三章 第二話 13年前
「シルお前をスパイとして、レールド王国に送り込む。王政をひっくり返すような材料を集めるのだ」
そういわれたとき、正直嬉しかった。あの煩い父親と離れられるのだ。兄は家を継ぐための勉強があるから構ってくれなくなったし、姉もどこかの家に嫁いで行ってしまったので、寂しいと思っていたし、少しながら焦りというものもあった。焦りというのはカシミアの婚約者であるハイザントのことだ。このままラニューカ王国にいてはカシミアの記憶を持つ意味がない。それから一週間後、私はレールド王国に向けて旅を始めた。
赤く砂だらけの大地を進むこと二週間、砂だらけの大地にちらほらと低い木が生えていると頃まで来た。ここまで来れば城下はすぐそこだった。念のため一晩野宿して、翌日城下町に入った。そこにあったものは私が今まで見たことのない世界だった。
きれいに舗装された石畳の道。馬車も通りやすいようにされていた。建ち並ぶ家々には多くの色で塗装され、美しい町並みを造り出していた。町の広場には噴水と呼ばれている水が吹き出す置物のようなものもあった。噴水の中にはコインが何故か沢山落ちていて日の光でキラキラと輝いてとてもきれいだった。
町行く人々の会話から聞こえたのだが、最近の内乱のお陰で兵士が少なくなってしまっているらしいのだ。私はふと思った 。兵士になれば国の情報について何か手に入れることが出来るかもしれない。気がつくと私は兵士志願を役所に届け出ていた。
あの日から一年。訓練兵になっていた私はすでに限界を感じていた。それは体力がついていかないだとか、いじめられているだとかそういうわけではない。体力もそこそこあるわけだし、(今は銃撃の訓練をしている)いじめどころか友達も沢山いて、訓練兵の中ではリーダー的存在だった。私が限界を感じているものはカシミアの記憶だった。
小さい頃はただ風景が頭に浮かぶ程度のものだった記憶。今となっては、心情まで頭に浮かび、突然泣き出したりしてしまう。それだけではなく、私自身の記憶と混濁してしまい。自分ね任務も名前も親の顔も何もかも思い出せなくなってしまっていた。毎日ベッドで声を殺して泣いていた。自分自身についてが何もかも分からなくなる。試しに日記を書いてみた。正しい記憶とカシミアの記憶とを分けるため。しかし、それもダメだった。何より開いたときに思い出せないくらい私の記憶は混濁してしまっていた。
ある日、体調を崩し部屋で休んでいた時のこと。声を殺して泣いていると誰かがドアをノックして入ってきた。
「あ…アリアさん…」




