五章 第二話 囚われの身
僕は何か夢を見ている。何の夢だか分からないが、明るくてふわふわとした何かが浮いている世界の夢。それが僕の望む世界なのかよく分からない。
突如、身体全体が冷たくなる。続いて、みぞおちに激しい痛みを感じ、思わず身をよじる。しかし、身体はよじることさえ許さなかった。何処かに固定された手足。頭を下げようとしても首にかけられている何かで息が詰まるから出来ない。滲む視界はいつもと変わらない風景だった。
10歳の誕生日から4年。血まみれになった屋敷から逃げ出したあの日を、今でもよく覚えている。
暗殺者に止めを刺された僕は、放心状態になってしまった。しかし、暗殺者は僕達を見捨てなかった。二人を抱え、自分の住居にまで連れていってくれた。数日そこで暮らしたのだが、シロイラの意思により、家を出た。しかし、家を出てもどこにも行く宛がないのでそこら辺をうろついていたのだが、ある日、屈強な男達に捕らわれてしまった。連れていかれた先は、地下の牢屋のような場所。手足首を枷で拘束され、自由に身動きが取れなくなった。そして、僕達はここで『仕事』をする事を強制させられることになったのだ。
牢の鉄柵の鍵が開けられ、外に引きずり出される。その頃には、意識もはっきりしてきて視界も良くなってくる。連れていかれる先はいつも鉱山のような場所。ろくに食事も与えてもらえず、10時間以上働かせられるのだ。
しかし、僕は自分の身より、シロイラの方が心配だった。シロイラは別の仕事をしている。毎晩毎晩やつれた顔をして帰ってくる。時々、朝帰ってくることもある。
そんなことを考えていると思わず手が止まってしまう。そのたび、監視役の男にムチを奮われる。僕の身体にも心にも容赦なく傷をつけられる。
仕事が終われば再び、牢に投げ込まれる。身体中が痛くて痛くて、声もあげられない。そのときにパンを貰えればいい方なのだが、貰えないときは空腹に耐えながら、眠る。
僕とシロイラには手足首に枷がつけられている。それぞれ、両手両足は鎖で繋がれ、首からは壁に引っ掻けるための鎖がついていた。五年前につけられたものだから、年々腕と足が強く締め付けられるようになっていった。ろくに食事も摂らなくても、身体は成長しているようだった。
その日もいつも通り、冷水をかけられみぞおちを蹴られて起床し、仕事を始めた。ところが、昼になると監視員に呼ばれある場所に連れていかれた。
恐ろしいくらい飾られた部屋。ただ、かつて住んでいた屋敷に似ているような気がした。懐かしく感じながら立っていると、着飾った一人の男が入ってきた。
「やあ、初めまして。クロイラ君」
男は不気味な笑みを浮かべて僕に近づいてきた。男は煙草を取りだし、火をつけて吸い始める。そして、僕の方に煙を吐き出した。物凄く煙たい。
「君はシロイラちゃんがどんな仕事をしているか、知ってるかい?」
その質問にいいえと答える。同じ牢にいるので聞こうと思えば聞けるのだが、二人とも疲れはてていたので、最近はろくに会話もしていない。
「シロイラちゃんはね、ボク達を接待する簡単なお仕事をしているんだ。そのお仕事で毎日たらふくご飯を食べているんだ」
再び男は、不気味な笑みを浮かべた。
「それにしても、君は働けど働けどろくに食事もできない」
この男は何が言いたいんだ。途中から完全に思考が止まり、何も考えられなくなる。
「君はシロイラが憎くないか?」
男が耳元で囁く。目を見開いて男を見る。
「ぼくがしろいらをにくむ」
今思えば僕は洗脳されていたようだ。あの不思議な煙のせいで頭がぼんやりしていた。何が正しくて何が悪いのか、判断がつかないくらいに。
「そうだ。憎ければ殺せばいい」
「しろいらをころす」
「そうだ。君にとって簡単なことだろう?」
「しろいらがにくい。ころす」
おそらく、あの煙は薬物だったのだろう。あれから毎日あの部屋に通い、煙を浴びせられた。兄弟で殺しあうという、男達の娯楽のために。
何日たっただろうか。僕はあの部屋で短剣を受け取った。シロイラを殺すための剣を。
「いいか、これで殺すんだぞ」
「やっと、しろいらをころせる」
じゃらじゃらとなる鎖をなるべく音が発つことがないようにして歩く。自分たちの牢に近づき、もらった鍵で鉄柵を開ける。カチリと音がして柵が開く。
中に入り、鞘から短剣を抜く。壁に力なく寄りかかって眠るシロイラに狙いを定め、短剣を躊躇なく降り下ろした。
「止めて、クロイラ!」
突如シロイラが叫んだ。何故シロイラが起きているのか、すっかり薬物に犯された僕の頭は考えることが出来なかった。
「しろいらをころさないと…」
「クロイラ!騙されてるんだよ、あの人達に!」
「ぼくはだまされてなんかない、しろいらがぼくをだました」
「だから、もう止めて…」
「だからしろいらをころすんだ!」
再びシロイラに向けて短剣を降り下ろそうとした。しかし、抱きついてきたシロイラによって、それは出来なかった。
「…はなして」
「ごめんなさい、クロイラ!」
シロイラは涙を流した。
「私もクロを殺せと言われたの!けど、出来なかった!たった一人の家族なのに殺せないわよ!」
僕は視線をしたに向けた。そこには同じような短剣が一本置いてあった。シロイラがよりいっそう強く抱き締める。そのシロイラの暖かみが洗脳された僕の頭をゆっくりと解かしていった。
シロイラの頭がすぐ真下に見えた。そして気づく。子供のころはいつもシロイラの方が大きかったのに、いつの間にか僕はシロイラを抜いている。すると、自然とシロイラを守りたいという気持ちが芽生えた。さっきまで洗脳されていて、妹を殺そうとした兄じゃ頼りないかも知れないけど。
右手に握っていた短剣を捨て、シロイラを抱きしめる。誰かを抱きしめるなんて初めてだから、ぎこちなかったかもしれないけれど。
「…ごめん、謝って許されることじゃないけど…」
「私の方こそごめんなさい…」
その日は久々に泣いた。泣くなんてやっぱりカッコ悪いけど。泣いたら疲れたので、二人で肩を寄せて眠った。昔みたいに仲良くはなれないかもしれないけど、二人で眠った。
けれど、男達は黙っていなかった。
こんにちは!kinokoです!
やっと小説も半分書き終わりました!
多分、このお話は凄くわかりづらいと思います。
時間があれば書きなおしたいと思います




