二十一話・主になった・後編
研究を進めつつせっかくなので皆で遊ぼう、と言う話になった。
私はイカを釣っていたがテニーたちが私と遊びたがって引っ張られる。
テニー。
今実は一番魔力が低い。
何故なら彼女は私の錬金に協力してくれているからだ。
彼女の加護は魔学では一般的な土。
そもそも魔法学校に通えるのは一部の貴族か平民でも加護持ちで国に保護を受けている人たちだ。
貴族は元々王の眷族であり、生まれつき魔力が高い。
ローリエやテニーはその中でも天才的だった。
そしてその天才的な彼女が錬金に一番力を発揮する土属性。
私はそんな彼女に甘えてずっと錬金を手伝ってもらっていた。
だから遊ぼうと言われて断れるはずも、また断る理由も、断る気も無いのだ。
イカは四杯釣れたので夕食のお好み焼きの準備としては十分だろう。
だから今はテニーたちと遊ぶ事にしよう。
私たちはリキくんがやっていた空中結界飛行で鬼ごっこをする事にした。
しかしこれは恐ろしい速さで立体的に逃げられるので先ず捕まえられない。
よって、逃げて良い範囲を限定してやる。
先ずテニーが鬼になった。
海面から木の高さまでの範囲、二十メートル四方を四人が飛び回る。
普通の魔導師が見たら「ひょえっ!」とか言いそうな光景なのだが、素早く交わし、飛び上がり、蹴り降り、海スレスレで反転し、飛び上がり、壁を蹴るように戻るとぶつかり合い、とうとう鬼は交代になる。
テニーに捕まったのはローリエだった。
ローリエは飛ぶ。
もっとも、優秀なローリエの事、私を狙って飛ぶと身体強化のレベルを上げ更に私の前方に結界を発生させる荒技で動きを止めてきた。
自分から離れた位置に魔法を展開するのは極めて難易度が高い技だ。
流石にこれには捕まる。
悔しいので結界を思いっきり蹴っておいた。
「あぐっ」とか聞こえたがそもそも結界を攻撃されたら魔力が削れるのは基本である。
荒技に代償が有るのも当然だ。
私はその足で高みの見物をしているトワを狙うことにした。
「待って下さいトワーっ!」
「待たない!」
「くっ、そう言えばトワは身体強化得意でした!」
だが追う。
実はこの立体鬼ごっこは恐ろしく私たちを鍛える事になった。
しかもドラゴンの肉も竜魚の肉もまだまだ有るのだから。
魔王の城では魔王、モナカ・オブスクーリタースが肉を食べていた。
魔王には自分に支配権のある魔物の中から選択してその獲得情報を「魂のリンク」と呼ばれるスキルで光速より速く収集する事ができる。
彼女はそれにより、すでに危機を感じていた。
白い髪に褐色の肌、尖った耳に青い瞳。
非常に美しいがまだ十二、三歳と言った容姿の彼女は、だから肉を、誰が倒したか知らないがエルダードラゴンの肉を、食べまくっていた。
いや、どう考えても奴らだ。
趣味で作った勇者に当てる予定だった超装甲のロックキングクラブと言う蟹が倒された時の事。
記録では目の前の敵が一撃で蟹を倒していた。
その後余裕でごうも……実験をして行ったのだ。
更に蟹は既に死んでいたので配下に調べさせた所、その女たちは蟹を持って帰って食ったらしい。
「こいつらは私の趣味が分かるな!」
そう叫んで。
次にこいつらでもまあ勝てないだろうが肉が美味い「竜魚」を放った。
すると目的の女の側近が一撃で、一撃で竜魚を仕留めたのだ……。
ガーンっ!てなった。
慌ててその日から魔力強化肉を食べまくり魔力を魔石にチャージしては肉を食べ、エルダードラゴン肉が入ったとの部下の情報に急いで肉を二トンも買わせて、とにかく魔力を強化、魔石を量産、美味しいけど強い魔物を大量に作り始めた。
半分は趣味で。
半分は身を守る為に。
だから魔王モナカは食べまくっている。
そんな魔王のピンチは知らないが、私達は魔王大陸を走っている。
森が多いので少し狩りをしてみようか、と考えた。
推測ではあるが、ロックキングクラブはともかく竜魚は、明らかに魔王が私達に用意した物だ、と、そう思っていたから。
これだけ良い森が有るんだから魔王も空気を読んで美味くて強い魔物を用意しているかも知れない。
私はチームを三つに分けてそれぞれ違う森に入ってみる事にした。
チームA・私、テニー、ローリエ、トワ。
チームB・シルルス、マルス、ミルキー。
チームC・リキッド、イルモール、カイ、レン。
私が皆に声を掛ける。
「こちらチームA、ベア。 目的の森に侵入、狩りを開始する」
ジッと言う音がしてシルくんが答える。
「こちらチームB、インディゴ、こちらも作戦を開始」
続けてリキくん。
「チームC、アップル、くれぐれも味方を撃たないでくれよ!」
私達は現在、シルくんたちが作ったヘッドホン型通信機により会話をしている。
この通信機の性能実験もこの狩りの目的の一つだ。
ちなみにコードネームはチームAは動物、チームBは色、チームCは果物で統一している。
「チームA、キャット、魔物見つけたよ!」
ローリエから通信が入る。
この通信機の優れている所は敵の位置や能力を把握できる所……うん、あの漫画の宇宙人が着けてるあれをベースにシルくんが作ったのでこうなった。
『キャット、魔力は?』
「この猪、一万ありますね。 何でこんなに強いの?」
『こちらバード、キャットに合流する』
私に驚きの声を送ったローリエ。
トワが合流する事に。
一万を超える敵の攻撃はこちらの結界にかなりのダメージを与えてくる。
結界は万能ではない。
あまり頼りすぎれば補助魔力を失う事になるし、最悪昏倒まで持って行かれるだろう。
それを防ぐ為に結界は一万程の魔力損失で一旦切れる様に作ってある。
今の私たちの魔力量なら危険も少ないだろう。
リミットを上げておこう。
しかしエルダードラゴンに匹敵する猪って……魔王も自重を諦めたらしい。
この様子では魔王自身がパワーアップしているのでは無いだろうか?
「こちらベア、ウルフと合流後南に向かいます」
『了解』
私はテニーと合流後、森を道沿いに南下する。
「ベア、ちょっと強い魔物反応が有ったわ!」
「こちらも確認、行きましょう!」
見間違いでなければ、魔力三万の熊がいる。
この魔物たちが魔王の趣味だとしたら多分この熊も美味しいのだろう。
この辺りには二百から三百の魔力を持った敵が多い。
ほぼ間違い無くこの狂った魔力の熊や猪はイレギュラーだ。
魔王が私達を恐れたか、自重せず趣味で放ったに決まっている。
会ってお仕置きしなければなるまい。
「レアは人の事言えませんからね?」
「テニーにも心を読まれましたか……。 そんなに分かり易いですか……」
「かなりね、それより熊」
「私が気を引きますのでウルフはアルテミスで額を撃ち抜いて下さい」
「了解、ベア」
作戦を決めてテニーと別れる。
一瞬、前世の事が頭を過ぎった。
テニーを人殺しにする訳にはいかない。
絶対に連携を怠っては駄目だ。
チラッとテニーの位置を確認。
その時突然、熊がエアブレット並みの空気弾を放ってきた!
このクラスになれば旅立ったばかりの私並みに強いのだ。
これくらいの力は当然ではあるが少しイラっとした。
このイライラは魔王に受けてもらおう。
身体強化のみで攻撃を交わし、テニーに分かるように閃光を指で発する。
爆音と共に木が薙ぎ倒され、私は結界ごと転がってしまった。
しかし位置を示す光はそのままに、熊と睨み合う。
なんだか運命を感じる。
その熊もこちらを見つめていた。
お互いに運命を感じあっているように、止まる。
次の瞬間、ドバッと吹き飛ぶ熊の頭。
なんだか狩猟犬の気分?
多分こんな感じだろう。
「ベア、ターゲットの沈黙を確認、帰投します。」
「こちらウルフ、了解、離脱します」
サバイバルゲームだ。
異世界でサバイバルゲームしている。
これはペイントを射出するライフルを作るしかない!
いやいや、他に研究する事は多いのだ。
特に魔王が使っているこの魔物生成、もしくは召還。
これは私の兼ねてからの研究対象である魂の秘術が使われている可能性があった。
魂の秘術を掴んだらやってみたい事が幾つもあった。
例えばステータスボード。
魂の情報から能力を読み取ってステータス化するのだ。
これは実に楽しみ。
私のステータスなら多分筋力は五くらい、体力は三くらい、魔力は五万くらいだろう。
どうせ人並みの腕力なんか持ってないし。
悲しくなんかないし。
私達は熊を持って合流地点の広場で血抜きと解体を始めた。
テニーには見ないように言ったのだがどうしても見てみたいらしく、結局二人で解体を始める。
逆さに吊り、首を斬り、腹を割って腸を抜き、毛皮を剥いでいく。
テニーは特に気分が悪い様子も見せずに解体に協力してくれた。
やっと解体が終わった頃にローリエとトワが巨大な猪を穫って帰ってきた。
チームB、Cもそれぞれ獲物を一匹ずつ持ち帰る。
解体はそれぞれに任す事にした。
今日は楽しかったけど何故か凄く疲れた。
なので。
猪肉をバーベキューにしている。
お醤油を使った特性バーベキューソースに漬け込んだお肉を食べる。
塩でも食べる。
食べる。
予想通りの魔力強化肉。
あっと言う間に失われた魔力が回復する。
「んふー、美味しい!」
「自分で穫った獲物、格別」
「そうですねえ!」
テニーもトワもローリエも満足げだ。
「ミルキーさん、野菜切ったよ」
「はい、シルルスくんも皆に混ざって下さい。 後はやっておきます」
「有り難う、もうこれだけだから」
「おーい、リキ!」
「あ、マルさん、はいはい」
「お、ビールか」
シルくんとミルキーが野菜を、マルくんたちがビールを準備する。
カイくんもお酒が好きな様だ。
「はい、お嬢さんたち」
「あ、ありがとうございます」
レンさんが木のジョッキに注がれたビールを私に持ってきた。
良いんですね?
「かんぱーい!」
「かんぱーい、飲むぞー!」
「テニーは飲み過ぎ禁止」
「えぇー」
テニーは絡み癖が有るのだからトワが機先を制して止めるのも当然。
しかしその隙にローリエはガンガン飲んでいる。
「うひひ、レアさ~ん」
「ちょっ、ローリエ、大丈夫ですか?」
「レアに抱きつき禁止」
「トワも一緒にどうですかぁ?」
「……」
「と、トワまで!」
「ごきゅっ、ごきゅっ……」
「テニー!」
結局大盛り上がりになってしまう。
結界は張ってあるが魔物が出てきたらどうするのだろう?
特に魔王の趣味の魔物が。
そしてすっかり潰れた私達は次の日、ミルキーも入れて五人で一つのベッドで寝ると言うそれは酷い状態で目を覚ましたのだった。
「う~」
「あれ、何これ、どうなってますの?」
重いと思ったらテニーは私の上で寝ていた。
確かテニーは昨日「私達はパートナーじゃない!」とか言って飛びかかって来たまま寝てしまったのだ。
左ではトワが私の腕に抱きつき、トワにローリエが絡みつき、右ではミルキーが私の頭を抱えたまま寝ている。
それはもう、乙女には有り得ない惨状だった。
「おはよう、重い、ローリエ」
「まだまだ飲めますよぉ~」
「姫様……あなたは私の物です……」
トワは目覚めたがローリエとミルキーは寝言を……その、困りますミルキー。
なんとなく私の頬が湿っているが涙の後だと思っておく、うん、間違いない。
事態を打破するために私は浄化を全員に掛ける。
オートヒールやオートキュア、各種耐性などを着けていると酔えないので飲む前には機能を停止している。
なので一番に起きた私が浄化を掛ける必要があった。
目覚め効果もある浄化魔法。
はっきり酔いも眠気も覚めた乙女たちが「お嫁に行けない」と呟いているが、そこは皆で見なかった事にしよう。
そう、何も痴態は無かった。
私が言うのだから、無かったのだ。
その時トワがこんな事を言い出した。
「全部魔王が悪い」
「魔王が見せた幻術ですね、分かります」
「許せないわ、魔王!」
「早くやっつけに行きましょうっ!」
「ペッカートルで乗り込みましょう!」
こうして無事魔王は八つ当たりを受け、全員が現実から目を逸らした。
朝ご飯を用意しながら全員真っ赤になっていて、それを一番に起きてきたリキくんが「なんか皆赤く……」とか言い出したのでトワが「記憶を失え」とか言って首を絞めたり、被害は拡大していくのだった。
「いざ行かん、魔王の居城!」
「魔力タービンエンジンフルスロットル!ペッカートル発進!」
テニーと私は叫ぶ。
魔王の居城目指して!
私達の戦いはこれからだ!
魔王の居城は高い山の中にあった。
その山の上にどうやら結界が有ったのだが、全力の核融合砲で打ち消した。
空気は読まない。
乙女の恨みは怖いのだ!
八つ当たりだけど。
後で魔王に謝っておこう。
魔王、モナカ・オブスクーリタースは魔力二千五百程度の魔王だった。
永きに渡る平和は、魔物はもちろん魔王も弱体化させていた。
そんな世界で恐ろしい魔力の持ち主が現れた。
配下に測らせた所、魔王の十倍より強いと言うのだ。
魔王は実は二段階変身する事ができる。
しかしその二段階の変身を以てしても十倍までしか上がらない。
相手がオリハルコンの武器など持ってくれば絶対に勝てないのが分かった。
だからパワーアップしたのに……なんだよあれ……。
ペッカートルは結界をバリバリと削りながら突破していく。
流石に魔王の城までの結界は一つでは無かった様だ。
私はペッカートルに城の壁を削らせる。
器用なのだ、ペッカートルは。
役に立つんだから!
「はいはい」
シルくんはサブルームから呆れた声を放ってきた。
やっぱり全員で乗りたいのでかなり厳しかったが、十五人乗りに。
まあコントロールルームは相変わらず五人しか乗れない。
これはロマンなのだ。
立ち乗りなら十五人ギチギチに詰まったら乗れるけどね。
重力コントロールシステムは付いているのだが結界を無理に破ると術式に流れる魔力が乱れるらしく激しく揺れた。
空間スペースを作る術式を亜空間結界内に置いてなければキツかっただろう。
とにかく何とか結界を潜り抜け、魔王城に突入、一気に魔王と遭遇した。
「反則だーっ!」
モナカは半泣きに……いや、号泣しながらそう叫んだ。
「あなたが魔王ですか?」
来たよ、化け物。
そう魔王が思っても仕方がない。
補助魔力込みで四十万近い魔力の塊が飛び込んできたのだから。
ドアからじゃなく、壁から。
違います、人違いです。
そう言って逃げ出そうと思ったのだが。
「知らなかったんですか? 大魔王は逃げられないんですよ?」
そのセリフは何か色々間違ってそうだが事実、逃げ切れる気がしない。
全然しない。
結局モナカは。
「お前が大魔王だろ!」
と叫んでうずくまるしか出来なかった。
さて、何故か魔王が泣いてるので丁寧に説明しようと思う。
「私は深森の元王女、レアです。 現在の肩書きは冒険者ギルド外部顧問兼魔学レア騎士団団長となります」
「深森……王家に生き残りが居たのか」
「はい、ご存知有りませんでしたか?」
「私は引きこもりだからな!」
「偉そうに言わないで下さい」
魔王なのに偉そうって怒られた魔王はもう涙が抑えられない。
そもそも私には人の事を笑えないのだが。
引きこもり仲間だーっ、とかちょっと嬉しかったが。
「私は……ひぐっ、魔王モナカ・オブスクーリタース……ひっく」
「モナカちゃんですね、分かりました」
そう言うと私はモナカを膝の上にうつ伏せで寝かせた。
お尻をひっぱたく。
「よくも深森を滅ぼしてくれましたね!」
怒りを込めて。
テニーやトワたちは呆れて見ているのだが何だかローリエだけ目付きが違う。
見なかった事にしよう。
私はスルースキルは高いのだ。
引きこもりだし。
頬を赤くして目を潤ませて指を咥えているのなど、見てないのだ。
「滅ぼしたのは……部下で……ぎゃっ!」
「監督不行き届き!」
「その部下は極刑にしましたぁ~!」
「謝罪が無かった!」
ビシッともう一撃。
魔王が変身してちょっと大きくなり、角と尻尾が生えた。
シルくんはペッカートルの中からニヤニヤして見ていたらしい。
「ごめんなじゃあ~っ!」
「謝れば済むんですか?」
もう一撃。
トワが「理不尽な仕置き人」とか呟いていたが、聞かない。
「大体あの狂った魔力の魔物は何なんですか!」
「お姉ざんもぐるっでぇ~っ」
「何ですって?!」
ビシッ。
「ゆるじで~っ」
ビシッ。
魔王は遂に三段階目の変身をした。
もう抱えていられないほど大きいドラゴンになったが、立ち上がりお尻を叩く。
「誰が変身して良いと言いましたか!」
「ごめんなじゃあいっ!」
ビシッ、ビシッと。
とりあえず気分は晴れたので許す事にした。
「主様、有り難う御座います」
「主?!」
「今からあなたを大魔王と認めて仕えて」
「お断りします、が、研究の手伝いをして下さるなら良いでしょう」
「レアは大魔王ではなく愛の破壊神、間違ってはいけない」
「トワ……」
ちょっとトワもお仕置きがいるようだ。
「主様は魂の秘術が知りたいのか……うむ、確かに私の魔術は魂に掛かる秘術よ」
「どうやってそんな秘術を獲得したんですか?」
「まあ闇の女神が健在な折にな」
「なるほど」
話によればまだ女神たちが争いあっていた千年以上の昔、魔王は直接魔術の手解きを受けていたらしい。
この可愛らしい魔王は幾つ何だろう……?
私は魔王からその秘術を教えてもらう事にした。
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