準備 街人 違和感
ぎりぎり一週間以内に出来ませんでした。
登録が終わって冒険者として活動する際の説明が始まる。
「ランクは一番下のFから始まり、普通に上がるランクの上限はAランクになります。その上のSランクは特殊な条件で上がることのできるランクです。ギルドの依頼はその人のランクの一つ上まで受けることができ、仕事の評価によってランクが上がっていきます」
「それなら今の私はランクFとEの依頼が受けられるということですね」
「その通りです。ただし最初のうちはFランクの依頼を受けていただき、その仕事の出来をこちらで判断してからEランクを案内します」
「なるほど、わかりました。ちなみにFランクの依頼にはどんなものがありますか?」
「そうですね…Fランクの依頼には ウルフ討伐 ゴブリン討伐 薬草採取 が常設であり、荷物の運搬はたまに張り出されている時があります。ここで受けなくても出かけた先で討伐した際の魔水晶を持ってきていただければ依頼達成となります」
魔水晶という初めて聞く言葉が出てきた。予想では魔物の心臓みたいなものだと思ったので知っている感じに話を進めることにする。
「その魔水晶以外は使えないんですか?」
「いえ、ウルフの肉と毛皮と爪と牙は使える素材になるのでお持ちいただければ買い取らせていただきます」
「持ってきたら買い取ってもらえるんですね、今二匹持っている場合すぐ買い取ってもらえますか?」
「今……ですか?つまりここに来るまでに倒してきたということでしょうか?」
「そうなんですよ。襲われたときはどうなるかと思ったんですけど案外簡単に倒せました」
「簡単って…それでウルフはどこに置いてありますか?あまり時間が経つと肉は駄目になるので早めに買い取りますよ」
「それならここにあります」
《無限収納空間》長いから”無納”…はなんか可哀想だから”無収納”と呼ぶことにして、無収納からウルフ二匹を取り出す。
「ま、まさか…収納空間のスキルを持っているんですか!」
「え、えぇ。持ってますけど…」
突然の大きな声に驚いたけど、運のいいことにギルドには数人しかいないので問題にはならなかった。
それにしても何でこの受付の人はこんなに驚いているんだろう……もしかして収納空間ってかなりのレア?
「……は、初めて見ました。加護職業を頂くだけでなく収納空間のスキルまで…あなたは何者なんですか?どこかの貴族の方ですか?」
「いやいや、私はただの平民ですよ。たった今冒険者になりましたけど」
「加護職業と収納空間のスキルを持った平民なんて聞いたことないです!!」
興奮してるのか怒っているのかわからないテンションで叫ばれると耳が痛くなりそう。
「ウルフはここに置きっぱなしでいいんですか?」
「…えっと、あちらの作業場に置いてください。これ以上追及すると頭が痛くなりそうなのでやめにします」
「あっはい。それはそれとしてもう説明は終わりですか?」
「はぁ…もう少しあります。持ち込んだ魔物は解体してあればそのまま買い取りを、未解体の場合は解体の手間料を引いた料金をお支払いいたします。魔水晶は魔物の種類関係なく買い取りをさせていただきます」
「ゴブリンは買い取ってもらえるんですか?」
「すみません、ゴブリンは特に使い道がなく魔水晶くらいしか買い取れる部分がないです」
「わかりました。もうこのまま依頼を受けたり魔物討伐をしたりしてもいいですか?」
「そうですね、ウルフの解体手間料を引いた二匹分の料金をお出ししますのでそれを受け取ってからでお願いします」
少し待ち、買い取りのお金を受け取ってからギルドを出ようと思ったが、この世界を全く知らないから地図を買うために色々な物を売っているところの場所を聞くために受付に戻る。
「さっき聞きそびれたんですけど、この辺り初めて来たので地図とか雑貨品を買える場所を教えてほしいです」
「そうですね……ギルドから数分歩いた所に雑貨屋があります。地図はここでも買えますよ、価格は銀貨一枚ですね」
「じゃあ地図はここで買います」
そう言って銀貨一枚を渡して地図を貰う。ギルドの中にある休憩スペースに行き地図を見て色々把握しないと。地図を見てわかったことは、この街はトルリリアと言う名前で一番最初に転移してきた湖はレナントと言う名前らしい。
そしてこの辺りの街や村の中心にあるのが王都リーラロック。この地図にはリーラロック及び周辺の街や村以外は載っておらず、他の大陸や島の情報はなかった。
「意外に大きいからこの辺りの情報を集めれたら他の街や王都に行くのもいいかもしれない」
ある程度地図を確認してギルドを出た後、受付の人に教えてもらった雑貨屋に向かうことにした。ギルドから雑貨屋に向かう途中に違和感のような何かが頭に浮かんだがたまたまだと思っておこう。
雑貨屋はそこまで大きくないくらいの普通のお店で、お店と言われないとそのまま素通りしそうな地味さだった。中に入ると小物から少し大きな物まで、まるで欲しい物から要らないものまでやたらめったらある感じのお店に感じた。
買うものは決めていなかったけれど色々使いそうな日用品や野営の時にテントに出来そうな布と棒などを買い揃えても銀貨十枚くらいで済んだ。もちろん無収納に入れた。
雑貨屋を出てどうしようか悩んだけれど仕事は日帰りで街に戻る予定だから宿屋の部屋を一週間くらいとっておいて損はないかなと思ったからとりあえず宿屋に向かう。街を歩いている人を見かけるがやっぱりなにかおかしい。
宿屋に着いて中に入るとティーナが受付でくつろいでいた。
「あ、今朝のお姉さん。もしかして今日も泊まっていきますか?」
「今日から一週間泊まろうと思ってて。あと私の名前はイブです、名乗ってなかったですね」
「イブさんですね、一週間なら宿泊費は1万ユーリと夕食と朝食はそれぞれ400ユーリです」
「夕食と朝食は仕事によってわからないから、とりあえず今日の夕食と明日の朝食はお願いします」
「じゃあ合計で1万800ユーリですね」
支払いを済ませるとティーナが色々聞いてくる。
「そういえば冒険者にはなれたんですか?」
「ええ、登録は済ませました。そのあとで雑貨屋に行って日用品と外で使いそうなものを買い揃えました。明日から本格的に仕事をする予定ですが、このあと夕食まで街中を散策しようと思ってます」
「この街は観光地ではないのでオススメできるところはないですけど……そうですねぇ~…魔道具屋なんて面白いかもしれないです。生活を楽にしたり、戦いを助けてくれたり、暇をつぶしたりできる物が売っているんですよ」
「魔道具ですか。そういうのって高いんじゃないですか?」
「物によりますけど、弱い魔物の魔水晶を使ったものなら比較的安価で買えますよ。魔道具が複雑な物かどうかでも変わりますけど、そういう高価な物を買う人は大体お金持ってますから」
「貴族とか儲かっている商人とかランクの高い冒険者がお客として多いってことですか?」
「まぁ…そうなりますね。それに魔道具を使うには魔力を必要としますから、魔力量が少ないとすぐに疲れちゃいます」
「やっぱり魔力が必要なんですね。でも、面白そうなので見に行ってみます」
「わかりました。お部屋の鍵は夕食の時にお渡ししますね」
魔道具屋の場所を教えてもらい、宿屋から魔道具屋に向かう。
魔道具屋らしきお店の前に着いた。なんか外観が闇取引とかしてそうな感じに見えるから、本当に魔道具屋なのか怪しいけど中に入ってみる。
お店の中は小物が雑多に置いてあり、小物の中に魔水晶らしき物が入っていたり外側に付いていたりと様々な種類があった。
「いらっしゃーい」
「あの~…ここって魔道具屋で合ってますか?」
「もちろん合ってるよ。逆に魔道具屋以外の何に見えるって言うのか」
闇商人の会合場所か闇オークション会場じゃないかなぁ…とか思ったけど口にはできない。
「何かオススメで便利な物ってありますか?」
「オススメで便利なものかぁ……魔力を流している間火によって周りを明るくするやつとか、魔力を流している間水が出せるやつとか、魔力を溜め込むやつとか。溜め込んだ魔力は他の魔道具に繋げると代わりに魔力を流せるし」
「魔力を溜め込むのは面白いかもしれないですけど、火とか水って普通に魔法で出せばいいんじゃないですか?」
「何言ってんのさ、魔力量が少ないと多く魔法が使えないし、そもそも魔法使いレベルが低いと使える魔法が限られてくる。その点、魔道具自身に簡単な動作と魔法を記憶させているから魔力量が少なくても長時間使えるってこと」
「魔法使いレベル?それって人のレベルのことじゃないんですか?」
「……あなた…何者なの?」
急に疑われてる…なんかやばいこと言ったかな…
「き、今日冒険者になったばかりのかなり田舎からきた者です…」
「へぇ…じゃあ知らないのも当たり前か。魔法使いと癒術士にはそれぞれ職業にもレベルがあって、魔法使いは確かレベル1~4で火・水・風・土の4属性がランダムで使えるようになるの。どういう原理かわからないけど同じレベル1の魔法使いでも火魔法が使えたり土魔法が使えたりバラバラだって話」
そんな話聞いてないんだけど……そういえば私のスキルの《魔法》って説明に”全ての魔法が使える”ってあったけど…そういうことだったのか、これは迂闊に魔法を使えなくなってきた。
「その、魔法使いレベルはどれくらいあるんですか?」
「あたしが聞いたことがあるのはレベル5だったかな。レベル1~4の4属性と毒・麻痺・睡眠の状態異常が使えるって言ってた。大昔に居た伝説の英雄は湖を凍らせ、空から雷を落とし、更には光と闇の魔法が使えたとか、どんなものか想像できないけどね」
「へ、へぇ~…流石英雄ですね。そんな凄いことができるなんて」
「まぁ、大昔の話だから本当なのかわからないけどね。この辺りで有名な魔法使いは王都にいるBランク冒険者の人でレベル5だって聞いたから、その人が一番優秀な魔法使いだと思うよ」
「そう…なんですか。私もそんな凄い人に近づけるように頑張りたいです」
「そうそうなれるものじゃないけど、頑張っていれば誰かの役に立てるようになるさ」
そんな会話をしながらも店内を見ていたけど、よくわからない物には手を出しにくいし火とか水は練習したら出せるはずだから特に何も買わずに店を後にした。
この街に慣れるために少し遠回りをしてから宿屋に戻った。時間的にも丁度いい時間になっていたのでそのまま夕食を頂きました。ちなみにトゥメルのスープは今回もありました……なんで。
夕食後、鍵を受け取って部屋に向かう。荷物は全部《無収納》にあるから部屋に置くものは特にない。
部屋の椅子に座って違和感について考える。
「昨日と今日。街を歩いたけど…やっぱりおかしい。門番のエスランさん・宿屋のティーナさん・武器防具屋の店員・ギルドの受付嬢・魔道具屋の店員と街中を歩いている人達。
偶然なのかもしれないけど全員が女性だった…この街に来てから男性の姿を一度も見ていない…このトルリリアという街だけの異常なのか、それとも世界規模で異常なのか…。
トルリリアに男性が居ない理由を考えるなら、男性全員が出稼ぎ…するような小さい街でもないだろうし、子供を出稼ぎに向かわせるとも考えにくい。
昔に何かあって男性が追放になった?それでも全員が追放はおかしいはず。そんなことしたら子供が生まれなくなって人口が減っていく……少なくともこの街には何か秘密のようなものがあるのかもしれない。明日は朝に仕事をして昼過ぎに戻って情報収集をして街の秘密を探ってみようかな」
明日の計画を立て、この街の異常を探るために何かいいスキルを作ろうと考えながら眠りについた。