⑥
「つーかーれーたーのー」
夜の帳の落ちた宿屋のバーの一角。食挑者試験と王への謁見など濃密すぎる一日が終わり、さすがに疲れを滲ませとるジュジュはそのカウンターに突っ伏しておった。
あれからイラリアトム王の言伝としてこの宿屋で待つよう言われたので、ダイフクには戻らずここで時間を潰しておるのじゃった。
ついでに『呼んだ』モノもおるしの。
カウンター内にはセバスチャン(バーテンダーはどこに行ったかは面倒なので聞かん)がカクテルシェイカーを使ってシェイクしており、ガラスのコップにドロリとした液体を注ぎ込む。
「新鮮なフルーツ百%ジュースになります。疲れも多少は抜けると思いますよ。リメッタ様にも同じものを」
「すまんのセバスチャン〜」
「あら美味し、アマオウの作る物以外でも意外とイケるのね」
ジュジュがチビチビ飲んでおったら、隣でジト目で見てくるやつがおる。確認せんでも分かる、リメッタじゃ。
言うか言うまいか迷っておるようじゃったが、「まさか」と囁くように呟いた。
「あなたが許すとはね。魔王時代なら必ず殺して生まれ変わらないよう魂をすり潰していたはずなのに」
「すり潰してたのは蘇生させられんようにじゃが、今の世でそこまでする必要性は無いじゃろ。レベルやスキルが出来たからか特化型より器用貧乏の魔法使いが増え、ただでさえ難しい蘇生魔法を覚えられる者は減った。魔獣は討伐レベルという判断基準のお陰で無駄死にが減り、スキルレベルによって強い魔法をどんどん覚えられるようになっておる。それにジュジュは人族じゃ、あそこで殺しておればその事実が今後の関係の大きな溝となって横たわったじゃろう。またあのような戦争など、ジュジュは絶対やりとうないからの」
しんみりとした声で言いすぎたか、場が無言になってしもうた。じゃからジュジュは努めて明るい声を出して、「それに」と言葉を続ける事にした。
「あの王の願いを聞いて〝首が落ちた状態のまま〟生かしておいたのじゃ。ジュジュ達は奴らに貸しを作った、それはいつか返してもらう事にするぞいおはははは!」
「そうね、私を崇め奉る私のための国とか作ってもらいましょうか」
「え、なんでリメッタが出しゃばるんじゃ関係なくない?」
「声のトーン下げて真面目風に言うんじゃないわよ! 冗談に決まってるでしょ……二割くらい」
「本気の割合が高すぎるんじゃが」
フルーツジュースは無くなっておるがストローを未だ噛んでるリメッタが可笑しくなり笑う。と、セバスチャンが目線を宿屋の扉の方へと向けた。
ギイっと音が鳴り、入ってきたのはローブのフードを目深に被った三人組。その中の異様に小さい一人がジュジュらの前まで歩いてきて、そのフードを外した。
「こんばんは。やあ、数時間振りだね元魔王。と執事と女神様。君があんな事をしたせいで城は大混乱、私もやっとの思いでここまで来る事が出来たよ」
紺碧色の髪を揺らしながら、金の瞳を細めて笑う年端もいかぬ少年。
そこに居るのは先ほど謁見の間で会った、イラリアトム王その人であった。
「君に言われた通り、騎士団長は今夜のうちに出発させ君の実家のある街……ええとなんだっけ?」
「セパクールでございます」
「そうそれだ。そのセパクールに向かわせたから安心しておくれ。首には大振りの首輪を付けさせたから、余程の事がない限り外れないだろうね」
「空間魔法で首の一部を別次元に飛ばしてるんじゃ。多少首が短く見えるがそれくらいは我慢してもらわねばの」
「そうだね、更に六百六十六日の君の実家、フラウマール菓子店への奉仕で罰を終わらせてくれるなんて、まったくこちらが貸しと思わざるを得ないじゃないか」
「それが狙いじゃからの」
「はっはっは! そう言い切れる君はやっぱり凄いね!」
イラリアトム王を始めとした従者含む三人がテーブルに着いたので、ジュジュもそちらに移動する。
セバスチャンは王達への飲み物を作って、リメッタはカウンターに居るが身体をこちらに向けながら、各々言葉を聞き取ろうとしておった。
「カレアだ」
「なにがじゃ?」
「私の名前だよ。カレア・イラリアトム・ガスネト。こう見えで今年四十八歳だ」
「不老……いや、不完全じゃな。それが魔眼を授けた神族の、神秘の副次効果かの?」
「そうだね、これは不老の出来損ないさ。見た目が幼いまま止まり、そのくせ身体は衰えていく。自分でもたまに自分がおぞましく感じるよ。先代達もそうだったんだろう、だからいかにもな見た目の偽王を選んであの玉座に座らせてきたんだ。ま、私はその中でも一番年若い見た目みたいだけどね」
四十八歳にしては軽すぎる言葉遣いじゃ。おそらく精神も見た目に引っ張られておるのだろうの。
「名を明かしたという事は呼んでよいという事じゃろう。ならばカレアと呼ぶ事にするぞい」
「もちろんだよ。僕の方こそ君の事、何て呼べばいいんだろうか?」
「おぬしならまぁ……アマオウでもジュジュアンでも構わん。というかおぬし、魔王セバスチャンの名が偽りの名として広まっている事知っていたじゃろ? ジュジュが魔王セバスチャンと喋ったとき魔力が揺れておった。あれは笑いを堪えていたものじゃな」
「凄い、魔力でそこまで分かるなんて。さすがは〝お菓子づくりのアマオウ様〟だね」
なんと、その二つ名まで知っておるとはの。本当に誰がジュジュの情報をこの時代まで残しておったのやら。
と、カレアはにこやかな顔を真面目なものに変え、ゆっくりと頭を下げてきた。驚き何かを言おうとする従者を手で制し、言葉を紡ぐ。
「アマオウ、まずは謝意を。あの時は臣下が迷惑をかけた。そして、次に確認だ。アレは本当にあのままでよいのかい?」
「……カレアよ、謝意は要らん。もう罰は与えとるからの。騎士団長の忠誠心なら無いとは思うが、それでももし逃げ出したならその時は、じゃな。アレとはつまり、謁見の間の天井を吹き飛ばしたアレの事じゃな? 瓦礫を当たらぬよう退かしたリメッタの女神の力の事ではなく」
「女神リメッタ様の事は魔眼で見たから何となく分かる。ああ、あの時は助かりました女神よ。というか、アレって言ったらアレしかないじゃないか。アマオウの言う言葉を信じるなら、いや信じるしかないんだけど。アレは元魔王軍幹部、文献にも数多く記述されている鎧の守護神。恰好よさの権化。装甲兵長ガンダダンなのだろう?」
一部変な言葉も混ざっておったが、興奮か緊張か分からぬほど目を輝かせて聞いてくるカレア。
じゃが分かるぞ。大きい鎧とかテンション上がるものじゃよの。
と、扉の向こうから近づいてくる懐かしいモノの魔力を感じた。
ぎい、と扉が開き、呼んでいたモノが姿を現す。
「大変お久しぶりでございますアマオウ様。そして転生おめでとうございます」
「うむ、潜伏任務ご苦労じゃガンダダン。それと普通の出迎え感謝するぞい。そうじゃよな鼻血とか出さぬよな普通。と、カレアよ。紹介しよう。こやつが城で天井を穿ち吹き飛ばした巨躯の鎧の中身、幽体魔人族のガンダダンじゃ」
どこにでもいそうな、ややくたびれた感じの中年兵士。魔眼があればその周りを膜が覆っておるのが見えるじゃろう。それが幽体魔人族が取り憑いた証じゃ。
何はともあれ、せっかく再会したのだし。
うむ! やっぱりお菓子作りかの!
「まずはブルーベリーじゃな。これは小屋の中で育てているものを収穫し乾燥保存させていたのでそれを使うぞい。ベリー系はジャムとして有能じゃからあと三種類は作っておるが今回はこれだけにしとこう。あとブルーベリーが目に良いと言われておるが、学術的根拠はないそうじゃ。まあ食べて美味しければ何でも良いと思うがのジュジュは」
食挑者試験で使った簡易キッチン、あれはダイフクの小屋の中にもいくつか置いてある。それと必要な材料を魔王城謹製の収納袋でセバスチャンに持ってこさせ、ジュジュはバーの真ん中で調理を始めようとしておる。もちろん調理帽は被り済みじゃ。
ん? カレアが呆けた顔でこちらを見ておる。その顔にはありありと『何を始めるつもりだ』と書かれておるが、うむ、二つ名を知っていておるのに何をそんなに驚く事があるのじゃ。
「お菓子づくりのアマオウじゃぞ? お菓子づくりが好きに決まっておろう」
「文献にも書かれていたけど……それ以外の所業が人知を超えたものばかりだから半信半疑だったんだよ。だけど君のお菓子は神族さえ魅了したと聞いている。私が食べてもいいのかい?」
恐る恐る聞いてくる様子に、ジュジュは思わず「おはは」と笑い声をあげてしまった。
「いかんいかん、今は夜遅いんじゃったわ。それにしても食べてもいいのか、か。答えはもちろん大丈夫じゃよ。そっちの護衛二人の分も作ってやるから待っておれ」
まだ唖然としているカレア達を置いて、ジュジュは調理に戻る事にする。
「乾燥ブルーベリーは水と砂糖と一緒に鍋にいれ、粗めに潰してペースト状にしておく。次にボウルに牛乳と砂糖を入れ、オーブンレンジに入れて一分加熱する。砂糖が溶ければ大丈夫じゃ。別のボウルで卵を混ぜ、網目の細かいザルで濾してバニラビーンズを加える。このバニラビーンズ、ジュジュが魔王時代に異世界から持ってきて育てた品種での。ジュジュのお気に入りの材料の一つなんじゃよ」
黒い小枝のようなそれを鼻に近づけると、甘く複雑な匂いが頭を突き抜けるようじゃ。ちらりとカレアのほうを見ればどうやら異世界のオーブンレンジや冷蔵庫が気になるようで、そちらにしきりに気にしておる。
魔石で使えるように改良すればこちらにも持ってこれるが、あまり異世界の技術を広めるのも何だかなと思うしの。何か言ってきたらその時にまた考えようかの。
「オーブンレンジで加熱した牛乳が冷えたら先ほどの卵と混ぜ、あぁ、バニラビーンズはもう取り出してもよい。それを耐熱ガラスの容器に移す。移す前に底にブルーベリーのペーストを入れるのを忘れずにな。ここには七人おるが、余裕を持って十個作っておこうかの」
幽体魔人族のガンダダンは物を食べる事を必要とせぬが、生物に取り憑いた時に食べた感動が忘れられんようじゃ。特にプリンとの出会いは『運命の相手』とまで言っておったし、今も見ておると土気色の顔に並々ならぬ期待をのせてこっちを見ておるわい。
「そういえばガンダダン、まったく聞かされておらんかったのじゃがなぜ謁見の間におぬしはおったんじゃ? というかおぬし、勇者に倒されておらなんだか」
「幽体魔人族は実態を持たない代わりにその身を分割させる事ができます。勇者イラリアに倒された時分けた分身も勇者の魔法で消滅しましたが、一つだけ残っていた分身がありました。アマオウ様がお戯れに作った幽体包丁です」
「そういえば幽体系の魔獣や素材も使いたかったからそのようなものを作ったの。憑依させたのはおぬしの一部じゃったと思うが、そうか。幽体包丁は障壁魔法の厚い厳重な金庫に入れておったからの。魔法の影響もなかったんじゃろ。おぬしとまた生きてあえた事、嬉しく思うぞい」
底の浅い鍋に水を張り、沸騰したらキッチンペーパーを入れて沸騰の衝撃を弱める。一旦火を止めガラス容器に入れたプリンを乗せ、弱火を付ける。
これで十分ほど熱し、火を消し予熱で一分ほど放置して固める事にする。
「ありがたきお言葉です……そして長い時間をかけて復活した私ですが、その時にはもうアマオウ様はこの世におらず、魔王城も殆どのモノは居なくっていました。ちょうどその時に、アマオウ様の調理器具を取りに来たセバスチャン様と出会い、なんやかんや幻影城の謁見の間に鎮座する流れとなりました」
「最後のほう端折りすぎじゃの。カレアはあの巨大な鎧の事、何か聞いておらんかったのか。装甲兵長ガンダダンの事が記述されていたなら、巨大な鎧には注意すると思うのじゃが」
「さすがに六百年以上も昔の物が残ってるなんて人族には考えもつかないね。それにあの鎧は、王家の文献では勇者が着ていた鎧と言われていたから」
「……あんな大きな鎧をか?」
「……実は幻の巨人族の末裔だったとか、魔法で巨大化して着ていたとか色々な説はあるよ。けどいつ頃着ていたとか、何でそれが新品同様で残っているんだとか疑問もあったはあった。勇者所縁の品、これだけで王家も人族も真偽を確かめず目の色変えて飛びつくから困ったものだよね。ハハハ」
どこか乾いた笑い声じゃ。それもそうじゃろう、勇者所縁の品と思われていたものが実は魔王軍幹部そのものじゃったのじゃし。
しかも話の限りでは何百年もあの場所にあったようじゃが、ガンダダンもよく微動だにせず耐えられておったの。
あの時、首を落としフラウマール菓子店への奉仕をすれば許すと言った後、ガンダダンに気付いていたジュジュはその名を呼んだ。
律儀なものでそれまで魔力の気配すら見せなかった巨大な鎧は一気に膜に覆われ、歓喜するようにその身を立ち上がらせた。
鎧兜の眼窩には意思あるモノの灯が点いて、傅く様は昔を彷彿とさせたの〜。
多少なりともビビらせる為に天井の破壊を命じたが、あそこまで綺麗に吹き飛ぶとは。お陰で幻影城としての機能が一部破壊され、頂点のない不恰好な城を晒す羽目になっておる。
財政を圧迫した魔石ももう必要じゃないんじゃし、逆に感謝してほしいくらいじゃ。
「あ、けど城の修繕費は出してもらうからねアマオウ? それとこれとは話は別だろ?」
「うっ。近々魔王城に戻って宝物庫を覗いてくるわい。ガンダダンが動くと何かこう、大きな建物とか壊したくなるんじゃよの」
「男としては賛同できる意見だけど、やられたほうはたまったものじゃないからね」
そんな話をしておる内にプリンもある程度固まったので冷蔵庫入れ、その間にホイップクリームを作っておく。
冷えたプリンを取り出し、上にクリーム、乾燥させたブルーベリーを載せれば完成じゃ。
「よし完成じゃ。〝ブルーベリーソースのなめらかプリン〟。こんな感じじゃろ」
セバスチャンにスプーンと一緒に配らせジュジュもテーブルに着く。
では、いただくとしようかの。
「金眼鶏や魔界牛の材料だと、普通の動物のものと比べて味が濃厚なのよね。ブルーベリーソースの甘酸っぱさや、あえて残した実もアクセントになって何個でも食べられそう」
「あまり食べるとまたお太りになりますよ? とても美味しゅうございましたアマオウ様。食後のお口に合う茶葉を見繕ってまいります」
この二人は思っとる感じの反応じゃったが、さて他の者達は……そう思って見た時、最初に目に飛び込んできたのは大号泣しておる中年の兵士、もといガンダダンじゃった。
「どうしたガンダダン!」
「こ、これは、これほどのプリンをわた、私は食べた事が、ございません!」
「わ、分かったから少し落ち着くんじゃ、な? レベルやスキルが出てきたせいかジュジュも分からんのじゃが、昔より美味しくなっておるとは思う。じゃがそんなに泣かなくても」
「これが泣かずにはいられません! 六百六十六年の歳月を経て、アマオウ様のお菓子をいただく事が、それもプリンをいただけたのです。このまま神界まで登り浄化されてしまいそうな気分です!」
「それは待て、な、待つんじゃよガンダダン?」
幽体と名のつくモノは浄化系の魔法や神魔法で浄化するか、超火力の魔法で消し去るかのいずれかじゃ。満足して勝手に浄化されるモノも居るが、いまガンダダンがそうなってしまっては困るぞい。
「ガンダダン、おぬしは引き続きイラリアトム城に残って情報を流すのじゃ。まあ殆ど必要はないかもしれんが一応の。見つかってしまったが、おぬしなら何をされても大丈夫じゃろ?」
「っはい! 装甲兵団を任されていたこのガンダダン、たとえ大規模殲滅魔法を撃たれようと神の雷を落とされようと耐えきる自信があります!」
「それじゃと城のほうが先に壊れそうじゃが、ならば任せたぞい」
未だ感涙しておるガンダダンから目線をカレアのほうへ向ける。と、こちらは目を見開いたまま動きを止め、何か呟いておった。
「だ、大丈夫かの?」
「いや、ダメだ」
ややあって返事をしたカレアの声は、ただでさえ高い声なのに更に上ずっていた。
「とても美味しい、思考が完全ストップするくらいには堪らなく美味しいよこれは。ただ私が驚いたのはそこじゃない。このお菓子は……〝ステータスを上げる事ができる〟」
「うむ?」
「君の料理を食べた事のある者は他にいるかい? もしいるのなら即刻調べなくてはいけない」
「お、おぉ居るぞい。食挑者試験の時に食べさせたシュガンドとギルド長のバーバリー。受付のハンナと食挑者の五人じゃ」
「結構いるじゃないか! 君はこれがどんなに凄いか分からない——いや、ごめん。興奮しすぎたようだ。そもそも僕の魔眼を使って分かる程度だから常人では気づかないか。だけど確かに、アマオウのお菓子はレベルを上げずにステータスを上げる事ができている」
プリンを食べて同じく呆けておったローブの二人も魔眼で覗いて「やっぱりね」と言うと、カレアは一際真面目な顔をしてジュジュを向いた。
「お菓子の材料なのか君の腕なのかまだ分からないけど、これがもし別の国にバレたら君は確実に狙われるだろう。レベルを上げずにステータスを上げるなんて、ステータスの数値が全てのこの世の中じゃまさに魔性だ」
「ジュジュらはそんなもの感じないんじゃがの~」
「それは君達が元々ステータスが高く、人族とは感覚が違っているからだよ。これは言っても仕方ないんだろうけど、君のお菓子を誰かに食べさせるのはリスクが高いから止めた方がいい」
「無理じゃ」
「言うと思った、ただ僕も一応言っておかないといけないと思ってね。気を悪くさせたらごめん」
「美味くてステータスも上がるなら確かに魅力的じゃが、イラリアトム王としてはジュジュの力に執着はせんのか?」
「目の前で城の屋根を吹き飛ばされたんだ。どうこうできるものじゃないと思い知らされたさ」
すると近くのローブの一人が耳打ちをし、カレアが苦笑する。
「長居しすぎたようだ。そろそろ戻らないと残してきたのが偽物だとバレてしまうかもしれない」
「いかにもな王様か?」
「いや、私にそっくりな人造人間だ。私は王様だし、祝福のおかげでこんな身体だ。普通に接する者は少なくて……今夜はとても楽しかったよ、アマオウ。我が王国との因縁はまだ根深いだろうけど、せっかく私の代で出会えたんだ。対等な関係になれる事を女神リメッタ様に祈らせてもらおうかな」
「あら、信心深い人族は好きよ」
「ご利益は薄いぞこやつ」
「失礼ね!」
「ははは。それじゃご馳走さま、君の大事な部下には手を出さないよう厳命しておく事にする。けどあまり目立つ諜報活動はしてくれるなよ? 今夜は僕の為に居残っててくれてありがとう」
すっと立ち上がって外へ歩いて行く様は、身体の小ささも相まってとても儚げだ。
ので、ジュジュは「カレア」と声をかける事にした。
「もしもまたジュジュのお菓子が食べたくなったらガンダダンに言うんじゃ。そしたらとびっきり美味しいお菓子を作りに行ってやるわい。対等な友達として、のう」
「……友達に、なってくれるのかい? 君は、因縁のある一国の王と」
「そんな因縁、転生の時に全て置いてきておる。いやちょっとキレたりしたのも事実じゃが。おぬしならあの国を良い方向に導ける。人と魔の関係も、もっと良くできるかもしれん。それに」
そこでジュジュは、今できる最大のドヤ顔でもって言ってやった。
「ジュジュの〝世界征服(お菓子で皆を笑顔に)〟は、おぬしの笑顔とて含まれておるんじゃからの」
▲▲▲▲▲