四章 第三話 仲間割れ
眠る二人を見下ろすシルとヒロガ。その目は何か隠しているような、これから起こることを楽しみにしているようだった。
二人はゆっくりと手を伸ばし、イラに手をかけた。なるべくゆっくりと、しかしあまり時間をかけすぎないようイラをとりはじめた。イラが完全に取れたとき、シルは目を見開いた。
何かきつく巻き付けてあったような痣の様なもの。シルはこれは何かの痕だと判断した。シルは思いついてシロイラの手袋を取った。案の定手首にも同じ様な痕があった。これはもしや…とシルが思考したその時だった。
「わああああっ」
ヒロガが慌てたような声を出し、同時にドサッと何かが落ちる音がした。
シルが振り向くと、真っ青な顔のヒロガが腰を抜かして座り込み、ズルズルと後ずさっていた。シルはそのヒロガの視線の先を追った。
「おい…ヒロガ…」
苦しげにな声が聞こえ、点滴がガシャンと床に倒れた。ベッドの陰から四つん這いのクロイラがゆっくりと這い出してきた。顔には脂汗がにじみ、動くのにやっとという雰囲気だった。しかし、四つん這いの状態から突然ヒロガに飛びついた。
「ヒッ…す、すまないっす、クロイラさ…」
「イラを…イラを返せぇ…」
クロイラの腕から点滴の針が抜け、刺さっていた腕からは血が一筋流れた。それでもヒロガから離れようとせず、イラを奪い返そうとした。
「兵士長命令だっ!」
やがてイラを奪い返し、三人をキッと睨み付けこう言った。
「この部屋から…出ていけ…」
その時のクロイラの目を見たシルは後悔した。彼らが訓練兵の時からイラや手袋を決して人前では外さなかったのを自分が一番理解していたはずだったのに、と。そしてシルはその目を見たことがあった。訓練兵の頃、初めて二人を見たときのあの目。この世のものを全て殺そうとする、恐ろしく殺意のこもった目。二度と見ることがないだろうと思っていた顔。シルはそれを見ると恐怖で体がガタガタと震え、血の気が引くのを感じた。そうなることが当然の如く、シルの目からは涙が溢れだした。
「ごめんなさ…」
「出ていけ!」
再びクロイラが叫ぶ。そのときには三人を睨み付けず、うつむいたまま叫んだ。うつむいた顔からポタポタと落ちる滴は汗のようにも、涙のようにも見えた。
最初にヒロガが音も立てず、部屋を出ていった。続いてシルがふらふらと部屋を出た。ハルヴィンはクロイラを数秒見つめると、諦めたように部屋を出ようとした。しかし、それはクロイラの言葉によって阻まれた。
「ハルヴィンは知らねえだろうが、H-28ST1は知ってるだろうな!」
そのセリフにハルヴィンは驚き、動きを止めた。そして、ゆっくりとクロイラを見た。
「………………」
しかし、何も言わず病室を出ていった。
「ハルヴィン、最後のクロイラのセリフだけど…」
「最後の数字とアルファベット混じりの言葉?」
「そうそれ」
「ああ、あれは…答えは僕の髪で隠れた顔の部分にあるよ」
「ここっすか?」
「うん。書いてあるだろう、H-28ST1」
「これは?」
「僕の製造番号」
「これがクロイラの過去に関係が?」
「あるかもしれない…。だから僕が知ってることを教えるよ」
「俺とシロイラの気持ちなんて…誰にも分からない」
誰も居ない病室で空を見上げたクロイラは、ボソリと呟いた。




