十一章 第二話 X年前
暗闇だった世界がゆっくりと明るくなり、僕は意識を取り戻した。けれど、僕は晴れているはずの空を見て驚いた。どこまでも青い青い空が今は燃える火のように真っ赤に染まっていたのだ。慌てて辺りを見渡すと、どこもかしこも真っ赤な世界だった。そして気がつく。僕は意識を失っていたはずなのに、なぜこの大地に足をつけているのか。混乱していると後ろから声がかかった。後ろを振り返ると一人の男と、その男に重なった六角形のマーク、「member」の文字が視界に現れた。男は不気味に笑いながら、
「どうしたんだ?」
と僕に言った。
「ここは…僕は…いったい…」
男はハァ?という顔をして僕の顔を覗き込んだ。
「お前、今まで何してたか覚えてねぇのか?」
その言葉に思わず僕は、男を張り倒した。
「馬鹿にせずサッサと教えろっ…‼︎」
すると男はサァッと顔を青ざめ、明後日の方向を向いて質問に答えた。
「俺たちはレールド王国の国王の命令で、ラニューカ王国を潰していたんだ…。それで今は帰る途中…」
ラニューカ王国を潰した…?なぜそんなことを…?いいや、この男は信用してはいけない。
「おい、嘘を吐くな。正直に答えろ」
僕は男の胸倉を掴み激しく揺さぶった。
「しょ…正直に答えてるよ!そ…そんなに疑うんならあっち、見てみろよ‼︎」
男は右手の方を指した。男を地面に落とし、男の指した方向へと数歩歩いた。ここはちょうど高台だったらしく、僕はその光景を全て見ることができた。
「っ…⁉︎」
そこから見えたのは確かにラニューカ王国だった。けれども、僕の知っている美しく歴史のある王国ではなかった。城下町からはあちらこちらに火の手が上がり、沢山の建物が崩れていた。町の真ん中にある城も大きく損傷していた。
「しっかし流石はレールド王国最高技術師の作ったアンドロイド。俺らの助けも借りず、ものの数時間で国一つ滅ぼしちまうとはな」
男が何てことはないといった声を出した。
「早く帰ろうぜ、レールドに…」
立ち上がった男が一瞬ビクンと大きく揺れ、大きな音と砂埃と共に地面に倒れこんだ。男の腹部からの血はじわりじわりと土に染み込み、僕の手のひらからは硝煙が上がっていた。視界からは六角形のマークは消え去り、僕は足早にその場を去った。
どれくらい走っていたのか。変わり果ててしまった道をただひたすら走っていた。きっとこの道であっている。この道を走っていればいつかラニューカ王国に辿り着ける。高台から見下ろしたのはラニューカ王国なんかじゃない。ましてや僕がそれをやっただなんて、そんなもの嘘に決まっている。そう信じていたのにその期待はいとも簡単に裏切られた。
「クソッ…‼︎」
森を抜けると、高台で見たものと寸分も違わないラニューカ王国があった。僕は絶望を感じながらゆっくりと城下町へと進んでいった。
あぁ、この辺りは僕に優しくしてくれた夫婦の家だ。確かこの辺りはあの青年の…。かつて訪れた際の記憶を辿り、12の銅像の立つ広場にやってきた。その像も誰なのか判別がつかないほど粉々にされていた。足元には2つ、男女の像の首が落ちていた。
突然、ガタッという音が聞こえた。思わず側にあった銅像の立っていた台座の陰に隠れた。誰なのかはわからないが、反対側の台座の方におそらく人間を示しているのであろう、六角形のマークが現れた。
「今、誰かいませんでした?」
その声に心臓がドクンと波打った。間違いない、あの声はカシミアだ。飛び出しそうになったが、自分がラニューカ王国を滅ぼしたのかもしれないと思うと、それは阻まれた。
「いいえ、私は何も見ておりません」
同じ方向から側近と思われる男の声が聞こえた。
「十二神の銅像まで壊していくだなんて…」
カシミアの声は震えていた。彼女の言った十二神には聞き覚えがあった。かつてレールド王国とラニューカ王国を結んだ者たちであり、この国の信仰宗教の信仰対象らしい。もし僕が本当に銅像を壊したのなら…そう思い、自分自身に怒りを覚えた。
次の瞬間、カシミアの口から驚きの言葉が出た。
「父の死後を狙った挙句、ハイザントを使ってくるとはッ…‼︎」
ハイザントを…僕を使ってくる…?
「あの時…6年前…城で技術師の話を受けた時…。…騙されたわッ‼︎」
カシミアの言葉は偶然訪れた筈の僕と父に罠に嵌められたと言っていた。
「私が愚かだった…。ハイザントに父が危篤だなんて言わなければ…この国に招待しなければ…この国は滅ばずに済んだかもしれない…!」
違う、違う!僕はあの時、偶然城で出会ったんだ。僕は君のことを心から愛している…!なのにこんなことはしない…!
「…私が死んだら永遠の泉に葬りなさい。427年後、私は生まれ変わり、あなた達の子孫と共にレールド王国を滅ぼします」
「ですが、ハイザントはもう死んでいるかと…」
「あなた達には2つやってもらうことがあります。1つ、ハイザントを見つけ次第暗殺し、永遠の泉に葬りなさい。2つ、私の正式な命日は伝えず避難民の子孫たちで、内乱を起こし続けなさい」
「2つ目は何のために…?」
「常に内乱を起こしていれば、大規模な内乱を起こした時にまた内乱かと緩い戦力で対応してくるでしょう。その隙をつきなさい」
僕は「守護神 ホルン」と書かれた台座の陰で恐怖で震えながら意識を失った。
それから僕は何をしたのか、聞いた程度にしか覚えていない。まず僕をアンドロイドにしたフィリオスを殺した。アンドロイドを作れと依頼した、王の手先の悪人も殺した。僕がアンドロイドになってしまったことに関係している全ての人々を殺していった。王も殺した。そして代わりの王である、フォレスティオ家を作り上げた。
そしてある日意識を取り戻した、我に返った僕はただひたすら嘆き悲しんだ。人を殺めても何とも思わないこの頭を。何度だって死のうと思った。けれども死ねない。僕はそんな体になってしまった。僕が城に行かなければ…フィリオスとアンドロイドを作ろうという約束をしなければ…いいや、僕なんて生まれなければよかったのかもしれない。
死ぬことのできない体で無駄に何百年も生きた。なにもすることはなかったがある日、面白い情報を手に入れた。




