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王女になった  作者: 居茅きいろ
6/44

六話・泣きそうになった・前編

9/16書き直し

春が来る。


悩みは多い。


五歳児になってもやはり私は幼女だし、まわりも甘やかしてくる。


ちょっと反抗期かも知れない。


ミルキーには自分から甘えているが。


シルくんやミルキーの誕生日も盛大にお祝いした。


騎士や冒険者たちのトレーニングも監督している。


錬金術の研究もかなり進んで、ミルキー用エアブレットシューターを完成させた。


シルくんが使うには若干威力が弱いので、私はミルキーを錬金兵器で要塞化する事を考えた。


このシューターは第一号、セーフティーを引けば弱いエアボールの威力になるため、護身用としてもばっちりだ。


ミルキーは「私も姫様を守れる!」と非常に喜んでくれた。


ただ乙女の誕生日、しかも成人になる十五歳の誕生日にプレゼントが銃だけと言うのは流石に無いな、と思ったので、私は何夜か徹夜して結界発動ペンダントを作ったのだ。


上手く魔力防御結界を自動発動してくれる優れた防具ができた。


見た目も魔法物質特有の虹色がかった緑色で、美しい。


それを周りの皆が国宝級とか言い出して、もっと作って欲しいとお父様に頼まれた。


とりあえず両親のだけで、と思っていたのに褒賞用として十個。


一つ作るのに二週間はかかる。


流石に半年も拘束される訳にはいかないのでメイドたちに彫金を手伝わせたら自分たちも欲しいと言い出した。


しかし国王の褒賞に使う物をメイドに渡す訳にもいかないので、彼女たちに与える報酬に頭を悩ませていた。


五歳児になってもやっぱり悩める幼女なのだ。


前世の意識に相談する。



(料理でも作ったら良いんじゃね?)



早速料理してみることに。


塩や胡椒などの調味料、ワインビネガーなど、ちゃんと前世と同じレベルの物が有ったので、後は転生チートを発揮する。


家族とメイドたち、後は近衛騎士や騎士団長さん、聖騎士長さん、シルくんマルくんの分を作る。



(シルくんマルくんってコンビ名みたいだな)



料理人たちに指示して唐揚げを作ることに。


料理人たちは食べたことがない唐揚げを美味しい美味しいと摘まみ食いしていく。


量が足りなくなる。


また揚げる。


幼女に揚げ物は結構大変だ。


まず高さが足りない。


不安定な足場で時々跳ねてくる油を結界で跳ね返す。


魔法って便利だな。


サラダを作ってスープを作って……後は魚料理を何か……。


鯛?のカルパッチョを作ったら深森は海が遠いので魚を生で食べるのが珍しい事らしい。


一応浄化魔法。


生ハムとメロンもどきで生ハムメロンを作る。



(生ハムとかソーセージは有るんだよな)



なんとか料理人たちに働かせて全員分を作った。


しかし唐揚げだけは私からの報酬なので下処理は任せたが一人で味付けして揚げる。


ごま油とにんにく、塩胡椒に小麦粉、あと日本酒は無いからワインとかブランデーとか洋酒だけで旨味調味料などはもちろん無かったが、もも肉だから旨味は大丈夫だろう。


最近部屋にこもって彫金ばかりしていたから幾分気が紛れた。




さて、出来上がった料理を振る舞う。


シルくんが「あたしは料理も出来なかったのに」とか呟いたのは聞かなかった事にしよう。



(趣味人の一人暮らしは色々成長するのだ。 モテないけどな)



アツアツでジューシーな唐揚げが出来た。


前世の自分でも実に五年ぶりの味、私は初めての味だ。


思わず「ん~っ!」と声が漏れる。


皆の反応も上々だった。


しかし問題が。



「また食べたい」



シルくんがそう言ったのを皮切りに全員が「もっと料理を!」と死ぬ寸前の哲学者のような叫びを上げ始めたのだ。


世界一忙しい五歳児は自ら仕事を増やしてしまったのだった。


マルくんに「万能属性幼女」と渾名を付けられる。


二つ名か……。



「忙しいです、お姉ちゃん」


「すみません姫様、私がペンダントを見せびらかしたばっかりに」


「それはいいです、もっと見せびらかしていいです」



それはミルキーが私の特別だから、その証だから。



「しかし、忙しいです」


「何かデザートでも食べに行きますか?」


「いや、料理人さんたちにレシピを教えて作って貰いましょう」



まずフルーツヨーグルトを作る。


簡単だ。


切ったフルーツにジャムとプレーンヨーグルトをかけて冷やす。


冷やすのに一旦圧縮して熱を逃がした空気を再び膨らまして冷気を作り、結界で閉じ込める。


冷蔵庫も作ろう。


間違いなく国宝になるが。



ホットケーキも焼く。


ベーキングパウダーがない。


卵と牛乳、小麦粉、砂糖だけ……上手く焼けるかな?



(やっぱり材料に色々制約があるなあ)



蜂蜜をかける。



(蜂いるんだな)



そして紅茶を入れる。


さて、ミルキーと食べよう。


後ろでは料理人たちがすごく感心していた。


そしてまた五歳児の名声が、そしてハードルが高くなる。



「凄く美味しいです、姫様」


「うん、我ながら良くできました」


「姫様は本当に凄い魔法使いですね」


「これは簡単です、料理はお姉ちゃんもできますよ」


「勉強します」


「お姉ちゃんと二人で勉強したい」


「はい、お願いします、ふふっ」



しかし、こうやってのんびりできる日々は急に終わりを告げる。





私がやっとペンダントの納品を済ませ、次の研究に取り掛かった頃。


一人の兵士が騎士たちを振り切って駆け込んできた。


海から魔物の船団が現れ、私たちの国を目指し進軍を始めた、と言うのだ。


その兵士の身分を確認すると確かに海際の砦の監視に当たっていた兵士で、お父様は国民を魔学の国に避難させることを決めた。


素早い判断だ。



私も海際を見に行く。


圧縮した空気をレンズにして遠見を使う。


魔物らしき黒い影と土煙……大軍だ。



私も騎士たちを手伝って町の人たちを誘導する。



(やはりあのグレーターデーモンたちは偵察をしていたのか?)



町を走りながら、前世の意識と一緒に考える。


それなら私に勝てる戦力を用意している可能性が高い。


早く皆を避難させないと。


シルくんとマルくんも家族や民たちを護衛して旅立つことになった。



「レア姫様、必ず戻ってきます」


「ああ、俺も」


「いえ、魔学にいてください……勝てなかったら逃げますから」



私は笑って言った。


不安は心に渦巻いていたが、まだ現実感が無い。


五歳児には厳しすぎる現実が、何故こうも押し寄せるのか。


結果、どこか恐怖に慣れてしまっていないか。


お父様たちや騎士の人たちはどうなるのだろう。


戦うのだろうか?


私が先頭に立たなければならない。


私が負ければ、皆やられてしまう。


あの魔王もどきが何体も居れば、私以外誰も勝てる筈がない。


私はどう戦うかシミュレーションしながら城に帰る。



「お父……様……?」



思わず息を飲んだ。


そこに居たのは何時もの温かい微笑みを湛えたお父様ではなく、鎧を纏い厳しい軍人の顔をしているお父様。


お父様は私の顔を見るといつもの優しい顔に戻って、頭を撫でてくれた。


大きな手は、私を安心させてくれる。


しかし、私はそのお父様の言葉を聞いて、凍り付く。



「レアも魔学の国に逃げなさい」



それは……。


それはあの大軍に自分たちだけで立ち向かうと言うこと?



「無理です……お父様……」



震える私を見て、お父様の目は険しくなる。


後ろからお母様が私を抱きしめた。


そしてお父様は私を撫でて……。



「催眠……」



お父様は王族であり、常人より遥かに高い魔力を持っている。


いくら私の魔法防御が強靱でもその全力の魔法を


防ぐ術は無かった。



(畜生)


(畜生。 死ぬな)


(生きろ、ふざけんな)


(死ぬんじゃねえ……)


(愛してる)





その王は、誰よりも民を愛していた。


そして民に愛されていた。


王は年老いてから玉のような娘を得る。


その娘を心から愛し、育てていく。


その娘は神童であった。


娘を守るために、王は心を尽くす。


しかし娘はやんちゃで、よくトラブルを起こした。


その度、泣き虫な娘は泣いて謝る。


可愛くて仕方なかった。


愛しくて仕方なかった。


だから魔物により国を攻められた折り娘を眠らせ、娘を死なせないために、傍らに居た二人のメイドと一人の騎士に願う。


我が子を生かして欲しい、と。


願わくば王族などと言う縛りに捕らわれさせず、自由に生きさせて欲しい、と。


愛していると伝えて欲しい、と。



四人を見送り王は城を出て指揮を取る。


その傍らには王と娘を愛した妻の姿。


そして王に忠誠を誓う三人の騎士がいた。


前方、土煙が巻き上がる荒野。


幾つもの黒い塊が、地響きを立てて押し寄せて来る。



王の胸には、愛娘が自分で作った魔石のペンダントが、哀しげに揺れていた。





ミルキーは我が子のようにレアを抱いて走る。


ただ只管。


ミルキーは体が強い方では無かった。


しかしやんちゃなレアを追い掛けて走り回る内に、身体強化の魔法を覚え、魔力も魔導師ほども高くなった。


身体強化の掛かった足腰で、しかし子供一人抱えて走るのは、簡単ではない。


アリカとカナムはミルキーに付いて走る。


しかしもうすぐ日が暮れてしまう。


アリカはついに、ミルキーを止めた。



「野宿の準備をしなければ!」



夜の森、しかもグレーターデーモンの出たような森を走るのは危険極まりない。


二人は何とかミルキーを止めた。


野宿を始めるも煙を出す訳にはいかない。


五月になってもまだ夜は寒いのだが。


四人で体を寄せ合った。


眠り続ける姫を温めるために。


魔物がいるかも知れない。


凍えて震えるのか、恐れて震えるのか分からなかった。


長い長い夜が始まる。


もう姫にはメイドたちを雇う力がない。


しかしそんなことは関係無かった。


ミルキーはレアに愛されていたから。


ミルキーもレアを愛していたから。


アリカは母の命を救われた。


カナムは騎士として育てられ、自ら救われもした。


そして忠誠を誓った王に願われたのだ。


三人にレアを裏切るつもりも、理由も、何一つ無い。


やがて寒い夜は明けようとしていた。


目指すべき東の空が白む。


その時、アリカの悲鳴が上がる。




狼だ。


何十匹もの狼が四人を囲んでいる。


ミルキーはレアにもらったエアブレットシューターを一発、全力で放つ。


一匹倒せば逃げるかも知れない。


エアブレットの轟音で逃げるかも知れない。


しかし若干魔物化した狼たちにはそれは脅しにならなかった。


カナムは騎士として三人を守る覚悟を決める。


襲い来る狼の群。


一匹、また一匹と倒すも、ミルキーの悲鳴が上がる。


狼が飛びかかってきたのだ。


しかしミルキーにはレアの加護があった。


狼は見えない壁に弾かれ、落ち、ミルキーの牙、エアブレットを腹に受ける。


しかしどんどんと包囲が狭まってきた。


アリカは無力に震える自分が悔しい。


ただ願った。


姫様、起きて下さい、と。


ミルキーに狼が飛びかかってきた。


アリカは叫ぶ。



「ミルキー!!」


「大丈夫、大丈夫よ!」



その声は大丈夫では無い。


段々と攻撃は熾烈を極めてくる。


カナムの息も上がり始めていた。


アリカは震えながら呟く。


姫様、姫様と。


その時ミルキーが狼の攻撃に怯み、尻餅をついた。



「きゃっ!」


「ミルキー!」



ミルキーの上に狼が飛びかかる。



「いやあっ!」



ミルキーの体に掛かる魔力防護壁は狼くらいでは破れない。


しかし、身動きも取れなくなった。


その隙に狼はアリカの靴を噛む。


咥えて引きずり出そうとする。



「きゃああああ!!」



狼たちは遂に獲物にありつける、とばかりに集まりアリカの脚に次々噛み付き、引っ張る。


カナムは必死にそれを切り払う。


体制を立て直したミルキーも狼を倒そうとするが、距離が近すぎてエアブレットで倒すのが難しい。


ついにアリカは引きずり出され、何匹もの狼がアリカにのしかかる。



「いやあああああああああっ!!」



ミルキーの悲鳴。


その時。



「誰だ、俺の女を泣かしてるのは……」



力強い男のセリフが響く。


しかしその声のトーンは、幼女のそれだった。





私はエアブレットの「威力が高すぎる」と言う弱点を知っていた。


全ての時が止まった世界で、極細の空気の針がエアブレットのそれより高速に十数匹の狼の眉間を貫いていく。


新魔法、エアニードル。


狼たちが全て頭蓋に穴を開け吹き飛んでから、私は魂からの声を上げた。


「誰だ、俺の女を泣かしてるのは……」と。





三人は何が起きたか分からない。


アリカなどはもう死ぬと分かり最後に唐揚げを食べたかった、と呟いていた。


カナムは一斉に吹き飛ぶ狼を見て目を丸くしていた。


ミルキーは「俺の女」と幼女に言われて、不覚にも赤くなってしまう。


それを見てレアは思った。


「あ、やっちゃった」と。




私が前世の意識を実体化できるなら引きずり出してエアブレット五十発くらいぶつけて許してやるだろう。


それくらい恥ずかしかった。


私の大切なお姉ちゃんに手を出した人は許しません、と言う積もりだったのに。


ただ、魂から出る言葉はまだ男言葉になるのだ。


うう、お姉ちゃんが真っ赤になっている。


勘違いだからね、お姉ちゃん!




目を覚まし、敵を蹴散らし、アリカの傷を回復した後。


やっと自分の状況が分かった。


ただ朝日を見つめながら考える。


考えたくも無かったけれど考えるしか無い。


城は、国は、民は。


お父様とお母様は……。


ミルキーはなんとか気持ちを立て直し、お父様の言葉を伝えてきた。


生きろ、自由に生きろ、愛している、と。


自由に……。


確かに、考えたくは無かったが滅びた国を建て直すのは尋常なことではない。


悩んだ。


今から城に戻って……とも考えたが、もし両親が悲惨に殺されている場面など見てしまったら、もう私は人間でいる自信がない。


それだけはできない。


まだ自分には大切な家族がいるのだ。


家族を悲しませることだけは出来ない。


そして考える。


両親や、騎士たち、そして町に残った人たちは、私がもっと強ければ死ななくて済んだはずだ、と。


また私は、罪を犯した、と。


戦いの中で自分の無力を感じた近衛騎士、ジェイの死。


それを忘れたのか、と。


私はやっと前世の意識が森の奥深くで私に言ったことの意味が分かった気がする。


大切な家族たちといつまでも一緒に。


その願いを叶え、その自由を得たいなら。


強くなければ、ならなかった。


私の罪は弱かったこと。


その罰は徹底的に己を鍛え上げること、だ。


その考え方は五歳らしくないし、五歳には重すぎる。


私の心は、振り返ったらあっさり折れてミルキーに抱きついて泣き続けるだろう。


でも私の魂は呟く。


前に進め、と。



まず私は火を起こす事にする。


寒い。


空気のボールをビーズほどに圧縮し、集めた枯れ木に高速回転でこすりつけた。


摩擦熱ですぐに火が着く。


次に食べ物を探す。


水は辛うじてカナムが水筒を持っていた。


足りなくなれば川の水を集めて浄化魔法を掛ければ良い。


木を切り倒し、いや、吹き飛ばし、真空剣で切り出してコップや低い机、串などを作る。


見ているミルキーたちは吃驚していた。


カナムは「まあ姫様だし?」と分かった様な事を呟く。


そうだ、注意しておこう。



「私はもう、姫ではないですよ」


「え、でも……」


「姫様は、姫様です」



カナム、ミルキーからの抗議。


私は頭を掻く。



「レアって呼んで下さい、お姉ちゃん」



必殺お姉ちゃん。


ミルキーはしばらく「あ~」とか「う~」とか「でも姫様だし」とか言っていたが……。



「分かりました、レア様」


「ミルキー!?」



折れたミルキーにアリカとカナムは驚いた。


様、もいらないけど、いきなりは無理か。


そして私は狩りに出る。


幾らか前世の記憶がヒントをくれた。


獲物を探すには獣道を探すこと、そして足跡を見つけ、ねぐらを探すこと。


でもここは魔法世界だから……。


私は気配を消し、森の中を歩く。


そして広域魔力探査を掛けた。


微弱な生命反応有り。


獣道を歩いていくと、居た。


その鹿は私を見ても逃げない。


眼前に居るのは五歳の幼女である。



敵になりえない、と考えたのか?


怯えて動けなかった訳ではない筈だ。


魂から言葉が漏れた。



「自然を舐めんじゃねえ」



幼女の声ではドスは利いてない。


しかし鹿はそれが自分より格上の猛獣である事に気付く。


気付いた瞬間には、額に穴が開いているが。



女四人に鹿は多かったかも知れない。


勿体ない事をした。


(はらわた)や余った肉は土に埋めるしかない。


まずはツタを編んで石と鹿を繋ぎ、石を木に投げて枝を越えさせて身体強化で木に掴まりながら引っ張り、鹿を吊し上げ、ツタを木に巻き付けて固定。


先ずは血を抜く。


腹を裂くのだが少し身長が足りない。


真空剣を長めに作り切り上げ、空気を使って(はらわた)を引き出す。


五歳には多少きつかったが、食べなければ生きられない。


仕方がないのだ。


肉を切り出す。


内臓は美味しいが流石に疲れた乙女たちの心にはショッキングだろう。


肉を先程倒した木から削り出した串で刺す。


ミルキーたちに解体を見せたくなかったので森の奥で全ての解体を済ませた。


残骸を土に埋めて、皮を袋代わりにして串に刺した肉を持っていく。



ミルキー、アリカ、カナムの三人は鹿を穫り解体までして帰ってきた元王女を見て溜め息を吐きつつも思う。


この人について行けば食いっぱぐれはなさそう、と。


火は肉を炙り良い香りの煙を出す。


これに引き寄せられる魔物をミルキーたちは恐れていたから火は使わなかった。


しかしレアならきっと一軍くらいならサラッと殲滅しそうに思える。


だから暖まった。


安心して、心から暖まった。


三人が頼りにしているのは、幼女だが。


サバイバーでも幼女だが。


最強でも幼女だが。



「塩とか胡椒は無いですよね」



無いと思いつつ私が呟く。



「あります」



アリカが袋に入った塩と胡椒をポケットから出した。



「なんで持ってるんですかアリカお姉ちゃん?」


「いや~、私レストランとか行ってもついつい味付けしちゃうタイプで」


「ああ、迷惑なタイプの人ですね」


「姫様!? いや、レア様!?」



でも今回は助かった。


四人でジビエを味わう。


野生の鹿肉を食べて分かった。


これはいつも食べてるお肉だ。



「深森の国の料理の材料は大体は民の献上品でしたので、ジビエも多かったのですよ」


「そうなのですか……」



王家と言えば大抵は家畜の高級品だと思っていた。


前世の記憶では自分が狩った肉と同じような味とは思ったけれど、単に畜産技術が進んでないのだと思っていたのだ。



「美味しいですね~」


「はい、本当に……流石は姫様」


「ミルキーお姉ちゃんは美味しいですか?」


「ええ、とっても」



どうやら皆満足してくれたようだ。


ご飯が終わり火の処理をすると私は三人を並べて立たせる。


風を纏わせて……。



「えっ、ちょっ、姫様!? レア様!?」


「こ、これは!」


「レア様の魔法で飛んでいくんですね」


「はい、お姉ちゃん」



三人が目を丸くしているが、更に急加速!


一気に魔学の国が見えてくる。


難民たちがまだ国に入りきれず、森ではキャンプの火が上がっていた。



(国民ほぼ全員が逃げてきたんだ。 混乱もするし経済の観点から見ても良くない事態だろうな)



前世の意識の呟き。


民たちの事は私が責任を負わなければいけない。


森を開墾し畑を作る許可を得たい。


それくらいは出来る筈。


私たちが民の最後尾に差し掛かると二人の声が聞こえた。



「姫様~! おいシル、姫様だ!」


「僕だって見えてるよマル!」



二人の元に降り立つ。


後ろの三人はバランスを崩しながらも着地。


民たちが私を見つけて大騒ぎが始まる。


失敗したかな?


民たちはただただ姫の無事を喜んだが、私は言わざるを得なかった。



「私たちの国は、滅びました」



口にして、痺れた。


泣きそうになった。


民たちも動揺した。


「まだ俺たちがいるぞ!」と言う声。


それは間違っていない。


だが……。



「これから皆で魔学の国のお世話になるのです。 迷惑を掛けることは許されません。 何時か国に帰るのだとしても、暫くは皆さんの王は魔学王様となる」


「私のことを姫と呼んでいては魔学王様への忠誠心も湧かないはず。 今から私を呼ぶ時は、レアと、名で呼んで下さい!」



(五歳にしてこの堂々とした演説……)



私の言葉に民たちは拍手を始めた。



「レア様~!」


「おお、レア様~!」



民たちが沸く。


やがて騒ぎに気付いた騎士たちが迎えに来るだろう。


それまで私は少しシルくんとマルくんと話をする。



「そう言う訳ですので」


「分かった、レア様」


「了解です、レア様、名前で呼べて嬉しいです」



シルくん?


ちょっと恥ずかしいです……。


更にシル少年の追い打ち。



「僕たちをレア様の騎士にして下さい!」


「え、ええっ、えっ」



随分久し振りに狼狽した気がする。


う、なんだか嬉しいのですがこれは何ですか?



(知らねえ)



おっさん即答。


何か面白くなかった模様。


は、恥ずかしい。


でも……。



「分かりました、騎士など持てる身分では有りませんがそれを言えばミルキーたちも同じ……二人は今日から私の騎士です」


「よっし!」


「よろしくお願いします、レア様!」



後ろの三人も赤くなっている。



「う、羨ましい……五歳にしてこの女子力……」



アリカが呟く。


前世おっさんでも女子力高いんですかね?


とにかく騎士三人、メイド二人の大所帯で私たちは魔学の国に入国する。



(この五歳の宣言は伝記にでもなるんじゃねえの?)



と、おっさん。


伝記はちょっと、恥ずかしい。



魔学の騎士たちは私を見つけると一直線に駆けてくる。


私は魔学王に対して甘えが有ったかも知れない。


ひょっとしたら混乱の責任を取って打ち首とか、有り得ない話ではないかも。



「だ、大丈夫でしょうか?」


「いやいや、レア様自分の人気知らないの?」


「え?」


「レア様死なせたら魔学は半日で滅びるよ……俺も居るし」


「ええっ!」



マルくんはちょっと大袈裟な所があるが、暴動の可能性があるなら打ち首は難しいか……。


少し安心した。



「深森の姫、レア様、お待ちしておりました!」


「え、ええ~っ!?」


「ち、違いましたか?」


「え、いや、違います、違いません、レアです!」



動揺してしまった。



(何だかちょっと弱くなったか?)



前世の意識が呟く。


確かにもう少し自信に溢れていたかも。


過信禁物ですけど。



「国王陛下から姫の保護を最優先にするように言われておりました! さあ、城においで下さい!」


「は、はい、分かりました」



私たち六人が町に入ろうとすると後ろから一人叫びながら付いてくる。



「姫様~、いや、レア様~!」



「ああ、そう言えばいたっけ」


「酷いっ、姫様、レア様!」


「あ、ごめんなさい、口に出してました」


「謝るのそこですか!?」



神官タミヤ、その人である。


良かった、生きてて。



「マーサさんもいますよ!」


「本当ですか? 良かったですねアリカ!」


「なんか対応違いませんか!?」


「お母様!」



アリカは大切な母と無事に再会した。


魔学の騎士たちに待っていてもらう。


二人の涙に貰い泣きして騎士たちは号泣していたけど。


私は……涙が枯れたかの様に泣けなかった。


前世の意識に聞いてみる。



(それを言ったらお前は立ち直れなくなりそうだ)



と、言う。


だけど聞かなくてはいけない。


そんな気がした。



(言うぞ)


(お前自身は両親や家族同然の騎士たちに死なれているからだ)



確かに。


私は。


いや、私はもう誓った。


振り返らないと。


だから今はこの二人を祝福して泣くのだ。


五歳なんだから、泣いても良いんだから。


でも、涙はどうしても出てくれなかった。






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