魔王の娘
「ガトッ! 何で呼んでるのに返事しないわけ?」
その声を水晶玉越しに聞くたび、頭が痛くなる。
やっと取れた半休なのに……この我儘娘に潰されるのか。
「はっ、何かご用でしょうか?」
「私の事……好き?」
殺すぞ、貴様。
「それは、私のような身分の者には答えかねます」
なぜこのようにへりくだっているかというと、この我儘娘が我が主の娘だからだ。
飢饉が起きると、たびたび人間は子を山に捨てる。そうした人間の子を、我が主は保護しろと命じている。
人間という種族こそ、滅すべき存在だと考えているが、生まれてくる命の尊さに種族は関係ない
我が主は、我らにそう教えてきた。
この娘はハルという人間だ。幼少の頃に我が主直々に拾われ一人娘として目に入れても痛くないような可愛がりようだった。
しかし、そんな我が主の優しさにつけこむようにハルという人間の娘は我儘にそして、暴虐に育っていった。
あくまで個人的な意見ではあるが、ハルが我儘なのは我が主の教育が悪かったのだと思う。
じゃなかったら、半年に一度しかない半休には、連絡してこない
「ふーん、相変わらず堅物なのね。ねえ、ガトッ。あたし、女優になる」
女、女優!
「何をおっしゃってるか意図がよくわかりませんが」
歓楽街にある人間の職業だと聞いている。
魔王の娘が、そんなところで働けるわけ、ないだろう。
「あたしって、ほらっ顔が綺麗でしょ? その長所活かそうと思って」
「あの……魔物である自分には測り兼ねますが、とにかく一度我が主に話してみた方がいいのでは?」
親に相談しろ、そういうことは。
「お父様がガトに聞きなさいって」
うわあああああああああ! に、逃げやがった。