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王女になった  作者: 居茅きいろ
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一話・幼女になった

 私、レア・ネポス・アニマシルワは深森の国と呼ばれる国の王女です。



 深森の国はエルフや妖精が住むと呼ばれる禁忌の深森への入り口を塞ぐ形で建てられており、古くから人類と妖精たちとの契約である相互不介入を守るために存在していると言われています。


 私はその国の年老いた両親にやっと恵まれた第一子であり、非常に可愛がられていて、私もその両親が大好きで。



 ここで私の話を始めよう。私には前世の記憶が有る。


 その記憶を最初に思い出したのは三歳。


 ベッドで十歳年上の優しいメイドさん、ミルキーが私が眠りに就くのを待ちながら微笑みつつ頭を撫でてくれていた時。


 自分の記憶を検索し、ここが魔法の世界であることを確認した私の魂は「ちょっとやってみよ!」と呟くと


 こちらは確かすぐ外に厚い城壁が有ったはず、と足元に向かい、小さい手をかざし、魔法を放ってみた。


 元々戦争などで使われる魔法攻撃に耐えるため、城壁は凄く厚くなっているのだが。


 次の瞬間目の前に広がったのは、文明に汚されていない美しい星空。


 後に分かることだがこの時放ったのは高圧縮の空気を放つもので、土埃さえ巻き込んで本当に一瞬で目の前の空間を切り開いた。


 この世界の王族は魔法に優れた人物が継承しているので元々私自身に強い魔力があったらしいのだが、メイドさん、ミルキーは真っ青な顔をして部屋を出ていく。


 どうやら両親に「あなた方の娘は化け物です!」と報告した模様。


 よく首にならなかったな(物理的に)、と、前世の私が後に呟いていた。


 公害に一切汚染されていない美しい夜空に感激するものの、柔らかな眠気に逆らえずに私は眠りについて、次の日には前世を思い出せなくなって。


 正確に言えば、前世の記憶に介入を受けなくなった、と言う所かな?


 次に私の記憶が戻ったのは四歳の時、前世の記憶が完全に定着する数ヶ月前。


 その時の事を思い出すと今世の私は今でも赤面して卒倒しそうになる……。


 両親と共に食事を取りながらミルキーに口元を拭かれていた時。


 前世の記憶を取り戻した私がその時感じた違和感の元、爆弾発言。


「あれ? 俺これ幼女になってんの?」


 そして自分のスカートを叩きつつ。


「うん、無い無い」


 両親凍り付いてた。

 年老いた慈悲深い両親、凍り付いてた。ミルキーも凍り付いてた。


 そして顔を真っ赤にして、職務を放棄し泣きながら逃げ出すミルキー。

 本当によく首にならなかったな?


 そんな風に健やかに過ごしていた四歳の時、遂に完全に前世の記憶が復活。


 前世の私は……。


 前世の私は猟師。

 住んでいた国は日本と呼ばれる国。もちろん私たちの世界の国ではない。

 そして前世の私は、前世の記憶のまま語るならば


 むっさい二十七の山男でオタクで童貞で辛うじてニートじゃないけどほぼ両親の金を食い潰すだけの存在。


 だった、そうだ。


 ある日、先輩の七十歳のプロ猟師について山に入っていた時のこと。


 もう自分は山を知り尽くしてる、と自惚れていた私は、文字通り致命的なミスを犯してしまう。


 茂みの中に入り、仲間猟師たちとの連携を疎かにして……。


 後ろから……撃たれてしまった。


 私に前世の記憶は語る。

 あれは完全に自分の責任であった、と。


 通常森に入って獣と至近距離で遭遇した場合、それは命に関わる状態なのだ。


 例え相手が鹿であっても。


 その状態で引き金を引くのはある意味仕方がないと言えると前世の私。


 実際は私を撃った相手には獲物がなんであるか確認する義務があり、そしてやはり人を殺せば罪に問われ、猟師にも戻れなくなり、投獄……。


 自分の失敗で仲間を殺人者にしてしまった……。


 悪いのは自分であり、裁かれるのは自分であるべきだ、と。


 私にしてみれば死んでしまったのだからそれで罪は償われたと思うのだが、彼の悔恨は今世の私に深く影響を与えた。

 四歳にして人には責任があり、それを果たせないことは罪であること。

 罪を償えないことは、例えようもない苦痛であること。


 そして自分で償おうとしても、自分で自分に罰を与えても、その思いは晴れないことを思い知る。


 その苦痛。


 私は何故前世など思い出してしまったのだろう。


 前世を思い出した私は自分の体感でこの世界を知りたいと考え、町に飛び出す。


 後ろからミルキーが泣きそうになりながら追走。


 今世の私の体は恐ろしく強靭。魔力により体を支えているからだと分かった。


 城下町を走り抜けていると私より二つ上くらいの少年が私を見ていた。

 何か違和感があり、その少年を見つめてしまい……。


そして気付いた。


 六歳ほどの少年の、左手でお腹を抱え、右肘を支え、その右手で顎を撫でるポーズが酷く大人っぽい雰囲気を纏っていると。


「あなたは……」


 私の呟きで彼は電撃が走ったように震えた。


「君、ひょっとして……」


 二人同時に叫ぶ。


『前世の記憶があるの?!』


 それから私と彼の交友は始まる。


 彼の名は、シルルス・クラウス。平民の少年で前世は女性。紺色の髪に紺色の瞳が神秘的な印象の少年だった。


 私がミルキーを振り返りにやけた顔で私が前世の記憶を持つと気付いたようだ。そんな酷い顔してたのか。


 彼と一緒に居る時は色々と前世の趣味や漫画の話などしていたが、何故か彼は前世の自分自身については語りたがらない。

 そのうち話してくれるかな、と思い、大して気にはしていなかったけれど。


 ある時、せっかく魔法世界なんだから魔法の練習をしてみよう、と言う話に。


 私の風魔法は王家に加護として授けられた属性の一つで、それによって私は問題無く風魔法を使えた。

 他に王家は神に仕えるものなので、神聖魔法も可能。


 そして、肉体にある魔力を操るため、身体強化、その派生の物質強化、武器強化まで使えた。


 火や水は使えないようだが、どうもこの魔法、物理に作用するもののようで応用で物理的に色々な技が使えるようだ。


「気体を圧縮……」


 本来の風魔法による攻撃は真空の射出がメインだ。更に風の精霊に空気の発生を頼んだり、風を纏って扱ったりなど。

 しかしこの時は周囲の風を、極限まで集めて……、見ていたミルキーやシル君を激しく風で巻き込みつつ、ライフル弾の形に圧縮……発射!


 ドガンと言うような射出音、音を置いていくスピードの弾丸、森の木々を幾つか貫通した後に……………………大爆発。


 ミルキーとシルくんは発射時の轟音で気絶。私も立ったまま気絶。


「姫様……、二度とさっきの魔法は使わないで下さい……」

「僕も……勘弁かな……」

「か、改良を検討します……」


 その後、物理的摩擦で発生する轟音を抑えるため、真空で包み込むことを思い付き練習しようと二人を誘ったら。


 土下座された。

 ごめんなさい。


 自分もあの轟音を目の前で聞いていたので嫌だけれど、前世の魂がやれ、と。


 ちなみに上手く行った。完全に消音、威力調整も成功。


 この新しい魔法、エアブレットは魔力により弾丸を加速するため、原理的には光速のはずの魔力による加速なので恐らくは光速に近付けていくことが可能なはず。


 しかし実際には加速度による質量増加の抵抗が思った以上に強く、音速の数倍程度までしかならない。

 しかしまあ、そんな威力いらない。現時点でも反則。


 魔力が光速であると確認できた訳ではないが、魔力と言うのはどうも空間を満たしているものらしく、生命の体内のように圧縮しようとすると速度は非常に遅くなるのだが、逆に放出となると凄まじい速さが出る。

 イメージを発生させたその瞬間で数メートル先に発現する、その速度は恐らく光の速さはあると思われた。


 あと、エアブレットは周囲の空気を集めると遅いのだが(訓練で加速できるが)精霊により空気を生み出すことで瞬時に発動できる。

 精霊の姿は見えないが精霊への祈りを捧げることで力は発現。信仰か何かが関係している?


 その後も修行により真空の剣を両手に纏わせる技などを思い付く。

 あと、肉体強化魔法は精神にも作用することを発見。


 肉体強化全開で走ってみるとあんまり速くならないので限界があるのかな、と思ったのだがどうも違う。

 同じく肉体強化して走るシル少年を置いてけぼりにしていたので、加速は掛かっている。

 彼の名誉のために言っておくと身体強化自体は彼の方が得意だ。全開なら私が遥かに置いていかれる。彼なりに修行したから、らしい。


 彼はそれしか使えなかったので……。


あ、ちなみにシルくんは少年と呼ぶと怒るので前世の私が彼をからかうのに使うようになった。


「頑張れ少年!」

「少年って言うな!」

「お二人とも帰りますよ~」


 お城に帰り騎士団の人たちに自分の力がこの世界でどのレベルにあるか聞いてみた。

 実際に見てみないと分からないと言うことで翌日、西の森にて魔法を公開する事に。

 ミルキーが何か哀れな、売られていく仔牛を見るような目をしているけど……。


「お姉ちゃんも来るんですよ?」


 二人の時はミルキーをお姉ちゃんと呼んで甘えている。

 ミルキーはすごく嫌そうな顔をしたのだが、お姉ちゃんと呼ばれると逆らえないようで、付いてきた。

 騎士団員の中でも騎士団長や近衛兵長など重鎮が付いてくる。ちょっと身体強化をしてダッシュで置き去りにしてみた。


「はえぇ……」


 騎士団長、エファレンス・リカーが幼女みたいな声を上げていた。

 さて、騎士たちを置いて一番に到着したのはミルキー。流石は日頃から私を追いかけているだけはある。数分後に騎士たちが到着。この国大丈夫かな?


「では、皆さん揃いましたので魔法をお見せします」


 私は四歳の幼女ではあるけれど、既に精神レベルは大人。前世の記憶のお陰だ。


 まあ前世の私の精神レベルは子供だと思いますが。


 私は早速悪戯っぽく微笑みながらエアブレットを展開、強風が私に集まり……。


「伏せて~っ!」


 ミルキーは耳を押さえ座り込み。私は消音式エアブレットを射出。

 発射音はゼロだが、木を貫通した時に轟音が発生。

 まあ木が砕け散ったんだから仕方ない。

 魔法を維持していた意識を切ると大爆発、森の木を薙ぎ倒す。騎士たちは倒れて動けなくなって……。

 大丈夫かな? この国。


「うう……、凄まじい……」

「圧縮した空気が元に戻ろうと大爆発するのです。 大砲程度の威力はあると思うんですが……」


 騎士団長に聞くと「砲兵が泣いて逃げ出しますよ」と言われた。


「これは……姫様は一軍に匹敵する力をお持ちです」


 騎士団長に続き近衛兵長も感嘆。うん、やっぱりやりすぎたかも。

 それからは騎士団と合同演習などをすることに。

 まあほとんど、実戦で背後から放たれた私の魔法をどう交わすか、と言う意味の分からない演習に。演習用エアボールをゆっくり風を集めるように発動、発射、風が集まる気配が有った瞬間に全騎士がスライディング。

 うん、変な訓練。


「こんな訓練で大丈夫なのですか?」

「姫様の魔法は真似ようとしても真似られませんからねえ」


 騎士団長もなんだかやりきれない顔をしている。次の日も町に出る。ミルキーを振り切り裏路地へ。そこで私は初めての実戦をすることになる。


「お、お嬢ちゃんお一人?」「へっへ、おじちゃんたちといいとこ行かない?」


 うん、人攫いだな。


「お父様とお母様には知らない人に付いて行くなと言われています……」


 できるだけか弱い幼女のふりをする。いえ、か弱い幼女ですけど。


「良いからさ、ほれほれ」

「高い高~い」


 うわ、直に触ってきた。流石に気持ち悪いので討伐を開始しましょう。

 目をナイフのように吊り上げ、前方の男に前世の私がセリフを。


「てめえら、いい加減にしとけよ?」


 幼女の声ではあんまり脅しにならないのでは? と思ったがちゃんと引いている。

 女の子の可愛い顔が急に歪んで男言葉が出てきたのがショックだったらしい。

 じゃあ始めよう。

 先ずは肉体強化。


 自分を掴んでいる男の指を折る。


「ぎゃべえ~っ!」

「んなっ?!」


 反射強化で全てはスローになる。

 落ちながらソバットを指を折った男に一撃。地面に落ちる前に風魔法展開、残る三人の男に高い高いしてやる。


「うおわっ!」

「ひえっ!」

「うきゃあああ!」


 落ちてきた所を風魔法で束縛。


「はい、終わりですね?」


 逆らう気があるか確認した。


「くっ、離しやがれ……」

「いでえ……ふざけんなよ……」


 うん、じゃあもう少し痛めつけますね?

 前世の私の働きかけで恐ろしく嫌らしく口角を釣り上げる。


「ひえっ」

「えーと、男の人の大事な所にエアボール連打ですか?」


 少し顔を赤くしながら全員に訓練用エアボールを…………ボールに連打。うう、恥ずかしいよぅ。

 どうも何人か快感を感じ始めたようで前世の私も引いている。もうさっさとここを離れよう、うん。


 ……数年後謎のオカマ集団が現れるのだが、うん、興味ないよね。


 帰り道にシルくんに会った。ミルキーがシルくんに私の捜索を依頼したらしい。シルくんに人攫い討伐の話をする。


「怖かったです……」

「前世の奴四歳児、しかも王女様によくも無茶させたな」


 どうもシルくんの前世の人が叱ってくれているようだ。

 今世の意識と前世の意識は繋がってはいるのだが、それぞれの意識がある。前世の記憶がシュン、となるが私は嬉しい。

 ……将来的には人格が分裂するかも知れない。


「とにかくミルキーさん心配してるから帰ろう?」

「はい」


 私は素直ないい子なのだ。ミルキーが私を見つけるとダッシュで飛びついてくる。身体強化で踏ん張るも基本的に体重が軽いので吹き飛んでしまう。

 温かい体温が柔らかな胸から伝わる。


 前世のオッサンが嬉しそうだったので真空を纏った蹴りを頭の中(イメージ)で食らわせておく。


「もう無茶してはいけませんよ?」


 ミルキーは優しく呟いて。私は大声で泣いた。


 ごめんね、お姉ちゃん。

ごめんなさい。


 やがて、夏になった。私たちは家族で海に来ていた。王族専用のプライベートビーチだ。

 お父様にお願いし、シルくんも来ている。

 いいなあ、と前世の感想。すっご~い、と今世の感想。


 真っ白な砂浜と透き通る青の海、白い雲と青い空、輝く太陽。

 騎士たちも何人か護衛に来ているのだが、全員水着だ。

 私はすっかりハイテンションになって、一人、海に走り出した。海の上を身体強化と風魔法の補助で疾走する。


 その時だった。事件が起こる。


「姫様あ~あっがぼがば……」

「ん?」


 しまった。ミルキーが私を追いかけて溺れた。私は慌てて来た道を戻る。風魔法で海を割り砂の海底に飛び降りた。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」


 息が止まっている。

 私は急いで彼女を抱え、風を脚に纏い空を飛ぶ。

 風で肌が斬れるほどの高速で砂浜に戻ると回復魔法をかけながら心臓マッサージする。

 意識が戻らない。


 体の傷は修復できているが、やはり蘇生は無理なのか? そう思ったが、前世の魔法がない世界でも心肺停止や脳死から復活するケースがあるのだ。


 私はできるだけ脳にダメージが行かない様に直接酸素を送りながら回復魔法を脳にかけ、更に身体強化でマッサージを続ける。

 帰ってきて、お姉ちゃん!

 私の処置は前世の記憶に基づくもの。周りの騎士たちや両親は驚いた顔をしている。


「肺に空気を送り込んだらどうだろう?」


 シルくんも前世の記憶からアドバイスをくれた。なるほど。

 直接肺に空気を送り込むと、ミルキーの口から水が吹き出る。


「あが……かはっ!」

「目覚めた!」

「お姉ちゃん!」


 ミルキーが目を覚まし、シルくんも私も蘇生を確認する。

 しかし死者蘇生など見たことがない騎士やお父様たちは凄く驚いていた。


「儂の娘は神の子じゃ~っ!」

「うお~っ、姫様すげええっ!!」


 そんな周りの反応を余所に、私はミルキーに抱き付く。


「お姉ちゃんごめんなさい、ごめんなさい!」

「ひ、姫様……、このビーチお花畑ありましたっけ……?」


 どうやら完全に死ぬ所だったようだ。前世に続いて最悪のミスを犯してしまった。

 私は泣くしかできなかった。シルくんが私の肩に手を当て、ミルキーも完全に覚醒して起き上がり、私を抱き締めた。


 その日はもう水に入ることもなく、別荘に帰る。お昼を食べていると私にミルキーは感謝を伝えてきた。


「姫様がいなかったら間違いなく死んでました……感謝します」

「お姉ちゃん……」


 そんなわけ無い。


「私のせいだから……」


 私はまた大声で泣き始め、ミルキーは私を抱き締める。その日からミルキーと一緒にご飯を食べることにした。

 前例がないらしいがお父様は私の言うことで反対したことはない。


「明日は普通に泳ぎましょう!」

「うん……」


 ミルキーはできるだけ明るくしようとしてくれているようだ。また罪を犯し、裁かれなかった。

 私の小さな胸に、その苦痛はあまりにも重い。前世の自分の気持ちを、痛いほど噛み締める。


「姫様、今度は私も海の上走らせて下さい」

「うん……いいよ……」


 彼女に愛されていることを感じる。前世の私も号泣。

 良かった……この温もりを失わなくて。


 次の日、何故かお父様を背負って海を走る。弾ける水飛沫。


「すっげ~のじゃあ~っ!」

「お父様、大丈夫ですか?」


 小さな私が背負っているもので、お父様は脚を思いっきり水にぶつけている。

 一応は私の肉体強化を掛けているが、凄まじい衝撃が有るはず。


「ぜんぜん平気じゃ~! 気持ちいいわいっ! レアは天才じゃの!」

(はっちゃけてんな、ジジイ)


 前世の私の意識は、お父様のことを尊敬していたのだが、流石にこれには毒づくしかない。

 お父様を浜に降ろすと騎士たちが申し訳無さそうに自分たちも海の上を走りたいと懇願してきた。私は安全に全員を海の上で歩けるようにする方法を考えた。

 要するにこれは大気圧縮で巨大な空気の海底を作れば良いのではないか?


 ある程度の範囲には魔法を展開できるが、魔力切れを考えると難しい。そこで次に空気の靴を作ることを考えた。人一人浮かせる浮力を体に纏わせ、上昇気流で更に持ち上げる。


「走ってみて下さいますか?」

「はいっ!」


 空気の靴はしっかり水飛沫を上げて騎士のお兄さんの体を支えている。


「成功したみたい」

「姫様、これ良いですね!」


 沖から騎士のお兄さんが喜びの声を上げる。それを見て他の騎士たちも、我も、自分も、拙者もと申し出てくる。

 忍者は自分で走って欲しい。


「仕方ないなあ……」


 私の魔力は今やこんな物では切れない。全員に水上走行魔法を施し、オマケに若干身体強化もかける。

 海の上で盛大な追いかけっこが始まった。


「私たちも行きませんか?」

「うん!」

「僕も行くよ!」


 私たちは海の上を走り出した。

 シルくんは驚いたことに身体強化だけで海の上を走った。すごいなあ。

 ただ全体重を水に伝えるのに凄い速度で足を水面に叩きつけてるので近くにいると水飛沫が痛い。ほんの少し体重を下げてあげた。


 今日は流石に疲れた。私は別荘に帰るとご飯を待つ間に寝てしまう。


「今日は大変だったわね」


 お母様が優しく私の水色の髪を撫でてくれていたらしい。目が覚めると温かい手の感触とともにお母様は労いの言葉をくれた。






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