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お菓子づくりのアマオウ様!の公募用に推敲したものになります。

元のものと大筋は変わってませんが、細かな違いなどありますので……まぁその、新作までの繋ぎとして読んでいただけたら幸いです。

ちなみにサブタイトルやあらすじはご意見をいただいたとしても変える事はありませんので、レビューや感想などは無用とお考えくださると幸いです。

「アマオウ様。偵察型 自動人形(ゴーレム)からの映像で装甲兵長ガンダダンが勇者パーティにやられました。この玉座の間まであと数分かと」

「そうか。転生後もし会えたら、ガンダダンにはまたプリンを作ってやらんといかんの」

「決起集会兼お別れ会兼また会う日までパーティの時にバケツプリンを作ったのですから、次はポリバケツプリンにぜひ挑戦を」

「あれか。何というかバケツまでなら大丈夫なんじゃがポリバケツになると、精神衛生上あまりよろしくない感じになるんじゃよの」

見た目が完全鎧にしか見えない装甲兵長ガンダダンに想いを馳せながら、魔王たる儂と側近セバスチャン(本名セバスチャン・バレッジゴールドン・ジュニアなのじゃが頑なにその名は呼ばせぬ)は玉座の間で雑談に興じておる。

ここは魔界の中心地にある王都、そして魔王の居城たる魔王城の玉座の間である。

いつもなら執務室で城下町や遠方の村から届く要望や嘆願書に目を通し、時間があれば異世界へ渡って新しいお菓子との出会いや、単純にお菓子づくりに勤しんでおるのじゃが。今日は違っておった。

……勇者パーティが単身、魔王城に乗り込み儂の首級を挙げようとしておるのじゃ。

儂が魔王になる前までは魔人族と人族で全面戦争をやっておったが、魔王に就任し和平条約と不可侵条約まで交わす事ができた。

さて、これでお互い平和を享受できると安心しきっておったんじゃがの~。

「まさか勇者パーティの暴走に見せかけてアマオウ様を狙ってくるとは。人族の王はとことん愚かでございます」

「自然に儂の思考を読んだのおぬし……じゃがその通りじゃ。平和になったんじゃし部屋で寝転がって美味しいものでも食べればいいものを」

「人族側にそのような余裕は無いと思いますよ。戦争自体はわれら魔王軍側の圧勝。和平を結んだとはいえ、いつ侵略を再開するか戦々恐々なのでしょう。そもそも、お菓子のレシピだけで『世界征服』しそうな勢いでしたから」

「世界征服……か。美味しいものは皆で分け合いたかっただけなのじゃがの。まぁ人族の王城には〝突然罪の意識に苛まれ、国民全員に自分の罪を自供したくなる〟改変魔法を掛けたからの。後はあちらで勝手に自滅していくじゃろうて」

「さすがアマオウ様。ご都合主義的すぎる魔法も主人公補正でチート級の楽勝具合ですね。チートやないチーターや」

「無表情で何を言い出しておるんじゃおぬし? え、異世界で何を学んできたんじゃ?」

う、うむ。儂と共に異世界へ渡らせたのは間違いじゃったかの。いやしかし、優秀が服を着て歩いてるようなモノじゃし、異世界渡りはお菓子のレシピや材料集めに必須じゃったからの。

……き、きっと転生後には落ち着いておるじゃろうて!

「おや、雑談している間に勇者パーティはすぐそこまで来たようです。あの扉、そういえば百獣兵長グルルンルンが酔っ払ってマーキングしたせいで、蝶番が錆びてしまっていましたね」

「あやつは前の健康診断で血液が強酸性になっとったからの〜。魔物と魔獣の混血じゃからと後回しにせず、健康管理をちゃんとしてやればよかったわい」

「彼もアマオウ様にそう言っていただき本望でしょう。ではアマオウ様……ご武運を」

「うむ。後のことは任せたぞセバスチャン」

セバスチャンの気配が消えた直後、がたがたとうるさかった扉が開き、魔王の因縁の相手である勇者パーティが姿を現す。

女勇者イラリアと、他に仲間が三人。

儂からすれば全員年端もいかぬ若者じゃ。人族の寿命は短いとはいえ、このような子供と戦場で命の取り合いをしたくはなかったの。

特に、〝儂が魔王じゃとバレる前から顔見知りであるこやつらとは〟。

勇者は一瞬だけ眉根を寄せると顔を伏せ、そして顔を上げた時には——その大きな瞳に決意の光を宿らせていた。

「……あなたの首を取りに来たわ。魔王ジュジュアン」

「……おはは。待ちくたびれたぞ。勇者イラリア」




「とまぁ、そこからなんやかんや勇者に首を()がれたジュジュは転生魔法を発動させ、今この時代、あれから六百六十六年後のフラウマール家の嫡男として生を受けたというわけじゃ。あ、転生といっても死産する魂に融合する法式じゃから、ジュジュは魔王でもありお母上とお父上の子供でもあるのじゃよ!」

バァン! と効果音が鳴りそうなくらいドヤ顔で言うジュジュに、リビングのテーブルで向かい合わせに座る両親は呆気にとられた顔をしておる。

まぁ話している途中から分かってはいたがの。

「……ジュジュアン、明日治療院に行ってきなさい」

「ジュリーちゃんは想像力たくましくて、お母さん嬉しいわよ〜」

「う〜む想像通りの答えすぎてさすが両親と思わなくもないが……本当の話なんじゃよ二人とも。ワシは魔王の生まれ変わりじゃ!」

「こんな夜中に大きな声を出すな。お前はフラウマール菓子店の天才菓子職人と言われるほどの才能の持ち主だが、だからこそ夜中に奇声を発していたなど変な噂が立ったらどうする」

「じゃが事実なのじゃよお父上。あと声がジュジュより大きいぞい」

「その呼び方はなんだ! 昨日までのお父様お母様に戻しなさい。それに口調もだ」

「あら、これはこれで可愛らしいと思うわよ私は。だってジュリーちゃんはお母さんに似て超絶美形の十二歳なんですもの」

「いやこの顔はジュジュの生前のものじゃが? なるべく近そうな顔の両親を選ぶようにしておったが、ほれジュジュのほうが五割増しで美形じゃろ?」

「うちのジュリーちゃんに反抗期が!」

やいのやいのとうるさくしていると、奥の部屋に繋がる扉が開いた。皆の視線が集まる中、そこから出てきたのはよれよれの調理服を着た白髪のご婦人。

先代フラウマール菓子店店主。リリアン・フラウマールお婆上その人である。

「なんだい騒がしいねまったく。こんなんじゃおちおち新作も試せやしないさね」

「すまんのお婆上。どうしてもお父上とお母上が納得してくれないんじゃ」

「ジュジュアン! 先代になんて口の利き方をしているんだ!」

「ドドアン、あんたは黙ってな。ロッカさん、すまないがうんと熱いお茶を淹れてきてないかい?」

ちなみにこの店ではリリアンが一番偉い。序列を示す図形があれば、リリアンはそれを飛びぬけてはるか上にいるくらい、その言葉は絶対のものなのじゃ。

なぜか? そんなの、お菓子づくりの腕が他より優れているからに他ならぬ。フラウマール菓子店では創業当時から、血縁他縁関係なく腕の良い者が店長を務めてきた歴史があるそうじゃ。

まぁ見ての通り今のドドアンではリリアンに歯が立たないので、先代なのに今の店長よりも偉いというよく分からない状況になっておるんじゃがの。

「ふう。さてとジュジュアン、この耄碌気味の婆にもう一度、馬鹿息子にした話を聞かせてくれるかい?」

ロッキングチェアに座りゆっくりと前後しながら、しかしその目は猛禽類のごとく鋭い。食べられるんじゃなかろうかと冷や汗をかきつつ、ジュジュは先ほどと同じ話を喋り出した。

じっとジュジュの目を見ながら話を聞くリリアン。途中ロッカが持ってきたお茶を飲むとき以外はずっと目が合っていたような気がするぞい。

同じ話をし終えてリリアンの顔色を窺っておると、今まで黙っておったドドアンが「まったく」と首を振りながら呟いた。

「明日の仕込みを置いてきてみれば夢の話をするとはな。お前も来年は十三歳、職業を決めねばならない成年式を迎えるんだ。だいたいな、ジュジュアンという名前の魔王なんて昔話でもおとぎ話でも、俺は聞いた事がない。魔族の知り合いやお客さんも何人かいるが、昔実在した魔王の名前は確か」

「〝セバスチャン〟。つまり私の事でございますね」

「そう、それだ……うん? 誰の声だ」

異変にいち早く気づいたのはリリアンのようじゃった。鋭い目つきも今は見開かれ、魔法灯の明かりが届かぬ家具の隙間に向けられている。

次いでロッカとドドアンがそちらのほうを向くと、まるで影から滲み出るように『そのモノ』は姿を現した。

全身黒の燕尾服に、胸ポケットには白薔薇が差してある。黒い髪の隙間から覗く真紅の瞳を輝かせ、ジュジュに向けて恭しくこうべを垂れたそのモノこそ。

「まだ説得の途中なんじゃがの。セバスチャン」

「申し訳ございません。家具の隙間でタイミングを計り今がベストかと思いまして」

「ベストじゃったか今の?」

六百六十六年の時の流れを感じさせぬ軽妙な会話に、懐かしさを感じ笑みを浮かべるとセバスチャンも口元に微笑を浮かべ。

なぜか鼻血を垂らした。

「なんでじゃー!」

「幻惑魔法で老体に姿を変えていない素顔のままで、しかもこのような短パンの似合うショタの姿に転生し笑顔を浮かべるものですから思わず鼻血が出てしまいました」

「え、えぇ。おぬし転生前から更に悪化させているんじゃないかの?」

この六百年の間にセバスチャンの性格がもっと変な方向にいっておるようじゃ……な、懐かしさと同時に悪寒が止まらんぞ!

「だ、だ、誰だあんたっ」

「これは申し訳ありません。我が主人との久々の会話に私ともあろう者が興奮して挨拶が遅れました。私はアマオウ様の一番の側近、名をセバスチャンと申します。これはつまらないものですが魔界のお土産十年連続一位の味噌饅頭です」

「あ、これはご丁寧にどうも。饅頭に味噌とはまた珍しいーーじゃなくて! あんたは誰だ、どこから入ってきたんだ。か、母さん憲兵を呼べっ」

「あらやだイケメン」

「いえいえ、貴女もまだまだお若くお美しい。さすがアマオウ様の母君殿でございます」

「母さん!」

「——————喝っ!」

その声は、魔力の込められた一喝であった。魔力が少なかったり持っていない者からしたら今のだけで相当な衝撃じゃの。

前世の記憶を取り戻した今なら分かる。リリアンの魔力量は今のジュジュよりも多い。お菓子づくりの工程に魔法や魔力は使わないのじゃが、魔力持ちのほうが美味しく作れるというのは、もしかしたら関係があるのかもしれんの。

ちなみにドドアンの魔力はジュジュの十分の一以下じゃ。

「ほう? 私の一喝で目を回さなかったのは王都のクソ爺と亭主くらいなもんだよ。こりゃ生まれ変わりってのも、あながち嘘じゃないのかもしれないねえ」

「ま、待ってくれ。先代、いや、母さん……」

「あんたは黙ってな。ったく一人息子だからって武者修行もさせず店を継がせたのは間違いだったのかねえ。さて、ジュジュアン。その生まれ変わり云々を信じる信じないはこの際置いとくとしてだ」

「お、お婆上。置いとかれても困るのじゃが」

「〝問題は、あんたが今何を考えているかって事さね〟。言いたい事があるんだろう? けれどそれは言葉で言うもんじゃないよ」

ロッキングチェアから立ち上がったリリアンは調理帽をかぶり直し、年齢を感じさせぬ笑みを浮かべてこう言った。

「お菓子屋の倅なら、言いたい事はお菓子で語るんだね」

リリアン。それは脳筋の考え方じゃと思うんじゃがの。




「どうやらそこの御人やジュジュアンは何か急いでるようだし、作るのはプレーンの蒸しパンでいい。けれどこれで私が納得しなかったら、四の五の言わずに店のために働いてもらうから覚悟しとくんだよ」

一体どこまで察しがいいのか。リリアンはこちらの焦りまで加味した上でお菓子づくりを提案してきた。

フラウマール菓子店にとってお菓子づくりの腕が何よりも優先される……つまり今から作る蒸しパン如何によって、ジュジュの今後の予定は大きく変わるという事じゃな。

「ちなみにこの決定に両親は口出しさせないよ。さあ、分かったらとっとと作るんだ!」

厨房の調理台の上には薄力粉や強力粉、卵、牛乳、砂糖、バターなど一通りの材料は揃っている。本当なら干しブドウなども欲しいところじゃが、今はプレーンの蒸しパンで我慢するとしよう。

「さて、お婆上を納得させるために頑張るとしようかの。何だかんだで記憶が戻ってから初めてのお菓子づくりじゃ。気合を入れんとの!」

 まずは材料選びからじゃが、蒸しパンは舌触りやふっくら感が大事じゃから薄力粉にしておく。しっかりどっしりしたパンが作りたいなら強力粉じゃがの。

「まずは蒸し器に水を張って火にかけておくとしよう。次に薄力粉をパーキングパウダーと一緒に粉ふるい器に入れ、二回ほどふるっておく。次に卵じゃが、こちらには砂糖を加え——」

「ちょっとお待ち」

「どうしたんじゃお婆上?」

「ジュジュアン、あんた誰に説明してるんだい?」

至極不思議そうに聞いてくるリリアンに、ジュジュは鼻で大きく息を吐いて言ってやる。

「前世の魔王時代には熱心に聞きたがる奴がいたので、説明しながら作るのが癖になっておるんじゃよの。どうしてもと言うなら黙るぞい?」

「……いや、あんたの好きに作りなさいな。ただ唾が飛んだ生地なんて私はごめんだからね」

「その点は問題無しじゃ。いつも風魔法でそこらへんは注意しておるからの」

そう言って風魔法で調理器具と浮かしていたら、はたと思い至る。

昨日まで魔法の使えなかったジュジュが魔法を使って見せれば、両親は結構簡単に信じたのではないだろうか、と。

ま、まぁ今更じゃ! とりあえず蒸しパン作りを頑張るぞい!

「さ、さて卵には砂糖を加え角が立つまで混ぜる。そこに牛乳を入れるが、バニラビーンズを匂い付けに一緒に入れても良しじゃな。軽く混ぜ合わせ、ふるっておいた薄力粉とベーキングパウダーを二~三回に分けて入れ、ダマのないように混ざったらカップに移す。蒸し器に入れ、大体十五分くらい蒸せば出来上がり——なのじゃが。今回はちと時間がないので、少し魔法で時間を進めさせてもらうぞい」

蒸し器と下の火に時間魔法を掛け、十五分ほど時間を進めてしまう。

店舗のほうは魔石を用いた魔道具キッチンじゃが、あれは結構値の張る物じゃからの。自宅はまだまだ薪を使った調理台じゃ。

「時間魔法って……昨日まで魔法の魔の字も知らなかったはずだけど。こりゃあ転生ってのは信じるしかなさそうだね」

「それなら」

「たとえ元魔王だろうと、フラウマール家に生まれたのなら私の言葉は絶対さ。さあ出来たんならあっちに持っていって、皆で食べてみるとしようじゃないか」

 結局はそうなるのじゃよの。元魔王でも逆らう事の許されぬ、先代店主のリリアン。

改めて、何とも面白い家に転生したものじゃな。

微かに笑い、出来上がった蒸しパンをトレイに載せて隣の部屋へ持っていく。そういえばすっかり忘れておったがセバスチャンは何をしておるんじゃろうかの?

「私ならばアマオウ様に影に入り、ずっと見守っておりましたよ」

「ジュジュの心の声に反応するな怖いの」

自分の影から突然声がしたので一瞬飛び上がってしまったわい。それを見て影の中ではセバスチャンが身もだえているようじゃが、理由を聞きたくないので今は無視する。

「もう出来たのか? いくら蒸しパンといってもまだ十分も経ってないぞ」

「魔法で時間短縮したそうだよ。私はあまりよく分からないけどね。ああ、何か言いたいのは分かるけどとりあえず食べるよ。それで分かるだろうから」

 そわそわとしている両親には目もくれず、リリアンはひょいっと蒸しパンを掴むと大きく口を開けた。そのまま無言で食べ続けるので、両親も仕方なくといった感じで蒸しパンを手に取る。

自分の分はいいかと作らなかったが、この匂い……ちょっと後悔じゃの。

「こ、これは!」

声を上げたのはドドアンじゃ。わなわなと震えながら蒸しパンを凝視しており、確かめるように一また口に含む。

「ジュリーちゃん! すっごく美味しいけど何を使ったのこれ!」

ジュジュの方を掴んで揺さぶってくるロッカに、ジュジュは目を回しながら普通の材料しか使ってない事を告げる。

じゃが信じてもらえないようで、「これは今すぐお店の看板商品にしましょう」とか「ジュリーの愛情たっぷり蒸しパンとかどうかしら」など騒いでおる。

「んん!」

と、リリアンが咳ばらいを一つ。それだけでロッカは黙り、わなわな震えていたドドアンも直立不動となった。

フラウマール菓子店……もしかして昔は軍人の家系だったりするんじゃないかの?

「使った材料が普通のものなのは私が見ていたから間違いない。それなのに、いつもジュジュアンが作るのより断然美味しくなっている。調理中のあんたを見てれば分かるさね。あんたは今、私よりも深くお菓子を愛し、愛されている存在になっているね」

「そこまで言ってもらうと、何か照れてしまうの~」

「まあ、何で魔王様が本職よりお菓子作りが上手いのか分からないけどね——で? あんたは一体何のために、魔王様からお菓子屋の一人息子なんかに転生したって言うんだい」

リリアンの射貫くような視線は、そのままジュジュの心を見透かそうとしているようじゃった。

何のために転生したか、か。

「……瞼を閉じれば今でも思い出せる光景がある。ジュジュはそれを防ぎきれんかった。守りきれんかった。武力ではダメだったんじゃ、力では……大切なものを笑顔には出来んかった。お父上、お母上。そしてお婆上」

ゆっくりと周りを見れば、三人は一様に同じ目をしていた。

家族を心配する目。愛情のこもった目。他者を思いやる、温かな眼差し。

「ジュジュはこの世界だけでなく、異世界のお菓子も全て知り、作りたいと思っておる。作ったお菓子で食べた者全てを幸せにし、魔と人の争うを今度こそ無くしてみせよう。ジュジュは、ジュジュはの」


「——今度こそ、〝世界征服(お菓子で皆を笑顔に)〟するんじゃよ」


「くっ。あはははははは!」

「な、何を言ってるんだジュジュアン? お菓子で、だと?」

「ずいぶんと大きく出たもんじゃないか。お菓子で世界征服? ふっふっふふふ。ああ可笑しい。こんな妄言を聞いたのは亭主の若い時以来だよ」

「むう。妄言とは手厳しいの」

リリアンはロッキングチェアから立ち上がり、傍らの調理帽を手に取った。慈しむように表面を撫でると、ひゅっと放ってジュジュの手の中に納まる。

「それは、お養父様の形見の——そうですか。なら、私達が言う事はもうありませんね」

「か、母さん?」

「いえ! お父さんこれでいいのよ! ああジュリーちゃん。例えあなたが世界の裏側に行ってもお母さんはあなたを思い続けていますからね! あとたまにセバスチャンさんをお家に連れてきてくれたらお母さん嬉しいわ」

「母さん⁉」

ロッカがなぜか訳知り顔で納得し(妙な事も言っておるが)、ドドアンが素っ頓狂な声を上げる。

リリアンのほうを見れば、そこにあったのはとても穏やかな笑顔じゃった。

「なら行ってきなさいな。あんたが目指す世界征服のために、お菓子で皆を笑顔にするために」

「うむ、うむ! それではお父上、お母上。お婆上。成年式のある一年後には必ず帰ってくるので、それまでどうか、ジュジュのわがままを見届けてやってくれ。どうか三人共、健やかに、そして笑顔であれ!」

「あ、世界征服出来た暁にはフラウマール菓子店の宣伝もしっかりやってくるんだよ」

最後に聞こえたリリアンのセリフに「おははは」と笑い、ジュジュは闇夜の中へと飛び込んだ。


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