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6話 お姫様の事情と世界の情勢

「なるほど、皇帝陛下が勝手に決めた婚姻か……」


「はい……わたしも身分がありますので、嫌とは言えず……」


 夜の街道をアリアフィーネを抱いて走りながら、クロノはそんなやり取りを彼女と交わす。


 レイジは異界からやってきた勇者らしい。その実力は本物で、数々のモンスターの討伐任務を成功させてきたとのことだ。


 そして、彼の実力は次なる帝になるに相応しいと、帝国に認められ、アリアフィーネの婚約者にしようと話が持ち上がった。

 不幸にも……と言うべきか、皇帝と妃の間には女の子しか生まれなかった。優秀な男の血は大歓迎だったというわけである。


「レイジ様はわたしの好みではありませんでした。顔は暑苦しいし、思い込みが激しく自分勝手……。それにわたしを無理やり襲うような真似をしてきたことも……」


 幸い、その時はお付きの者の目があったので、彼との交わりは回避できたということだ。


 それと同時に、アリアフィーネはボソッと、こんなことを呟く――


「それに……レイジ様のは、とてもお粗末でして……。とてもではありませんが、クロノ様を味わった後では満足できるとは思えません……っ♡」


 ――どうやら、襲われそうになった時に彼の彼自身を見てしまったようである。


「…………」


 何と反応すればよいのやら……。

 クロノは、頬をピンクに染めるアリアフィーネを見つめ、沈黙することしかできなかった。


【言ったではありませんか、クロノ様のはとてもデカ――】


(ええい! 黙っておれ!)


 またもや要らんことを脳内で口走るカレンに、クロノは再び脳内で怒鳴り、黙らせる。

 どうしてこの音声ナビゲーターは、話がピンクな方向になると、嬉々とした様子で喋り始めるだろうか……。


 それはさておき。


 アリアフィーネが話を続ける。


「それ以降は、〝七大魔王〟の討伐を終えるまでは体の関係は禁止……と、父は――皇帝陛下はレイジ様に、そう約束させてくれたので、今まで清い体でいられたのです」


 アリアフィーネが純潔を守っていられたのには、皇帝による命令があったからだったようだ。


 きっとどこかで……皇帝も、自分の娘がレイジを受け入れることを拒んでいるのに気づいていたのかもしれない。

 親として、娘のためにできる時間稼ぎ……。それがレイジにと交わさせた約束だった――というところだろうか。


「なるほど……ところで、アリアフィーネ。今……七大魔王という言葉を口にしたが……」


「はい、クロノ様。過去……魔神とともに聖獣ベヒーモス様や女勇者様によって討滅された七大魔王の一柱が復活すると、〝聖魔王様〟より巫女が予言を授かったそうです」


 七大魔王――かつて魔神の配下として世界を混沌の渦へと落とし入れた七柱の魔王たちだ。


 そのほとんどが、今アリアフィーネが口にした聖獣――まぁ、これに関してはクロノのことだ――と、クロノの友であった女勇者アリアとその仲間たちによって討滅された。


 クロノは自分の存在が未来の人々の間でも知られていることに、少し気恥ずかしさを覚えてしまう。


 ところで、アリアフィーネがさらに口にした聖魔王と巫女という単語だが……。


 聖魔王とは――七大魔王のうちの一柱であり、魔神を裏切り、人間に味方した心優しき女魔王のことである。


 彼女――聖魔王〝ベルゼビュート〟が人間に味方したからこそ、人類は敵側の情報を手にし、勝利を掴むことができたと言える。


 そして、最後に巫女についてだが、聖魔王ベルゼビュートは普段は人々が認識できない空間に身を潜めている。


 巫女は祈りを捧げることにより、有事の際は聖魔王と心を通わせ、魔神や魔王に関する情報――予言を授かることができるのだ。


(七大魔王の復活か……。少々心配ではあるな。勇者レイジ、ヤツの実力では七大魔王と対峙して勝てるかどうか……)


 七大魔王復活の可能性を聞き、クロノはそんな不安を抱く。


 勇者レイジ――たしかに強いと言えば強い……のだが、聖剣を操る技術、そして神聖属性を活かした体術、そのどれを取っても、かつての友であった女勇者アリア。そしてその仲間たちの足元にも及ばないと、クロノは思っている。


 女勇者アリアの仲間たちは非常に強力だった。


 虎の血を宿した虎耳族の少女、龍から転生した龍人族の少女、そして高位の妖精族であった二人の少女――


 その誰と戦っても、今のレイジでは歯が立たないであろう。


「と、ところでクロノ様……クロノ様は本当に何者なのですか? 勇者であるレイジ様を倒してしまいましたし、逃亡時に帝都の外壁をジャンプで飛び越えてしまいました。おまけに、今も馬車よりも早く走っています……」


 過去を振り返るクロノに、戸惑った様子で問いかけるアリアフィーネ。


 彼女を救うため、そして帝都から逃亡するために、クロノはベヒーモスとしてのステータスをこれでもかと活かしていた。


 城の中では混乱と感情の昂りで気づくのが遅れたが……今にして思えば、クロノのやっていることはメチャクチャであると気づいたのだ。


「そう、だな……しかし、話しても信じられないと思うが……」


「……どうやら、色々と事情がおありにようですね。そういうことでしたら、クロノ様が話したいと思った時に、話していただけると嬉しいです」


 クロノが言い淀むと、アリアフィーネは苦笑しながらそう言って会話を締めくくる。


 そんな彼女の気遣いに感謝しつつ、クロノは街道を爆速で突き進む。


 愛しいエルフの姫と、平和に暮らすことができる地を求めて――


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