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6 九宝玉は、ヴァン・トゥルク君のファンです

聞き上手のイワン殿下に対して、褒め上手のヴァン・トゥルク。九宝玉の間で、高い人気を得ていました。

 帝国一円で、いや草原においてもベストセラーになった九宝館日記。そして、爆発的に売れた、イワン殿下の九宝玉の肖像画とキャラクターグッズ。

 イワンは、富豪と言うに相応しいだけの財を得た。

もう必要ないでしょう、と内廷費は減額どころか、支給停止となってしまったが、もう一向に構わない。

元々のアイデアを出したのは、九宝玉の最年少、シャオリン(小鈴)である。

 そして、販売したのは、九宝玉のひとり、トミ(富)の弟、独立して九宝屋を創設したシュンペイタ(俊平太)である。

だがもうひとり、これらの販売に際して大きな力を発揮した男がいる。

参政官見習ヴァン・トゥルクである。


 イワンから、シャオリン(小鈴)のアイデア、トミ(富)の希望を伝えられたヴァン・トゥルクは、九宝館を代表する窓口として、俊平太と、様々な折衝を行った。

 公式肖像画以外のプライベート肖像画の作成。九宝玉それぞれのキャラクターグッズの作成などは、ヴァン・トゥルクのアイデアであったし、九宝屋に対して、売上に伴う、イワン側の取り分を取り決めたのは、ヴァン・トゥルクだったのである。


 ヴァン・トゥルクは、帝国の官僚であるので、建前上は、官僚としての職務以外の私的業務を行うことはできない。

が、前例踏襲が常で、斬新な改革といった事業が滅多に行われることがない帝国政府。


・今の暮らしに何か不満があるのか。その不満はどうしても我慢できないことなのか。本当に何か新しいことを始める必要があるのか、今のままではだめなのか

・昨日と同じ、今日と明日

・明日できることは今日するな

・俺がやらなきゃ誰かがやる

がモットーとされる帝国の官僚は、忙しくはない。

大多数の官僚は、余った時間は趣味に使う。

が、副業と言えるようなことに時間を使う官僚も稀にいる。

その副業により、官僚は、おのれの倫理観に照らして、この程度の収入は得てもよいであろう、と判断した収入を得る。

これが現状なのであった。

なお、仕事は別に忙しくはない、というのは、特権階級、一般民、奴隷階級も含めた帝国民、草原の各部族も同様である。

経済的な競争というものは、ほとんど存在しなかったし、基本的な暮らしは日々変わることなく続いていく、それが可能なような社会的構造が出来上がっていた。一日五時間の労働。週三日の休み。一ヶ月以上の長期休暇が年三回。これがこの世界の平均的な労働時間なのであった。


 業者に便宜を図る、という行為もないわけではないが、重視されるのは、既得権。どの業界であっても現状の秩序を大きく乱す行為は、品のないこととされるので、あえて行う者は滅多にはいない。


 九宝玉関連商品の販売により、ヴァン・トゥルクが自らの収入としたのは、参政官見習としての俸給の二ヶ月分程度の額であった。

 ヴァン・トゥルクは、元々、九宝玉全員と親しかった。

いや、ヴァン・トゥルクは、もっと入り浸っているペーター、コンスタンチン以上に、九宝玉の間で人気が高い。

「聞き上手の殿下に対して、ヴァン・トゥルク様は、お褒め上手。一番言ってほしいことを的確に褒めてくださる」

そう、ヴァン・トゥルクは、既に九宝玉全員と、外でも会った経験を持っているのであった。


 が、今回の件、ことの経緯により、本件に関する、九宝玉側窓口的役割を努めるようになったトミ(富)、シャオリン(小鈴)のふたりとは、館の外で、特に頻繁に会うようになった。


 トミは、一般民の出身であるが、顔立ちという点では、九宝玉の中でも最も貴族的である。九宝玉は、今ではその代名詞となる形容を各々に付けられ、呼ばれるようになっているが、トミの形容は「高貴」である。

高貴、この帝国で最も高貴な方は、いうまでもなく、ヴァン・トゥルクが十四歳の時から憧れてやまないシモネッタ皇后陛下である。今、御年、三十一歳。トミと同い年。

シモネッタ様こそ最高の美女、ヴァン・トゥルクは、もちろん、そう思っている。高貴という形容は、シモネッタ様にこそ相応しい。が、シモネッタの美貌には、そこはかとない親しみやすさ、温かさといったものが感じられた。

が、トミは、黙っていれば、近寄りがたい、という印象を与える、そういうタイプの美貌なのであった。


 ヴァン・トゥルクの知る限り、この種のタイプの美貌、その際たるものは、お母君と一緒に暮らされているが、時々は九宝館に顔を出される、イワン殿下の同母妹、今、二十歳のナターシャ殿下であろう。

が、トミ様は、お話をされると、お顔立ちの印象とは異なり、くだけた部分も充分にお持ちということが分かる。その点は、ナターシャ殿下とは異なっている、ヴァン・トゥルクは、そのように感じていた。


 もうひとりのシャオリン(小鈴)。身分としては、奴隷階級のご出身。だが、帝国においては、奴隷階級というのは、帝国ホアキンの統一戦争の際、激しく抵抗し、英雄的戦いの結果、敗れた民族の子孫を意味する言葉であり、一般民との間に差別があるわけではない。いや、奴隷階級の人びとは、奴隷階級であることを寧ろ誇っている。

 シャオリン、代名詞となっている形容は「可憐」である。だが、もうひとつ密かに、いや、露骨にというべきか、有名な形容がある「巨乳」である。

シルヴィアが「豊麗」と合わせて「爆乳」と言われているが、そのシルヴィアに対抗できる曲線の保持者は、シャオリンのみであろう。

 そして、頻度多く会う中で、ヴァン・トゥルクは、一歳年上、九宝玉の中で自分に最も年齢が近いシャオリンと、九宝玉の中でも一歩進んだ関係になっていたのであった。

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