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4 鳳樟院楓、失恋!

 私の放った「付き合って」という言葉。

 この言葉を聞いた郷田川君はすぐには口を開くことは無かった。

 だけどそれ以上に驚きのあまり声の出ない人物がこの空間に1人。

 そう、それはこの私である。


 えっ、ちょっと待って……? 今私なんて言ったっけ??

 もしかして付き合ってくださいって言った? 言ったよね?!

 しまったぁぁぁぁ!! なんてこと口走ってるのよ私!

 今日あれほどシミュレーションしたじゃない……。私とお友達になってくださいって言おうって!


 だが既に口にしてしまったものは後には戻らない。

 それならこの限りなく危うい状況を好機にするしかないのだ。

 私は未だ目を見開いたまま動かない郷田川君を横目に、背中に隠し持っていたバイブル 「コミュニケーションは笑顔から」気づかれないように目を通す。


 なになに……、恋愛の掟その1。

 思いは隠さずストレートに伝えるべし。例え振られたとしてもその異性はあなたのことを少なからず気になること間違いなし!

 捕捉。 男性の場合美少女からの告白を断る確率は低い……。


 パタン……。私は最後の一文に目を通すといつものように堂々と鳳翔院楓の表情へと戻った。

 そうよ、私は以前の私じゃない。今や誰もが認める学園の王女プリンセスじゃない!

 顔だって並みより良い! 信じなさい、私のこの容姿を!!


 「ご、ごほん! 郷田川君、ごめんねいきなりこんなことを言って」


 「あ、い、いえ! とんでもないであります!」


 あります?? 相変わらず変な敬語だけど、これは私に告白されて動揺してるってことよねきっと!

 ここはさらに畳みかけるべし! 攻撃は最大の防御なのよ!!


 「それで、どうかな? 私、郷田川君のことが気になってて……。あ、無理なら友達からでも全然いいの! でもこの気持ちだけは知ってほしくていきなりこんなことを言ったんだけど……」


 「そ、そうだったんですね……」


 フフフッ、顔が赤くなってるわ。

 これはバイブル通り、上手くいくかもしれない。そうなればついに私にも春が……。

 あれ? 郷田川君、どうして今スマホを……。


 しばらくの沈黙の後、制服のポケットからスマホを取り出した郷田川君。

 電源を入れ画面を凝視する郷田川君。

 そして次に彼が放った言葉は……。


 「……ごめんなさい! 鳳翔院さんには悪いんですけど、僕には、僕には……、将来を誓った人がいるんです!!」


 「そうよね、これからよろしく……、はい??」


 今、将来を約束した相手って言った? え、え、どゆこと??

 

 混乱する私の目の前に、郷田川君は持っているスマホの画面を私に見せる。

 そこには確かに美少女が映っている。女性の私からしても綺麗、可愛いと思える美少女が。

 ただ一点、それがどう見てもアニメのキャラクターであるということを除いては。


 「あ、あのこれって……」


 「はい! 僕の婚約者のヴァルキリーさんです!!」


 「え、あ、そうなんだ」


 「綺麗でしょ、可愛いでしょ?? ヴァルキリーさんは本当に素晴らしい方なんですよ!」


 「へ、へぇ……」


 先ほどまでとは打って変わり饒舌になる郷田川君。

 ここにきて私はようやく気付く。彼が一体どういう人種なのかを……。


 ……いや、ごりごりのオタクじゃないですか!!

 嘘でしょ?! ようやく見つけた理想の人は二次元にしか興味がないオタクだなんて!

 私は一体どうすれば……


 「ですので、鳳翔院さんの申し出を受けることは出来ません。友達、ということでしたら考えさせていただきますね! では用がありますので僕はこれにて失礼させていただきます!」

 

 「あ、はい……」


 「では!!」


 郷田川君はそう言うと、一瞬で教室を後にした。

 彼が去り、私は1人残された教室の窓際まで移動。ゆっくりと目の前の窓を開き夕日に向かい大きく息を吸い込み一気に吐き出したのだった。


 「……なんてこったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」







 ──時間は戻り、その日の夜。鳳翔院家


 「ということでして……」


 私は今日の放課後起きた初めての失恋を電話の向こうで聞いている女性に話し終えた。


 「アハハハハ、そんなことがあったんだ! いいなぁ、楓が振られる姿私も見たかったなぁ」


 「うるさい! こっちは笑い事じゃないんだから!! ……もう、明日からどんな顔して学校に行けばいいの」


 「楓は痩せて可愛くなったのに、その性格だけは変わらないね。誰も見てなかったんだから気にせず行けばいいのよ、多分その郷田川君?も言いふらすような人じゃなさそうだし」


 「問題はその郷田川君に会った時なんです……。私、顔に出ないかな??」


 「アハハハ、気にしすぎ! そこまで言うなら明日は私が一日一緒にいてあげるから」


 「うぅ……、ありがとう斎藤……」


 「いいのいいの! 私達小学校からの腐れ縁なんだからこれくらい安いものですよ。それじゃあ、また明日ね!」


 「うん、ありがとう。また明日ね」


 私がそう言うと、スマホの通話画面が消える。

 映し出されている時刻は既に1時を超え、部屋の外は独特の静けさが包み込んでいる。

 

 ただいつもなら寝ているはずなのに今日に限っては睡魔も訪れずまだまだ寝れそうになかった。

 これも全て、あの男のせいだ。


 「郷田川義治……、こうなったら絶対私に惚れさせてやる! あなたから付き合ってくれって言わせてやるんだからね!!」


 そう意気込む私だったが、その後朝方まで眠ることが出来なかったのは言うまでもない……。

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