女子ボクシング部トーナメント開催!
部員を集める為のトーナメントが遂に幕を開ける
!
参加者32名全員がクジを引き終わり、トーナメントの組み合わせが確定した。
私の試合は当分先、注目すべきは牙芽ちゃんと遼華の試合と明と英理ちゃん先輩の試合かな、ジャージっ子の相手は無名の新入生……。
「英理ちゃん先輩、順調に勝ち上がれば準決勝であの子と当たりますね?」
「そうねぇ」
英理ちゃん先輩の態度が素っ気ない、試合に集中したいという事だろうか?
私のグループは恐らく遼華が勝ち上がる、あの一撃必殺の八極拳と言う拳法は最も相手との距離が近いスタイル、打ち合いは必至だと思われる……。
思わず拳を固く握る。
この凶器のような拳を……遼華に打ち込む……。
「川田ちゃん?ほら、1回戦を初めてねぇ?」
とりあえず私の身体が動くうちは私が審判をする。
「えーと、1回戦!柔道の鈴木さんと空手の佐藤さんの試合を始めます!」
ルールはフリーファイト、目付きと噛み付き以外の全てを認める萌高公式ルールである。
小気味の良いゴングの音が響くと同時に、鈴木さんと佐藤さんはお互いの距離を離す。
両方とも中学時代は全国大会の常連だったらしい、鈴木さんは柔道部、佐藤さんは第2空手部への入部が決まっているがもし私か英理ちゃん先輩に敗れた場合、女子ボクシング部へ入部する事には了承している。
「……ふふふ」
そう、私か英理ちゃん先輩に負けた人が女子ボクシング部へ入部するルールへとこっそり変更しているのだ。
つまり、最高8人も部員を増やす事も可能と言うこと……我ながら上手いことを考えたものだ。
「くふふ……」
どう考えても3人入部させる位は余裕なはず、1ヶ月間限定という条件だけど、とりあえず部が存続できるわけだから問題は無い。
「それにしても……」
リング中央で戦う2人、その動きは新入生とはとても思えない程の、確かな技術と充実した気迫で満ちている。
私が新入生だった時、ここまでやれていただろうか?
複雑な思いで試合を見届ける。
「はぁっ!!」
佐藤の右正拳突きが鈴木の顔面を捉えた!
「甘いよ!」
正拳突きをモロに受けた鈴木だったが、少しよろめきながらも佐藤の右腕をしっかりと掴んでいた。
「それまで!!」
「うぐぅ!!」
まずいと思って試合を止めたが時すでに遅し、鈴木の脇固めにより、佐藤の右肘は真逆に折れ曲がっていしまっていた。
「ぐぐぅ……」
「英理ちゃん先輩!」
「はいはぁい〜」
英理ちゃん先輩が面倒くさそうに佐藤を連れて部室を後にした。
この子、全く躊躇することなく折に行った……。
「あの、私の勝ちで良いんですよね?」
「……勝者!鈴木さん!」
最近の若者は末恐ろしい……果たして私に今みたいな真似が出来るのか?ボクサーだから関節技は無いけど、私の本気の拳はコンクリートの柱を砕く程の威力……。
「えーと、2回戦は……英理ちゃん先輩と上打さんの試合ですが、英理ちゃん先輩が戻ってくるまでに次の試合を始めてしまいましょう」
「川田さん!!」
明の怒鳴り声がする。
「なに?」
心底面倒くさそうに応える。
「私の事は明と呼んで貰えますか!!」
「……はいはい上打さんの試合は次になるのでちょっと待っていてね?」
「ぐぬぬ」
適当にあしらうと、明は悔しそうに睨んできた。
明の相手をしていると朝になってしまう、ここは無視するのが適当だ。
「第2試合、ボクシングの琉生さんと空手道の琉球さんの試合を始めます!」
ボクシングの琉生さんはキックボクシング部へ、琉球さんは第2空手部への入部が決まっているが以下略。
ゴング係の英理ちゃん先輩が居ないので自分で鳴らす。
「うぅっ!?」
開始と同時に動いたのは琉生さんだ、目で追うのがやっとと言うくらいの高速の左ジャブ、しかもそのジャブのバリエーションは様々でボクシングの技術だけ見れば、私や英理ちゃん先輩にも匹敵する。
「くっ、ちまちまと……」
防御に徹する琉球さんにダメージはさほど無いようだが、反撃に出る隙が見当たらない。
3分2ラウンドの短時間での試合、ポイントは完全に琉生さんがリードしている。
「三分経過!そこまで!2人ともコーナーに下がって!」
このラウンドは琉生さんがリード、琉球さんは伝統派空手……小川先輩の中学時代の後輩らしいけど、これは勝負あったかな?
ボクシングが伝統派空手に勝つという構図、対小川先輩の参考になるかも知れないと一瞬思ったが、3分2ラウンド制の他流試合は前例が無いから、本当に参考程度にしかならないか……。
「では、第2ラウンドはじめぇ!!」
展開は先程と同じくゴングと同時に琉球さんが動く、先程のラウンドの再現の如く多種多彩なジャブで琉球さんの動きを封じている。
「伝統派空手、所詮演舞だけの見せかけって事かい?」
琉生さんが呟いた。
この子、小川先輩と明の試合は見なかったのかな?
等と思っていた矢先、琉球さんのガードが崩される。
「へっ!判定負けを期待するなよ?公衆の面前で失神KOして貰うよ!」
ぐっ……その言葉は私にも刺さり過ぎるからやめて欲しい……。
琉生さんの勢いの乗ったこの試合初めて見せる右ストレートが、琉球さんの顔面に向かって放たれる!!
「失神KOするのは……貴女の方ですよ!!」
琉生さんの右ストレートに対して、琉球さんはその場で左足を軸にを勢いよく身体を回転させてローリングソバットの様な蹴りをカウンター気味に放った。
「うげっ!?……うぅげぇぇぇ……」
琉球さんの後ろ回し蹴りが腹部に突き刺さった琉生さんは、その場で蹲り嘔吐してしまった。
カウンターの後ろ回し蹴り……見た目は地味だが、かなりの高等技術である事は容易に理解出来た。
恐らく琉球さんはわざとガードを崩して、琉生さんの攻撃を誘ったのだ、一撃で試合を決定付ける程の威力を持ったカウンターを決める為に……。
やはり、伝統派空手は一筋縄では行かない……か。
「勝者!琉球さん!!」
その場にいた新入生達がしんと静かになる、無理もない事だけど……彼女達の考えている事が手に取る様に分かってしまう。
このリング……誰があと片付けするのかな?
「……えーと、次の試合を」
取り敢えず気付かないふりをして話を進めてみる。
「おい川田!?その前にリング上を掃除してくれ」
直ぐにちゃちゃが入る。
くっ、おのれ遼華め……。
私は覚悟を決めて琉生さんを備え付けのベッドに寝かすと、数十人の新入生達が見ている前で、後輩の戻した吐瀉物を掃除すると言うドMならばご褒美物の羞恥プレイを敢行した。
「……えーとぉ、英理ちゃん先輩が戻って来たので、3回戦を始めたいと思います」
「とうとう来ましたか、川田さんを独り占めにしているあの憎き女狐を討伐出来る日がっっ!!」
「え〜?滋くん程度に負けるようなぁ〜弱っちい子はぁ〜5秒で眠らせてあげるからぁ〜よろしくねぇ〜」
2人とも気合いは十分だった。
「明、本当にやるの?片腕で英理ちゃん先輩に勝てるとは、到底思えないんだけど?」
これでもルームメイトなので、一応心配はしてあげた。
「川田さん、心配は無用です……私と川田さんの愛があればそこに敵は存在しません!……それに、永源流は勝ち目の無い戦いは固く禁止されてますから」
相当な自信の明だけど、今回は相手が悪すぎる……英理ちゃん先輩からすれば、小川先輩ですら小物扱い……まぁ、実際に英理ちゃん先輩と小川先輩の試合を見たこと無いけど……。
「危ないと思ったら、すぐに試合を止めるからね?」
また汚物の掃除をさせられては堪らない……。
「それでは柔術部の上打とボクシングの瑞穂英理の試合を始めたいと思います!!」
廃部確定まで、あと25日