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十二章 第三話 奇妙な五人組の物語

よく晴れたとある春の日。レールド王国の城下に多くの人々が集まっていた。その中には、城下に住む人達だけではなく、地方に住む人々、他の国に住んでいる者までが集まっていた。おかげで街には人が溢れかえっていた。人が多くいるのもあり、年に一度の建国記念式典よりも大きな盛り上がりを見せていた。それもそのはず、今日は新しく国王となるヒロガ・フォレスティオの即位式であり、シロイラ・アルドリレイズとの正式な結婚式だからだった。

城の前には身動きも取れないほど人が密集して、美しく咲き誇る五色の花を眺めていた。温もりを感じる琥珀色の花、力強さを感じる黒い花、優しさを感じる白い花、気高さを感じる銀色の花、そして人々の目をくぎつけにしている金色の花。それらは全て、ハルヴィンが育て上げた花だった。



「うわ…こんなに人が…」

城の窓から外をみたシロイラは思わず顔をしかめた。普段人前に出るようなことがなかったシロイラにとって、今からの行事は苦痛なものだった。

「い…今からでも、吹奏楽団ゆ混ざろうかな〜…」

「楽器できないでしょ?」

横からの鋭いツッコミにシロイラは「うっ」と声を出した。そして横に立っているヒロガの服装を見た。

「ダッサイなー、そのマント」

シロイラはヒロガのマントを指摘した。しかし、これは代々国王の即位式のときに身につけていたものなので、着ないわけにはいかなかったのだ。

「それにしてもさ、何でヒロガは私と結婚しようと思ったの?婚姻届が降ってきたから?」

「うーん、俺はそれはきっかけだと思う。姉ちゃんとクロイラさんが半人前の俺たちだと不安に思ってやったことだと思う。けど、それは結婚を決意した理由じゃないな」

「回りくどいこと言わんで、サッサと答えば言わんね‼︎」

「ご…ごめんって‼︎そ…それはさ、一目見たときこの人だって思ったからだよ‼︎」

ヒロガがそう言うと、シロイラは面白そうにニヤニヤと笑った。

「え、待って。変なこと考えてない⁉︎」

「べっつにー。そんなことよりさ、ハルヴィンさん来てくれないのかなぁ?」

質問に答えなかったシロイラがヒロガに聞いた。

「さあね」

ヒロガは素っ気なく質問に答えた。

「しっかし、動きにくいねこのドレスは。イラがないのも慣れないし…」

ブツブツと文句を言うシロイラの横で、ヒロガは宙を眺めていた。




その頃、ハルヴィンは城へは向かわず、城下の喧騒を抜け、人気のない裏路地に入っていった。ハルヴィンは道に迷うこともなく、一つの古ぼけた扉の前に立ち止まった。扉の横には札がかかっており、少し読みづらい字で『ヴァケラオンド工房』と刻まれていた。ハルヴィンは扉をノックした。すると内側から鍵が開けられ、一人の女性が出てきた。女性はハルヴィンの顔を見ると、部屋の中へと招き入れた。部屋の中にはガッチリとした机と椅子が置いてあった。そのうちの一つの椅子にハルヴィンは座り、もう一つの椅子に女性が座った。

「何か、御用ですか?」

女性は高く澄んだ声で話しかけた。

「…君は自分の先祖が犯した罪をどう思うかい?」

ハルヴィンは質問をした。

「…情けなく思います。かつてはラニューカ王国に救われた歴史もあるというのに、自分勝手な理由、自国の利益の為に、侵略し領土を奪ってしまったことを」

女性は息を吐いた。

「…現在の王族になって、少し安心しています。あのまま私の祖先が、レールド王国の王を続けていたならば、この間の大規模な内乱によって滅びていた」

「君は王族に戻りたいと思うかい?」

「…いいえ、戻りたいとは思いません。私はかつての王の血を引く者。同じことをやりかねないかもしれない。だから今は、ラニューカ王国の復興を支援していきたいのです」

ハルヴィンはフッと微笑んだ。

「400年前、王族を全滅させなくてよかったかもしれない」

「御用はそれだけですか?」

女性は再び聞いた。

「いいや、それだけではないよ。小説家である君に、物語として書いてもらいたいものがあるんだ」



即位式から数年。ラニューカ王国は無事再建し、独立を果たした。新しくラニューカ国王即位したあの男は、今よりも国を富ませ、かつてのような友好関係をレールドと築きたい、と言っていた。それを聞いたヒロガは

「心が広く、目指す先を見据えている素晴らしい国王だ」

と呟いた。ラニューカ王国の建国記念式典に招待されていたヒロガはラニューカ王国に謝罪し、何か起こればすぐに支援すると国民全員に宣言した。

レールド王国では、シロイラとヒロガの間に二人の子供が誕生した。双子の王子と王女だった。二人は双子に迷うことなく、ダイティとクラティと名付けた。二人は病気一つせず、スクスクと育っていった。

そんなダイティとクラティはかつて見たことのある光景を日々繰り広げていた。

「ほら、ダイティ!何してるの!メソメソ泣かないの!」

「ク…クラティ…や、やめてよ…」

ヒロガは懐かしげにそれを眺めていたのだが、シロイラはよくわからないというふうにヒロガを見つめていた。

内乱も争いも起こらず、二人は幸せだったのだが、別れは突然に訪れた。



「ハルヴィンさーん!ハルヴィンさーん!」

シロイラはハルヴィンを探していた。今日は、普段自衛の為の兵士をまとめるために働いているハルヴィンが久しぶりに遊びに来ると言っていた。だが、約束の時間になってもハルヴィンは姿を現さず、忙しいヒロガに変わってシロイラは城の中を探していた。

最初は資料室にいるのかと思っていたのだが、城の中に幾つかある資料室を探してみても、ハルヴィンはいなかった。他にハルヴィンが行くところで思い当たる場所もないのでシロイラは困り果てていた。

シロイラは地下へと降りた。城の地下は、数年前までは多くの兵士が訓練をするための場所、ラニューカ王国の内乱軍を捕らえておくための牢があった。シロイラは兵士が生活をしていた場所をくまなく探したのだが、ハルヴィンはいなかった。そして、ふと地下牢が目に入った。その地下牢を見た瞬間、シロイラは目を見開いた。

「ここって…」

シロイラの記憶に焼きつき、絶対に忘れられない記憶の場所、奴隷として捕らえていた場所が目の前にあったのだ。

「お…お城の地下牢だったの?」

シロイラはゆっくりとそちらに近づいた。地下牢への入り口は扉と鉄柵で塞がれていたが、鍵もかかっておらず、簡単に入ることができた。

「あ…相変わらず…」

シロイラは恐怖に襲われた。やりたくないことを強要され、クロイラを殺そうとした場所。人は誰もいないのに、シロイラの耳には、人のうめき声が、ジャラジャラと鳴り響く鎖の音が聞こえたような気がした。

しかし、シロイラは首を振ってその恐怖を振り払った。

「まさかいるようなことはないけど…念のため…」

シロイラは地下牢へと、歩みを進めた。



シロイラは自分の記憶を辿り、なるべく多くの牢の中を覗けるルートを見つけ出し、歩いていた。シンとした地下牢にシロイラのたてる靴の音だけが響いていた。

そしてシロイラは一つの牢の前で立ち止まった。地下牢へと僅かに射し込む僅かな光の中でシロイラはそれが何なのかを理解した。

「ハルヴィンさん!」

シロイラは鉄柵に飛びついた。そしてそのまま、ハルヴィンの名前を叫びながら鉄柵をガシャガシャ揺らした。しかし、鉄柵はビクともしなかった。こんなに、大きな音を立ても、ハルヴィンは起きなかった。

それを続けていると、シロイラは鉄柵の前に手紙と一冊の本が置いてあることに気づいた。シロイラは手紙に飛びつき、封を切って読み始めた。



『シロイラとヒロガへ

どちらが読んでいるのか、はたまた二人で読んでいるのかわからないけれど、その時はもう僕は死んでるんだと思う。

まず、僕には二人には感謝しなければならない。僕はずっと復讐のために生かされ、復讐のために生きてきた。けれど、二人と出会えて別の生き方も出来るんだとわかった。

僕は天国へ行けるかはわからないけれど、もし行けたとしたら、クロイラとリオナに会いたいな。二人によって地獄に落とされそうだけど。

この手紙と一緒に本があるだろう?その本は二度とレールド王国が、他の国が同じ過ちをおかさない為に、物語として今までのことをまとめたんだ。それを書いたのは僕が全滅させたと言った、前の王族の子孫なんだ。彼女も罪滅ぼしのためにこれを書けてよかった、と言っていた。

最期になっちゃったけど、今までありがとう。最期にこれを言うのもなんだけど、僕のつくった五色の花、あれには名前があるんだよ。ヒロガ、クロイラ、シロイラ、シル、僕。

これからも、その五色の花を咲かせ続けて欲しい。僕はその花がいつか、平和の証となって欲しいと思っている』




手紙を読み終えたシロイラは、ペタンと床に座り込んでしまった。手紙の文字がだんだんとぼやけて見えなくなっていった。

「な…何で…?」

シロイラの手にある手紙にポタポタと涙が落ちた。

「何で勝手に死んでるんですか‼︎」

シロイラは涙を拭い、再びガシャガシャと鉄柵を揺らした。

「嘘ですよね、こんなの!ジョークですよね⁉︎」

けれども、何度呼んでも返事はなかった。

「どうした!シロイラ!」

地下牢にヒロガが飛び込んできた。

「ハルヴィンさんが‼︎」

ヒロガも鉄柵の中の光景を見て目を見開いた。シロイラはまだ名前を呼び続けていたが、とうとう返事は返ってくることはなかった。

「いきなりすぎるよ…」

ヒロガもヘナヘナと床に座り込んだ。まだ話したいこと、一緒にやりたいこと、兵士時代には叶えられなかったこと、沢山の未練がヒロガの頭の中に浮かび、ヒロガの目から涙が溢れ落ちた。

「なんでなんだよぉ…」

地下牢に射し込むほんの僅かな光が、すすり泣く二人をいつまでもいつまでも照らし続けた。

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