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勇者様シリーズ

勇者様は再び乙女に愛を囁く

作者: 茶トラ

勇者様シリーズ最終話です。

ちょっと長めなので、お時間のある時にどうぞ。


デート当日。

その日はとてもお天気が良く、絶好の洗濯日和だった。


ダメ、ダメよ、リリアーナ。あぁでもシーツ1枚だけなら…。

身に染み付いた、主婦根性が、どうしても家事をしたくなってしまう。

たとえ、聖女様に渡された、可愛らしい服を着ていても…だ。

なんとか、洗濯したい、お店を丸洗いしたい、という葛藤に打ち勝ち、待ち合わせ場所に時間内にたどり着く事が出来た。

そこには、前日入りして、乙女の通るルートを整備済みの勇者様が爽やかな笑顔で待っていた。

勿論、勇者様が前日入りしてたことは、リリアーナは知らない…。


「お待たせしてしまったようで、すみません。」


「いえ、時間ぴったりですよ。こちらこそ、うちの聖女達が強引に誘ってしまったようで、すみませんでした。アレらには、良く言い聞かせておきましたので。」

良く言い聞かせておいた…。

それって、魔術的言語とか、肉体的言語とか、呪い的な言語で言い聞かせておいてませんよね?

あくまでも、言葉でお叱りを言い渡しただけですよね?と、聞きたかったけど、聞いたらダメな気がしたので、ニッコリと微笑んでおくだけにした。

うん、長いものには巻かれておいた方が賢いと思うんです…。


「ところで、聖女が用意してくれた本日のルートなんですが…。」

そう言いながら、勇者様が1枚の紙を見せてくださった。

そこには、本日のデートで巡る予定らしい、聖女様オススメのお店の名前がずらりと並んでいる。

王都ガイドマップでしか見たことがない王宮御用達の宝石店やら、ドレスのお店、スイーツ店などが…。

サアッと冷や汗がながれた。

無理です!無理ー!こんなお店達入れる訳ないじゃないですか!

あぁでも聖女様や勇者様なら日常から行っているお店なんですね。わかります。

でもね、私は何度も言いますけど、ただの町の花屋なんですよ。

敷居が高すぎます!


慌てふためく私の様子をクスリと笑いながら、見ていた勇者様。

「もし、行きたいのなら、勿論、私が全てお支払いするつもりですが…。あぁ、やはりお気に召さないですよね。ならば…。」


この近くにあるお店で軽食を買って、森に遊びに行きませんか?

えぇ、あの森です。最初に出会った場所。

湖の近くで、軽い食事でもしながら、のんびりしませんか?


勇者様が提案してくれたそれは、とても魅力的なお誘い。


「はい、嬉しいです。勇者様。」


思わずホッとして、笑顔で答えたら、勇者様はとても魅力的に微笑み私の手を取って指先に軽くキスを落とした。

仕事や家事で、荒れて傷だらけの私の指先に、とても愛おしそうに、優しく。


…ダメですよ。勇者様。

どんなに素敵でも、私は、貴方に恋は出来ないのですから、あまり勘違いさせるような事はしないでくださいね。


そう、薄く笑い呟いた。

勿論、勇者様には聞こえないように。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


森は相変わらず、とても空気が澄んでいて、本当に気持ちがいい場所。

湖では、精霊様が待っていてとても歓迎してくれる。

何故か勇者様に対しては、敬語で話し、態度も統一の取れた王国騎士団のようだったが…。

あれ?精霊様って私に対して片言の言葉遣いで、無邪気を装った傍若無人な態度じゃなかった?

あれ?おかしいな??


「りりーあそぼー、お水かけてあそぼー」


と、湖に引きずりこむまでが、デフォルトだった気がするんだけどなぁ…。


「勇者様!ここから15時の方向に一頭イノシシがおりますが、いかがしますか?…了解致しました。では、乙女の夕食用に後ほど仕留めてまいります!」


これ、この態度。

同じ精霊様とは思えないんですが。

あ、イノシシお土産にくれるんですね。

私、捌けるかなぁ、イノシシ…。肉屋のおじさんに頼めばなんとかなるかしら?

そんなことを考えてたら、勇者様がとてもいい笑顔で、イノシシならお仲間の戦士さんに頼んで捌いて貰うから、心配しなくて良いと言ってくれました。

何故わかったのでしょうか?私の考えてる事。


そんな感じで、また無邪気を装った精霊様に湖に引きずりこまれたり、濡れた服を勇者様に風魔法で乾かして貰ったり(ちょっとその時の目が獲物を見るような目で怖かった)、イノシシ狩りに出た精霊様が大量な獲物を持って帰っきて驚かされたりで、とても楽しい1日が過ぎようとしていた。


「そろそろ、日も傾いてきましたし、町に戻りましょうか?勇者様。」


「そうですね…今日は楽しく過ごしていただけましたか?」


「はい。ありがとうございました。とても、良い思い出になりました。」


「…また、今度は私が直接誘ったら応じてくださいますか?」


ちょっとはにかんだ顔で勇者様が、立ち上がり手を差し伸べてくれている。

でも、私はその手を取れない。



「少し、少しだけお話を聞いてくださいますか?」


そう言って、勇者様にまた座って貰い、話しはじめた。


勇者様が魔王を退治した時のお話です。


あの時、この町も魔物が押し寄せてきていたんです。

勿論、町の自衛団の皆さまが、頑張って戦ってくださいました。

でも、その時は、余りにも魔物の数が多くて…。

両親は、私をこの森に逃がしてくれました。

この森は、お前に優しいから…と。

私達が迎えにくるまで、ここで精霊様に守って貰いなさいって言って、また町に戻りました。

両親は、まだ逃げ遅れている町の人たちを助けに行ったのです。

もう、2度と会えなくなるとは知らず、私はずっと、ここで待っていました。


だから、わたしは、誰かに、置いていかれるのが、すごく、怖いんです。


あぁ、そんな顔をしないでください。

勇者様には、感謝しているんです。本当に。

勇者様のおかげで、この世界は平和になりました。

勇者様のおかげで、私はまた、この町で両親の形見のお店を続けられているんです。


…。

貴方様は、勇者様なのです。

皆の希望なのです。

この世界に必要な人なのです。

また、この世界に何かあったら、立ち上がる人。


その勇者様の手は、私に差し出して良いものでは、ないのです。

もし、もしも、私がその手を取っても、いつか、置いていくでしょう?

私はついていくことが、出来ませんから…。


だから…。

今日だけの、楽しい思い出で、この胸にしまっておきます。


弱虫で、ごめんなさい。

でも、置いていかれるのがわかっているのに、その手は取れません。



一方的に話はじめた私の言葉を、勇者様は真剣に聞いていてくれました。

ひょっとしたら、私の思い上がりになるかもしれない話なのに。


「わかりました。私に5日間、いや、3日でいいです。時間をくださいませんか?」


流石に、5日間も乙女に会えなくなるのは、私が辛いので、サクッと片付けてきますから。

そう、照れ臭そうに言う勇者様。


「…え?あ…あの、今、私のお話を聞いてくださったのでは?」


確か私は、お付きあいは出来ない的なお話をしたつもりなのですが…。


「はい。置いていかれるのは嫌なので、私の手は取れないとのお話でしたね。」


はい。その通りです。


「それは、乙女と離れることがなければ、私の手を取ってくれるのですよね?」


え?それは、考えてなかったですけど…。


「なので、聖剣を返してこようかと。」


えぇ!!

勇者様を辞められるのですか?

それは、無しで!!

無しでお願いします!!!


「あぁ、大丈夫ですよ。魔王は完全に倒しましたし、魔物も殲滅してありますし。」


もう、数百年は勇者が必要な脅威はないはずです。


それに、勇者の物語は、魔王を倒したら、好きな人と結ばれて、ハッピーエンドで終わらないと、ダメじゃないですか?

それには、リリアーナ、貴方が必要なのですよ。


お約束します。

貴方を悲しませません。

置いて行ったりしません。

むしろ、全力で離れません。

鬱陶しいくらい、お願いだから、1人にさせてと言われるくらい、そばに張り付いていられる自信があります。


だから、少しだけ、時間をください。

貴方の手を取る資格を得て、まいりますから。

勇者の名を捨てて、ただの貴方に恋い焦がれる男になったら。

勇者様と言わず、私の名前を呼んでくださいますか?



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


私は、その日は返事が出来なかった。

勇者様は何も言わず、送ってくれた。

そして、帰り際、お花は4日後に配達してくださいと告げていった。

本当に、勇者様を辞めちゃうの?

私のせいで…。

すごく胸が痛むのは、罪悪感なのか、明日から会えなくなるからか、わからなかった。





今日がその4日目。




この3日間、寂しかったですと言えば、また、手を差し伸べてくれますか?

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


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[一言] 勇者様、 >鬱陶しいほど(略 うわぁあ重い重いよ!w とても可愛らしいお話でホッコリさせていただきました。ごちそうさまです。ペコリ
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