。
初めまして、橘走です。
初めて小説家になろうにて、小説を書かせていただきます。
この作品はパルクールランナーであるトレイサーの女子高校生が、幼馴染と一緒に異世界転生するものの、自分は何故か魔法ではなく、体術スキルに全振りされていたというあらすじです。
パルクールのスタイリッシュさと、体術の爽快感、そして、魔法のファンタジーさをどんどんと出していきたいと思います。
ビルの屋上や鉄塔など、普通の人間ではまず走らないであろう場所を駆け抜ける人間たちがいる。
そう、『トレイサー』だ。
トレイサーというのは、前述したビルの屋上などを駆け抜けるパルクールというスポーツを行う人間のこと。世の中では変人扱いされることも多いけど、かっこいいスポーツなのは間違いないと思う。
「…はぁっ…。せやっ!」
ビルの屋上から屋上へ、数メートル離れていようが悠々と飛んでいき、そのまま走り抜ける。
何も考えず、ただ目的地に着くことだけを考える。わたしの至福の時間だ。
「…意外と早く着けたなぁ。」
タイムを計っている訳では無いが、目的地に早く着けたことに満足感を得る。すると、携帯が鳴る。
「悠里からだ・・・。もしもし?」
『紗季、もう着いた?そっちはどう?怪我はない?』
「うん。大丈夫だよ。無傷だし、特に問題なくゴールに着けたよ。悠里はどう?」
『アタシももう着くよ。着いたら荷物渡すね。』
「ありがと。」
そんな会話を交し、通話を切る。
…わたしは成瀬紗季。ここまでで分かると思うけど、トレイサー。女性トレイサーは珍しいものでも無い。最近、CMとか映画でもよく見ると思う。
暫く寝転がり、風に当たりながら休憩しているとビルの屋上の扉が開く。
「紗季!お待たせ。」
「やっと来てくれたァ〜…。」
この子は月城悠里。幼なじみでわたしのトレイサーとしての活動をサポートしてくれている。やる側じゃなくて、見る方が好きらしい。だから、サポートにも回ってくれるのだとか。どちらにしろ有難い。
「はいスポドリ。それと水も。ゆっくり飲んでね。」
「ありがと、悠里。」
「けど、今日は全面バックアップで助かったね。」
「ホントにそうだよ。まさか街の方からオファーが来るとは。」
自分で言うのもなんだが、最近トレイサーとしての功績は残せていると思う。この前も全国大会で優勝できた。
そのおかげでビルの屋上の使用許可を各地に取りに行こうとしたら、街の方から自由に使ってくれて構わないとの連絡が来た。それに喜んで甘えさせてもらって、今このように練習に励んでいたというわけだ。
「じゃあそろそろ帰ろっか。」
悠里からの提案。
無理をしては意味が無い。わたしは頷いて立ち上がる。
「うん、帰ろう。どこかでシャワー浴びてから家に帰ろう。」
「…さっき調べたけど、この近くに銭湯あるよ。そこにする?」
銭湯!ありがたい。正直パルクールというのは毎回汗だくになる。着替えは持ってきているがシャワーは浴びたい。シャワーだけでなくお風呂に入れるならとても嬉しい。
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お風呂に入った後、そのまま私たちは駅に向かう。
私たちの家はこの街の郊外にある。電車の方が移動には手っ取り早いということだ。
「お風呂気持ちよかったね!紗季!」
「うん。あんな穴場があるとは知らなかった。次の練習終わりにも行こう。」
改札を通り、ホームで電車を待つ。
休日の夕方ということもあってか、少し人が多い。
『電車が通過します。ご注意ください。』
「ねえ、悠里。明日の時間割ってなんだっけ。」
「ん?明日は確か、1時間目が国語で……。」
こんな他愛もない話で悠里と話し込んでいた時。
わたしたちは後ろから近づく謎の人物に気が付かなかった。
その人物に気がついた時、私たちは―。
―――線路の中にいた。
「…え?」
「紗季ッ!!」
「な、なん―」
―その瞬間、視界がブラックアウトした。最後に見えたのは一緒に落ちた悠里の顔と、線路に落ちた私たちを見ている謎の人物だった。
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ふと目が覚めると白い空間の中にいた。
…隣を見ると悠里もいる。
死後の世界ってこんな感じなのか……。どういう訳か、喪失感しか感じない。涙を流そうにも流せない。死ってこうも突然来るものなのか……。
ひとまず身体を起こし、ついでに悠里も起こす。
「悠里。起きてる?」
「うん……?紗季?起きたよ……?ってここどこ!?」
悠里は飛び起き、周りを見渡す。
「…これってもしかして転生ってやつなのかな……?」
「ナニソレ……。悠里の趣味的な話?」
パルクールにしか興味のないわたしと違って悠里は若干オタクが入っている。この世界もラノベとやらで読んだものと近いらしい。まさか本当に実在したとは……。
『……紗季、悠里……。目覚めましたか?』
「だ、誰……?」
「ひょっとして、神様って感じの人かな!?」
し、死んだって言うのに目をキラキラするなよ悠里……。
「あ、あのー神様。わたしたちって帰れるんですか?」
『いいえ、帰れません。元の世界のあなたたちの肉体は、完全に壊れてしまいました。…あなたたちの魂を受け取る器は、もうあの世界にはありません……。』
「…そんな。せっかくトレイサーとしての活動の幅が広がっていたのに……。」
というか大会も控えていたのに……。
『あなた達は不慮の事故で亡くなりました。なのであなた達は転生することになりました。もちろん2人の転生は同じ世界になります。…ですが、元の世界には転生できませんし、どんな世界かも分かりません。その覚悟は出来ていますか?』
「覚悟と言われても……。」
「アタシは、紗季のサポートができるならどんな世界でもいいです!」
「悠里……?」
「小さい頃から一緒で、仲良しだった紗季とまさか一緒に死ぬなんて思わなかったけど、転生先でも一緒になれるんだもん。またサポートさせてよ。」
「悠里……!ありがとう……!神様、一つだけお願いがあります。」
『なんですか?』
わたしは転生先でも悠里と二人でコレがやりたい。
わたしの、わたしたちの楽しみはこれなんだから。
「トレイサーが出来るようにはしてください!」
『…分かりました。あなた達ふたりは何かしらの形でトレイサーとそのサポートのコンビになるようにはしましょう。…そろそろ時間です。次の世界でも頑張ってくださいね。』
神様がそう言うと再び視界が暗転した。
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再び目を覚ますと、見たことの無い天井が目に入る。
「サキ様。お目覚めになられましたか?」
身体を起こし、声の主の方を見る。悠里の声だ。
でも、サキ様……?
「悠里、おはよう。どうしたのそんな言い方して。」
「……?如何なされましたか?アタクシの言葉遣いになにか問題でも……?」
窓の方に目をやる。草原が目に入る。…なるほど、転生したのは間違いないけど、記憶が引き継がれるとは限らないってことか……。でも、
「アタクシって…(笑)、アタシっていう一人称が抜け切ってないじゃん。」
そう言ってみると悠里はやっぱり笑いだした。
「アハハ!やっぱり幼馴染にはかなわないや!」
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悠里はわたしよりも先に起きていたようで、こことはまた別の部屋で目を覚ましたと言う。
そして、この館にはメイドがおり、そのメイドたちから悠里が慕われていたこと、そしてお嬢様を起こすという仕事をする際、お嬢様が眠る部屋を開けたら私がいたのだと言う。
「…なんかすごい世界に転生しちゃったね。」
「アタシもまさかメイド長になっていたとは……。」
「わたしなんか一家のお嬢様なんだけど。」
「…とりあえず、怪しまれたら面倒だから外ではお嬢様とメイド長の関係でいとこうか。」
悠里から提案に頷く。
わたしもこの部屋にこの世界でのわたしについて何かないか探す。
すると、手紙を見つけた。城
『サキ殿へ ×日、王都のリュート城に来ていただきたい。詳細は現地で話す。 リュート国第1王子レックス=リュート』
「だ、第1王子から手紙を貰うとかこの世界のわたし何者なんだ……。」
「ほんとにすごい人になっちゃったね紗季。」
「けど、お嬢様とメイドか……。すごい形で悠里とコンビになっちゃったな。」
「でも、サポートするならいい立ち位置だとアタシは思うな。」
「それもそうだね。…じゃあ、この世界のことも知りたいし、王都とやらに向かいますか。」
「そうする?じゃあアタシは他のメイドにお留守番を任せてくるね。」
「お願いね、ユウリメイド長♪」
「……!?」
す、少しふざけただけでそんな顔するか……。わたしのことなんだと思ってるんだ……。
1話、いかがでしたでしょうか。
次の世界でも、サキとユウリは変わらない関係で、でも、ちょっとだけ変わった感じで過ごしていきます。
元の世界では二人の名前は漢字ですが、こちらの転生後の世界ではカタカナ表記になります。
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