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遼華VS牙芽

オッズ100対0の試合が始まった。

 参加者が激減したトーナメント、注目の準々決勝が始まった。


 ゴングと同時に仕掛けるのは牙芽ちゃんだ。


 牙芽ちゃんはお得意の跳躍によって、3m以上の高さにある天井に着地?をした。


 そしてあの人間離れした跳躍力により生み出された、加速力は牙芽ちゃんを1発の弾丸へと変える……。


 弾丸となった牙芽ちゃんは、更にお得意の右ストレートを放った……。


「うぐぁ……あ……」


 無念、弾丸は大砲によって撃ち落とされてしまった。


 八極拳と言う超が付く程の実戦格闘技、その中でも最も威力のある技、それが肘打ちである。


 そして遼華はその一撃必殺とも取れる肘打ち、それをカウンターにて見舞った。


 当然牙芽ちゃんは避ける事も防御する事も叶わず、その無慈悲なる一撃を腹部に貰ってしまい勝負あり……時間にして10秒とかからなかった。


「いやぁ、悪い!あんまり腹が無防備だったからつい本気で叩き込んじゃったよ、生きてるかー?」


 無防備だったから本気で打ち込むとか、格闘技馬鹿の思考回路は私の理解のはるか外にある様だ。


「うぅ……」


 牙芽ちゃんは何とか立ち上がるが、お腹を押えて苦しそうに唸っている。


「あ、牙芽ちゃん、はいこれ」


 リングを再び汚されてはかなわないので、すかさずバケツを手渡し背中をさすってあげた。


「うぅ!うぇえぇぇ……」


 涙目になりながら豪快に嘔吐する牙芽ちゃん……すっかり嘔吐キャラが定着しちゃってるけど、今回は相手が悪すぎただけ、諦めないでこれからも萌高で頑張って欲しいな。


「えぇ〜とぉ〜、次は川田ちゃんと慳皮さんの試合よねぇ?」


 遼華と牙芽ちゃんがリングを降りるのと同時に、英理ちゃん先輩が眠そうな顔でリングに上がってきた。


 これはまさか……暗に眠たい試合ばかりするなと言う私への叱咤激励なのでは?


「あ、そうですね、それじゃあ英理ちゃん先輩にレフリングをお願いしますね?」


「はぁ〜い、川田ちゃん?私のジャッジは厳しいからぁ、覚悟しててねぇ?」


 ……人手不足ここに極まりか……顧問の先生に頼みたいけど、ナイスカットだのナイスバルクだのサイドチェストぉー!!だの煩いからなぁー。


「悪いですけど川田先輩、瞬殺させて貰いますからそのつもりで……」


 慳皮さんそう言ってリング中央で構える。


 最近の若い子は過激たなぁ、瞬殺って……まさか本気で私に勝つつもりなの?


 身長体重、リーチに胸囲に至るまで私とほぼ同サイズ……胸囲に関しては私の方が少し上かぁ……。


「う〜ん、瞬殺かどうかは分からないけど、勝つのは私だからね?」


 何となく対応してみようと頑張ったけど、私は舌戦とかあんまり得意じゃ無かった……。


「それじゃあ、女子ボクシング部部長のぉ〜川田ちゃんとぉ、合気道のぉ〜慳皮愛さんのぉ〜試合を始めまぁ〜す」


 合気道?え?護身術?と言うか実戦とか出来るの?


「……」


 私はガードを上げて距離をとる。


 合気道の間合い……恐らくこちらの動きに合わせて投げか関節技を仕掛けてくるのか?


「どうしました?相手が合気道だと怖くて攻撃出来ませんか?」


 やっぱり、挑発行為はこちらから仕掛けさせるのが目的か……。


 こちらから仕掛けなければ何も出来ないは……ず!?


 私の考えがまとまる前に、慳皮さんは次なる行動を開始していた。


「来ないなら、こちらから行きますよ?」


「うっ!?」


 慳皮さんは軽快なフットワークで距離を詰めて来た。


「合気道は殴って来ない、とでも思いましたか?」


 慳皮さんの右の手刀が私の首筋にめがけて振り下ろされる。


「うぁ!」


 反射的に出た左のジャブが慳皮さんの頬に当たり、結構可愛らしい声で呻いた。


 拳が頬に触れた瞬間、慳皮さんはすぐに後退して距離をとった。


 無表情の慳皮さんの口から血が流れる。


「威力はかなり殺せたと思ったのですが……拳の硬さが尋常じゃありませんね?鉄の球を投げつけられたかと思いました……まさか貴女も……」


「試合中にお喋りなんて、余裕だね?」


 間髪を容れずに距離を詰めて、左ジャブを連打。


「くっ……ガードは……駄目だ」


 慳皮さんはガードをする素振りを一瞬見せたが、すぐにやめて距離をとろうと後退する。


 流石に強い、私の攻撃を1度受けただけでその破壊力、危険性を把握した。


 でもね……。


「ここはロープに囲まれたリング上、逃げ場なんて無いよ?」


 ジャブを打ちながら慳皮さんの動きを制限していく。


「くっ、流石にリング上でだけは、良い動きしますね?」


 おのれ……先輩を先輩だと思わないその態度は、鉄拳制裁で改めさせないといけないみたいだね?


 1分もしないうちに慳皮さんはコーナーに追い詰められた。


 これがボクサーと他の格闘家との、埋めようのない決定的な差なのだ。


 格闘技としては不完全だと言う専門家もいる一方で、この四角いジャングルと言うフィールドにおいてのみ、ボクサーは世界最強だと言う声も少なくない。


「さて、愛ちゃんだったね?ギブアップしますか?」


 後輩相手にここまで調子に乗れる先輩も珍しいだろう、でもそれは仕方ない事……私は勝利を渇望している……。


 たとえ相手が入学したての新入生であろうとも、真剣勝負で向かって来るのであれば、それは倒すべき敵であり、勝利という名の美酒を捧げてくれる杯だと言う事。


「川田ちゃん……」


「川田さん」


「川田……お前……」


知り合い3人の軽蔑の眼差しは取り敢えず無視……。


「ギブアップ……するのは川田先輩でしょ?」


 はぁ?


「はぁ?」


 思わず思った言葉がそのまま出て来てしまった。


「合気道を相手にこの今の状況は、追い詰めたとは言えませんよ?」


「そう、なの?」


 この子……本当に可哀想な子だったんだ……サイコっぽく振る舞ってるだけだと思ってたけど、本物かぁ……。


「私の本気のストレートは、コンクリートの柱を打ち抜けるよ?」


 取り敢えず注意喚起しておく、無防備で私のストレートを受ければ最悪この萌高始まって以来の死人を出してしまうかも知れない……。


「……はぁ、それで?」


 この子、本気で合気道には攻撃は効かないと思い込んでるの?


「……それじゃあ、本気で行くから……しっかり受けてよ?」


 そう言って私は右拳を固く握り、大きく振りかぶる。


 こんな大振りでなくてもストレートは普通に打てるし、威力は変わらないけど、敢えて避けやすい様に大振りにした。


「……」


 そんな私の思いなど無視して、あろう事か慳皮さんは目をつぶってしまった。


 どうする?外した方がいいかな?……あ、駄目だ、勢い付けすぎて軌道が変えられない……。


「よ、避けて……」


 私の願いも虚しく、拳は慳皮さんの顔へと吸い込まれ

るように打ち込まれた。


 そして……。


「うぶぅほぉっ!?」


 目の前が真っ白になった。


「………………」


「…………」


「……」


「川田ちゃん!?」


 少し離れたところから英理ちゃん先輩の声が聞こえてくる。


「か、川田さん!!」


 明……。


 後頭部が冷たい……。


「動かさないで!早く医者を呼んで!!」


 何だか慌ただしい雰囲気を感じる……。


 英理ちゃん先輩の口調がまともだ……もしかして、本当に何かおきたのか?


 こーしちゃいられない、私も英理ちゃん先輩のお手伝いを……。


 何故か体が動かなかった。


「うぅ……」


 先程まで冷たかった後頭部が、段々熱くなっていくのが分かった。そして視界が朧気ながら見えて来た。


「い、痛い……」


 後頭部に今まで感じたことの無いほどの痛みを感じる。


「川田!」


「川田さん!!」


「川田ちゃん!!」


 明は号泣していた、英理ちゃん先輩と遼華の表情は強ばっている。


 あ、ヤバい、なんか来た……これ、駄目なやつかも……。


 今度は目の前が真っ暗になり、意識が遠のいて行った。


 廃部確定まで、あと25日!

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