十二章 第一話 最後の戦い
「シロイラ団長‼︎こちらです!」
「今の状況は⁉︎」
シロイラとハルヴィンは本部が設置されているところまで走っていった。その間、通りすがった兵士達に励ましの声をかけたりしていた。
「現在内乱軍はこんな要求をしています」
そう言って、ロード副兵士長は一枚の紙をシロイラに手渡した。そこには
『話がしたい。そちら側の代表者が1人、内乱軍の本部に来い』
とだけ書かれていた。シロイラは「うーん」と声を上げた。内乱軍は本当に何か話すべき内容があるのだろうか、これは罠ではないだろうか。しばらく考えた末にシロイラは結論を出した。
「わかった、私が行く。護衛に関しては狙撃軍だけ注意をするように言っておいて」
「だ、団長が行かれるのですか⁉︎」
ロードはひどく驚いた。これは自分が行くべきであろうと思っていたからだ。
「いや、僕が行くよ」
突然横で相槌を打っていたハルヴィンが提案した。
「僕が行けば…少しは何か変わるかもしれないし…」
この提案にシロイラは頷いた。
「それはいいかもしれない」
ロードは二人の会話がよくわからないらしく、首を傾げていた。
「では、お気をつけて」
ハルヴィンは「あぁ」と頷くと、すぐに駆け出した。それをいつの間にか見ていたヒロガが
「1人で行かせちゃうの?」
と少しからかい気味にシロイラに聞いた。だが、ヒロガも返ってくる言葉は何なのか分かりきっていた。
「もちろん、行かせるわけないでしょ?」
シロイラはそばにあった刀を手に取った。
内乱軍の方へ走り出したハルヴィンは自分が無抵抗であることを示すため、両手を上げたままだった。ただ、相手がむやみやたらに攻撃しようものならすぐに反撃するつもりでいた。本部に着くまでハルヴィンの目は忙しく動き続けていた。
「そこで止まれ」
突然、前から声が聞こえ、ハルヴィンはピタリと静止した。いつの間にか周りは内乱軍に囲まれており、すぐ側に銃口が迫っていた。
「名を名乗れ」
ハルヴィンの目の前には大きなテントがあった。大きさからして内乱軍の主将のものだとわかった。声はその中から聞こえていた。
「ハルヴィン・ヴァケラオンドだ」
「…入れ」
恐ろしく低い声が聞こえ、銃口を向けられたままハルヴィンはテントに入った。
テントの中にはおそらく作戦を練るためであろう、地図の置かれたテーブルと、主将らしき男の座る大きな椅子が置いてあった。男の周りはガッチリと護衛がついており、無駄な抵抗はしない方がいいなと思わせた。
椅子に座っている男は言った。
「ヴァケラオンド?まさか、ハイザントの子孫か?」
その質問にハルヴィンは暫く口を閉じたままだった。男も早く言えなど催促はせず、沈黙が続いていた。次に口を開いたのはハルヴィンだった。
「残念ながら…本人だ」
「は?何を言って…」
男は一瞬だけ何を言っているのかわからないという顔をしたのだが、直ぐに獰猛な笑みを浮かべ、
「ああ、あの呪いは本当だったんだな」
と言った。
「呪い?」
ハルヴィンは聞いた。
「ふん、知らないのか?カシミア様はその命を終える直前、貴様に呪いをかけたのだ。カシミア本人が殺すまで死ねない呪い。そのせいで貴様は何百年も生きているんだ」
ハルヴィンは口を開けたまま静止していた。
「驚いた…という顔だな。それとな、どうやら生まれ変わりのカシミアも死んだらしい。今お前は誰にだって殺される体になっている」
そう言って男は、周りの者達に銃を構えるよう命令した。
「最期に言い残すことは?」
男は聞いた。
「…これで自分の罪が償えるのなら、ここで死んでも構わない」
男は再び獰猛な笑みを浮かべると、亜麻色の髪の青年の周りにある全ての銃口が火を吹いた。
『カキン カキン カキン』
テントの中に金属同士のぶつかり合う音が鳴り響いた。ハルヴィンは閉じていた目を開いた。目の前に広がっていた光景にハルヴィンはひどく驚いた。ハルヴィンの前には1人の兵士が立っていた。彼は自分の身長よりも大きなハンマーを構えており、そのハンマーにも沢山の跳弾の跡が付いていた。
「今だ!シロイラ!」
その声と同時に黒いイラを身につけた1人の女兵士が飛び込んできた。彼女は「はあああああっ」と叫びながら、両手に持った二本の刀で次々と周りの男たちを倒していった。
「ヒロガ!そっちは頼んだよ!」
「了解!」
戦地に舞う二人の姿の後ろで、ハルヴィンは1人立ち尽くしていた。
「大丈夫ですか⁉︎」
シロイラがハルヴィンに駆け寄った。ハルヴィンは暫く呆然としていたのだが、「大丈夫」と答え、2人を不思議そうに見つめていた。
「…どうして…」
「どうしたんすか?」
ヒロガも駆け寄った。
「どうして僕なんかを助けたんだい⁉︎二人とも僕なんていなくなって欲しいでしょ⁉︎僕がいなければ、クロイラもリオナもみんなも死ななかった!」
ハルヴィンは唇を噛み締めた。
「二人にだけはこれ以上手を汚して欲しくなかったのに…!」
「あ、それですか?」
突然シロイラが笑顔で答えた。その以外な笑顔にハルヴィンは拍子抜けした。ヒロガも早く言いたくてウズウズしているようだった。
シロイラは腰に差してある刀を差し出した。それはクロイラの刀で、部屋にずっと置いてあったものだった。しかし、刀を使うのはクロイラだけだったので長い間使われてなかった。
「これはですね!昔お兄ちゃんとよく遊んでた『峰打ち』ってやつを使ったんです!倒れてる人、出血してないでしょ⁉︎」
ハルヴィンは倒れている男たちを見た。確かに気を失ってはいたが、どこにも出血のあとは見られなかった。
「俺も銃弾を防ぐ以外には使ってないっすよ!」
ヒロガも何故か嬉しそうに言った。そして2人で声を合わせてこう言った。
「名付けて『クロイラ考案・峰打ちとハンマーで誰も殺さず内乱軍を倒しちゃおう大作戦‼︎』です!」
シロイラとヒロガはニコニコと笑顔だった。ハルヴィンはその2人の笑顔が眩しすぎたのか思わず目を逸らしてしまった。
「二人は…僕のこと何とも思わないのか?」
「え?何のことですか?」
シロイラはキョトンとして聞いた。
「二人は僕のせいで…人生を狂わされてるんだよ…?」
するとヒロガは少し考えたあとこう言った。
「よくわかんないっすけど、俺はハルヴィンさんがいなければ普通の家の子供だったっす。もしかしたら子供なんか養う余裕もないくらい貧乏で、俺も姉ちゃんも生まれることは出来なかったかもしれないっすよ?シロイラとも出会えなかったかもしれないっす。俺は今、生きていて幸せっす。だから別にいいんすよ?」
「その通り!私もひょっとしたらヒロガとも出会えなかったかもしれない。もしお兄ちゃんがツォフォルの人間なら生まれることもなく、私とも出会えなかったかもしれない。今まで出会った人にも、大切な人にも、大好きな人にも出会えなかったかもしれない。沢山の人に出会えて、私は幸せです」
「まだ、ハルヴィンさんは自分を責めてるんすか?ハルヴィンさんは少しも悪くないっす。悪いのはラニューカ王国への侵略を考案した王政府っす!」
「だからもう、そんなこと言うのはやめてください。いいえ、もう禁止です!」
ハルヴィンは2人の言葉に苦笑した。今までずっと二人は不幸なんだと思い続けていたのだが、2人の意外な言葉に圧倒されてしまったのだ。
「わかった、わかった。もうそんなことは言わない。けど、僕が生きていてラニューカの人々がどう思うかな…」
ハルヴィンの弱気な言葉にシロイラが答えた。
「どうも思いません!恨まれてるかはわかりませんけど、私はハルヴィンさんの味方です!少しワガママかもしれませんが!」
そう言うと少しだけハルヴィンも笑った。2人の目には涙が溜まっていた。
「わかったよ、約束する。もう二度とあんな事言ったりしない。二人の側にずっといるよ」




