第5話・【原初の魔王】と神話
【原初の魔王】イスカリオテ―――
それは、確かに俺の正体であり、真名でもあった。
そもそも勇者は一体何のために呼び出されたのか?ここで一度説明しておきたいと思う。
今一度、俺自身の認識も再確認しておきたいしな。
この世界が出来たのは、今から一億年ほど前と伝えられている。しかし当時はまだあらゆる物質が混ざり合い混沌とした、世界の土台というか、原型のようなものだったと現代では伝えられている。その状態がおよそ7000年前まで続いた。
その頃、一体の意識を持った何か。現代において『【光の女神】クラリス』と呼ばれる存在が生まれた。彼女はまず、自分の対となる存在を創り上げた。これが『【原初の魔王】イスカリオテ』、つまり俺である。それから俺とクラリスは世界を急速に整え、生物を創り上げていき、俺が生まれて一月(あくまで現代の時間に当てはめた場合だが)で世界を今と同じような形にした。
しかしその頃、俺―【原初の魔王】が突如狂ったかのように暴れだし、自身が最も力を入れて創造した『魔族』を筆頭に、あらゆる『魔』を引き連れて世界を荒らしだした。これにより女神側の創造物は衰退、最も数の多い『人』すら、最初の3%程度にまで数を減らした。それが今から大体6000年ぐらい前になる。
当時あらゆる英雄たちが死に、打つ手がなくなってしまった『人』は、しかしある時女神からお告げを受けた。
『今から伝える場所に向かい、この召喚陣を描いて異界より【勇者】を呼び、魔王を封印、もしくは滅ぼしなさい』
『人』はそのお告げに従い、かなりの犠牲を払ったが勇者を召喚した。それが【初代勇者】シオン―今代の【勇者】と瓜二つの外見をした、異界の少女だった。
彼女はそれから二年ほどで【原初の魔王】と互角に渡り合うまでの力を身に着け、三日三番戦い続けたのちに、魔王と自身の最高最大の一撃をぶつけ合い、魔王とともに消滅したと伝えられている。それ以降、もともと滅多に姿を現さなかった女神が完全に『人』の前から姿を消し、時折神託をする以外は世界と全く干渉しなくなり、『人』は再び発展していった。これが丁度6000年前になる。
それからは500~1000年単位で【魔王】を自称する『魔族』が現れ、そのたびに神託に従って召喚を行い、異界の【勇者】を呼び、それを倒すというのが続いた。今回の『勇者召喚』も、そういった【魔王】を自称する『魔族』らしきものが現れて、神託によって行われたものだった。
思いのほか長くなってしまったが、これが勇者の呼ばれる理由である。
時は戻って現在、俺は勇者以外の勇者パーティーの面々に剣や杖を向けられていた。まあ無理もないだろうな、目の前にいるのが、自分たちをかつて破滅寸前へと追いやった【原初の魔王】だと告げられれば、まっとうに今の話を聞いて成長した人間なら間違いなくそうするだろう、という行動だ。実に正しい反応だと思う。
「…本当、なんですか。」
ブレイドは一応バスタードソードを向けているが、唯一表情と剣先に困惑の色が見られた。(他の連中はあからさまな警戒と殺気を発していた。)勇者は相変わらず無表情だが。
「【初代勇者】でもあった母から何千回も人柄について聞かされていたし、姿も全く一緒だから間違いない。」
俺がどう答えるか考えていると、レオンが俺の代わりにブレイドに答えた。俺が応えるよりは、信用はされるかもしれんな。
「しかし待て、そもそも【初代勇者】に子供はいたのかね?それになぜレオン殿は、【原初の魔王】の姿を知っておる。そもそも【初代勇者】に子がいたとしても、それはこの世界にいる筈で、此度の召喚で呼ばれるはずがないのではないかね?」
やたらと偉そうな口調で喋るのは、こちらに杖を向けている魔術学院次席だ。さすがにこの中の連中では一番頭が回るらしく、今の間にそれだけの疑問を持ち矢継早に問いただしてきた。
「それにしても何千回か…見たところまだ20も超えていないようだが、まさか物心ついた時から、毎日聞かされたんじゃないか?」
「耳たこ」
「まさか、本当に毎日聞かされたのか…?」
現実逃避ではないが、少し気になったので聞いた。レオンの顔がどこか遠くを見る顔でうんざりとしていたので、この分だと本当に毎日聞かされていたのかもしれん。
「質問に答えろ」
その調子に苛立ったのか、シェルドが斬馬刀を首に突き付けてきた。首筋がひんやりとする。
「ふむ…どうする?この場合は俺から説明するべきだろうが、おそらく、というより確実に信用してもらえんと思うが。」
「先に説明して。あとから契約を見せて、いやでも信用してもらう。」
こいつは本当に【勇者】なんだろうか。少し疑問に思ったがこの際気にしないでおくことにする。
俺は先程確認した【勇者】と【魔王】に、ついでに【女神】や【世界】について、俺の知っている事情を入れて勇者パーティーに話すことにした。幸いこのあたりは魔物がほとんどいない場所なので、話に集中していても危険は少ない。おかげでゆっくりと話すことが出来る。
そうして俺は、先ほど話したこの世界の神話ともいえる話―――【勇者】と【魔王】についての、裏事情のような話を始めた。
しかしみなさん警戒心低すぎますね、周りにモンスターとかいてもおかしくないのに
まあ、カイのおかげでモンスターは近寄れなくなっているんですがね。
本能的にモンスターはカイにかなわないと理解しているので、怖くて襲えません。