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7 鳳樟院楓、追跡!

 あの出来事から一晩経ち、私は常陽学園の校門の手前までやってきていた。

 ここまでやってきて早一時間。薄暗かった空も既に明るくなり生徒達も登校を始めている。

 でもどうしよう、ここから一歩も動くことが出来ない!


 「楓ー!! お待たせって、こんな所で何してるの?」


 「ひえっ!? ……斎藤、驚かさないでよ!」


 「えぇ、私のせい??」


 まったく、心臓が止まるかと思った。

 この朝からテンションの高いのは私の親友……、いや腐れ縁の斎藤霞さいとうかすみ

 小学校からの幼馴染であり、私の暗黒時代を知る唯一の高校の同級生。

 まぁ斎藤は小、中学校時代からこんな感じで接してくれている。性格は悔しいが神様レベルだ。


 「ごめんなさい、私としたことがつい取り乱してしまって」


 「……アハハハハ、やっぱりその口調おかしい~」


 「う、うるさいな! 高校からはこれまでの過去を捨てて鳳樟院家として」


 「はいはい、何度も聞きましたよ。要するにお嬢様キャラになりたいんでしょ?」


 「……はい」


 「それで? こんな校門前の電柱の影で隠れているのは、昨日のことが原因?」


 そうだ、斎藤のせいで忘れていた!

 私はその場にしゃがみ込み頭を抱える。


 「そうよ、私は振られた……。絶対今頃学園中で噂になっているはず。そうなるとこれまで気づいて来た私のイメージは一体」


 「いやいやいや、昨日も言ったけどそんなことは無いと思うよ? それに振られたからって誰も何も言わないわよ……、って聞いてないなこれ。よし。こうなったら……、あっ! 郷田川君おはよう~!!」


 「ご、ご、郷田川君!? ご、ごめん私先に行くからー!!」


 冗談じゃない、今郷田川君にあったら恥ずかしさで死んでしまう!

 私は何か叫んでいる斎藤の言葉も耳に入らず、学園へととてつもない速さで走っていくのだった。


 「ちょ、嘘だってば!! ……あー、こりゃ重症だな。でもおもしろいな。楓のあんな姿を見れるのは」


 1人残された斎藤は、笑みを浮かべ学園へと進んでいった。









 ───その日の放課後。


 「なに、まだびくびくしてるの?」


 「……用心に越したことは無いもん」


 教室を出る際、扉に身を隠しながら進む私の言葉に、斎藤は呆れた様子だ。

 今日一日、私が振られたことを言ってくる友達はいない。これはやっぱり斎藤の言った通り郷田川君は誰にも言ってないということ?

 でもそれはそれでどうなの? 言っちゃ悪いけど私ってそこそこ綺麗だよね? なのに誰にも言わないなんて女として喜んでいいのかしら……。


 「あ、噂をすれば愛しの郷田川君じゃん」


 「斎藤、あなたはまたそうやってからかって」


 「いや、廊下の向こう見て見なよ。あの日引きずられてるのって郷田川君じゃない?」


 「……ほんとだ! でもあの生徒は誰? なれなれしく郷田川君に触れて……!!」


 「あれは2年の松堂先輩だね。可愛いよねー松堂先輩って。郷田川君、可愛らしい子がタイプなのかな?」


 「えぇ……、なら綺麗系の私はだめってこと?」


 自分でそう言うこと言うかねこの子は。

 

 斎藤がそう考えていることなどつゆ知らず、私は身を隠しながら松堂先輩に連れ去られる郷田川君の後を追いかけ始める。

 どうやら2人は旧校舎へと向かっているらしい。

 つまり部活動でもしているのかしら。


 「へぇ~、旧校舎ってこんな感じなんだ。私ここに来るの初めてだよ」


 「ちょ、うるさい斎藤! バレたらどうするのよ」


 「はいはい、ごめんなさいね。それより昨日楓に振られたって聞いた時はどんな人に振られたのかと思ったけど、まさかあんな感じの子だったとは。悪いけど面食いの楓が気になる様な感じには見えないんだけどな」


 「ふん、斎藤はまだまだね。あの前髪に隠れた顔を見抜けないなんて」


 「楓も偶然見ただけでしょ?」


 「……ぐぬぬ」


 斎藤め、痛いところを突きおって。

 まぁそのことは今は置いておきましょう。どうやら2人はあの教室に入ったようね。

 えっと……


 「映像研究会? こんな部活があったんだ」


 「あー、私聞いたことあるよ? 確か一部からはオタク部とか、松堂先輩の金儲け部とか言われてるんだよねここ」


 「な、何よそれ! じゃあ郷田川君は松堂先輩に虐げられてるのね! こうしてはいられ……、むぐっ」


 私が部屋に乗り込もうとした瞬間、斎藤が後ろから口元を押え物影引きずり込んだ。

 その行為の真意はすぐに分かることになる。


 「あれは、陽田君よね。野球部期待の1年生もこの部活に入ってるのかな?」


 「ぼうべもびびび、べをばばびで(どうでもいいけど、手を離して!)」


 「あ、ごめん楓!」


 「はぁ、はぁ、死ぬかと思った。でも確かに陽田君みたいな人がこの部活にいるなんて……。そう言えば私が郷田川君の所に言った時、彼もいたっけ」


 郷田川君と陽田君、仲が良いのかしら。

 陽田君かぁ。顔はイケメンだし性格も申し分ないんだけど、郷田川君の顔を見た後じゃどうしても霞むのよねー。

 っとそんなこと考えている場合じゃない。

 

 「郷田川君をあの松堂先輩から救ってあげないと」


 「でも楓、あなた教室に入って郷田川君を助けたとしてその後どうするの?」


 「そ、それは……。ま、まずは家に連れ帰ってお父様たちに紹介、それから誰の目にも触れないようにずっと一緒に、はぁ、はぁ」


 「い、いやいやそれ犯罪だから! てか楓そんなキャラじゃないでしょ、頭を冷やしなさい!」


 ガタンッ!! 斎藤が私の肩を揺さぶっていると、目の前の教室から大きな物音が響いた。

 どうやら中で何かあったようだ。教室内は更に慌ただしい音が聞こえてくる。


 「な、なにかあったのよきっと! こうなったら強行突破よ」


 「あ、ちょっと楓」


 待ってて郷田川君、今すぐ助けてあげるから!


 「……ひぎゃ!!」


 でも私は扉に到達したと同時に何かにぶつかり意識が遠のいていった。

 最後に見たのは、あの松堂先輩の血走った眼であった。

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