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王女になった  作者: 居茅きいろ
7/44

七話・泣きそうになった・後編

3/20書き直し。

私たちは魔学王と面会した。


魔学王に民のことを頼まねばならない。



「お久しぶりでございます、魔学王様」


「うむ、レア姫、そなただけでも無事で良かった」



有り難いことだが、私は無事で良かったとは思えなかった。


両親と、いたかった。


でも今は、私は民たちのために王女としての務めを果たさなければ。


振り返っては、いけない。


前に、進む。



(少し不味いな)



「有り難う御座います。 今回は未曽有の災難でしたゆえ、民たちを逃がすのに精一杯でした。 ……陛下にお願いがあります」


「うむ」


「民たちが幾らかの時を平穏に生きるために、森の開拓の許可を頂きたいのです」


「それはもう決定しておる」


「え?」


「良いかレア姫、我らの国は同盟国ぞ」


「同盟国とは家族の国、家族が困難にあれば不仲でなければ助けよう……いや、不仲であってもじゃ」


「故にお主を助けることは決まっておる、何でも言え!」


「は、はい」



私は思案した後、言った。



「錬金術や魔法を鍛えるために幾らかの土地を下さい」



少し的外れなことを言った気がした。


民の保護とか一時的な食料品の援助とか、そう言う事を言うべきだったのでは。


それにタダで財産をもらう訳にはいかない。


対価を。



「その代わり、魔学の国が私の戦力を必要とするなら命を投げ打っても戦います!」


「深森王も良い娘を残したな……」



魔学王の言葉は私の意識に入ってこなかった。


何故お父様とお母様が死んだようにこの人は言うのだろう。


ぼんやり考えて自分の本心と、先の前世からの言葉の意味が分かった。



(それを言ったらお前は立ち直れなくなりそうだ)


(家族は皆死んだ)



嘘だ。


だってお父様は私が頑張ったらいつでも抱っこしてくれる。


今私はこんなに頑張っている。


お母様は私が疲れたら頭を撫でてくれる。


今、私は、こんなに、こんな、に、疲れ、て…………。


騎士のお兄さんたちは、何時だって私を誉めて……くれる…………。


皆……。


皆、もういない?



(居ない)



前世の意識からの声を聞いた途端、体の中から何か全てが流れ出しそうになって、口を抑えた。



「うっ」


「ううっ!」


(泣いてもいいんだ、いや、泣け)


(泣いて、泣いてもそこから立ち直ればいい!)



その時、後ろから誰かに抱きつかれる。


ミルキーの声がした。



「レア様、もう泣いても良いんです!」


「うっ、うううっ!」



魔学王は言う。



「たった五歳の娘が、よくぞここまで我慢した」


「後のことは全て私に任せよ!」



それを聞いて私はようやく、重い枷を少し降ろせた。



「うわあっ、うわああああああああああっ!!」


「うわあああああああああああああああああああん、わあああああああああっ!!」



もうこれで最後。


泣き虫な私はもう、これで終わり。


だから最後だけは、たくさん泣かせて欲しかった。


涙は私が疲れて眠っても止まらなかった。


周りの皆に迷惑がかかると思っても。


止まらなかった。





私が王前で大泣きしてから数日、私たちは魔学王の計らいで城に二部屋を借り、七人で休ませて頂いた。


正直泣けるだけ泣いたから私はまた前に踏み出す力を得ている。


弱さを見せることで強くなれることもあると、初めて知った。


魔学王に民を任せて私たち七人は魔学の国を離れ、魔学王が用意した修行の場に向かうことにする。



と、言っても走れば数時間と言う場所にあった。


そこはかつて賢者と呼ばれた大錬金術師の家だったそうだ。


錬金術師が亡くなってからも歴史的意義を考えて保存されていたらしい。


小さな畑と果樹、木造の、大きめの小屋のような家だった。


家の中は意外と広かった。



「うわ~、ここなら七人住めますね」


「そうですね、けど」



感嘆するアリカに答えながら思った。



「皆さんご家族は?」


「うちは命の恩人のレア姫様のために命がけで働きなさいって言われましたが」


「私は孤児でしたので」


「俺は旅の空だしな」


「僕も王女のためにその怪力を使えって」


「私は成人ですからね」


「え、と、私は騎士なので」


「いや、それはおかしい」



アリカ、ミルキー、マルくん、シルくん、タミヤまで理解できる理由だったが。


カナムにだけ皆のツッコミが入る。



「いや、本当に、騎士なら王族を守れと代々の家訓で……」


「カナムって貴族?」



アリカが当然のように聞く。


それに私が答えた。



「カナムってリカー家のお嬢様なんですか?」


「え、リカー家って公爵家」


「そうですね」


「……」



アリカが凍りついた。


うちは貴族制でも特別緩いから気にしなくて良いんですが。


もう王国も無いのだし。



「すみませんした」


「え、いや、問題ないですから!」


「ちょっと待って下さい」



ミルキーがストップをかけた。



「カナムのお父様はひょっとして……」


「はい、騎士団長エファレンス・リカーです……」



地盤が決まり浮かれていた空気が静まる。


つまりカナムも私と同じなのだ。


家族を失っていた。


私はカナムを抱きしめる。



「はわっ、女神様の包容!」


「カナムは泣かないんですね」


「姫様……」



カナムはゆっくりと語り出す。



「私の家では騎士となる者は王国の者であり、城では主こそ家族とし、主に仕えるからには実の家族でも他人と思え、と教えられてきました」


「騎士団長に、お父様にレア姫様のお話を聞いた時も、公務として聞いていたくらいです」


「私はその教えが大好きです……大好きな姫様に剣を捧げられるのですから、言う事が無いです」


「そ、そんなに好かれる事をしましたか?」


「姫様は緊張する私に林檎飴を下さり、前世がおっさんとかすごく面白い冗談まで言って下さいました」



あれ、同じネタでまたハードル上げられてる。



「私はだから、姫様は私の仕えるべき主だと思っています」


「カナム……姫ではなくてレアですよ」


「あはは、姫様、あんなに民を思う方が姫でないはずがありません!」


「あなたは私かあなたが亡くなるまで間違い無く私の王女です!」


「はうっ」



分かった、この人ハードル上げるの好きな人だ。


純真だし仮にも貴族だし。


たぶんあの民間人からは桁外れのお父様に鍛えられたのだ。


肉体も、精神も。



(自分でもハードル上げまくってるんだけどな)



前世の私も冗談を言うようになったらしい。


私が他人のハードルを上げるなんて……



(本当に心当たりないか?)



有ります。


訓練と言えば地獄の訓練、練習試合で十五人全滅。


上げてました、ハードル上げまくってました。



(だから今まであんな呑気な家族が王族でいれたのかもな)


(お父様も最後は戦士の顔だったな)



……。


思い出すと、また泣きそうになる。



「レア様……」


「お姉ちゃん……」



ミルキーはレアで呼ぶんだ?



「レア様はだって、国に帰るまでは魔学国民ですからね」


「はい、そうです」



ミルキーは優しい。


でもいつも前を向くことを教えてくれる。


優しく前を向かせてくれる。


この新天地で、私たちは強くなる。


マルくんが勇者らしく指揮を執る。



「じゃ、ここで何年修行するか決めようか!」


「僕は十年が良いと思うよ」


「その根拠はなんですか?」



アリカの問いにシルくんが答える。



「レア姫が成人するまでだから」



ああ、と全員が納得。


頼りになる七歳児。





沢山の思いを胸の奥に仕舞い、私たちは修行を始めた。


まず私はこの賢者の家の蔵書を読み漁る。


錬金術師の家なので錬金術関連が主体だが、魔法関連の情報も溢れるほどあった。


精霊との相互協力の話が面白かった。


基本魔力世界にある精霊が魔力世界から現世に出る為には強い魔力が必要である事。


その為外部から、この現世から魔力を使う事が必要で、現世側から力を掛けた方が精霊も簡単に此方側に来れる。


現世に出る事で精霊は活動域を増やせる。


また活動域が広がる事で精霊としての地位も高まる。


なので少ない労力で強力な魔法を放てる人が好き。


だから私の風魔法は結論として風の精霊の大好物なのだ。


精霊関連はこのくらいでいいか。



錬金術関連ではアイテムを異空間に保存する技術がすごく有り難かった。


あと魔力を込めると回転する機構はすごく役に立つ。


つまり魔力モーターだから私の中のおっさんが戦車を作る、とか言い始めた。


前世の記憶をかなり共有してるから分かります。


ないない、中二病二十七歳になっても完治しなかったんですか。


とりあえず最初の二年くらいはメイド二人を要塞にする。


最初に決めた通りだ。


その流れでシルくんマルくんカナムを強化。


おまけでタミヤ。


タミヤいたんだ。


最後に自分もはっきり無敵な力が欲しい。


私はあの気持ちの悪い魔王もどきを殲滅する事に決めた。


計画を決めた所で私は狩りに行く事にする。


シルくんとマルくん、二人の騎士が私を守ってくれるらしい。


二人には、二人でなら私に勝てるくらい強くなって欲しい。


私が暴走したら、止めて欲しいから。



「姫様が暴走したらキスするのが騎士の役目」


「きいっ!?」


「エアハンマー」


「うおっ、あぶっ!」



(最近この勇者様、調子に乗ってない?)



と魂は感じた。



(シルくんは可愛いもんですな)



まあいきなりエアハンマーは止めておこう。


賢者の家は一山越えれば海、近くに獣の多い森がある山間の家だ。


野生の食材の宝庫であり、前世の自分からしてこんな所に住みたかった、そんな場所だった。




この土地第一の獲物は、大猪だった。


エアブレットを放とうとすると突然走り出した。


これが野生の正しい反応だ。


自分にはち合わせて警戒も動揺もしないのは九割強敵、向かうべくもない敵なのだ。


会えば逃げるか殺す。


それが自然。


だからこそ、野生であるからこそ気兼ねなく放つ。



「エアブレット!」


「ぷぎいいいいい!!」



しっかりと一撃で仕留めた。


賢者の家第一の獲物、大猪、百キロ。



私たちが食べる十四キロを取り、残りを民に分ける。


骨など、食べられない部位も多い。


毛皮とか。


狩った獲物は全て余すところなく使う。


毛皮も加工できる。


少しにやけた。


その時、前世の私と今世の私は、確かにシンクロした。


民のために狩猟をしよう。


楽しいかも!



前世の私の世界では狩りは残酷と言われる事もあったらしい。


私たちの世界では狩りは生きるために必須だからそんな事言われたら生きられない、と思う。


前世の私にしても一生牢獄暮らしの家畜は愛する飼い主に売られ、殺され、その挙げ句食料の三割が廃棄される大量消費社会の犠牲者で。


どっちが残酷だよ、と思っていたらしい。


つくづく思うけどこの人本当にこの世界向きの性格してるなあ。


でも今の私にはそんな事はどうでも良い。


美味しそうなトンカツならぬイノカツが出来たからだ。



「うわ、なんか凄く美味しそうですね」



アリカは最近前に出てくる。


何故か私大好きになっている。



「トンカツ、トンカツぅ!」



シルくんは明らかに前世の魂が叫んでいた。



「レア様はほんと全部自分でやっちまうんだな……美味そう」


「これは実に贅沢な料理ですね」



マルくんは私に万能属性幼女と名付けた時と同じ様に溜め息。


ミルキーは揚げ物に感嘆した。



「姫様、手伝いましょう」



タミヤが私の手伝いをしてくれる。



「カナムが手伝ってくれてますから良いですよ、座ってて下さっても」


「そうですか、カナムさんは料理に興味が有るのですか?」


「そうですね、私は自ら料理する事が有りませんでしたので」


「料理においても発明家な姫様の料理は学ぶにも思考が少し斜め上なのですが、やはり為になりますから」



それを聞いてミルキーはうずうずし始めた。



「姫様のために料理も一流なメイドになりたいです!」


「うわあっ」



揚げ物をしているのに抱きつかれたら危ない。


ミルキーもミスはするんですね。



(いや、海上を走る王女を追いかけて溺れ死ぬなんて間違い無くドジっ子属性だけどな)



ともかくこの日からミルキーは料理修行に剣術修行にと本当に頑張り始めたのですが。


ドジっ子ではあるが頑張り屋。


しかも慈愛に満ちたお姉ちゃん。


私にとって最後に残った家族なんだ。


絶対要塞化してみせる!



(幼女の愛が斜め上)



おっさんはため息を吐いた。



さあ、イノカツを頂こう。


このイノカツ、一番苦労したのはソースだった。


この世界で食べたソースは前世の物と全く味が違った。


なのでトンカツ用に一からソースを作ってみた。


トマトを煮込んで甘味にワインを加えて胡椒を入れて、香草も勘で入れる。


なんとか甘辛いソースっぽい味になった……所で気付いた。


何も前世のソースを再現しなくてもイノカツに合うソースを考えたら良かったのだ。


まあこれはこれで美味しいので。


大分濃厚になったソースをイノカツにかける。


キャベツにカイワレのようなものを乗せて、ミニトマトを乗せる。


キャベツやトマトは前世の野菜と殆ど同じだ。


猪や鹿も若干魔物が入ってるが古くから食べられている物らしい。


まあ、グレーターデーモン肉も食べられるんだから魔物だから差別する事も無いか。


神官はどうやってグレーターデーモンを食べられると判断したんだろう?


魔力検査?のような物が有るのだろうか?


知りたいな。


まあ十年以内にジビエマスターになれば良いや。


さて、頂こう。



「いただきます!」


『いただきます!』


皆興味深そうにフォークをつける。



「あ、これは……」


「美味いですね!」


「ほう、こう言う味になるわけですか、興味深い」


「手伝っていた間香りがたまらなかったのですが、まさかこれほど美味とは」


「こっちでこれ食べられるとは……」


「美味しいね、シルくん!」



皆が美味しそうな表情なのを見ながら、もりもり食べる私。



「万能属性なのに時々本当にただの幼女みたいだよな」



マルくんが妙に感心していた。


幼女ですが。



「ミルキーお姉ちゃん、美味しい?」


「はい、姫様の料理は本当に美味しいです」



ミルキーが頬を染めて笑顔になる。


それを見て私は堪らなく嬉しくなった。



そんな風に賢者の家での暮らしを楽しみ始めて一週間、魔学王様から呼び出しが掛かった。


私はそろそろ生活資金を貯える為に冒険者ギルドに登録する積もりだったのでマルくんとミルキー、あと何故か付いてきたシルくんの四人で魔学まで、飛んだ。


冒険者ギルドの登録は明日にして、王城に向かう。



「レア様……」


「うん、分かってる」


「恐らく深森の調査報告だな」


「深森の……」



シルくんは動揺していた。


また私が泣くと思っているのかも知れない。


でももう私は前に踏み出したのだ。


心配は、いらない。


魔学王様の城に着くと騎士たちは直ぐに私に気付いた。


まあ王城に乗り込む五歳児は珍しいですしね。


相変わらず本が多い魔学の城。


昔思ったようにいったい何冊あるのだろう、と思った。


昔と言っても秋祭り前だからまだ半年と少しか。


たったそれだけの時間で随分環境が変わってしまった。


魔学王の前に案内される。


王様は慈しみ深い眼差しで私を見た。


少し心臓が跳ねる。



「レア姫や、分かっているかも知れぬが、深森の調査が終わった」


「はい」


「心して聞くがいい」


「大丈夫です」



それから王は話し始めた。


深森の国は町も城も完全に瓦礫になっていた。


巨大な魔王もどきやドラゴンまで死体が転がっていたが、騎士たちもそれは凄惨な戦いをした事が分かった。


剣を突き立て立ち上がった姿勢のまま亡くなった騎士の姿も有った。



そして。



王は王妃を庇うようにして亡くなっていた。


その前には数体の魔王もどきとドラゴンの死骸、そして三人の騎士の遺体が横たわっていた、と。



その後ろの王城は更地になり、更に禁忌の深森にまで踏み込んだ跡があったらしい。


禁忌の深森侵攻のため深森の国を襲ったのは間違いが無い。


報告を聞いて、最初はまぶたが熱くなったが、お父様たちが必死に戦いながら愛を忘れなかった事が分かって、誇らしかった。


誇らしく感じれた。



「それでな、レア姫」


「王が、騎士たちが倒した魔王に近しき魔物や竜の遺体は素晴らしく価値の有る物だった」


「それらを我が国で買い取り、また他国に輸出する事とした」


「更に王国の資産も回収出来るだけ回収させてもらった」


「これらの資金で深森の民たちがここに町を作って生活の基盤を固めても、尚余る資金がある」


「これはレア姫の家族がレア姫に残したものだ」


「およそ一千億G……我が国で預かっておるのでいつでも引き出しに来ると良い」


「一千億!?」



マルくんとシルくんがびっくりしたが国家資産は数兆有ったので殆ど失ったのは間違い無い。


国民のお金なのでインフラなどに使ってもらう物なので額が多くても個人で受け取る訳では無いのだ。


その辺りを説明した。



「まあそりゃそうか、国家だもんね」


「だよね、災害なんかで数十億も被害が出たりするんだからそれくらい貯えがあってもおかしくない」


「資産の内訳には土地なども含まれますからね、流用できるお金はそれほど多く有りませんでした」


「レア様は経済にもお詳しいんですね」


「いえ、こればかりはお父様に習ったくらいしか分かりません」



とにかく、私たちの深森は私たちの手で復活出来るらしい。


お父様たち頑張った!


うん、頑張ったよ!



そして、魔学王国によりお父様とお母様、つまり深森王と王妃、重鎮たちとの告別式が、盛大に営まれることになった。






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