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武道家の学園

 校庭の桜が満開になる頃、ここ、私立 メッ学園高等学校の第2体育館では、新たな戦士達が花開く。


「私が学園長の但馬豪一だ、この学園は力こそが全て!我を通すなら腕っぷしで通す!弱い者は強い者に従う……以上」


 学園長の祝辞?が終わると館内はざわついた。


「コレだよ、これこそが俺の求めていたものだ」


「綺麗な女子高生にボコボコにされたい……もしくは……ぐふふ」


「イケメンはどこ?どこにいるのよ?」


「目立たない様に生きていこう」


 覇権を狙うもの、何かを企むもの、様々な想いを胸に新入生は小さな1歩を踏み出したのだ。


 私も今年こそ頑張らないとね……。


 ここ、萌覇女弩学園高等学校、通称萌高は世間一般が考える高校とは全く違う性質を持つ、一般的な高校と最も大きな違いは授業というものが無く、学園生活の全ては部活動に費やされる。


 此処は国から特別な許可を得た武道の専門学校、卒業の際には高校の卒業資格は与えられない為、プロスポーツ選手やプロの武道家になれない場合、落ちぶれて中卒で社会に放り出される。


「おい川田?」


 高校の教員とは思えない程ゴツイがたいをした、女子ボクシング部の顧問、たつ先生がやる気無さげに呼び止めてきた。


「なんですか?」


 私もやる気無さげに返事をする。


 この男、女子ボクシング部の顧問ではあるがボディビル研究会の顧問と兼任しており、見た目通りボディビル研究会にばかり力を入れている。


「4月中に部員が5人を超えなかったら、規則により廃部だ、その時はボディビル研究会に部室を明け渡す事に決まったぞ?」


 新学期早々死の宣告をする顧問、本当にボディビルの事しか頭には無いらしい……。


「そうですか、わかりました!新入部員、集めてみせます!!」


 自らを鼓舞するように大声で応え、部室である第5武道場へ向かった。


 この広い学園には武道場が10箇所、体育館が三箇所、開校当初通常の授業を行っていたという校舎が3棟ある。


 武道場や体育館どころか、1棟に50箇所程の教室がある校舎の全てが、大小様々な部活によって使われている状態であり、もし今の武道場を追われると、元々ボディビル研究会が使っていた校門前が部室になってしまう。


 流石の私もそれだけは避けたい……やはりここは女子ボクシング部一丸となって部員集めに尽力せねばならない!


 私は勢いよく第5武道場の扉を開ける。


 そこには、何故か部室に設置してあるハンモックに横になりながらケータイを弄っている女性の姿があった。


「英理ちゃん先輩!ボクシング部創設以来最大の危機です!」


 元女子ボクシング部部長、瑞穂英理先輩……女子ボクシング部を現在の地位にまでのし上げた創設メンバーの一人、その実力は折り紙付きで、全国大会で準優勝を成し遂げた実績を持つが、他の創立メンバー達が次々と怪我を理由に自主退学して以来、やる気が無くなり1年で引退し、その年の新入部員である私が部長に任命されてしまった。


「規則でぇ〜部員数が少ないから出てけ!……とかかな?」


 殴りたい、このきれいな顔を思い切り殴りつけたい……。


「そ、そうなんですよ、英理ちゃん先輩も部員集めに協力して下さいよ?」


「え〜?」


 明らかに嫌そうな顔をする先輩、甘いですよ先輩?この1年間伊達に二人きりで部活動をしてきた訳ではありませんよ?


「部員が集まらないと、校門前でスパーリングしてもらう事になりますよ?冬は寒くて夏は暑いですよ?エアコン無いですよ?良いんですか?」


「むう……」


 頬を膨らませて私を睨む英理ちゃん先輩、正直可愛い……抱き締めたい、でも此処は心を鬼にしなくてはならない!!


「そんな顔しても駄目ですよ?英理ちゃん先輩に協力して貰えばすぐにでも部員なんて集まりますから!」


 そう、私の考えが正しければこの難関、英理ちゃん先輩の力があれば容易く片付いてしまうだろう。


 この学園の規則で、週に一回他の部活に他流試合を申し込む事が許されている、申し込まれた部活は余程の理由が無い場合、原則として受けなければならない決まりも存在する。


「先輩が校内の序列が圏外になってしまったのは、1年間他流試合やボクシング部の公式試合に出ていないからです、でも先輩の実力はスパーリングしている私が分かっていますから!」


 そこまで言ったところで、英理ちゃん先輩はハンモックからおりて小さく欠伸をした。


 こんな仕草ですら尊い……あぁ……。


「そぉれでぇ〜、どこか大きな部活とぉ〜他流試合なんかしてぇ〜名をあげようってことかぁ、川田ちゃんも川田ちゃんなりに考えたんだねぇ〜?」


 よしよしと、私の頭を撫でる英理ちゃん先輩、他に何か言いたそう……。


 英理ちゃん先輩が頭を撫でる時は決まって辛辣な事を言ってくる。


「部長の貴女が闘わないとぉ〜意味が無いと思うなぁ〜?私は引退したわけだしぃ〜部員を集めたいなら、部長の力を示さないとねぇ?」


 ぐぬぬぅ、正論すぎてぐうの音も出ない……。


「で、でも私なんかじゃ、他の部長に勝てっこないですよ……今だに英理ちゃん先輩相手にダウンの1つも取った事ないし……」


 たまにスパーリングはするが、まるで大人と子供状態、最近ようやくパンチが当たる様にはなって来たけど、ダウンは1回も取れていない。


「だぁいじょうぶよぉ〜川田ちゃんは確実に強くなっているわぁ、それに私が出るよりもぉ、絶対に効果あると思うなぁ〜」


「そうでしょうか?」


 正直英理ちゃん先輩の言っている意味が分からないが、恐らく自分が出たくないだけだと思う……。


「その代わりぃ、試合のセッティングはワタシがしてあげるねぇ?」


 そんなホンワカした英理ちゃん先輩は部室から出て行ってしまった。


 物凄く嫌な予感がしてきたのは言うまでもなかった。


「……な、なるべく弱めの部にして欲しいかも……」


 英理ちゃん先輩は見かけによらずSっ気がある気がする。


 不安と緊張で吐き気をもよおしながら待つこと30分、部室の扉が開かれた。


「お待たせぇ、話をつけてきたわよぉ?」


 緊張感の無い口調で現れて、おもむろにグローブを手に取り、部室の中央にあるリングに上がる先輩……。


「試合は三日後に決まったわぁ〜」


 英理ちゃん先輩が腕を軽くストレッチしながら言った。


 私もグローブを取りリングヘ上がる。


「そうですか、それで……相手は誰ですか?」


「第2空手部主将、3年の小川滋(しげる)くんだよぉ?」


 萌高に2つある空手部の一角、第1空手部にこそ負け続けているけど、その実力は全国2位、無冠の空手王と呼ばれる小川先輩が相手……うぅ、英理ちゃん先輩はなんという無茶な事を……。


「流石に今の川田ちゃんじゃあ、滋くんに勝つのは少し難しいからぁ〜、今から特訓するからねぇ?」


「と、特訓……ですか?」


 今さっき絶望していた筈の私の心は、英理ちゃん先輩の一言で一気に幸福感が支配していた。


 やっぱり私……この人の事……。


「宜しくお願いします!英理ちゃん先輩!!」




 第1話  武道家の学園  終

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