第4話・【勇者】と誘拐
そろそろ【魔王】が出てきます。
今日の分はここまで
あのあと無我夢中で走り、泊まっている宿の自室に飛び込み、鍵をかけてしばらく扉の外の気配を探る。30分ほどそこでそうしていて誰も何もないのを確信出来てから、大きく息を吐き、身体の力を抜いた。なぜ、あんなところに今代の勇者がいたのか、それは出来るだけ考えないようにして、扉からベッドへと体を向け、
今代の勇者がちょこんとベッドに座っているのを確認して、今度こそ限界が来た俺の視界は暗転した。
気が付くと、辺りはだいぶん暗くなっていた。もう日も落ちた頃だろうか…と考え、すぐに違和感を覚えた。まず俺が気を失う直前にいたのは宿の部屋で、屋内だったはずだ。
しかし今の俺の頭上はわずかな雲と空、つまり屋外だ。しかも王都近隣とは思えないほど空が広く、周囲は木と川のせせらぎが聞こえる。どうやら何者かによって、俺は宿から連れ出されたらしい。そのことに全く気付かなかった自分自身に一瞬腹を立てたが、次の瞬間にそれを行ったであろう人物を想像して、一気に血の気が失せた。(今日だけで二回目だ。)
「気が付いた?」
「ぬおああああっ!?」急にぬっと、今代の勇者の顔が視界に入り、思わず俺は奇声を上げた。
「カイさん!!やっと目を覚ましましたか!!」耳になじんだ声が聞こえたので、そちらを向くと一月ぶりのブレイドの姿が見えた。それに気づいて、俺はある可能性に気が付き、決死の想いで今代の勇者の顔を見、今はなけなしとなっている勇気で声を絞り出した。
「おい…、お、俺のにも、荷物は、どこにある?」
「安心して、すべてここにある。」
すぐに体を起こし(若干ふらついたが)迅速に荷物を確認する。すべて揃っていると確認できたときは、思わずほっとした。
「カイさん、一体何があったんですか…?」
…すまんブレイド、お前のことを一瞬忘れていた。
俺が気を失った後、今代の勇者は俺と俺の荷物を担いで自分のパーティーに戻ったようだ。でなければブレイドがここにいるわけもない。時間も時間なので、勇者パーティーの夕食の場に邪魔させてもらうことにした。パーティーの構成は勇者、王家の騎士団長でもある第二王子、王立魔術学院を次席で卒業した男、史上最年少の大司祭、勇者専属のお世話役(男性かと思ったが、よく見れば女性だった)、占い師の推薦したブレイド、といったメンツのようだ。
お世話役がパーティーの盾となり、第二王子と勇者で打撃をメインとした前衛、大司祭と魔術学院次席が魔術で後方から援護、魔術と打撃を両方使うブレイドが遊撃といったところだろうか。ブレイドから押し付けられた芋と肉のスープを腹に入れながら、そう推察して少し現実逃避した。
「それにしても驚いた。ブレイドの元コンビ相手というからどんな人物かと思っていたが、これほどの体格の人物とは思わなかった。」
そう言ってきたのはお世話役のシェルドという男性のような女だ、こいつはブレイドよりも背は低いが、体格はそこらの男より立派だ。しかしなんとなしに脳筋のにおいがする。俺は口の中を空にしてから、どういうことだと聞いた。なんとなしにどうも嫌な予感がしたからだ。
「つい最近まで【娼館ギルド】に所属していた輩と4年もコンビを組んでいた男なぞ、そういう相手だったとしてもおかしくないだろう?それにブレイドの体格から考えても、まさかわたしよりいかつい男だとは思わんだろうし。」
ほら見ろ、王子が噴出した。よりによって一番耐性が無さそうな奴だし、仕方ないかもしれんが。
「ブレイド、こいつはロールキャベツのキャベツが足りとらんのか?」
「カイさん、残念ながら圧倒的に足りていないんです。」
皆して頷いたところを見るに、どうやら改善の見込みはないようだ。ちなみに勇者は黙々とスープを飲み込んでいた。おい小娘、もう少し自重しろ。
食事も終わり、後片付けが終わった後、勇者パーティーと俺はたき火を囲んで思い思いに座っていた。現在の状態―なぜ俺を勇者が連れてきたのか―というのをどうにかするためだった。
「そもそも勇者、何故お前はあの時俺の目の前にいた?」この際その方法などは放っておくとしても、あの時確実に俺を狙い、俺を追ってきたのは一体なぜだったのだろうか。
俺は何となく理由が分かっていたが、事実確認のためにも聞いておきたかった。
「私の名は勇者じゃない。レオンと呼んで。私の名前。」
「…レオン、改めて聞くが、なぜ俺を誘拐した?」
「カイさん、もう少しましな言い方ありませんか?」
「それにはちゃんとした理由がある」
「あれ?レオンさんも誘拐は否定しないんですか?」
「あなたが私の母、この世界の初代勇者シオンと契約をした『【原初の魔王】イスカリオテ』だから。」
な、なんだって―!!(AA略