八章 第二話 裁き
歴史上に残る、最大規模で史上最悪な内乱から三日後。ハルヴィン、ヒロガ、シロイラは城下の中の方にある、とある裁判所に集まっていた。証人として召集された三人は控え室に集まっていたが、誰も口を開くものはいなかった。
燃え盛る炎の中、脱出したハルヴィンは団長の死に驚いた。そして多くの兵士はクロイラの死を聞いて、涙した。同時に怒りや不安を抱いていった。兵士軍主戦力の一角がいなくなってしまった。
先日、クロイラは墓に葬られた。シロイラは兄がいなくなったことに実感が湧かないのか、それともあまりのショックからなのか、ずっとボーッとしていた。それを見たヒロガはシロイラの気持ちが痛いほどわかった。
そんな中、ハルヴィンは昨日話してくれたシロイラとヒロガの話を思い出していた。
シロイラはまず、日記について教えてくれた。
あの日記には、アルドリレイズ家の家系図が書かれていた。「ハンナ・アルドリレイズ」のあとに長男、次男、三男の名前が続いていた。次男の下には二人の子供の名前が書かれていた。クロイラ・アルドリレイズとシロイラ・アルドリレイズ。しかし、クロイラ・アルドリレイズは既に死亡しているとあった。生まれてから一年が経つ前に…。
その後、シロイラ・アルドリレイズは行方不明になっていた。二才の誕生日の前日だった。しかし、息子は死亡届けも捜索願いも出していなかった。
暫くページをめくっていくと、シロイラとクロイラが小屋にやって来た日のことが書いてあるとこに行き着いた。13年前のことらしい。ハンナは孫が帰ってきたと喜んでいた。しかし約一年後、殺人容疑で二人は捕まってしまった。毎日毎日二人の帰りを待っていたようだが、とうとう二人は帰ってこられなかった。日記にはそう記され、唐突に終わった。
ヒロガが話してくれた、身の上についても思い出していった。
ヒロガの家は王族の分家にあたるらしい。ただ、分家といっても祖父が現王らしく、遠い血縁関係ではないらしい。
ヒロガは父と母、一人の姉が家族だった。姉の名前は「リオナ・フォレスティオ」。ヒロガ同様、美形であり求婚者が絶えなかったそうだ。かなり破天荒な人だったらしいのだ。
どのくらい時間が経ったのかわからない控え室に小さくノックの音が響いた。
「時間です。裁判が始まります」
「ただいまより、被告人シル・フィオラティスの裁判を執り行う」
裁判長が高々と宣言した。それまでざわついていた傍聴席の人々は黙り、入廷したシルへと目を向けた。
『シル副団長がスパイだっただなんて…』
『兵士軍もどうして気づかないかねぇ』
それでもなお、兵士軍を批判する声は続いた。それを聞いたヒロガは冷静な顔で人々を睨み付けた。その様子をシルは見つめていた。
「被告人シル・フィオラティスには兵士団長、兵士長、一人の兵士の殺人の容疑がかけられている」
裁判長はそれも気に止めず、文を読み上げた。ハルヴィンはそれをじっと見つめていた。
(元兵士長か…。懐かしいな…)
シロイラはそう思い、首を撫でた。首にはリオナから貰った兄とお揃いのイラをいつも巻いていた。今は、イラをどこかで無くしてしまい、心細く思っていた。シロイラの目に涙が浮かぶ。いつもはシロイラが泣き出すと、クロイラが直ぐに来てなぐさめてくれた。しかし、彼はもういない。こんなんじゃダメだとシロイラは涙を拭った。両手で拳をつくり、太ももにおいた。そして、唇を噛み締める。シロイラはジッと耐えていた。
しばらく経つと、シロイラは落ち着きを取り戻し周りへと注意を向けた。すると、横に座るヒロガが何かを呟いているのがわかった。うつむき、顔は見えないが何かを言っていた。
『あいつは姉ちゃんを殺した。許さない』
シロイラは読唇術で読み取った。それが何のことなのかシロイラは理解した。
(元兵士長、リオナ・フォレスティオ)
彼女のことだと、シロイラは直感した。
シロイラが静かに思考している間にも、裁判は何の問題もなく進んでいった。そしていよいよシルが証言台に立った。部屋の中に緊張が走った。シルがゆっくりと口を開いた。
「私は…何もやっていません!!!全ては私の中のカシミアがしたことです!!」
その開き直ったかのような証言は皆を沈黙させ、呆れさせた。証人の三人は怒りを覚え体が震えるのを感じた。
「私は何も…」
シルは再び同じ証言を続けようとしたが、
「そんなことは聞いてねぇんだよ!!」
ヒロガが立ち上がり叫んだ声によって続けられなかった。その様子を兵士達は何も言わず見つめていた。
「お前がシルだろうと何だろうと!!姉ちゃんやクロイラさんを殺したことに変わりはないんだよ!!」
ヒロガは兵士達を指差した。
「そこにいる全員が証人だッ!!!」
「ヒロガ…落ち着いて…」
シロイラがヒロガを宥める。
「シロイラさんも!!クロイラさんを殺されて憎くないんすか?!」
「私だって憎いよ!!でも…」
シロイラは息を吸った。
「シルさんはなんて証言しようと、有罪だよ。それにヒロガが本当に憎いのは自分なんじゃない?そうでもなくちゃ、シルさんをあそこまで責めたりしない」
「気がすみましたかな、ヒロガ・フォレスティオ」
「はい」
その後も裁判は続き、三人は指名が出れば証言台にたった。三人が証言したものは誰にとっても不利有利になるものではなかった。しかし、最後までシルは同じ証言しかしなかった。
「では、被告人シル・フィオラティスに判決を言い渡す」
裁判の終わりに裁判長が再び高々と宣言した。
「被告人を死刑に処す」
「シロイラ、ヒロガが自分が憎いってどういうこと?」
家に帰る道中、ハルヴィンはさりげなく聞いた。3日ほどシロイラは黙ったままだったので、話してくれるかどうかは期待していなかったが、シロイラは話してくれた。
「はい。私が思ったのはヒロガはシルさんがスパイだと知っていた、ということです」
「へぇ。でも、何がそれを証明するの?」
「私が鍵として使ったのは二つの言葉です。一つ目は内乱の終わり間際シルさんが言った言葉です。他の兵士からは聞いたんですが、『ヒロガ、まさかあんたが気づいていた人』と言ったみたいです。シルさんについて探っていたら、バレてしまっていたのでしょう。誰か私について調べている…と」
「なるほど。次は?」
「二つ目は『姉ちゃんやクロイラさんを殺したことに変わりはないんだよ』です。これはヒロガが姉を殺した犯人を探し当てていたから言えた言葉です。裁判長がシルが殺したといったのは三人でしたよね。あれ、シルさんが元兵士長の存在を抹消していたからです」
「なるほど。もう一人の被害者か…」
「きっとヒロガは怒ったでしょう。姉のいた存在が消されたんですし」
「そして、もう二度と姉と同じ目にあう人がいなくなるようにしたかったのに、被害者が出てしまった。それに後悔している」
シロイラは頷く。そして二人はハルヴィンの背中で眠るヒロガに目を向けた。
「シロイラ、珍しく頭が冴えてたね」
突然のそのセリフにシロイラは驚いた。
「えっ、私そんなに馬鹿でした?!」
「馬鹿とは言ってないよ。誉めてるんだよ、これは。自分で言うのもあれだけど、僕にしては珍しくだよ」
するとシロイラはフフッと笑った。
「それを言うならハルヴィンさんもですよ」
「そう?」
「前はなんだかボーッとしているイメージだったんですけど、今は何だか頼れるお兄さんって感じです」
その言葉に、ハルヴィンは珍しく笑った。
ベッドに眠る二人を見ていた青年は静かに笑った。そして祈りを捧げた。
『二人に、平和が訪れますように』




