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五章 第三話 クロイラ・アルドリレイズ

ゆっくりと瞼を開ける。隣にはまだ眠っているシロイラがいた。起こさないように立ち上がろうとすると、何かに引っ掛かり腰を浮かせた状態で動けなくなってしまう。首につけられている枷の鎖が真っ直ぐに延びていることに気がついた。薄暗い牢屋、目を凝らして鎖の先をたどるとシロイラの首に繋がっていることに気づいた。

遠くの方にかつかつという靴音が聞こえた。目を閉じて耳をすませる。すると誰が来たのか大体の検討はついた。見張りであれば硬い靴ではなく、裸足、もしくは皮の靴を履いている。つまり、硬い靴ではないのでかつかつと音はたてない。

靴音と共に気配が近づく。目を開けて鉄柵の外に目をやる。そこには僕にシロイラを殺させようとした、あの男が立っていた。

思わず鉄柵を掴み、怒りに任せて柵を揺らした。しかし、柵は虚しくガシャガシャと音をたてただけだった。ガシャンと額を柵にぶつけ、怒りのこもった目で男を睨み付ける。額が熱い。恐らく出血しているのだろう。

「おやおや、自分のせいで起こったことを他人のせいにしますかな?」

「何故シロイラを利用した!」

「私はあなたも利用しましたよ。あと…」

男は言葉を切り、僕の首を指差しわらった。

「それじゃ何もできないだろう?いつまでも仲良し兄妹(きょうだい)でいられるようにしてあげたんだよ」

男がその言葉をいい終えたそのときだった。視界の片隅で何かが勢いよく柵にぶつかっていくのが見えた。男が倒れるのが見え、首が後方に引っ張られ僕も倒れてしまった。

「がっはっ」

男が腹を押さえて血を吐く。その時、首が前方に引っ張られて、引きずられながら柵の側に行った。

シロイラが柵を掴んだ。ガシャンと音がして、シロイラが今まで見せたことのない顔つきで叫んだ。

「もう二度と、お兄ちゃんに手を出すんじゃないよ!」






朝、シロイラに刺された男は血溜まりをどんどん広げていき、やがてうめき声も聞こえなくなった。恐らくは死んだのだろう。あれからどれだけ時間がたったのかわからない。シロイラは僕の背中で涙を流していた。

「シロ…」

話しかけても反応がない。自分が人を殺めてしまったことを後悔しているのだろう。このままでは見回りに見つかり、僕たちが殺されてしまう。

僕はごくりと唾を飲み、シロイラに話始めた。





「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?」

「うん、二人とも助かるにはこれしかないから」

裸足の足にふわふわとした絨毯の毛があたる。真っ赤な絨毯だから、血の痕もつかない。

牢屋で僕はシロイラに自分で考えた作戦を話した。勝算は100%ではないが、やる意味は十分にある作戦。

まず牢屋で見回りを待った。牢の外には死体があるわけだから当然見張りは驚く。怒りで僕たちの方へ近づいてきたとき、見張りをブスリと刺した。これは僕が殺った。そして、殺した見回りから鍵を奪い牢を出た。

今は出口を探すべく、広い邸をうろついている。

その時だった。背後から人の声とは思えぬ叫び声が聞こえた。振り向くと剣やこん棒を構えた男女がこちらに迫ってきていた。

僕とシロイラは同時に走り出した。首の鎖はとっていたが、足の鎖は両足の枷に繋がったままで、非常に走りにくかった。

咄嗟に側の部屋に飛び込み、扉を閉めた。閂をかけて、部屋のなかに武器になるような物を探した。それは案外すぐに見つかった。ガラス張りのケースに刀が飾られていたのだ。すぐにガラスを割り、二本ある刀を二人で分けた。そして、扉に向けて切っ先をかざした。





「ハァハァハァ…」

額から大粒の汗が滴り落ちる。ポタポタと落ちていたのは汗だったのか、涙だっただろうか。

部屋には肉片がたくさん散らばっていた。さっきまで僕たちを殺そうとしてきた人だったもの。どうやら彼らは内乱軍と呼ばれる人々だったようだ。


「クロイラ…」

涙声のシロイラの声が聞こえた。その言葉に僕は微笑み、こう言った。


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