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これからやる事

敗北者川田と女子ボクシング部に明日はあるのか!?

 他流試合の熱もすっかりと冷めた部室に、英理ちゃん先輩と私だけが残ってあと片付けをする。


 英理ちゃん先輩はハンモックに横になりながら、漫画を読んでいる。


 最近ハマっている漫画で、なんでも極道者がアイドルになるギャグ漫画、と言うかなり奇抜な設定の漫画らしい……。


「英理ちゃん先輩も手伝って下さいよー?」


 精神的にノックアウト寸前の後輩に、片付けの全てをやらせる鬼の様な先輩……それこそが鬼先である。


「川田ちゃ〜ん?何か変な事〜、思ってないわよねぇ〜?」


「いえいえ、滅相も無いですって!それよりもこれからどうしましょうか?」


 来週また他流試合をやると言う考えもあるけど、私の身体と精神がもつのか分からない……また無様な負けを晒したら……。


「あの、英理ちゃん先輩?」


「だぁめ、他流試合なら川田ちゃんが出なくちゃ意味が無いんだってばぁ〜」


 うぅ、完全に見透かされている……。


「そうは言いますが、他流試合でまた負けを喫してしまったら……その後も、その後も……そんなんじゃすぐに5月になっちゃいますよ!」


 ネガティブな思考に囚われた今の私は、まるで人間ブラックホールだぁ!


 全ての光を呑み込んで悪い方向へと思考を導く。


「う〜ん、そうねぇ〜確かにぃ〜、あんまり弱い部と試合してもぉ宣伝効果は低いと思うわねぇ〜?」


「相手がぁ〜、あの遙ちゃんだったからぁ、仕方ないとも言えるけどぉ〜、やっぱりあの負け方は他の部に対してもぉ印象は最悪だったわぁ、学園の執行部の人達からお手紙届いたわぁ」


 そう言うと、英理ちゃん先輩は紙飛行機を1つ飛ばした。


「……お手紙ですか?」


 嫌な予感のする中、その不幸の手紙にも見えるそいつを広げる。


「……」


 何やら難しい言葉が羅列しているが、要するに暫くは女子ボクシング部よりも序列が上の部との他流試合を禁止すると言う内容だった。


「うちの部って序列幾つですか?」


「え〜とぉ〜、去年の学園祭では川田ちゃんが剣道部にボコボコにされちゃってぇ〜、ランキングは大幅に下がってぇ……102位……」


 うぅ……嫌な思い出が蘇る……英理ちゃん先輩が勝手に棄権した為に1人で学園祭武闘会に参戦する事になって、1回戦で当時優勝候補だった剣道部戦……。


「しかもあの後、剣道部も小川先輩1人に五人抜きされた所為で、女子ボクシング部の序列は下がりに下がったんでしたね?」


「ちなみにぃ〜、うちより序列が下の部はぁ……えぇ〜とぉ……」


「格闘将棋部と格闘奇術部だけですよ?」


 部長の実力はどちらも相当なものだが、部活動としての実績が無いのが理由。


「う〜ん、他流試合の他に何か方法はありませんかね?」


 正直言って、純蓮や波入先輩と試合と言うのは……あまりいい選択とは言えないかも、特殊な部活だしどちらも武器で戦う格闘術と言うのもやりにくい……。


「まぁ、そんな部相手にぃ、川田ちゃんが負けちゃったらぁ〜廃部確定?」


 ぐっ……否定出来ないし、武器を持った達人相手に素手で勝つ自信は……あんまり無い。


「もう一回……もう一回衛原先輩と試合すれば、勝てるかも知れません」


「う〜ん、それはそうかも知れないけどぉ〜遙ちゃんもぉ〜、前と同じ事はして来ないと思うわぁ、もっと意地悪な事をして来るかも知れないしぃ〜」


 ぐぬぬぅ、否定の余地は皆無だった。


 衛原先輩の永源流は未だにそこが見えない、相当の準備をして挑まないとさっきの二の前になるのは分かりきっている。


「そういえばぁ」


 英理ちゃん先輩が漫画を閉じて体を起こす。


「川田ちゃんはどうして女子ボクシング部に入ったのかしらぁ?」


「え?私が入部した理由ですか?」


 そんなものは言うまでもなく……。


「英理ちゃん先輩の試合を見て心打たれたから、ですかね?」


「……そ、そう?」


 自分から質問しておいて、気恥しかそうに再び横になって漫画本を覗き込んでしまった。


「可愛い、押し倒し……たい……」


 自らの欲望を包み隠さずさらけ出そうとしたその瞬間、私の脳裏に1つアイデアが舞い降りて来た。


「英理ちゃん先輩との1日添い寝券を餌に部員を集めましょう!英理ちゃん先輩はそこで寝てるだけで良いので、どうでしょうか?」


 我ながら素晴らしいナイスアイデアだと思った。


 勿論1番最初は私が頂きます。


「……」


 私のナイスな提案を聞いたとたん、英理ちゃん先輩の表情が今まで見た事も無い様な、ひどく冷徹なものへと変化していく。


「川田ちゃん?面白い事言うのねぇ?うふふ〜」


 穏やかな言葉遣いとは裏腹に英理ちゃん先輩の全身から、どす黒いオーラの様なものが見えたのようか気がしたけど、多分気の所為だと思う。


「じょ、冗談です!あの、しょ……賞品とか出して対戦者を募集してですね……」


「川田ちゃんの添い寝券とかぁ?」


「うぐぅ?……いや、それはちょっと、賞品としての魅力に欠けるかと……」


 自分で言うと悲しくなっちゃうけど、英理ちゃん先輩や明なんかと違って、私には女としての魅力は無いと思う……。


 思わず胸か胸板か分かりにくい胸部に手を当てる。


「う〜ん、川田ちゃんはもっと自分に自信を持った方がいいわねぇ〜?」


「はぁ……それは置いておいて、豪華賞品で対戦相手を募集して私達に負けたら入部して貰う!と言うのはどうでしょうか?」


「そう言うと思ってぇ〜、これを用意したわぁ〜」


 英理ちゃん先輩は枕の下から一枚のチラシを取り出した。


「何ですか一体?」


 チラシを受け取る。


「えーとぉ……挑戦者求む!!当部活のメンバーとボクシングで対戦して、勝つ事が出来た者には!執行部公認、序列上位の部同士の他流試合の審判をやれる権利!をプレゼント!!尚、負けた場合は最低1ヶ月間、女子ボクシングへの入部して頂きます……て……?」


 かわいらしい丸文字で直筆で書かれたチラシ、その内容に驚愕する。


「あの、英理ちゃん先輩?この賞品……」


「え〜?賞品?」


「序列上位同士の他流試合の審判、これマジですか?」


 序列上位同士の他流試合、その審判は通常萌高の執行部の推薦によって決められるものだ。


「う〜ん、次のぉ〜柔術部とぉ第1空手部の試合の審判をねぇ、頼まれたからぁ〜その権利を賞品にしようかな〜ってぇ」


 部の序列11位の柔術部と7位の第1空手部の試合……あの小川先輩より強いと言われる部長、洒長優輝(さながゆき)先輩と私が完敗した衛原先輩の試合……。


「私もエントリーして良いですか?」


「川田ちゃんは駄目よぉ〜?」


 速攻で一蹴された。


「でも、確かにこの賞品だったら人も集まるかも知れない……」


「そうでしょう〜?うふふぅ〜」


 英理ちゃん先輩も嬉しそうだ。


「それじゃあ今からチラシを寮の掲示板に貼ってきます!」


「いってらっしゃ〜い?」


 英理ちゃん先輩に軽く見送られて部室を飛び出した。


「ざっけんなよ!!」


 扉を開けた瞬間、妙に聞き覚えのある声が部室棟に響き渡る。


「牙芽ちゃんか……相手は誰だ……ろ!?」


 キャンキャン騒ぐ牙芽ちゃんと対峙していたのは、さっき英理ちゃん先輩と互角に渡り合っていたジャージっ子だった。


「もう一度言いましょうか?貴女では瑞穂英理や川田先輩には到底勝てません、勿論……私にも」


 うわぁ〜牙芽ちゃん、今度は私や英理ちゃん先輩に挑もうと思ったんだ……。


「うっるせぃ!!」


 牙芽ちゃんは名乗りも忘れて得意のジャンプを繰り出した。


 前の様に廊下に頭を打つかと思ったが、牙芽ちゃんは天井に両足を着いて思い切り蹴る。


 蹴りの反動で加速をつけた牙芽ちゃんは、上空から拳を振り下ろす。


 恐らくボクサーのジャージっ子は、こんな打撃を受けたことは無いだろう、どう捌く?


「……面白い事しますね?猿ですか貴女は?」


 余裕の表情……かどうかは無表情なので分からないけど、ジャージっ子に焦りの様子は微塵もなさそうだ。


「死ねぇー!!」


「……」


 加速がついた牙芽ちゃんの拳、打たれなれていない頭頂部への打撃、回避するには不便な狭い廊下……ジャージっ子にとってはあまり良い状況では無かった。


「うぐぁっ!?」


 ボクシングの教科書と言っても過言ではない、物凄く綺麗なクロスカウンター……。


「頭突き?」


 お互いの拳は空を切り、牙芽ちゃんの額とジャージっ子の額が衝突事故を起こした。


「……」


 牙芽ちゃんは気絶している。


「うぐ、石頭……」


 ジャージっ子は額から流血して膝を付いている。


 恐らく対空のクロスカウンターなんて言う、常識外、想定外の高等技術を試みた結果、失敗による事故だった。


「牙芽ちゃん……大金星……かな?」


 皐月牙芽VSジャージっ子……引き分け……。


 私は2人を医務室へ運び、寮の掲示板にチラシを貼り成果を待つことにした。


「明日が楽しみ、私が負ける……とかは考えない様にしよう……」


 多少の不安もあるけど……廃部確定まで、あと26日!


更新時間がやや遅れてしまいました事、お詫び申し上げます。

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