魔物 遭遇 初戦
転移し終わったのか目の前が明るくなった。定番と言えば定番の森の中に飛んだらしいのだが、目の前に泉とあの自称女神様の石像がある。
(まだ疑ってたけど、ちゃんとした女神様だったんだ。今度会ったら謝っておこう)
そんなことを考えていたら女神像の前に箱が置かれているのを見つけた。きっとこれが自作職業の仕立物師とかいう物が入った箱なんだろう。
箱を開けると中には服やら鋏らしきものが見え説明枠が出る。
・仕立物師装備
[白金製の裁縫鋏]
イブ専用 譲渡不可 破壊不可 重量100g
《清潔》
汚れない
《斬撃》
斬撃を飛ばす
(使用者のレベルによって距離・威力が上がる)
[仕立物師のローブ]
イブ専用 譲渡不可 破壊不可
《清潔》
汚れない
《ダメージ吸収》
物理 魔法のダメージを吸収し魔力に変換する
[仕立物師のグローブ]
イブ専用 譲渡不可 破壊不可
《清潔》
汚れない
《収納》
触れた物を自身の収納空間に収納する
《魔法媒体》
魔法を使用する媒体になる
[銀の縫い針]
イブ専用 譲渡不可 破壊不可
《清潔》
汚れない
《縫い縫い》
どんな物でも縫うことができる
[特殊縫合糸袋]
頑丈な糸
通貨を袋に入れると金額に応じた量の糸が出てくる
うん、やっぱりチート装備か。そして武器が鋏ってこれはどうなんだろう。斬撃って能力があるから直接斬ることはしないだろうけど、正直鋏で戦うイメージが出来ない。
とりあえず装備してみよう……ローブとグローブしか防具がないんだけど大丈夫なのかなぁ。鋏は右でも左でも使えるように手に合わせて形が変わる。ローブとグローブも私のサイズに合わせて大きさが変わった、これは凄い。
装備品に驚きながらもあたりを見渡してみる。木々に囲まれているが女神像の向いている方角に道があった。
この道を行けば街か村に行けるかもしれないけど……お約束なら道中で魔物がくると思う、いや確実に出てくるでしょ。
異世界初心者の私なら簡単に死んでもおかしくはない、女神になったから簡単には死なないけど。
私のステータスってどうなってるんだろう?不老半不死のスキルで体力や魔力は無限みたいだけど流石に攻撃力とか防御力は相応な数値でしょ。
「こういうときの確認は『ステータス』でいいのかな」
目の前に半透明のパネルが現れた。
名前 (茲許)イブ
レベル 1
年齢 16
性別 女(神)
職業 仕立物師(女神見習い)
冗談半分だったけど本当に出てきた。女神にレベルなんてと思ったけど見習いだからあるのかも。
この()の中が隠してある部分……性別のところがおかしいけど無視しておこう。もう一枚別のパネルがあったから見てみると
体力 測定不可
魔力 測定不可
物理攻撃力 測定不可
物理防御力 測定不可
魔法攻撃力 測定不可
魔法防御力 測定不可
運 測定不可
もうやめて、こんなのおかしいよ。測定不可ってなに!何を測定して不可だったの!
体力と魔力はまだスキルのせいだからいいとしても、攻撃力と防御力、更には運までもが測定できないって意味が分かんない!
女神には攻撃とか防御の概念がないから測定できないとした場合、もしかしたら低いのかもしれない…高いかもしれないけど。もし高かったら武器と防具の意味がないじゃん、普段着と拳で無双じゃん……。
「女神って書いて化け物って読むんじゃないかなぁ」
一通り頭を抱え呆れ虚無感に襲われたのでこれからのことを考える。とりあえず転移のスキルはここで作っておこう、初めての異世界で来たこの場所も転移先に登録しておきたいし。
【スキル《転移》を作製しました】
特に何も考えずにスキルが出来た。多分《眼神》を使えば作ったスキルの詳細が見れるはず…。《眼神》の使用を念じると目の前に半透明のパネルが出てきた。
《転移》
一度行った場所に移動することができる
見えた、結構さっぱりした説明だった。これは既存のスキルだから簡単に作れたのだとしたらオリジナルのスキルはしっかり考えないとできないかもしれない。名前を含んで…。
転移先は自動で登録されると思う、一度行った場所に行けるし。これでいつでもこの泉に来ることができるから魔物は怖いけど進もう。万が一危なくなったら転移でここに戻ればいいし。
まだ日は昇ったばかりの位置にあるから夜前に街か村に着きたい。女神像が向く方角の道を進んでいく、そこしか道ないしね。
道を進んでいくが先には道、周りは木々しか見えない。この道は相当長いかもしれない。
少し歩いたところで周りを警戒してみるが魔物みたいな危険なものは居ないと思う、いや居ないで欲しい。
「このままだと暇すぎて狂いそう、せっかくの異世界なのにこのままじゃ普通のウォーキングになっちゃう。かといって魔物に来てほしいわけではないし…盗賊も嫌だなぁ…」
独り言を呟きながら歩いていると右側の茂みからガザガザと音がする。魔物かもしれないから立ち止まり構える。
茂みから狼のような生き物が出てきた。狼のようなと表現したのは体の周りに黒い靄を纏い、眼は暗めの赤色をしている。こんな禍々しい生き物が狼だとは思わない、少なくとも私は思わない。
「グルルゥ…」
狼(仮)が唸りながらこちらに近づいてくる。私を獲物と捉えたのかもしれない、勘弁してほしい。
やられたくないからとりあえず裁縫鋏を持ち相手に向ける。近づきたくはないから《斬撃》を試すしかないけど、動きは速そうだし当たるかわからないけどやるしかない。
「《斬撃》!」
これは声に出して言ったほうが格好いいと思った。
放った斬撃は…………狼(仮)を真っ二つにした。綺麗に真ん中から割れた。私は吐き気と後悔に襲われた。
なんとか走ってその場を逃げ出し見えなくなった所で座り込む。
「やるんじゃなかった……うぅ…きもちわるいぃ…いりょくもたかすぎぃ……」
全力で攻撃したから威力が高いのだと思うがあんな強いと思わないじゃん、ちょっと斬れる程度だと思うじゃん。しかしこれでほぼ確定した、攻撃力は高すぎて測定不可だということが。
「力を加減してあまり内臓が見えないように殺めないと私の気持ちが枯渇する」
この世界で生きていくには慣れないといけないことは分かっているが、少しづつ慣れていってもいいじゃない。無理やり慣れさせなくてもいいじゃない。それでも現実は非常である。
それでも何かいい方法がないか考えていると、
【レベルが上がりました】
半透明のパネルではなく直接脳内に声が聞こえた。無機質な感じの声だった。
確認してみるとレベルが2に上がっていた。何か習得したわけでもないけれどちょっと嬉しくなった。
スキルを見ていて気が付いた。
「そういえば魔法…使えるじゃん」
ここまで色々ありすぎて魔法のことを完全に忘れていた。魔法があれば遠くから殺め燃やせば死体を見ることもない、完璧な方法じゃないですか。使える魔法を調べようと説明を読むが”全ての魔法が使える”としか書かれていない。
”全ての魔法”の部分に《眼神》を使って調べてみるとパネルが3つ出てきた。
魔力の量とイメージで魔法の威力が変わる
無詠唱でもイメージが十分であれば魔法は使える
一度に魔力を使いすぎると精神不安や倦怠感に襲われる
魔法使いの使える魔法
火魔法 水魔法 風魔法 土魔法
状態異常魔法(毒 麻痺 睡眠)
氷魔法 雷魔法
光魔法 闇魔法
重力魔法
癒術士の使える魔法
治癒魔法
状態異常回復魔法
聖魔法
範囲治癒魔法 範囲状態異常回復魔法
欠損部位治癒魔法
予想より魔法の種類が多かった。聞きなれた火水風土と氷雷光闇、状態異常までは普通にありそうだけど重力って魔法よりスキル寄りだと思う。回復も使えるとは女神様は万能なんですね。氷属性が使えるなら出会った魔物を氷漬けにしていけば私の正気度は護られる。
魔力とイメージで魔法は使える…魔力を感じ取ることができない今、村か街でゆっくり練習するのがいいかもしれない。時間がかかって暗くなったら元も子もない。
とりあえずこの道を進もう、安全に休める所に着くまで歩き続けよう。
1~2時間くらい歩いていると空が少し赤くなってきた。このまま野宿をするのかと考えながら前方を見ると…やっと見えた。大きさ的に村ではなく街っぽい、早歩きで近づくがあることに気付く。
「お金持ってないけど、どうしたらいいんだろう。このまま中に入っても宿には泊まれないし、食べ物も買えない…」
異世界初日の夕方頃、お金も無いし食料も無い。途方に暮れていると目の前にお馴染みのパネルが出てきた。
女神イヴ様からメッセージが届いたらしい。
{ワタシの粋な計らいで収納空間に少しお金を入れておいた。今の時間くらいにお金がなくて困っている頃だと思ってな。あまり無駄遣いして困らないよう頑張ってくれ。女神の力があればどうとでもなるから焦らずに過ごすと良い}
監視されているのかと思うほどタイミングが良かったので逆に怖くなった。でもお金は凄く助かります。
収納空間の中身を確認すると銅貨百枚と銀貨九枚と金貨十枚入っていた。どれくらいの金額か分からないけど2~3日は大丈夫だと思う。だって金貨あるし。でもお金があるからといって何もしないで過ごすわけにもいかない、自分で稼がないといけないことに変わりない。
収納空間から銀貨三枚と銅貨三十枚を取り出しポケットに入れておく。大体の異世界ファンタジーでは収納空間を使うと注目を浴びてしまうことが多い気がするのでその対策として移しておく。我ながら賢いと思った。
少し早歩きで街に向かうが前方に見覚えのある物が見える。先程森で真っ二つにした狼(仮)が二匹も居座っていたがこちらには気付いていない。弱点とかないか調べるために《眼神》を使う。
名前 ウルフ
レベル 2
年齢 4
性別 雌
弱点 火
名前 ウルフ
レベル 1
年齢 2
性別 雌
弱点 火
魔物に対して年齢と性別要ります?見た目は狼だけど名前はウルフだったみたい。弱点は火だけど今は魔法が使えないので実質無弱点で闘うことになるかな。
そうなると殴るか蹴るか、石を投げるのも強そうだしなぁ。ただしどの方法も力加減を間違えれば真っ赤な花が咲くことになるので、デコピンとか比較的弱い攻撃にしたら大丈夫なはず。
右手はデコピン攻撃できるように構えながら近づくと、ウルフは唸りながらこちらに近づいてくる。左手でそこら辺の砂を掴みウルフに向かって投げつけると避け……なかった。砂がウルフの顔面にかかり、目に入ったと解るくらい暴れている。
チャンスを逃さないよう一匹のウルフの頭にデコピンを打つと、大きな打撃音とともに数メートル吹き飛んで倒れこむウルフが見えた。こんなにも威力が出ると思っていなかったから少し動揺したが、もう一匹には強めに平手打ちをしてみると数メートル吹き飛び倒れこむ。
「全力で攻撃してたら吹き飛んでいた可能性があった…」
吹き飛んだウルフを見に行くと気絶していた。このままだと収納空間に入らないから止めを刺す必要があるけれど、鋏で刺すわけにもいかないし斬撃は調節が難しい、締め殺すのも…なんか嫌だ。
このまま悩んでいるとウルフが起きてしまうので何とかしたいけどアイデアが出ない。少し悩んで出した答えは、頭を殴り続け止めを刺す。だけど素手は嫌なのでその辺りで木の棒を拾って止めを刺すことにした。
数発殴って《眼神》で死んだのを確認して収納空間に入れる。少し罪悪感に苛まれながらも襲ってきたのを返り討ちにしたと自分に言い聞かせて街に向かう。
すごく疲れたからゆっくり歩いていくことにした。
書いてることがめちゃくちゃだと思いますが、何となくで理解してもらえれば幸いです。