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王女になった  作者: 居茅きいろ
3/44

三話・お祭りになった

3/19書き直し。

王国祭の日が近付き、町は活気に満ちてくる。


私も忙しさが少し落ち着き、お父様に付いて隣の国へ出掛ける事にした。


深森の国の南東、魔学の国。


久し振りに両親と出掛けられて、お父様やお母様もニコニコ、私もウキウキしていた。


後ろの馬車には護衛の騎士やメイドたちが乗っている。


つまりミルキーとも一緒だ。


家族が皆で居られる。


もう四歳の私は右に揺れてはお父様に抱きつき、左に揺れてはお母様に、と大はしゃぎしていた。


やっぱり小さい子は親といないとな、と前世の意識は言う。


前世の私の親は仕事に明け暮れていたため、小さい頃はほとんど一人で留守番していたらしい。


少し寂しさがこみ上げてくる。


近付いてくる山並みを見ながら、私は眠ってしまった。



魔学の国は錬金術や魔法学、その他様々な専門学校が集まる学問の国だ。


大通りには若い学生がお喋りしたり買い食いしたりしつつ行き交っている。


楽しい雰囲気の国だなあ。


目を擦りつつそう思っていると、お城が見えてきた。


ガラガラと馬車が石畳を走り、騎士たちの敬礼の真ん中を通り、城内へ。


他の国を訪れるのは初めてだ。


ワクワクを抑えられない私は馬車が止まる寸前に飛び降りた。


が。


何故かミルキーは既に私の着地点に先回りしていた。


よ、読まれてた。



「はーい姫様、一緒にお城回りましょうね~?」


「うみゅ~」



出鼻を挫かれて四歳児はご機嫌斜めである。


私は仕方なくミルキーの胸に抱かれて城を見て回ることにした。


魔学の城はやはり学問の国、本棚が沢山見える。


いったい何万冊あるのだろうか?


城の中は装飾も少ない。


とにかく今はミルキーが移動する範囲しか見えないのではっきり言って私は不満。


お父様とお母様が魔学の王様と話をしている間、私たちは別室に案内された。


小さめな応接室だがやはり本がある。


暇なので適当に手に取り少し読む事にした。


手に取ったのはこの世界に存在する二人の女神の伝説を子供向けに分かり易く書いた本。


子供向けとは言っても十歳くらいの子供を想定した本で、普通の四歳児では難しい内容だろう。


普通の四歳児なら。


私は既に錬金術の勉強を始めていたのでまあまあ難しい本でも読むようになっていた。


なのでこの本もスラスラ読める。



聖なる女神と邪悪の女神。


二人の女神は創世の時から争い続け、邪神が大地を灼熱に焼けば聖神は雨を降らし海を創り。


邪神が海を割り津波を呼べば、聖神は大地に命を蘇らせる。


二人の女神は双子とも全く違う星の元に生まれたとも言われているが、その聖邪の性格の違いから双子説はあまり信じられてはいないらしい。


この二人の女神は億年の時を争ったがやがて相討ち、聖なる神と邪なる神はそれぞれ光と闇になる。


争いの中で女神は特定の人間に力を与えていた。


それが王族であるらしい。


私たちが信仰する女神とはこの聖なる女神の事になる。


しかしもうこの伝説自体は星の歴史を分かり易くする物であると考えられており、女神信仰は弱まっていた。



細かく読んでいくと精霊についての記述なども書いてあってこの本自体が魔法の教本のようになっているのが分かる。


流石は魔学の国だ。


本を熱心に読んでいるとミルキーとアリカは感心して私を見ている。


四歳児が教本をもりもり読んでたら普通は吃驚するか。



「流石は神童……いや、姫様ですねえ」



私の行動に妙な肯定をするミルキー。


アリカなど自分は何も読んでないのに眠そうな顔。


そんなに難しい本じゃないのに。


そして一冊本を読み終えた。


時間は三十分から一時間ほど経っているだろうか。


突然扉が開きアリカと同年代の貴族風の少年が部屋に入ってきた。



「深森の姫とはどいつだ?」



いきなり偉そうに言い放つとミルキーを睨み、そして。



「いい女だな……俺の妾にならんか?」



などと言い出した。


無礼なのは許そう。


だがミルキーを弄ったのは許さない。


そう思った時にはエアボールが仕事を終了していた。



「ぐのまぺっ!?」



腰から扉の向こうへと吹き飛んだ。


今までで最大威力だったので砕けたかも知れない。


この場に男が居たらもんどり打った男を見ただけで乙女座りをしたことだろう。


あ、私の中に一人いたっけ。


今回はミルキーを弄られた怒りに燃えているらしく、別にへたり込むことも無いようだ。



「姫様、あの方回復しないと男性で無くなってしまうのでは……?」


「お姉ちゃんは優しいですね」



どこの馬の骨か分からない男の一生を気に掛けるミルキーは正に聖女か。


私はミルキーのお腹に抱きついて少し赤い顔を隠した。


男の元に騎士が駆けつける。


やはり高位の身分だったのだろう。


しかし騎士は部屋の中に女性しかいない事を見て取ると「やれやれ」と呟いただけで男を引きずって行った。


しばらくして騎士が帰ってきて色々話してくれる。


あの男は魔学の国の第二王子らしい。


女癖がすこぶる悪く度々トラブルを起こすので、父王からして手を焼いていたそうで。


良い機会なので治療もしないで寝室に放り込んだとか。


オカマ団団長が決定したな、と前世の意識が呟いた。



さて、会談を終えたお父様から私に町に出る許可が与えられる。


ミルキーに抱っこされてだが、町に出発。


私の護衛に女性の騎士、カナムが付く。


カナム・リカーは緊張していた。


一番若い女性騎士と言う理由だけで姫の護衛に当てられたのだから。


しかもただの姫様ではない、死者蘇生まで行い女神の生まれ変わりとまで言われる王女なのだ。


彼女の父である騎士団長は、一軍に匹敵する、存在するだけで戦争に勝てる、などと毎日の様に持て囃している。


しかも見た目はそのままの四歳児、ただただ可愛らしくメイドに甘えている女の子にしか見えない。


しかし今日も彼女はこの国の第二王子をその……その部位を吹き飛ばしたらしい。


だからカナムは緊張していた。


年はミルキーと同じ、十四歳である。



私はカナムににっこり微笑んで手に持っていた、先程屋台で買ったばかりの小さい林檎飴を差し出した。カナムは頬を赤くしてそれをかじる。


少し落ち着いたように見える。


そして何やら気合いを入れるポーズ。


更に既に赤い頬をパンパン、と叩いた。


周りにいた人が皆、吃驚するくらいの勢いで。



「カナムお姉ちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」


「は、はい! 聖なる女神の生まれ変わりたる王女様を何としても御守りします!」


「私はおっさんの生まれ変わりです」



ミルキーとアリカがさっき屋台で買ったジュースを盛大に吹いた。


しかしどうやらカナムを落ち着かせるためにこの神童が気を利かせてジョークで言ったのだ、と判断されたようで。


四歳にしてハードルを上げられる緊張感を味わう。


「カナム、姫様もこうやって気を利かせて下さっているのです。 何時までも緊張していては駄目ですよ?」


「は、はい、ミルキーさん」


「同い年だし敬語はいりませんよ?」


「わ、分かった、ミルキー」



やっぱりガチガチだ。


女三人と幼女で歩いていれば当然、とばかり、軟派男が声を掛けてくる。



(男ばかりで六人ほど……寂しい青春だな、人の事は言えないけど)



前世の意識が呟く。


速攻ボールアタックしても良かったがせっかく騎士様がいるので任せてみた。



「へい、お嬢さんたち、どこ行くの~?」


「俺らと遊ばない?」



ああ、鬱陶しい。


お祭りの前に血祭り開催ですか?



「我々は公務の途中です。 あなた方にお付き合いすることはできません」



意外と冷静なカナム。


もう少し様子見で良いかな?


あんまりクラッシュすると男女比率が偏り過ぎるしね。


しかし軟派男たちは引き下がらない。


早く引いた方が良いと思うけど。



「いいじゃんいいじゃん行こうぜ~?」


「さっきから見てたけど屋台巡りしてるんじゃん?」


「良い店知ってるからさ~」


「行けません!」



カナムの断固とした口調に男たちは多少イラッとした様だ。



「ばーかばーか、醜男~!」



私は盛大に煽ってやった。


メイドたちとカナムが「姫様!?」って顔で私を見た。



「うっせえガキ!」



些か切れやすい少年が掴みかかってくる。


クラッシュ行っとく?


しかしそれより速く、もうそれは速くカナムが剣を抜いた。



「我が主に手を出すなど……死にたいようだな?」



先までとは比べ物にならない威圧感だ。


良いな、威圧感欲しいな。


物騒な幼女に憧れの視線を向けられ、カナムは応援されてると思ったのか私に掴みかかった男を前蹴りで吹き飛ばす。



「ヒューヒュー!」



アリカが更にそれを煽る。


何だか楽しくなってきたのでボクシングのようなポーズを取る私。


ミルキー以外は盛り上がってきた。



「怪我が無い程度にお願いね、カナム」


「オッケイ、ミルキー!」



いつの間にやら集まったギャラリーが壁を作る。


仮にも騎士がこんな少年たちに負ける訳が無い。


ミルキーはそう考えていたらしい。


それに無敵のクラッシャーが自分の胸に抱かれている。


安心安全だ。


軟派男たちは引き下がれなくなって剣を抜いた。


一人は先の一撃で気絶している。


残りは五人だ。


私やミルキーを人質に取ろうと二人が回り込んでくる。


カナムはそれより速く二人を蹴り飛ばす。


既に身体強化が掛かっているようだ。


あっと言う間に三対一。


カナム強いよ。


残った三人はカナムの力に驚き腰が引けている。


一気に踏み込むカナム。



「ひ、ひい!」


「ふん!」



苦し紛れに突き出された男の剣をカナムは難なくダッキングで交わす。


カウンターに肩を当てる。


そのまま流れるように柄をもう一人に叩き込み、その勢いで回転、後ろ回し蹴りで最後の一人も倒した。



「おおおおおおおおおおおおおおお!!」



周囲から大歓声。


お祭り騒ぎになってしまった。


しかし。



「死ねやあ!」



最初に蹴り飛ばされた男が起き上がってカナムに襲い掛かる。


カナムは剣を振り上げ……


ぐしゃっと言う音を聞いていた。


私も一人くらいやっつけたかったしね。


ちょっと静かになった。



「姫様、お見事です」


「はい」



ミルキーはもう若干諦めている。


人ごみを割いて王城に帰る事に。



一通り魔学の国での職務を終えたお父様と共に私たちは国に帰る事にした。


その際魔学王が是非私に会いたいと言うことで、謁見。


魔学の王様は国のイメージと違い優しい雰囲気のぽっちゃりとした髭のおじさんだった。


息子の息子の惨事は知っていたらしいがニコニコしている。


目の前にいるのが四歳の幼女であり、第二王子の出来の悪さにほとほと困っていたのもあってその件はむしろ私に対する興味に変わったらしい。


海上を走った話や町で人攫いを成敗した話などを聞かせると、四歳らしからぬしっかりした喋り方、と感心していた。


死者蘇生や手術に関しては深森の国家機密として黙っておく。


棺桶を引きずって来られても困るしね。


私の話に満足した魔学王様は私に国王の友人にだけ渡されるメダルまで下さった。


また秋の王国祭で再会する約束をして、私たちは帰還した。


さあ、お祭りだ。



季節は秋。


私は喧騒に包まれる城の中でシルくん専用の武器を作っていた。


エアブレットの威力を落とした物を魔法術式を魔石に書き込むことで、引き金を引くだけで魔法を発射できる魔弾銃だ。


しかしこの魔力を吸収、蓄積する魔石と言うのがどうにも生成が難しく、研究は足踏みしていた。


先に剣を作ろうかなあ?


シルくんは最近仲良くなった騎士さんに剣を教わっているらしい。


夏に私が最初に海上歩行靴を作ってあげた近衛騎士さんだ。


元々身体強化が化け物レベルのシルくんだからあっと言う間にその近衛騎士さんに勝ったのだが、目的が剣術の会得なので身体強化無しで動きを学んでいるらしい。


ちなみに私やシルくんは身体強化に頼り過ぎていて、素の体力は同年代の少年少女に劣る。


……鍛えないと。


とにかく、私の研究は頓挫している。


まだ四歳、まだまだ先は有るが。


ミルキーから声がかかる。



「姫様、お祭りが始まりますよ?」


「はい、今行きます」


「また研究ですか?」


「中々上手く行かなくて……」


「四歳児が魔法武具錬成するなんて普通は無理ですから」



ですよね。


気長に行こう。



お城のテラスを出ると盛大な歓声に包まれた。


お父様とお母様が民衆に手を振る。


私は花火代わりにエアブレットを空に打ち上げる。


かなり遠距離まで飛ばした所で爆発。


ボン、と言う音と共に白い煙が上がる。


う~ん、色を着けたいな。


しかしそんな魔法を初めて見た民衆は盛大な姫様コール。


皆大好き。


音の振動に風の力を加えて拡声する。


民衆の声は一際大きくなった。


来賓の各国の王族たちは凄く驚いていたが。


魔学王様がニコニコとこちらを見ていたので手を振る。


随分気に入られたものだ。


来賓との会食の後、沢山の王族たちが私に質問してきた。


中には死者蘇生について知っている人がいた。


箝口令は特に敷かれていなかったので仕方ないのかな。


お父様もあの時すごく喜んで言いふらしていたしね。


お父様の株はストップ安なのでもう下がらないけど。


とりあえず一番大切な家族のようなメイドさんだったので一生懸命やったら息を吹き返した事にしておいた。


手術の方は箝口令を敷いておこう。


私からお父様に。



一日揉まれて疲れたが、町に出てお祭りの空気を味わいたい。


いつものようにミルキーに抱かれてアリカとカナムと四人で出掛ける。


シルくんはお城の前で待っていた。



「シルくん!」


「姫様!」



嬉しそうにシルくんが駆けてくる。


腰に細剣を差しているのに気付いた。


子供だから軽い剣を?


どちらかと言えば体格の倍はある大剣を振り回すイメージだったんだけれど。



「練習用の細剣ですか?」


「うん、今身体強化禁止で練習してるから重いと持てなくて」


「体力を付けないといけませんね?」


「そうだね、魔力付けたら良いんじゃ、とは思うんだけど」


「それだと魔法を封印されたら無力になりますよ?」


「そっか、それもそうだね」



魔法を封印されたら無力になるのは私も同じだが、深森の国には封印無効の護符がある。


もちろんお父様がいくら甘々でも流石に国宝を子供にくれるはずもなく、私も求めた事は無かった。


いずれ自分で作ろうと思っているし。


それに幸い封印魔法を使える魔導師と戦闘になったことは無い。


今日はカナムもいるしそんな心配もなくお出掛けできる。


カナムをシルくんに紹介しておこう。



「シルくん、こちらカナムさん、かなりお強い騎士さんです」


「ほんと? よろしくお願いします!」


「は、はい!」



私の紹介にシルくんは目をキラキラさせ、カナムは相変わらず緊張している。


しかし、せっかくシルくんとお出掛けなのに二人が剣術の話で盛り上がるのがちょっと寂しい。


私も剣術しようかな?



「それ以上強くなってどうなさるんですか?」



口から出ていたらしい。


慌てて両手で口を押さえた。



「姫様、可愛い」


「私の姫様ですよ?」



アリカが私に萌えているとミルキーは自分の主だから当然です、と言わんばかりに胸を反らす。


良いけど。


もう少し体重があればぬいぐるみ扱いされないのだが。


脱出するために身体強化したらまた怪我をさせてしまうからできない。


精一杯イヤイヤと体を捩るが抜け出せない。


お酒を飲んで騒いでいた民衆が遠巻きにそれを見て指を差して、笑顔。


ちょっと恥ずかしいけど賑やかなお祭りの雰囲気は、心地よかった。








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