第6話・裏事情と『負の感情』
会話が多いです、分かり辛かったら申し訳ありません。
きっかけは、俺が世界を安定させるために、世界全体を覆う結界を作っていた時だった。端的に言うと異界の『魔』や『負』のような力が、この世界にまで流れてきて、この世界を蝕もうとしたことがあった。最初は俺自身には何の影響もなかったため、俺は自分のことは二の次に世界の結界を完成させることに全力を注いだ。でないと世界が汚染されてしまう可能性があったからだった。最初の半月の間は、それでも大丈夫だった。
変化が出たのはそれからさらに三日ほど経った時、気が付くと意識が飛んでいるという事態が頻発した。しかもそこから意識が戻った時、決まって周囲は荒れていたのだ。自分が意識を失っている間、自分が暴れ回ってこの状況を生み出しているのだと気付くのに、全く時間はかからなかった。
始めは一瞬だけだったのだが、次は10分、一時間、丸一日、と急激に意識を失う時間が長くなっていった。幸い、作りかけの結界は無事だったが、仮に結界が完成しても、このままでは俺自身が結界を破壊、そのまま世界を汚染しながら、世界を壊してしまうと直感で悟った。
俺はすぐさまこのことをクラリスに報告し、二人がかりで可能な限りの対策を打ち立てた。
結界は当初、周囲の環境と俺から魔力を供給して維持する仕組みにしていたが、それを俺への負担がより大きくなるような仕組みに変え、かわりに結界がより強固な造りになるようにした。二三回ほど、クラリスに俺が意識を飛ばしている状態を見られたことがあり、それだけでクラリスは、俺自身の魔力が減衰していれば暴威をいくらか抑えられると気付き、この指示を出した。結果はまあ、現代を見ればいいだろう。そしてクラリスは自分が創る分の存在をすべて創り終え、その後は事の原因を探りつつ俺を治す、最悪封じる手段を考え始めた。これが大体世界の完成する一週間前だった。
そして俺が結界を完成させる直前、クラリスが事の原因と一応の解決策を携えてきた。
「イスカリオテ、やはりあなたの狂暴化は、あの異界より流れてきた『負の感情』が原因よ。」
「当初は何もないからと、ずっと浴び続けたのがまずかったのか?」
「それもあるけど、あなたとあの『負の感情』の親和性が高すぎたのが一番の原因ね。」
「なに?」
「元々あなたは、陰や闇、争いや『魔』を担当して創造してきたでしょう?」
「ああ…まさか、その『負の感情』がそれに反応して、俺に集まってきたのか?」
「おそらく、ね。私は当初から、自分の対となる存在を必要としてあなたを創った。それで私は陽や光、調和と『聖』を創造するのに特化していたから、あなたを先に言ったように創った。そうしなければ、均衡が崩れてしまうから。」
「『対となる存在があって、初めて万物は成立する』というのは、世界の基本であり、絶対だからな。」
「私も結界は張れるけど、それはあくまで中和するのが限界。あなたのように完全に弾くようなものは創れない。」
「争いに少なからず関係してしまうからな、無理もないだろう。」
「でも、私があれを浴びても、中和されて少し調子を崩す程度で済んでいた。」
「だが俺は逆に、浴びれば浴びるほど争いに特化して暴れだす。」
「私は『中和し、発散する』けど、あなたは『弾くか、取り込み貯蔵』してしまうものね。この性質も大きいと思うわ。」
「…どうすればいいんだ。」
「結界は当初の通りに完成させて。でも一部だけ開閉しやす場所を作っておいて。そこからあの『負の感情』を発している世界の住人を呼ぶわ。」
「呼んでどうするんだ。」
「その世界でも『負の感情』に影響されにくい、または強く耐えられる人を呼んで、『負の感情』を浄化、もしくは封印する力を授けるわ。そしてあなたの中の『負の感情』をどうにかしてもらう。」
「最後だけずいぶん投げやりだな?」
「余りにも時間がなさすぎるわ。多分次にあなたが意識を失えば、あなたはそのまま『負の感情』に囚われて、永遠に暴走することになってしまう。それまでに最低限の事を考えておかないといけないし、あなたにしか出来ないこともあるからそれもしてもらわないと。」
「…なるほど」
「私はこれから、召喚陣の創造に取り掛かるわ。生半可な仕上がりに作るわけにも行けないし、これから人間の前からも姿を消すでしょうね。」
「つまり、これが最後になるかもしれないんだな。」
「ええ。」
「…可能な限り、俺も自分の弱体化を長続きさせてみる。」
「無理はしないでね?」
「そっちもな。」
「…さっきの事、お願いね」
「ああ。」
「…さようなら。」
「ああ。」
それから一日以内に何とかクラリスの要望通りの結界を完成させ、一か所に結界の開閉がしやすい場所を創った。これが現代にいたる勇者召喚陣の際にも使われる、異界とこの世界を繋ぐ出入口だ。そうして世界は完成した。
俺が意識を失ったのは、それからすぐだった。