魔法 登録 冒険者
サブタイトル普通にしないとこの先きつそう。
太陽が沈む前に街の入口に着いた。
入口の門の前で武装した人が二人立っている、きっと犯罪者や悪徳な商人を街に入れないように調べている警備の人だと思う。私はどこからどう見ても怪しくないので少し挨拶をしたら通してもらえると思っていたんです。
「そこのローブの人、こちらで詳しいお話をよろしいですか?」
止められた。
なぜ止められたのかわからないけど、ここで逆らって町に入れなくなるのも嫌なので従うことにした。そういえばローブだったね、今の私の恰好は。
門の隣にある小部屋に連れていかれるようだ。夕暮れ時にローブを着た女の子が一人で町に来るのは確かに怪しいのかもしれないけど、異世界から来てるんだから一人だよ。保護者同伴の異世界転生、又は転移なんて私は聞いたことがないよ。
「そこの椅子に座ってください、色々と質問をさせていただきますので」
小部屋には椅子が二脚と机が一台あり、片方の椅子に座るように指示されたので従う。警備の人も座り話が始まる。
「まずは自己紹介をしよう。私はエスラン、この街の警備副隊長をしている。君の名前と職業、あと出身国を聞かせてほしい」
「名前はこk…イブです。職業は……仕立物師…出身国は日本です」
「名前はイブ…と。職業と国の名前は聞いたことがないけれど、変な団体に所属していたことはないか?」
「ありません。職業に関しては…ええと、神様からのお言葉により職業を頂きました」
「なるほど、加護職業を頂いているんですね。国の名前に関しては聞いたこともないのだけど嘘を言っていないか?」
「嘘は言っていないです。かなり遠くの国だからあまり知られていないのだと思います」
「そうですか……では最後にこの魔力板に手を乗せてもらおう」
言われたとおりに乗せると青色に光った。きっとよくある犯罪者を特定できる凄い板なのだろう。加護職業という存在のおかげで職業を怪しまれる問題はないらしい。
「大丈夫みたいだな。この街にはどんな用事で来たのだ?」
「特に用事はないです、たまたま立ち寄っただけなので次の目的地も決めてないです」
「なるほど…協力してもらったお礼と言うわけではないが、いい宿を紹介しよう。あと身分証になるからギルドで冒険者登録をしておくのもいいぞ」
異世界では高確率であるギルドがこの世界にもあるみたいだ。問題なく終わり宿屋とギルドの場所を教えてもらい、ようやく街の中に入ることができた。
もうじき夜になるからなのか歩いている人は少ない。教えてもらった宿屋が空いていればいいけど、お金はどれくらい必要なんだろう。もし宿代が金貨一枚相当だったらこの世界での金貨は価値が高くないことになるけど…。
宿屋の前に着いたときに中から賑やかな声が聞こえる。今は夕食の時間だから皆ご飯を食べているんだろう。私もこのままご飯を食べてから泊まることにした。
宿屋の中に入ると20代くらいの女性が忙しそうに動き回っている、声をかけるもの申し訳ないから椅子に座って待つことにした。しばらくすると先ほどの女性が近づいてきて声を掛けられる。
「お待たせして申し訳ございません、夕食時なので注文が多くて」
「そんなに待っていないので大丈夫です。今日泊まることはできますか?出来れば今日の夕食と明日の朝食も欲しいのですが」
「部屋は空いているので泊まることはできます。今日の夕食と明日の朝食付きなら2300ユーリです」
「……銀貨三枚で足りますよね?」
「ええ、足ります。700ユーリお返ししますね」
銀貨を三枚渡すとお釣りで小銀貨を七枚渡された。どうやら通貨の名前はユーリというらしい。その異世界通貨ユーリは銀貨一枚が1000ユーリ、小銀貨一枚が100ユーリ、銅貨一枚が10ユーリになるらしい。
単純に計算したら金貨は10万ユーリかもしれない。女神様は結構な金額を入れてくれたみたいです。
「夕食の献立ってなんですか?」
「今日の夕食は、ウルフの胸肉と野菜の炒め物とトゥメルのスープにパンですね」
美味しそうな献立だけど一つだけ気になった。トゥメルのスープってなんだろう?スープってことはトゥメルは野菜系な気がする。
「今から食べることはできますか?」
「はい、大丈夫ですよ。すぐに準備しますのでお待ちください」
トゥメルが気になるけど怪しい物じゃないと思うし、食べてみないとわからないから待っている間にステータスを見るとレベルが3に上がっていた。スキルの一覧を見ていると新しいスキルがあった。
《召喚獣作製》
召喚獣を使役するのではなく作るらしい。神様っぽいけどそんな簡単に命を生みだしていいのかと疑問しかない。
《眼神》で詳しく見てみると、
《召喚獣作製》
ぬいぐるみを作り核を入れることで出来る
核となる物によって強さが変わる(核に出来る物の条件は魔力が宿っていること)
通常時はぬいぐるみのまま持ち運び 魔力を通すことで召喚獣になる
使用者のレベルによって使役数が増える
ぬいぐるみが召喚獣になるって仕立物師凄いね。作っておいてもぬいぐるみのままで持っておけるし、一人旅が寂しくなったら使ってみよう。
スキルの確認をしていたら宿屋の女性が夕食を持ってきた。
「お待たせ致しました」
「美味しそう…」
テーブルに置かれていく。ウルフの胸肉と野菜の炒め物(野菜は何かわからない、多分キャベツに似たものだと思う)は普通に美味しい。
トゥメルのスープは色が赤い、飲むと少し酸味があって多分トマト寄りの食材だと思うからこれはトマトスープと考えることにした。
あとはパン。これは普通にパン、見た目フランスパンを斜めスライスした感じ。
夕食を食べ終わった頃、周りの人も少なくなってきた。明日はギルドに行って登録をする予定だけどあまり目立たないようにするには見た目が肝心だと思うから、武器と防具も見てみたいかな。
「宿屋のお姉さん、この辺りに武器と防具を扱っているお店ってないですか?」
「宿屋のお姉さんって、私の名前はティーナです。武器と防具を扱ってるお店でしたね、もしかして冒険者なんですか?」
「いえ、これから冒険者になる予定なので一通り揃えておこうと思っています」
「えっと…本気ですか?私より年下に見えるんですが」
「神様から職業を頂いてますから大丈夫だと思います」
「へぇ…初めて加護職業を頂いている方に会いましたけど、もっと凄いオーラを纏っていると思いましたよ」
なんか言い方が気に入らないからスキル作っちゃおうかなぁ、王の覇気とか神のオーラとか。まぁ作らないけど。
「たまたま頂いただけですから」
「たまたまで貰えるような物ではないと思うんですが…」
そう言って呆れているティーナさんから武器と防具を扱うお店を教えてもらった。そのまま今日泊まる部屋に案内してもらい鍵を預かった。
「明日の朝食の時に鍵を返却してください」
「わかりました」
了承するとティーナさんは戻っていった。間取りは……普通に部屋って感じで椅子と机とクローゼット、それからベッドがあるだけのすっきりとした内装だった。
まだ眠くないので魔力を感じとる練習をしようと思ったけど、そもそもどんな練習をしたらいいのかわからないので、なんとなく意識を内側に集中させると少し暖かいような感覚がある。多分これが魔力なのかもしれない。
試しに右手に集めるイメージをしてみると右手に集まっていくのがわかる。右手に集めた魔力のようなもので光魔法を使ってみる、蛍光灯のような明るさをイメージして魔法を使うと、長細い蛍光管の形をした光の塊が出てきた。正直眩しい。
魔法が使えた。しかもあっさり使えた。多分女神補正とか入ってると思う、そうじゃないとこんなにも簡単には出来ないはず。
そんなことを考えながら、明日はいろいろな魔法を試すことにして眠りについた。
朝です。おはようございます。早朝というくらいの時間に起きたけどティーナさんはもう仕事をしているかもしれない。大体の異世界物は日が出る頃に起きて働くのが多い。
部屋を出て鍵をかけて受付に向かい、ティーナさんに鍵を返してから朝食を摂る。献立はパンとレタスのような野菜を使ったサラダとトゥメルのスープだった。
宿屋を出て武器防具屋に向かった。歩いて数分の所にあったので疲れることはなかったけど、見知らぬ土地でちょっと緊張した。
宿屋の時も思ったが店に名前がない、同じような業種が少ないから名前がなくても通じるのかもしれない。武器防具屋に着き中に入ると右側に剣、槍、短剣、杖、爪のような物が付いた手袋といった武器があり、左側には様々な防具が飾ってあったり置かれていたりしている。
「いらっしゃい、武器も防具もいいものが揃ってるよ」
すごく体格の良い女性の方が声を掛けてきた。やっぱり武器とか防具を運んでいると筋肉つくらしい、だってこの人と腕相撲しても勝てる気がしないもん。
「何か探してたり決まってたりするかい?」
「扱いやすい剣とあまり重くない防具が欲しいのですが…」
「お金に余裕があるなら鋼の剣、普通なら鉄の剣くらいがオススメで、防具は軽くて丈夫で選ぶならライトスネーク一式とかオススメだね」
「武器は鉄の剣で、防具はそのライトスネーク一式でいくらくらいになりますか?」
「鉄の剣は4000ユーリ、ライトスネーク一式は1万ユーリの合わせて1万4000ユーリだけど……払えるの?」
「銀貨十四枚ですよね?」
そう言って銀貨十四枚を机に置く。店員は驚いている、やったぜ。値段を聞いたときに無限収納空間の中で金貨を両替してから気付かれないように銀貨十四枚を取り出しておいてよかった。金貨を両替したら銀貨百枚になったときは焦ったけど足りて良かった。金貨一枚って10万ユーリなのか。女神様の愛の深さがちょっと怖くなった。
「鉄の剣はこれと、ライトスネーク一式はこれだな」
「ありがとうございます」
店員から鉄の剣とライトスネーク一式を受け取ってお店を出る。ちなみに無限収納空間を使いたくなかったので鉄の剣は装備してライトスネーク一式は袋に入れてもらった。
ギルドに向かっているときに思ったけど、鉄の剣を腰のあたりに付けて歩いているのに重さを感じない。もしかしてステータスがおかしいから筋力もおかしいのかもしれない。
多分ギルドであろう場所に着いた。結構大きい建物だから少し離れたところでも目立つ。少し緊張しながら扉を開けて中に入る。ギルドの中には数人の冒険者らしき人と受付嬢とその中に数人、あまり人がいないような気もしたけど皆依頼を受けて仕事をしているのだと思う。
注目されないのはいいことだと思うことにして受付に向かい冒険者登録を済ませることにした。
「すみません、冒険者の登録をしたくて来ましたがここで出来ますか?」
「はい。出来ますが…登録には名前と年齢と性別と職業、あと魔力の測定と登録ですね」
「魔力の測定ですか…」
「はい。魔力の測定と登録を行うことによって他者がギルドカードを使用した際のなりすまし防止や適切な職業へおすすめするなどが出来るためです」
まずいことになった。魔力の測定なんてしたら間違いなく大騒ぎになる。ステータス見たときに測定不可だったんだから、ここで測定しても結果は変わらないどころか測定する物を壊してしまうことも考えられる。
だからといって拒否することはできない。ここで拒否したら登録できないし、最悪は怪しまれるまである。
どうにかしないと……魔力を偽装する感じのスキルを作るしかない。ステータスを見られる可能性も考慮してステータス偽装の名目でスキルを作ったほうがいいかもしれない。
情報を変える…測定や他者からの確認にも対応…
【スキル《ステータス偽装》を作製しました】
《ステータス偽装》
別のステータスデータを作り、魔道具やスキルからの測定とギルドカードの情報を変える
使用者の任意で偽装ステータスと元のステータスを切り替えることができる
自分でも驚くほどやばいものができてしまった。こんなものまで出来るとは思ってなかった。とりあえずさっとステータスを偽装してしまおう。
「そろそろ測定してもよろしいですか?」
「はい、少し考え事をしていただけです。すみません」
「ではこの水晶に手をかざしてください。水晶の中で魔力の質や量などを計ります」
言われたとおりに手をかざして待つ。あまり弱くても怪しまれると思ったからそこら辺にいた人のステータスを参考にさせてもらいましたよ。だから大丈夫なはず。
名前 イブ
レベル 3
年齢 16
性別 女
職業 仕立物師
ランク F
体力 40
魔力 32
物理攻撃力 20
物理防御力 26
魔法攻撃力 18
魔法防御力 28
運 120
あまりにも普通だと面白くなかったから運だけは盛らせていただきました…。
「初めて見る職業なんですが…もしかして加護職業を頂いているのでしょうか?」
「はい、14歳の頃に神様からいただきました」
「だから運の数値が高いのですね、納得です。それではこちらのデータをカードにしてお渡しします」
一枚のカードを渡された。これが私のギルドカード…ちょっと嬉しくなった。