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王女になった  作者: 居茅きいろ
9/44

九話・生徒になった・前編

3/30書き直し

翌朝、私は二人が起きてくる前に外に出た。


港を走る。


キラキラ朝日を反射する海が、薄いグリーンに澄んでいて、凄く綺麗。


石畳から海を覗く。


魚が見える。


すごいすごい!綺麗!



しばらく見ていたらシルくんが駆けてきた。


シルくん私を追いかけてきた?


何と無くそう思った。



「シルくん、見て見て!」


「え、うん」


「ほらほら」


「うおっ、すげー透明じゃん!」



あ、シルくんの前世のお姉さんお久しぶりです。


私の中の前世の意識はシルくんの前世の意識と話したいと思っていた。


自分の事だから分かる。



「なあ、シルくんの前世の姉さん、俺と話さねえ?」



幼女の声で言う。



「あたし?」



シルくんの少年の声は女の子にも聞こえる。



「とりあえず幾つで死んだかだけでも教えてくんない?」


「あんたは?」


「俺は二十七」


「おっさん」


「うっせ……つーことは若死にしたのか」


「あんたも若いと思うよ?」



多分お姉さんはどうやっておっさんが死んだのか聞きたかった。


でも自分の死因を話したくないんだろうな、と感じたらしい、私の中のもう一つの意識は自分から語る。



「俺はちょっと自分のミスでさ、仲間に殺された」


「えっ!?」



私も何と無く解ったけれど、お姉さんの反応はおかしかった。


今まで前世を秘匿していたのに、その鍵を緩めた様に感じたのだ。



「あ、あたしと同じじゃん」


「は?」


「ああ、わりい、確かにお姉さんがどうやって死んだかは分かんねえわ。 なんとなくビッチ臭はするけど」


「あんたそのお姫様の魂じゃなかったらフルスイングで殴ってるからね?」


「す、すまん」



話は良く分からないけどおっさんが失礼な事を言ったのは解った。



「す、すみません」


「あ、王女さんは悪くないよ? 悪いのはおっさんだから気にしないで」



お姉さん流石に察しが良いです。


これ四人で二つの体で喋るって言う凄い状態。



「あたしはさ……十七で仲間をミスで死なせて、その友達の報復で結構な目に合わされて殺された」



口に出したシルくんの体が目を見張った。


解った。


それは二人の一番深い秘密だったのだ。


そしてお姉さんが言った事が間違ってないのも解った。


おっさんとお姉さんは似ている。



「……っ」


「はあ……なんでそれでこんなとこに蘇ったかね」



前世の意識は語る。


自分が猟師だった事、ミスして仲間に撃たれた事、罪の意識に苛まれている事まで。



「ぷっ、マヌケ」


「確かにな」


「でもあんた、やっぱり真面目なんだ……お姫様に相当厳しい事したろ?」


「ああ、グレーターデーモンの森に魔法無しで放り込んだ」


「あんたの体が王女じゃなかったら鳩尾に一発入れてるわ」


「すまん……いやマジであんなとこにグレーターデーモンいると思わねえもんよ」


「あーねー、あれは酷かったわ」


「だな、アークデーモンに魔王もどきまで出やがってよ……その」


「ジェイさんの事はさ、こいつも解ってる。 姫さんのせいじゃない」


「師匠だったんだよな……」


「鬼教官だったさ、格好良かったけどな」


「深森の騎士はみんな格好良かったな」


「姫さんの声で言うと少年が嫉妬するぞ」


「うひひ」


「うひひ」


「ちょ、お姉さん!」



どうも二人して少年……シルくんをからかっている様だ。


お話の良く分からない私は深呼吸して綺麗な海を見た。



「とにかくさ、あたしもレアちゃんの人生って悲惨すぎると思ってる」


「そうだな、俺は親に放置されてたけど、こいつは愛してる親を失った……うっく……ひっく……」


「あわ、姫さんごめん!」


「ああ、大丈夫だ、前を向けばこいつは耐える……本当に強いんだ」


「凄いね、あんたも姫さんも」


「俺はモテなかったけど」


「あたしはモテたけど」


「ちくしょ」


「今世は逆転ぽい?」


「あ~、その辺の話はまだ五歳だからな」


「あ、そっか……でもマル坊はもう思春期だからな~」


「そう、あいつも勇者として凄い奴だけど、思春期のガキなんだよな~」



私は不思議な思いで聞いていた。


二人にはマルくんでも子供に見えるんだな、と。



「そっか、マル坊とあたしら変に精神年齢は似通ってるのかも」


「ああ、確かに」


「あたしとあんたが十違い……転生が二年先だから八つ違いで、マル坊と姫さんが九つ違いか」


「離れ過ぎだろ」


「そうかね、あたしは別にあんたに惚れる自信あるけど」


「そう言う生々しい話はやめとけ、仮にもガキ同士なんだから」


「確かに、まあまた話してよ」


「ん、ああ……またな」



そこで二人の意識は途切れたっぽかった。



「はあ、なんだか凄い疲れたね」


「私もです……こんなに長く前世の意識を表に出したのは初めてです」


「だよね、お姉さんがあんなに喋るの初めて聞いた」


「お姉さんと私で話してみたいです」


「僕もおじさんと話してみたい……なんだか師匠に似てる気がする」


「そうなんですか……真面目で厳しいのに楽しい事には目が無い、確かに似てます」


「ふふ、僕と姫様だっていっぱい共通点あったね!」


「ええ、私たちはみんなそっくりです」


「みんな?」


「ええ、マルくんとシルくんも私の騎士に一緒に志願してきたじゃないですか」


「うん」


「二人とも無理しても私を守ってくれるんだなって思ったら、凄く嬉しくて」



「だって一番大切な友達だから」


「ありがとうございます。 私も頑張って皆を守ります」



そこで私は無意識に爆弾を落として、後で何故かおっさんに叱られた。



「私の一番は今はミルキーですけど」


「ああっ!」


「ん?」


(ここで強敵投入とか本当にハードル上げる民族なのか深森の民は!)



そうおっさんが叫んだのだった。





朝、マルスは起きた後シルルス少年の姿が無いことに気付いた。


やられた。


しかし昨日自分はかなり有利になった筈。


王女様と勇者の伝説なんて何百編もの物語で描かれてきた事だ。


マルスも当然勇者と呼ばれる様になってからその事を意識していた。


自分がメインの宿泊地に選んでいた国、深森の国には王女様がいた。


ときめかなかったと言ったら、嘘だ。


ある日の事、ギルドで興味深い仕事を見つけた。


グレーターデーモン捜索、討伐。


これだ、と思った。


勇者として自分が強くなるチャンスだと。


そしてその仕事の契約に向かおうとしていた時。


腹拵えにたこ焼きを買って、いざ食べようとした時。


指を咥えて自分のたこ焼きを見つめている少女を見つけた。


レアだった。


電撃が走った。


一発で分かった。


彼女が深森の女神と言われている王女だと。


普通は分からない筈だ。


だってたった四歳の女の子が女神って。


でも分かったって事は、これは運命なんじゃないか。


彼女にたこ焼きを渡そうとするとメイドさんに止められた。


レアが悲しそうな顔をしたので言いくるめて、一緒に食べたけれど。


可愛く頬を染めてたこ焼きを食べる彼女。


魂が震える気がした。


そのタイミングであいつが飛び込んできた。


シルルス。


シルは既に王女と親友になっていた。


俺は自分より七つも年下のシルに嫉妬していた。


でもそれからだ。


シルと喧嘩して王女様に懲らしめられてそれでもぶつかって。


シルがライバルなのははっきり分かった。


でも何度も打ち合って、共同して戦って、あの森で二人ともレアを信用して雑魚を倒していった時、ああ、俺とこいつも心が通じ合う友達になってる。


そう思った。


だから昨日の話はマルスのミスだ。


まだマルスとシルルスは勝負する時期じゃない。


いくら化け物的な力を持っていても、レアは五歳、シルは七歳なんだから。


レアだってきっと困ってる。


だから後十年は、マルスとシルルスは純粋に騎士であるべきだ。


そう話をしよう。



そう考えていたらシルが飛び込んできた。


ミルキーさんがいる!とか言って。



「あっ」


「彼女に勝たないと僕らはスタートラインにも立てないよ」


「だな」



自然と十年はミルキーには勝てない気がした。






私は綺麗な港を満喫して、宿に帰る。


荷物を纏めて宿からチェックアウトする為に一階に降りたら、二人はもう準備していた。



『早く帰ろう!』



いつも連携の良い二人が今日は完璧にハモった。


私は動揺しながらも首肯する。


早くお姉ちゃんに会いたいし。


だから早々と風を纏い、飛んだ。


何と無く二人が仲良くなってる気がして、私は嬉しかった。


おっさんは何故かニヤニヤしていたけど。



随分家を開けていたような感覚がある。


ともあれ、私は我が家に帰ってきたのだ。


(最近越してきたばかりだけど)


と、私のおっさんは突っ込むが。



「ミルキー!ただいま!」



今私の家はミルキーの居る所。



「レア様!」


「ただいま」


「おかえりなさいませ」



その聖女の微笑みを


ドジッ子ではあるが、聖女の微笑みを



良く思わない二人の少年は邪悪とすら感じられるオーラを纏っていて、アリカを盛大に怯えさせた。


何故かミルキーはそれを見て「ふっ」と鼻で笑った。



私は何が起こっているのかさっぱり分からなかった。


シルくんとマルくんは私も怯える殺気を纏っているのにミルキーは鼻で笑い私を守るように抱き締めているのだ。


幼女には難解すぎた。


なので早めに状況を切り上げる事にした。



「ミルキー、もうすぐドラゴン肉が届きますよ!」


「ドラゴン肉! 最高級品じゃないですか!」



(花より団子だな。)



前世のおっさんがまた私の知らない言葉を呟いた。




ドラゴン肉が魔学の国に届いたらしいので私は二人の騎士を連れ、ミルキーを伴い魔学王都を訪れた。


ギルドに着くとメリアが、それはもう呆れたように溜め息を吐いた。



「中級ドラゴンを瞬殺する五歳児なんて聞いた事がないんですが」


「そ、そうですね、私も寡聞にして聞いた事が有りません」


「ギルド員は情報通を売りにしてますがギルド長や情報局、総取締役さえ聞いた事が有りません」



「ですよねー」



「まあギルドとしてはある意味有り難いのですが、他の冒険者が命を掛けても全く勝ち目がない魔物を瞬殺するのはできれば控えていただけたらと、個人的には思います」



何だかその言葉には低レベルモンスターに殺された人々の恨みが籠もっていた。


ごめんなさい。



「まあそれはそれ、お肉届いてますよ」


「有り難う御座います!」



メリアは黒猫のシールが貼られている大きな荷物を出した。



「これが百個届いているんですが、どうしますか?」


「一個十キロですか?」


「そのように記載されております」


「十個持ち帰り、十個ギルドに納め、残りは民に回します」


「お祭りでもする気ですか?」


「えっ」

「中級のドラゴン肉なんて普通は王族も口に出来ない高級品なのですが」


「えと、お祭りしますか?」


「と、言うかお祭りになりますがね」



そして謎のお祭り、グラビティドラゴン祭りが開催された。


何故。


前世の意識は自重しようとは常々思っているが、色々常識外れなのだ。


何よりレアは五歳の幼女だ。


常識を学ぶには幼すぎた。


結果、毎日が日曜日どころか毎日がフェスティバルになってしまう。


し、仕方ないんですから!


レアの叫びは悲痛に王都に響いた。



そう言う訳で開拓され始めた森で私達はバーベキューをしている。


王族が滅多に食べられない肉でバーベキューしている。



みんな大感激だ。


何でも中級ドラゴン肉を食べたらレベル十個上がると言われているらしい。


魔力回復効果、身体回復効果、浄化効果、全能力強化効果などなど、普通勇者クラスでも貴重な効果が有るらしい。


私は軽く討伐したたった五十レベルの魔物でさえそれ程の反応が帰ってきた事に少なからず驚愕するしか無かった。


王女だから仕方ないのだが、前世組かつ幼女だから仕方ないのだが、私には常識がない。


だが私は、その肉をステーキにして食べる。


豪快に食べる。


それはもう、肉は仇と言わんばかりに食べる。


そう決めたから食べる。


ガーリックはガーリッシュな乙女たちの敵であるがたっぶり使って胡椒まで交えて食べる。



かじりつく。


肉は旨味と甘さを放ち、幼女と男たちの胃袋に消えた。


私は「ジビエ最高!」と叫んでいた。



何故か始まったグラビティドラゴン祭りも終わり、肉百キロを七人掛かりで持ち帰る。


私は肉を保存するため、急拵えで冷蔵庫を作った。


圧縮ポンプの機構は既に頭の中にあったので、木箱を作って圧縮ポンプの機構を強化鉄で作る。


片方は十の空気圧をタンクに送り、もう片方は九の力でそれを押し返す。


これによってタンク内の気圧は常に九倍であり、そこで放熱が行われ、タンクから繋がるパイプを箱の中で広く展開し、箱の中を冷やす。


うん、これで冷えるはず、だが温度調節機構が凄く難しかった。


受け止める側の魔石の力をコントロールする必要があったので、まずはエアブレットシューターにも付けたセイフティーの機構を付ける。


後は自動コントロール。


これは精霊に機構を覚え込ませるために複雑な術式を組み込む必要があって、この作業に一日掛かり。


まあ肉は暗所に保管していたら保ったので良かった。


ともあれ、魔学を震撼させかねない風魔法式冷蔵庫は完成した。


シルくんが呆れかえって



「おっさん自重しろ」



とか



「今度あたしにもドライヤーとか掃除機作って」



と、自重しない事を言っていた。


現在のシルくんは魂にまで裏切られて床に転げていた。



さて、また呑気な魔学ライフが始まる。


先ずは午前中は錬金術の研究。


午後はお供を連れて海に向かい全魔力を使い切る寸前まで魔力を放つトレーニングをする。


その辺りは船舶の通行が禁止になった。


帰って料理の研究。


何故かシルくんも料理の勉強をしたがった。


そしてミルキーに抱きしめられて眠る。


王国を失い、家族を失った私もミルキーのお陰で毎日が幸せだ。


何故か柱の陰でしくしくと二人の男子が泣いていたが。



そして、そんなある日魔学から手紙が来た。


魔学中央学校入学要望書。


一瞬何の話かと思ったが、良く考えれば私はまだ五歳なのだ。


しかも常識がない。


これは行っておくべきか、と、おっさんも考えた。


そして私たち三人は魔学の国の学校に通う事になった。


片道数時間の道を私たちは三十分も掛からず駆け抜けた。


登下校は三人の身体強化トレーニングの時間に。


シルくんは余裕すぎてジャンプしては空中で回転している。


マルくんはそれを見て呆れていたが、自分でも更なる強化にチャレンジし始めた。


私たちは魔学中央学校小等部に着く。


マルくんは中等部なので、ここで別れた。


まあ勇者マルくんなので大人気になったのは想像に難くない。


私とシルくんは学年が違うので入学手続きをして教科書をもらった後は別れる。


入学手続きの際に保護者を空欄にするのが寂しかったのでミルキー・ワイネンと書いておく。




小等部一年の教室に入ると、皆普通に幼児だった。


いや、当たり前なのだが……。


精神年齢も能力も子供レベルじゃない私にはこれから学校通いはちょっと物足りなく感じるかも知れない。


中級のドラゴンを倒した五、六歳の子は多分あんまり、いや、絶対居ないと思うし。


自分の机の位置を確認して座ると、少しワクワクしたが。




席に着くと私をレアと知っている幾らかの児童が挨拶に来る。


最初に来たのは金髪ショートで癖毛で、金の瞳の女の子、テニー・レノメール。


ちょっと偉そうに腕組みし、反り返るようにして私の机の前に立つ。



「あなたが深森の姫様、レア様でよろしくて?」


「はい、初めまして。 私がレア・ネポス・アニマシルワです」



「お、お初に、私はテニー・レノメールと申します。 一応魔学の侯爵家の者ですわ」


「これは挨拶が遅れ失礼致しました。 既に国を失い今は魔学の平民の一人ですが宜しければお見知り置きを」


「え、いや、そんな、何言ってるの?」



何故かテニーと名乗る侯爵令嬢は狼狽えた。



「あなた魔学であれだけ派手に告別式やったりギルド登録してすぐ一日で冒険者を百人は殺したグラビティドラゴンを狩ってその肉でお祭りまでしたのに一般人とか、それはあまりにも無理がありますわ!」


「功績を上げた事で魔学に於いて何らかの地位を築いた訳では有りませんから、どうか平民としてお付き合い下さい」


「平民なのは分かりました。 ですがあなたは既に超有名人なのですよ? 自覚して下さらないかしら?」


「そうかも知れません。 私些か常識に疎いものですから、派手にやってしまいました」


「常識とかそんなレベルじゃないでしょ!」



今一この幼女の言いたい事が分からない。


おっさんは笑うばかりだし。



「と、とにかく私テニーはあなたとお友達になりたいの、分かる?」


「は、はい、侯爵令嬢とお友達になれるとは光栄の極みです」


「もう、あなたの方が凄いでしょうが!」


「はあ!?」



急に叫ぶテニーに私はただただ驚いた。


でももう私が王女じゃないのは、悲しいけど事実だ。


それでもテニーは言う。


言葉遣いはあれだが、案外良い子なのかも知れない。


少し親近感が湧く。



「とにかく、私もあなたとお友達になれて光栄と言う事です。 お忘れにならないでくださいね!」



ツンデレ可愛いな~、とおっさん。


ツンデレ?


そしてテニーの陰になって見えなかったが、後ろに緑の髪の女の子がいた。


派手な髪色なのに目立たないと言う、何か気配遮断能力でも持っているのかも知れない女の子が私に恐る恐る声を掛けてくる。



「は、初めましてレア姫様、私はローリエ・スウと申します」


「初めましてローリエ様。 私は既に亡国の姫ですので、普通にレアとお呼び下さい」


「そ、そんな、それは出来ません!」


「事実そうですので……」


「でも姫様は姫様です。 私はあくまでレア姫様をレア姫様と呼びたいと思います」



大人しそうなのに強情な子だった。


こういうタイプは初めて付き合うな。


ミルキーに似ているかも知れない。



「有り難う御座います、でもお友達なら気軽にレアと呼んで下さい」


「あう……」



折れたかな?


と、言うか私も強情なのかも知れない。



「ではレア様、私ローリエは子爵の家の者ではありますがほぼ平民と変わりませんので、ローリエと呼び捨てでお願いします」



この子ちょっと変な子だな、とこの時はただそれだけ思った。



「ではローリエ、私もレアでお願いします」


「では私もテニーと呼び捨てで!」


「は、はい、テニー」



テニーは元気な子だなあ、とおっさんほっこり。


そして私は二人の、後に親友となる子供たちと出会った。



私が席で三人と話していると銀髪を短く刈り込んだ、小学生なのにガタイの良い少年が絡んできた。



「お前が亡国の姫レアか」


「はい、今は平民の一人、レアです」



余りに私が堂々としてるので少年は少し逡巡した。



「お前、俺の女になれ!」


「はあ? 何を言ってますのライアン・クラケット」


「う、うるせえテニー、何か文句有るのか!」



いきなり女になれと言われても幼女の私には何の事か分からなかったが、おっさんはニヤリとして、こう提案した。



「分かりましたライアンさん」


「レア!?」


「そ、そうか、これでお前は将来魔学の男爵夫人だ……」


「いえ、ライアンさんの女になるには条件が有ります」


「は?」


「私には三人の騎士がおります。 その三人の内の誰かに決闘で勝てたらライアンさんのお望みのままに致しましょう」



超・無茶振り。


知っている者は少なかろうが一人は勇者マルス・オクルスであり、もう一人はマルスに匹敵する強者、シルルス・クラウス、そして最後の一人は今は亡き騎士団長エファレンスの娘で本人も実力者であるカナムである。


はっきり言ってマルスとシルルスだけでも魔学王国兵全軍を持ってしても勝てるかは怪しい。


最近は悪魔教官レアの元で更に成長していたりするし。


しかし哀しきかな、その事を知らなかったライアン少年は、その時は不敵にニヤリと笑ったのであった。




やがてこの学級の担任、シンシア・トッドが訪れ、私に自己紹介を促す。



「では~、レアさん、自己紹介お願いしますね~」



メガネでピンクの癖っ毛を跳ねるまま跳ねさせているおっとりした可愛らしい女教師。


胸でけえ、とおっさんが呟いたので頭の中で新魔法エアブレット・ライフルモードをぶちかました。


ただでさえ凶悪なエアブレットを更に多重魔法陣で加速、加重、高密度化するえげつない魔法である。


まあ魂には意味がないけど。



「私は亡国となりました深森にて王女でした、レアと申します。 現在魔学においては私は平民の身分でありますので、皆様お気軽にお話し下さいますよう、お願い致します」



私が挨拶をするとまるで大人のようだ、流石王女様、と大騒ぎになった。



「はいはい~、みんな静かにね~」


「レアさん~、今日から私が担任ですのでお母さんと思って頼って下さいね~」


「は、はい、宜しくお願いします」



席に着くまでざわざわと騒がしかった。


亡国とは言え、お姫様だもんな、とおっさん。


やがて授業が始まるが内容は予想通り初歩も初歩だった。


この世界には目には見えないが精霊がいる、とか、魔力が存在する、とか、そんなレベル。


忽ち私は眠くなってしまった。


帰ったら錬金術の勉強とトレーニングしよう。




普通に美味しい給食を食べて、午後の授業、そして放課後。



「レア、お前の騎士とやらはどこにいる!」



ライアン少年が懲罰をお求めになった。


仕方ないので迎えに来てくれたシルくんとマルくんに事情を話す。


流石のライアンも勇者マルスは知っていたのでシルくんと戦う事に。


と言うか騎士の一人が勇者なんだからもう一人もそのレベルと考えるのが普通だろうに無知なライアン少年、流石に小学生か。


シルくんも名声は無いものだから無知な小学生に選ばれてしまう。


開戦、したのかと言う瞬間に二百メートル以上離れた森に軟着陸するライアン少年がいた。



「シルくんも大人気ないですね」


「え、だってレア様に女になれとか言ったんだよね?」


「まあ当然だな。 あいつが嫌って言っても俺も決闘してやる」



二人とも大人気ないなあ、と思ったがおっさんは大笑いしていた。


ライアン少年はその日から下僕にして下さいと言うようになった。


なんだか気持ち悪かった。



三人バラバラにトレーニングしながら家に帰る。



「お帰りなさいませ、レア様」


「ミルキー!」



ちょっと疲れた私にミルキーのぬくもり成分チャージ。


後ろから私も怖いくらいの二つの殺気が放たれ、ミルキーはまた鼻で笑っていた。



「学校はどうでしたか?」


「んと、お友達が二人と下僕が一人できました」


「下僕!?」


「そいつなんでもレアに女になれとか言ったらしいんだよね、で、二人でボコった」


「そうですか、エアブレットシューターライフルバージョンをフル出力で放つので的になって頂きましょうか」


「ひいっ」



私の新兵器をフル出力でぶっ放す発言にマルくんさえ震え上がった。


うーん、あれフル出力だと山が削れるのですが。


ちなみにアブサールと名付けた。



着々と要塞化するメイドさん。



「私もおさがりのシューターを連射しましょう、私は優しいので最低出力で、主に男性機能喪失の方向で」


「ひえっ」



アリカの発言にシルくんマルくんと神官タミヤが縮こまる。



「では私も八つ裂きにしましょう、姫様に頂いた多重魔法剣で」



私が作った光と風の魔法を発動できる剣をカナムが引き抜く。


光魔法で染まった真っ白な刀身が物騒にキラキラ光っている。



「い、いや、俺たちが見張っとくから大丈夫、決して保護者総出で小学校で破壊活動しない様に」



マルくんは物凄く引きながら呟くように宣言した。


ちなみにアリカは聖騎士長さんの持っていた私が作った魔力結界のペンダントを、カナムはお父様、騎士団長さんのペンダントを付けているので防御面でもエアブレットを一発なら防げる程度に強い。


今の技術では封入出来る魔力量に限界があるので連射されると機能停止するのが難点だ。


もう三人とも要塞かも知れない。


あと機動力を発現できるジェットブーツを拵えよう。


まあまだまだ修行期間は十年も有るのだ。


敵が女神でも勝てる様にしておこう。


翌日、学校では魔法実技があった。


みんな可愛らしい炎を出したり、微風を吹かしたり、土を盛り上げたり、雫を出したりしている中で私の中の大人気ないおっさんが空に向かってエアキャノンを放つ。


先生が気絶した。


どうするの、全く。


轟音を聞いて中等部や高等部、大学の講師まで飛び出してきた。


それを追って全生徒も飛び出してきた。


ちなみにマルくんとシルくんは私が何かやったと分かっていたのでニヤニヤして席に着いたままでいたらしい。




放課後、大学の研究部から勧誘があったので一度覗いてみる事にした。


テニーとローリエが面白そう、と言う事で付いて来る。


大学では魔法実験や魔物研究、錬金学研究が行われているらしい。


先日倒したグラビティドラゴンの攻撃パターンについて研究するレポートを見つけた。


グラビティドラゴンは下級精霊竜と呼ばれる竜の一種で、重力により尻尾を加速して相手に叩きつけたり、自らの体重を増加して敵を押し潰したりするらしい。


私の討伐履歴を知っていた教授はそれに付いて聞いてきたが、怯えて逃げ出した所で瞬殺した旨を説明したら頭を抱えて座り込んだ。


それを見たテニーとローリエが目を丸くしたのが可愛くて面白かった。


色々見て回ったが、賢者の家より深い資料も研究も無かったのでテニーとローリエを連れて家に帰る。



「あなたは常識ってご存知?」


「一応は……」


「常識外れよ、レア様」


「そ、そうですね、自重します」


「今更自重しても最早女神レアの名前は伝説になりつつあるわよ」


「ま、まだ生きてますから」


「生ける伝説のお友達で光栄です」



三人で空を高速で飛びながらそう言う話をするのは、とてもシュールだった。







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