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2 イワン殿下と ヴァン・トゥルク、初対面です

イワン殿下と、その九人の愛妾、九宝玉が住む九宝館には、ペーターとコンスタンチンだけではなく、参政官見習、ヴァン・トゥルクも、日頃出入りしています。

イワン殿下と、ヴァン・トゥルク。その出会いの時のお話です。

 ペーター・シュミットと、コンスタンチン・ザイツェフは、現在、主に貴族の子弟が入学するミカエル大学に在学中。勉強に熱心な学生ではないので、講義への出席率は高くはない。大学に通うより、九宝館に通うほうが、ずっと多い。


 ヴァン・トゥルクは、ホアキン帝国大学在学中、二十歳で、高等官任用試験に合格。そのまま大学生を続けていたが、昨年卒業。今は参政官見習として、職務に精励している。

 したがって、入り浸っているという形容詞がふさわしいと思われるペーターとコンスタンチンほど、九宝館に通っているわけではない。

 が、それでもある程度の頻度では、九宝館を訪れているのであった。


 切っ掛けは三年前、ヴァン・トゥルクが、高等官任用試験に合格した翌年のことだった。

 ヴァン・トゥルクは、ホアキン帝国大学で「古典研究会」というサークルに所属しており、熱心に活動していた。

 そのサークルの年に一度の総会で、やはりそのサークルに所属していたイワンに話しかけられたのだ。


 イワンはその時、第一高等学校の三年生。その第一高等学校を卒業した学生は、よほど成績不振でない限り、ホアキン帝国大学への入学が約束されている。イワンもその翌年の入学が決まっていた。


「ヴァン・トゥルク殿でっか」

総会後の立食宴会の席上である。

ヴァン・トゥルクが振り返ると、そこに皇帝オットー・キージンガーの異母弟イワンが立っていた。

「はい、さようでおます。殿下」

「私は、この古典研究会、さほど熱心な会員というわけではありませんが、ヴァン・トゥルク殿のこの会でのご活躍ぶり、感心して拝見しておりましたんや」


 帝国において最優秀の学生が集うとされているホアキン帝国大学。その大学にあって、古典研究会は、百年以上の歴史と伝統を誇るサークルであり、現役サークル員による厳重な入会審査がある。

 ヴァン・トゥルクは、その古典研究会においても、その学識において、一目おかれていたのであった。だいいち、大学在学中で、既に高等官任用試験に合格している人物は、ヴァン・トゥルク以外にはもう一名いるだけであった。

 そしてイワンは、大学入学前、第一高等学校在学中で、古典研究会への入会が許可された三名の内の一名なのであった。


「それは、恐縮でおます。殿下がいかにご優秀な方であられるかいうこと、これまで何度か、聞き及んでおりましたさかい、機会があればお話させていただきたいなあと、以前から望んでおりましたでおます。お声おかけいただき、おおきに、おおきにですわ」

そのような挨拶から始まったふたりの初めての会話は長く続いた。


 イワンは、あまり語らない。聞く側にまわることが多かった。

この方は、天性の聞き上手だな。会話が始まって、ヴァン・トゥルクは直ぐにそのことに気付いた。

相槌の打ち方が絶妙で、表情が実に温かいのだ。


 が、その少ないイワンの語る中で、イワンは、高等官任用試験の際にヴァン・トゥルクが提出した帝国の政務に関する論文も既に読んでおり、感銘を受けた、と述べた。

そのことにヴァン・トゥルクは感激した。


 そして、話を進める内に、ヴァン・トゥルクは、主に自分の語ることに対するイワンの相槌の打ち方、短く要を得たコメントによってだが、イワンが、自分と遜色のない古典に関する学識を有する人物であることが分かった。

自分と同世代で、そのような人物に出会ったのは、トクベイ以来のことだった。

 そしてそれは、イワンにとっても同様だった、いや、そのように感じた人物に出会ったのは、初めてのことであった。


 ふたりの話は多岐に渡った。

ヴァン・トゥルクは、自分が、シモネッタ皇后陛下のファンであること、十四歳で、初めてその姿、二十一歳だったシモネッタを間近で拝見して以来、憧れ続けていることまで、語ってしまった。

 シモネッタは、そのふたりが、初対面の会話を、交わした時点で二十八歳だった。

七年前に比べて、ぽっちゃりされてきたと感じていたが、その美しさは、少しも損なわれていない。むしろ、ボリュームを増した分、その美しさは圧倒的なイメージになってきている、ヴァン・トゥルクは、そのように思っていた。


 その話も、イワンの興味を惹いたようであった。

イワンは珍しく、そのようなことを人に語るのは、彼にとって、初めてのことなのであったが、自分の女性の好みをヴァン・トゥルクに述べた。

 色々と考察を重ねた末「未亡人」という言葉、概念が、最も自分の官能を刺激することが分かった、と。

「人妻」に憧れ続けているヴァン・トゥルクに、この面でも親近感を持ったのかもしれない。

 そして、イワンは、自分も十九歳になったし、最も好ましいと感じる女性の概念に関する考察の結論も出たので、近く行動を開始する、とヴァン・トゥルクに言った。

 

 イワン殿下の女性のご趣味。マニアックだなあ、とヴァン・トゥルクは思った。

 そして、様々な女性に関する言葉、概念を比較、検討した結果、その結論に至った、というその思考経路。ヴァン・トゥルクは、面白いと思った。

 この方と親しくさせていただければ、これから色々楽しいことが起こりそうだ。

ヴァン・トゥルクは、そう思った。



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