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王女になった  作者: 居茅きいろ
4/44

四話・五歳になった・前編

おっさんの説教回。


3/19書き直し。

お祭りが終わり季節は晩秋に向かう。


冬にはたくさんの祭りがあるが一番の祭りは年明け七日の私の誕生日。


その前にある年末の様々なイベントの準備のため、お父様もお母様もそれはもう忙しくしている。


私は二人のバッテリーが切れないようにエネルギー=娘成分を補給して回った。



「おお、レアや!」


「お父様!」



どれほど忙しくても私を見つけたら抱きしめてくれるお父様。


前世の意識の中でお父様株の株価が反騰した。


お父様大好き。


四歳の私がそう思うのに前世の意識は文句を言えるはずもなかった。


だが仕事の邪魔をしてはいけない。


私はお父様と別れて王宮の中、お母様を探す。


ミルキーたちに話を聞くとお母様は町の女神教会に冬の女神祭りの相談に行っているようだ。


私はミルキーにお願いしてお母様を探しに出ることにした。



(四歳児の行動としては普通だが王族としてちょろちょろ歩き回るのはどうなんだ?)



と前世の意識が聞いてくる。


護衛がいれば気兼ねする必要は無いはず。


むしろ前世の方がそう言う、自由にやるスタンスだったのではないか、と問い返す。


この頃、前世の記憶の大半は今世の脳に移され、あまり前世の意識にアドバンテージは無かった。


しかし、いつか消えると思うと、少し怖くなる。


そして子供の無邪気な欲望を前世の意識はもう押さえかねていた。



(自由には責任が伴う。)



前世の意識はそう呟いた。



カナムに護衛を頼み町に出る。


教会までは近い。


そもそも王族は女神によってその地位を与えられた事になっている。


幾ら信仰が薄くなっても儀礼的には教会との関係は断てない。



教会へと辿り着く。


教会入り口の騎士たちが私に気付いた。



「おお、姫様だ!」


「うおっ、初めて本物見た!」


「マジかよ、姫様は王国祭であんな派手な演出してたのに!」


「俺その時裏方だったんだよ~!」



何やら騎士たちは喚いている。


入り口にいるのでスルーする訳にも行くまい。



「お母様はこちらに居ますか?」



私の子供らしからぬしっかりした口調に何故か騎士たちはほっこりしている


すぐに「どーぞどーぞ!」と言って中に案内される。


普通に子供扱いだ。


当たり前だけど。


お母様はお祈りと大神官との会談を終えてどこかの一般のおばちゃんと井戸端会議していた。


この辺りが王族らしくない。


ミルキーの胸から飛び出した私を見つけると抱き上げてくれる。



「うちの娘です」


「あらあら、噂の姫様ですわね!」



(うちの娘って……)


前世の意識は狼狽するが私はお母様に抱かれて、満足。


その時前世の意識は何事か考えていたが、記憶の共有を拒否される。


初めてのことだ。



(この後ミルキーを振り切って森に遊びに行こう)



と言う。


私は両親の温もりで寂しさも癒えていたので、この提案に乗る。



「あ、姫様!」


「お、お待ち下さい!」



ミルキーは交わすがカナムがいるのを忘れていた。


なかなかに速い。


撒くのは訳がなかったが、適当に手加減して追いかけっこを楽しむ。


東の森に入っても付いてきたので少し速度をあげ、森の深くまで行く。


木の上を飛ぶように移動していくと足元に鹿や熊、それにいくらかの魔物が見える。


私は少し疑問を感じていた。


今までこんな森の奥に来たことはない。


前世の意識が私を動かしているのだ。


少し怖くなってきた。


私が着地すると前世の意識は言った。



(これが俺の自由の形だ)



そして急に体が重くなる。


今まで無意識に使っていた身体強化が解かれていた。


暗く、寒さを感じさせる森の奥。


四歳の私は今まで家族の温もりに甘えていたのに、急に襲ってくる孤独を感じていた。


そして恐怖。


魔法が使えない。


こんな深い森の奥で。


さっき見た野生動物や魔物を思い出す。


前世の私は語り始めた。


少しずつ私に意識を流し込んできた。



(自由には責任が伴う)


(野生動物は家畜と比べれば自由だ。 しかし食糧は自分で探さなければならない)


(更に生存競争に曝される)


(生きることが、とても難しい世界)


(しかし彼らは家畜に比べて圧倒的に、自由)


(生と死の世界。 それこそが自由の対価)



私はたまたま最強の生物になったので食物連鎖の一番上に居たためにそれが分からない。


今の恐怖こそが自由の姿なのだ、と。


自由は好きだ。


でも限度がある。


我が儘になってはいつかきっと痛い目を見る。


自由と身勝手を取り違えてはいけない。


自然をよく見れば、それは分かるはず。


魔力は未だに前世の意識の手にある。


私の中の恐怖感はどんどん高くなる。


その時。


ガサガサと茂みが揺れる。



「うわああっ!」



私はすっかり涙目になっていた。


茂みから、魔物が現れる。


私は今まで魔物と対峙したことが無かった。


その魔物は魔力を纏いながらこちらを睨む。


恐怖。


ただ恐ろしい。


私は魔力を返すよう前世の意識に訴える。


しかし何も帰ってこない。


もしかしたら何らかのハプニングが起こり前世の意識と共に魔力を失ったのかも……。


ど、どうしよう。


に、逃げなきゃ……。


目の前の真っ黒でぶつぶつな肌をした巨大な牛のような顔の悪魔が私に手を伸ばし近付いてくる。


逃げなきゃ!


悪魔の脇を転がるように通り抜ける。


逃げなきゃ、逃げなきゃ……!


お父様、お母様、ミルキー、アリカ、カナム、タミヤ……。


シルくん……!


死んだら、どうなるの?


もう皆に会えなくなる?


それに肯定の声が返る。



(だろうな)


「!?」


「何ですか!」


「いるじゃないですか!」


「魔力返して!」



前世の意識は拒否。



「この陰気男! オタク! 半ニート! 変態!」


「童貞!」



前世の意識の拒否感が更に強くなる。


息がもう上がってきた。


悪魔は私を余裕で追ってきている。


どうやらいたぶって遊ぶ気のようだ。


私はただの四歳児だ。


逃げきれるわけがない。


前世の意識はまた呟く。



(地獄のような目に遭わされるかもな。 悪魔は魂を食うと前世では言われていた)


(もう転生できないかも知れない)



少し焦りの混じった声でそう呟く。


もうお父様やお母様やミルキーやシルくんに会えない?


嫌だ、嫌だ死にたくない!


もう倒れそうになったその時、眼前の茂みが揺れ、熊が現れた。


この熊はただの動物である。


追ってくる悪魔とは比べ物にならないほど弱い。


しかしその巨体。


圧倒するような獣臭。


巨大な頭と顎が眼前に迫る。


後ろから迫る悪魔は既に私に追いついた。


この場で一番弱い私にはしゃがみ込み、震えるしかできない。


その時突如、反射強化が発動する。


全てが止まってしまうようなスローモーション。



(自由の恐ろしさ、分かってくれたか?)



私は頷く。


力がない者には自由を得ることはできない。


でも逆に不自由な環境は自分を守ってもくれているのだ。


それでも自由を求めるなら、覚悟をしなくてはいけない。



悪魔の手が私の首に触れる直前。


私の体は勝手に動いた。


圧倒的出力の身体強化と共にその悪魔の手を握りつぶし、跳びながら後ろ蹴り、弾け飛ぶ悪魔、その反作用に任せて地面を激しく蹴りながら……。



「エアブレット!」



超音速の弾丸が悪魔の眉間を穿つ。


振り向きざま熊を下から蹴り上げる。


砕け散る熊の頭蓋骨。


そこで時間は正常に動き出す。



全てが終わった後、私は目の前の亡くなった熊を見下ろす。



「これが私だったかも知れないんですね……」


(ああ、そうだな)


「ごめんなさい……熊さんごめんなさい……」



(謝ることはない。 この熊は野生動物だ)


(野生動物は自分より強い生物に出会せば、逃げ切れぬ限りは死ぬ)


(この熊も野生の、自由のルールの中で小熊から生き抜いてきたのだ)


(ただ運が悪かった)


(警戒を怠り自分より強靭な魔物がいることもこの熊は分かってなかった)


(だから自由の責任を負った)


「あなたは猟師さんなんですね……」



私にはまだ、その考えは難しかった。


でもこれが自然なのだと。


前世の自分もこの熊も、自惚れて、自然を甘く見て、死んだ。


人の手であれ、それも自然の一部だ。


多くの野生動物はだから、人間を恐れるのだ。


人間は強い生き物だから。



私は前世の私の言うとおり悪魔と熊の首を真空のナイフで斬り、血を抜いた。


食べられるかは分からないが。


風の力でその二つを持ち上げ、私も空を飛ぶ。


最強の生き物だから、王女だから、前世の私は今の私に責任について伝えたい、と思ったのだろう。


私はさっきまでの恐怖を思い起こし泣きそうになりながらも、カナムやミルキーに謝らなければ、と思っていた。


ようやく森を抜けると騎士団が森を厳しい視線で睨んでいた。


王女捜索部隊らしかった。


私が悪魔と熊を持って帰ると、皆それはもう吃驚した。


騎士団長エファさんが迎えてくれる。



「姫様……これはグレーターデーモンですよ?」


「ぐれーた?」


「はい、今までこの辺りにこんな強力な魔物が出たことは無かったのですが……」


「なんでいたのでしょう?」


「迷い悪魔? まあ無事で良かった、姫様」



カナムが騎士隊から飛び出してきて私を抱きしめる。



「ごめんなさい、姫様、ごめんなさい」



私はまた失敗してしまった。


謝るのは私の方なのだ。


ほっとして、盛大に泣きながら謝る。



「ごめんなじゃぁあ~~ぁい! うわあああああん!」



そんな私たちを見下ろし、騎士団長さんはオロオロしながら兜の間から額を掻いた。



城に帰ると大騒ぎで。


何より私が見つかったこと。


幼女が腕利きの冒険者が手こずる悪魔をほんの数撃で、熊を一撃で倒したこと。


それを血抜きして持って帰ってきたこと。


大騒ぎだが、私はもう本当に疲れていた。


お父様とお母様とミルキーが私の全身を埋めるように抱きついてくる。


私は泣きながら、ごめんなさいを繰り返した。


ごめんなさい、ごめんなさい。


ごめんなさいばっかりで、ごめんなさい。



落ち着いた私は晩御飯に熊の煮込みを食べることになった。


グレーターデーモン肉は食べられるか神官たちが研究するらしい。


そんな前例は歴史書にも載ってなかったし、王族に食べさせて皆悪魔になったりしたら洒落にならない。


だから熊さん。


蜂蜜と赤ワインでじっくり煮込まれた熊さん。


スパイスの効いた柔らかな熊さん。



「た、食べられるのかなあ?」


「あの熊は大きかったし、臭いがするかも知れませんねえ」



ミルキーが先に毒見する。



「ん、美味しい……柔らかいです」


「我が城のシェフは一流じゃからの」



お父様は首肯して、迷うことなく熊肉にナイフを入れた。


口に入れてにっこり。



「うん、香草が合っているのか香りも良い……柔らかで旨い」



「レアの初の獲物じゃから、全部食べてしまいたいのう!」



お父様がそんなことを言うものだから私も安心してナイフを入れて。


口に運ぶ。



「うん……美味しいです」



初めての獲物が熊。


俺も熊は狩ったことねえよ。


前世の私は猪が一番大きい獲物だったらしい。


いつか本格的に狩りをしてみるのもいいかな。


生存競争に挑む覚悟ができれば。


とても疲れて、寂しくて、なんだか辛くて、怖かったから


私はミルキーに抱きしめて眠ってもらった。


温かなミルキーは優しく私を撫でてくれた。


疲れだけが体を支配し、それをミルキーの優しさが溶かして行き


ゆっくり眠りに就いた。



翌朝、ミルキーはそのまま私を抱きしめてくれていたが、アリカに妬まれて後頭部を殴られた。


十四歳のミルキーは三月で成人の十五歳になるが、まだ子供である。



「うう~っ!」


「何羨ましいことしてんのよ!」


「これは姫様が震えていたからで~……ううっ」



再度アリカチョップ。


そして一言。



「代わりなさい!」



それを聞いたメイド軍団が飛び込んできて口々に。



「私が、私こそが姫様と!」


「下がりなさい! まずはメイド長たる私が!」


「ずるいですよメイド長様!」



私が、私も、拙者が、と眠れる幼女の側で十数人のメイドが大騒ぎ。


忍者は無理。



「うるさいよぉ~……」



私は痛む頭を浄化する。


とりあえず全員のまわりの空気圧をちょっと上げて黙らせる。



「あぐっ?!」


「い、息が、体が……」


「姫様、すみません、もう騒ぎません」



やっと謝った。


私は気圧を戻して皆を回復する。



「痛めつけても回復したら済む、って訳ではないですよ、姫様」



ミルキーに怒られた。


ごめんなさい。



(痛みの記憶は残るから拷問は捗るな)





秋はいよいよ終わりに向かい、私はミルキー、アリカ、カナム、シルくんと栗拾いに行く事にした。


グレーターデーモン出現から東の森の奥地は侵入禁止になったので向かうのはかなり浅い人の手で植えられた栗林だ。


私は暴走を控えるようになったので抱き抱えられはせず、ミルキーとアリカの手を握って歩く。



「らんらんら~♪」


「ご機嫌ですね、姫様」



私が鼻歌を歌うとカナムがニッコリ微笑む。


カナムの金のふわふわな髪が弾むようだ。


ミルキーも楽しそうに薄い茶色の髪を手ですく。


アリカは赤色の髪を跳ねさせ、私の水色の髪を撫でる。



異世界なのは分かってるけどみんな髪色が派手だな。


前世の意識が呟く。


特に自分の顔を初めて見た時はびっくりした。


水色の髪に紫の瞳をしていたのだ。


どうも濃厚な魔力によって髪や目が染まっているらしく、シルくんもやはり濃紺の髪色、藍色の瞳だった。


属性と魔力密度で色が変わるらしい。


火なら赤からピンク、風なら白から青、水なら青から緑、土なら茶色、金色から黒、その他にも重力は茶色から黒、氷は青から銀、雷は金から黒、神聖魔法はピンク、紫から白、暗黒魔法は灰から黒。


シルくんを見ると純粋な魔力は紺色?


多少誤差はあるし多属性もいるので全てがこの範疇に収まる訳では無かったが、とにかく髪が派手だった。


魔力が更に強くなったら将来髪の色が変わったりするんだろうか?



「そう言うことも有るみたいですが、属性は普通は変わりませんから特別ですね」


「じゃあ私もこの色のまま変わらないのですね」


「いいじゃないですか、可愛くて」



ミルキーはそう言う。


でもこのままお婆ちゃんになるのちょっと嫌だな~。


でもお母様は綺麗な白だし、私も白くなるかも知れない。


栗林に着いて皆バラバラに森に入る。


そう言えばグレーターデーモンは封印魔法を使えるらしい。



(いきなり使われたらヤバかったな)



おっさんの計画ミスのせいで死ぬ所だった。


この辺りには居ない魔物なんだから仕方ないけれども。


もしグレーターデーモン以外に高レベルの魔物が現れるとしたら何か問題が起こっているのかも知れない。


ここまで影響は有るまいが、万が一と言う事もある。


私は薄く魔力を広げる。



魔力の塊である魔法系生物や高圧の魔力を持つ人間ならば魔力を押し付けても体内に圧縮された魔力の圧力があるためすぐには吸収しない。


その原理により魔物や人間を探すことができる。


逆に強すぎる魔力を叩きつけると体内の魔力を大きく削ぎ、昏倒させる事ができる。


もちろん相手の数十倍も圧力のある魔力を叩きつけないと駄目だが。


この技は魔力その物の利用なので身体強化と同じく誰でも使える(要練習)。


ちなみに神経の存在を知らないこの世界の人間には神経系強化や反射強化は難しい。


全身に身体強化を掛ける事で多少強化できるのみだ。


こう言った所でも前世の記憶は活きている。


逆に圧力発生は魔力を放つだけなので誰でもできる。


ただ常人の魔力を十ポイントとするなら数百ポイントの魔力を放てないと昏倒させられないので鍛えに鍛えた冒険者が使っても常人すら昏倒させるのは難しい。


この際、意図的に放った魔力は魔法に転換していないのでそのまま再利用できる。


つまり充分な魔力が有りさえすれば使っても魔力消費がとても少ない事になる。


この辺りの魔力利用や身体強化はシルくんと共に研究する必要が有りそうだ。



そしてこの時の魔力探査。


まず近隣に、数値化するなら数十ポイントの魔力が二つ。


ミルキーとアリカだ。


これは魔法使い系の冒険者レベルだ。


その近くに百八十ポイント程度の魔力が一つ。


カナムだ。


この大魔力にしてあの剣の腕前、やっぱりかなり強い。


この魔力は王族や貴族のレベルだ。


そして私の近くに……ん?


魔力探査は圧力を調べるだけなので勘違いかも知れないが、


二千ポイント超の魔力発生源が私の横でニコニコしている。


え、何この可愛くてイケメンな魔王様。


シルくん凄い。


前世組の魔力は基本的な人の魔力より高いのは薄々感じていたが、これは酷い。


因みにこの感覚だと私の魔力は四千ポイント近く有ることになる。


魂の覚醒が魔力に影響を与えていると考えるのが妥当だろうか?



気を取り直して更に遠くに魔力を伸ばすと二十から四十の魔力が幾つか有る。


魔物と見るべきか。


そして……二百程の魔力が二つ。


これは……グレーターデーモン?!


こんな近くに大魔力の魔物が二匹。


私はシルくんにその事実を知らせて、位置を伝え……。


グレーターデーモンは封印魔法を使えるので、使う間も無く倒す必要があった。


身体強化は体内に魔力を循環させるだけなので魔力消費は少ないが、封印魔法を受けると使えなくなる。


恐らく魔力の循環を攪乱し混乱させる術式なのだと思われる。


向こうがこちらに気付く前に二体とも倒したい。


シルくんに一体を任せる。



彼は身体強化を使いつつ、気配を遮断する。


魔力探査で見ていると緩やかにターゲットに近付いて行くのが分かる。


戦闘が始まった。


一撃でグレーターデーモンの魔力が消えた。


本当に強いなあ。


それに気付いたもう一体が彼に近寄る。


瞬間に私は反射強化してグレーターデーモンの動きが止まる。



「エアブレット!」



森の中で大爆発が起こった。



楽しい遠足はとんでもない事態になった。


騎士団長は私たちの倒した二体のグレーターデーモンを睨んで唸る。



「戦争でも仕掛けてくるつもりか……?」



こっそり騎士団長さんの魔力を調べると三百五十も有った。


凄いこの人。



「姫様、東の森の奥地にはまだグレーターデーモンが居るのでしょうか?」


「探索に入らないと分かりかねます」



もし居たら。


明らかに魔物の戦力が集まっている。



「今の魔王は反戦派で平和の守護者とも呼ばれており、もう何百年も戦争は起こっていません。 ……これはつまり一部の魔物が暴走しているのか……」


「暴走してはいるが兵力が大きい。 恐らく指揮官クラスが暴走して、何かを我が国に仕掛けてくる可能性が有ります」


「こ、国王様に報せないと!」



ミルキーが動揺する。


最悪お父様に封印無効の護符を借りて私が討伐に行かないと駄目かも知れない。


三体の斥候が倒されたことを知れば迂闊には動いてこないだろう……しかし。


お父様に知らせた結果、東の森深部に魔物討伐部隊を送ることになった。


まず私は魔力が最低二百あり、物理戦闘でも充分な技術のある人十人を選出する。


そして民間から冒険者四人とシルくんを呼ぶ。


最後に指揮官は私。


お父様に国宝、封印無効の護符を借り受けた。



全員の魔力はこんな感じ。


騎士団長さん三百五十。


聖騎士長さん三百二十。


騎士三人、近衛騎士二人、二百五十から八十。


近衛騎士長は三百二十有るどお父様とお母様を守る為にお留守番。


聖騎士から三人、二百から二百三十。


冒険者三人二百から二百五十。 強い。


最後に一人の冒険者は異才を放っていた。


四百五十。


巷では勇者と呼ばれている、わずか十三歳の少年剣士だ。


マルス・オクルス


初めて彼と会ったのは冒険者を招集した冒険者ギルドに出掛けていた時。


屋台で美味しそうなたこ焼きの様な物が売られているのを見つけた私は、これから公務が有るので指を咥えて見ていた。


すると彼が自分が買ったたこ焼きもどきを私にくれたのだ。


その時のニッコリと笑った彼は確かに格好良かった。



「これからお仕事なのですみません」



ミルキーに断られた。


泣けた。



「俺もこれから仕事ですよ」


「はあ……随分お若く見えますが」



この世界ではミルキーもそうだったが、十二歳で働き始めても普通である。


成人年齢もうちの国の基準では十五歳だ。


そこで私は魔力探査を掛けてみたのだが……


四百五十……。


魔力探査を始めてからお母様、シルくん、王侯貴族以外で初の四百越えだった。


ちなみにお父様三百二十、お母様四百。


戦闘訓練さえ積めば両親も強いだろう。


ただ二人とも高齢なので魔法もちょっと今一だし、体術も今一。


戦争になったら仲間を鼓舞するとかの広域魔法は使えるので、王族らしくはある。


ミルキーと私とマルスくん……マルくんで冒険者ギルドに向かいながらたこ焼きもどきを食べた。


味は全くたこ焼きでは無かったが、美味しい。


たこ焼きもどきの熱さに頬を染めていると……。


シルくんが何故か物凄いスピードで私たちを追いかけてきた。


四人でギルドに行く。


マルくんはシルくんを見て少し驚いていた。


その後私を見て目を丸くした。


魔力探査を使えるのかも知れない。


ちなみに勇者の例に漏れずマルくんは、雷属性の加護と重力属性の加護、神聖属性まで持つチートだった。


雷と重力は攻撃性の強い魔法で、神聖魔法は守りと回復の魔法。


当然身体強化や剣術も使えるだろう。


正に勇者。


大魔力を持ちながらもまだ剣士見習いのシルくんでは良い勝負と言う所か。


だからかシルくんはやたらと不機嫌だった。


マルくんに前世の記憶があるか聞いたが、無いらしい。



(素でこのチートっぷりか)



前世の自分が憧れの気持ちを抱いていた。


金髪のショートを風にたなびかせて、チート少年は何故か紺の髪の同じくチート少年に睨まれていた。


魔物討伐は冬の女神祭りの後に大掃除として、二十八日から三十一日に行われる事になった。



冬の女神祭り。



魔学の国の王様と勇者マルくんが招かれていたので私はちょっとウキウキしていた。


魔学王様は私に錬金術の教科書を下さる。


内容は知りたかった魔石加工技術について書かれていて、かなり満足の行く物だった。


深々とお礼して書を読んでいるとマルくんがそれを見て感心していた。


そんなに強いのに勉強を忘れない姿勢は見習わないと、と呟く。


ダンスにでも誘われるのかと思ったが、私を膝に乗せると一緒に教科書を読んでいる。


この教科書は成人向け、つまり十五歳から読み始める物で、それを読める四歳児はもちろん異常だが、十三歳の彼も中々賢い様だ。


少し質問してみる。


魔法術式を魔石に組み込み自動発動する際、魔力を込めた時だけ威力を発動するにはどうすれば良いか聞く。



「威力は多少落ちるけどコーティング用に自動発動しない術式を真ん中に組み込んだらどうだろう? ライトとかはそう言う仕組みだったと思う。 あと、威力に指向性を持たせたいなら反魔力金属……赤銀辺りを貼れば良いかな?」



(知識も専門的とは、これはシル少年大ピンチだな)



と前世の意識。


私にはよく分からないが、おっさんが言うには二人は宿命のライバルらしい。



「討伐まで三日あるから訓練つけて欲しいんだけど、良いかな?」


「良いよ!」



マルくんもなかなか勉強熱心なようだ。


私は即答するとシルくんとマルくんで仲良くなって欲しいのもあって、合同訓練を実地することにした。


おっさんがニヤニヤしているが、知識共有を拒否された。



二十五日、訓練日。


まだ町では女神祭りが行われているが、私たちはグレーターデーモンとの戦いを控えている。


騎士団長含め全戦士が南の荒れ地を訓練場所と決め、十六人、三日分の食材とテントを持って旅立つ。


私はこの時、結界の練習を考えていた。


エアブレット爆発の衝撃は味方にも勿論ダメージがある。


爆発する前に消す事はできるが、相手を止める為に威力が必要になれば爆発するのは都合が良い。


爆発で味方を巻き込むのを防ぐ為に仲間、もしくは炸裂させた敵に結界を張る、のだが、魔力の圧力だけで魔力結界を掛けるのが凄く効率が悪いので、風の精霊を使い真空魔法と高圧窒素の壁を二重、三重と張る方法を考えていた。


窒素の壁は物理的な攻撃を、真空の壁は熱や音を防げる。


それを多重にすることでほとんどの攻撃魔法は防げるはずだ。


シルくんとマルくんに話してみると、そんな精密な魔力コントロールできない、との事。


マルくんには雷属性、光属性に対応することができるか試してみよう、と提案される。


私かシルくんしか高レベル魔法に耐えられないので、シルくんは絶対自分がやる、と言って的役を買って出た。


私が結界を展開する。


展開速度の速さに二人がびっくりする。


術式だけ知っていれば後は精霊の力を発現するだけなのだが、今術式を組み上げたのでその速度に驚いたらしかった。


全面同時発動で距離も巻き添えを食らわないよう二十メートルくらい開いている。


やはり魔力は光速、と言う仮説は間違ってないのかも知れない。


早速マルくんにより雷が放たれた。


窒素の壁は絶縁の働きをするのか雷を止めた。


止めたが、これは出力が高ければ抜けられる。


アースとして部分的に圧力を下げてみたり、逆に上げてみると、何度か目に雷を地面に逸らすことに成功した。


次に光属性。


これもある程度窒素の壁で遮断できたが、やはり出力が高ければ貫通されるだろう。


よって、光魔力の結界、真空の結界、窒素の結界の三重結界を更に三重に張ってみる。


流石に疲れるがほぼ魔法を防げる様になった。


そこでマルくんが呟く。



「この結界、弱点があるな」


「グラビトン……」



そう言うと、彼の三大属性の一つ、重力魔法を放った。



「うわわっ!」



結界のその上に圧縮窒素の重みがかかり、コントロールと結界強化に魔力をごっそり奪われた。



「あうぅ~」


「惜しかったね、でも凄い結界だったよ!」



マルくんはやはりチートだ。


普通に魔力結界だけなら耐えられたが窒素結界が逆用されてしまった。



「姫様は頑張ったよ!」


「うんうん、凄かった」


「僕は重力魔法でダメージ受けないから大丈夫!」


「凄いね、全身脳味噌まで筋肉みたいだね!」


「身体強化魔法だから筋肉はないね!」


「じゃああとで筋トレしようか!」



私を慰める二人が何故か徐々に険悪に。


おっさんが笑い転げている。


なんだか取り残されてるんですが。



マルくんが重力魔法を放ち、シルくんが交わし、殴りかかった所をマルくんの雷の結界に踏み込み、焦げるシルくん。


耐えるシルくんは雷撃で若干弱った体で殴りかかりマルくんはギリギリ交わすも、かすっただけで地面に転がる。



何これ。



「いい加減にしなさい!」



私は空気の圧力を掛ける。



「うぐっ……体が……焼ける……」


「へへっ、お兄さんこそ筋トレしないと駄目なんじゃないの?」



シルくんは空気圧に耐えているのでエアボールを頭に当てた。


二人が倒れたので魔力を解く。


後ろで魔力トレーニングしていた騎士たちと冒険者たちが驚愕して目が飛び出すほど目を開き顎が落ちんばかりに口を開けていたが、まあ気にするまい。


遊んでる場合でもないしね。


翌二日目、私は騎士さんたちと冒険者さんたちに直接魔力圧縮吸収の訓練を施した。


強力な魔力をぶつけると体内の魔力が弾け飛んで昏倒するので、空間に徐々に魔力を満たしてみる。


シルくんマルくん二人は昨日の喧嘩の続きをさせておく。


回復魔法のトレーニングしよう、とか非道いことをおっさんが考えていたが、まあそれでいっか。







勇者マルくん登場。

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