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特訓その3 前編

自らの持つ【武器】を知った川田、他流試合の前日に最後の特訓に挑む!

 翌朝、冷静さを取り戻すどころか、勝算を全く見出すことが出来ず、自信を喪失しながら目を覚ました。


 いつまでもクヨクヨしてはいられない、試合までもう時間は僅かしか残されてはいないのだから……。


 憂鬱を気合いで吹き飛ばし、急いで支度をして食堂にやって来た。


 最近ルームメイトに会ってない気がするけど、気の所為かな?


 食堂はいつも通り賑やかだったが、生徒達の話題は明日の試合の話で持ち切りだった。


「衛原先輩の試合を観れるなんて……」


「柔術部って部活別序列10位の部活でしょう?」


「女子ボクシング部なんてあったんだね?初めて知った」


「川田?新人の子かな?」


 いやいや、仮にもリング付きで冷暖房完備の部室を保有してる部活だし、そこの部長の事くらい知っておいて貰いたいんですけど……。


 知名度の圧倒的な差に、精神的ダメージを負いながら英理ちゃん先輩を探す……。


 あれ?


 いつもなら、よく分からないピザを美味しそうに頬張っている時間なのだが……まだ寝てるのかな?


 手早く朝食を済ませて、部室へと向かった。


「おはようございます?……いないか」


 部室のハンモックもリングにも誰も居なかった。


「……あとは部屋?」


 英理ちゃん先輩の住んでいる部屋は、女子寮の三階の角部屋で、女子寮の中で1番広い部屋だ。


 1度も足を踏み入れたことの無い、淑女達の秘密の花園……。


 おもわず喉が鳴る。


「英理ちゃん先輩が来ないと特訓も出来ないし……」


 そう自分に言い聞かせながら、英理ちゃん先輩の部屋の前までやって来た。


「おはようございます、英理ちゃん先輩?寝てますか?」


 高級感たっぷりの木の扉を軽くノックする。


「うぇ?あっ!おい、英理!もう朝だぞ!?起きろ!」


 ん?中から慌ただしい女性の声が聞こえてきた。


「ふぁ〜もぉ〜遙ちゃ〜ん、もう少し寝かせてよぉ〜」


「いやいや、ほら、川田ちゃんが迎えに来たよ?」


 遙ちゃん……衛原先輩と英理ちゃん先輩の声……、そうか2人はルームメイトだったのか!


「すみませーん、衛原先輩!開けて貰えますか?」


 愚図ってる時の英理ちゃん先輩は、力任せに強制的に連行するのが正解だ。


「え?あっ、ちょっと待って!英理はアタシが必ず連れてくから、川田ちゃんは先に部室で待ってて!」


「ん〜、ねぇ?わたしの着替えどこぉ〜?昨日遙ちゃんが……」


「わーわー!!英理は黙って部活の準備して!!」


 何だか騒がしいけど、衛原先輩が連れて来てくれるなら大丈夫かな……。


 一抹の不安を感じながらも、私は再び部室へと踵を返した。


「あの二人、昨日何かしてたのかな?」


 心のどこかで小さな憤りを感じながら、1階の玄関ロビーで靴を履き替える。


「上等だよ!かかって来やがれ!皐月流拳闘術!免許皆伝!皐月牙芽!参る!!」


 何処かで聞き覚えのある、デジャブの様な怒鳴り声が響いた。


「全く、朝っぱらから騒がしいですわね?淑女らしからぬ粗暴な発言はお控えなさい!?」


 この前小川先輩に一撃でのされてた子が、今度はまた面倒な人に喧嘩を売っていた。


 あのちびっ子が対峙している人は、格闘将棋部部長、波入由華なみいりゆか先輩だ。


 部の序列は下位だが、この部長さんだけは個人の序列は50位以内を2年間キープしている猛者である。


 格闘将棋とは波入先輩が独学で考え創設した部活で、基本的には武器を使用して戦うスタイルらしい……。


 私も実戦を目の当たりにするのは今日が初めてだった。


「格闘将棋だぁ?何だそりゃ?そんな訳わかんねぇ格闘技なんざ、一撃でゲロぶちまけろ!」


 この前一撃で吐かされていた奴が随分と偉そうに……。


「まぁ、本当に品性下劣ですわね?わたくしの格闘将棋を馬鹿にしたツケは高くつきましてよ?」


 波入先輩が軽く手を叩くと、彼女の取り巻き?っぽい人達が8種類の武器を波入先輩の足元に置いた。


「……貴女程度の未熟者相手なら、歩兵で充分ですわね?」


 そう言って波入先輩は刃渡り70cm位の木刀を持ち、剣道で言う所の中段の構えをとる。


「へっ、木刀くらいでボクをやれっと思ってんのかよぉぉ!!くそがぁ!」


 叫びながら牙芽ちゃんはこの前同様に結構な距離を取った。見かけ通りのボクっ娘なのは点数高めだね。


「喰らいやがれ!ゴッドバードあだっ!?」


 何やら技名を言おうとした所で、天井に後頭部を強かぶつけて、その場に墜落してしまった。


「……」


「う〜ん……」


 全くの無防備で後頭部を打ち付けたらしく、牙芽ちゃんは気を失っていた。


「はぁ、何だかわかりませんがわたくしの勝ちですわね?」


 波入先輩は呆れた表情で勝ち名乗りを上げて、木刀を床に置いた。


「全く、威勢だけではわたくしには勝てませんわよ?」


 確かに、あの人間離れした身体能力は認めるけど……格闘技で戦うには多少頭も働かせないと厳しいと思う。


「しかも、拳闘術……つまりボクシング程度では相手にもなりませんわね?」


 「え?」


 波入先輩は勝ち気な笑みで此方を見ていた。


「貴女、英理さんの所の川田さんですわね?」


「え?そうですけど、何か用ですか?」


 先程の発言に多少ムカついたのか、私の口調は少し荒くなっていた。


「別に……用って程では御座いませんわ、ただ……英理さんはどうやってあの立派な部室を手に入れたのかしら?」


 ……どうやらこの人は英理ちゃん先輩の事が気に入らないらしい。


「どうやってと言われても、大会で実績を残したからじゃないですか?常識的に考えて……」


「そうですわね?常識的に考えれば、それで合ってますわね?」


「他になにかあります?」


 まずい、波入先輩の態度に明らかに私の精神が揺さぶられている。


「確か、英理さんの戦績はボクシング全国大会で準優勝でしたわね?」


「そうですが、格闘将棋は大会とか無いんですか?」


 聞こえ方によっては、相手をかなり馬鹿にしている言い方になってしまった。


「こ、これから普及させて行きますわ!それよりも、全国大会に優勝している部ですら、あんなに設備が整った立派な部室を貰えるのはほんのひと握りの部活だけですわよ?」


「……」


 確かに言われてみると、うちの部室はかなり設備が良い、空調や無料の自販機、本格的なリングにトレーニングジム並のトレーニング機具、現在2人で使っているのが勿体ないと思えるくらいの部室だった。


「何故、ボクシング部にあの設備が与えられたのか?貴女ご存知ですの?」


「いえ、私は知りませんが……波入先輩は知ってるんですか?」


「えぇ、簡単な事ですわ!当校の執行部がロリコンばかりと言う事ですわね?おぉーッホッホッホー!!」


「……失礼しますね?」


 私は何がそんなに楽しいのか解らないが、ずっと笑い続けてる波入先輩を放って置いて、牙芽ちゃんを医務室へ運んだ。


 医務室の先生の話だと、あの子今回で10回目の搬送らしい……血気盛んなのは良いけど、もう少し相手を見て喧嘩売らないと……いつか取り返しがつかなくなるよ。


 未来ある若人の事を心配しつつ、部室へと辿り着いた。


「もぅ〜川田ちゃんおそいわぁ〜」


 部室に入るや否や、お怒りのご様子の英理ちゃん先輩に迎えられた。


「いや、遅いって……寝坊したのは英理ちゃん先輩じゃないですか?」


「えぇ〜?まぁそうだけどぉ〜とにかく時間が無いわぁ、今日は遙ちゃんをやっつける作戦を教えるわぁ」


「……良いんですか?英理ちゃん先輩は衛原先輩と随分仲がいいみたいですけど?」


 今朝の二人のやり取りを思い出して、少しイライラしてしまった。


「え?確かにお友達だけどぉ〜、それとこれとはぁべつだと思うわぁ〜?」


 ぐっ、珍しく正論を言われた。


 私も一晩中英理ちゃん先輩を可愛がってあげたい……。


「あの、今晩二人で大人の階段登りませんか?衛原先輩なんかより、もっともーっと気持ちよく出来ると思いますよ!」


「へ?遙ちゃんより?あの〜川田ちゃん?少し落ち着きなさい?」


 私は冷静だ!っと怒鳴りたくなるのを必死に堪える。


「何かぁ〜勘違いしてるぅ〜?遙ちゃんとは昨日ぅ〜一晩中ゲームで遊んでただけなのよぉ?恐竜を捕まえてぇ〜冒険するやつよぉ」


 ゲーム……?いや、わたしがしたいのはゲームなんかでは無い。


「でも、今朝、服がどうとか言ってましたよね?」


「ん〜?あぁ、それはぁ〜遙ちゃんが昨日私の服をお洗濯してくれた後〜どこに片付けたのか聞いただけよぉ〜」


 ぐぬぬ、つまり何も無かったと言う事か……ならば良し!


「そうでしたか!では特訓をお願いします!」


 私と英理ちゃん先輩はリングへ上がった。


「あの、英理ちゃん先輩?」


「どうしたの?」


「あの、昨日英理ちゃん先輩達がゲームで遊んでいる時、私は自室でイメージトレーニングをしていたのですが、どうやってもパンチを当てる場面がイメージ出来なかったんですが……確かに私の拳は凶器だと言えますが、当たらなければ意味が無いと思います」


 矢継ぎ早に不安な胸の内を正直に言った。


「そう……確かに遙ちゃんの永源流柔術は対打撃格闘技も高いレベルで対応すると思う」


 英理ちゃん先輩の雰囲気が変わった、かなり真面目な話しをする時だけ、いつものダラけた口調が封印される。


「でも相手の決め手はあくまでも柔術、関節や絞め、投げ技の類いになる、コンクリートを粉砕する全力のストレートは当たらないかも知れない、でもね?人間の骨を折るジャブだったら当てられるとは思わない?」


「骨を折るジャブ……ですか?」


 ジャブはストレートに比べると各段に威力が劣るパンチ、その分見て躱すのはほぼ不可能……。


「滋くんだったら全く通用しなかったジャブだけど、遙ちゃんなら骨を折れるかは分からないけど、当てた所は全てダメージが通る!」


 英理ちゃん先輩の説明を聞いて、驚愕せずにはいられなかった。


 ジャブは当たることが前提となるパンチ、しかしその1発1発が全て大ダメージ必須……つまり……。


「あれ?私って無敵じゃないですか?」


「う〜ん、確かにぃ〜ボクシングのルールだったらぁ〜同じ階級ならぁ、敵は居ないかも知れないわねぇ〜?」


 何やら引っかかるもの言い……。


「衛原先輩が相手だと、どうなるんですか?」


「う〜ん、わからないわぁ、もしかしたらぁ〜楽勝かも知れないしぃ、でもぉ〜明ちゃんが滋くんにあそこ迄善戦出来ちゃったしねぇ〜?遙ちゃんも底が見えないからぁ〜油断は出来ないわよぉ〜?」


 ふむふむ成程、全く解らん。


「あの、今日の特訓は何をするんですか?」


 考えてもわからないから、身体で覚えるしかない!


「今日は私とぉ〜、条件付きのスパーリングよぉ〜?」


「私はジャブのみとかですか?英理ちゃん先輩は回避のみとか?」


「……うぅ〜」


 なんか、偶然にも正解してしまったらしい。


「さぁ!全力で来なさぁい!1回当てる迄帰れないわよぉ〜」


 他流試合まであと22時間!

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