第2話・カイと別れ
※それっぽい描写がありますが最後までやりません。
さて、唐突だがここで俺の容姿を客観的に説明しようかと思う。
金髪、どれだけ直そうとしても直らない一部暴れた前髪、逆立った短髪、ブレイドよりやや薄いが黒い肌、光の当たり具合で金にも見える橄欖石の悪い目つき、頬や額に傷のある強面、200cmはある高すぎる背、動きが阻害されない程度の隆々とした筋肉が全身、これが俺の外見だ。年齢は外見上なら30代後半、性別は当然男だ。顔だけでなく、身体のあちこちには今までの戦いで着いた傷が跡として残っている。到底男が欲情できるような見てくれではない。
筈だった。
現在、俺とブレイドは前述した街のそれなりにいい宿で、同じベッドに横たわっている。時刻は夜、普段ならブレイドは【娼館ギルド】に行っていてここにはいない時間だ。にも拘らず、こいつは俺と同じベッドにいる。
―――いや、訂正しよう。俺がこいつと同じベッドにいさせられていた。
ずいぶん回りくどい言い方だったが、俺は今ブレイドに押し倒されていたのだ。
「ブレイド、何のつもりだ」俺はわざと単刀直入に聞いた。ただ答えは何となく察していたが。
「カイ、あなたを抱きたい」――やはり、な。以前から熱を持った視線をブレイドの方から感じていたが、想像通りだったか。
「断る、【娼館ギルド】で抜けばいいだろう」承知の上で俺は拒否した。まあブレイドが女役なのか男役なのかは、全くもって知らんが。
「この街に来た時にもう行きました、ですがそれは【娼館ギルド】を抜けるためです。それに仮に今もギルドに所属していたとしても、その上であなたを抱きたい」
「何故だ、【娼館ギルド】を抜けていようがいなかろうが、何故俺を抱きたいなどとほざく」
「分かりません、ただ気付いた時には貴方に惹かれていたんです。」
「無茶苦茶だな」言葉を返してから一拍、本当に無茶苦茶だと心底思った。気付いた時には惹かれていただと?どこの三流ラブロマンスだそれは。
ふ、と気付くと、ブレイドは俺の首に甘噛みを与えてきた。俺はその気もなかったのに、少し反応してしまうほどにはうまい、と思う。比較対象が大して多くないのでわからんが。ただ、俺は今下着と薄い布地のズボンしか履いておらず、それ以外は何も身に着けていない、上半身は裸そのものだ。シャワーから上がってきたばかりだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「おい」短く、だが強い拒絶の意を込めて声を上げる。だがブレイドは我関せずと言った体で、身体のあちこちをまさぐってくる。とうとう下肢のあるところにまで手が伸びてきた。気持ち悪いということは無いが、それ以上に違和感の方が強く、思わず肩を強くどついてブレイドを部屋の反対側の壁まで突き飛ばす。
「…痛いです」
「痛いように突き飛ばしたからな、当たり前だろう」
「ああ、それは正論ですね…」凭れかかっていた壁からのそりと起きてきた。痛さはあるだろうが、ダメージは無いよう突き飛ばしたから当然なんだが、なんとなしに釈然としない。
「カイ、なぜそこまで拒絶するのか、お聞きしても?」
「…答えれぬ」
「それは『理由を答えれない』ですか?それとも『答える価値など、お前にない』という意味ですか?」
「……」
「せめて、そのどちらなのかだけでも、お聞きしたい」
…ブレイドの質問に答えるとしたら、しいて近いのは前者の『理由を答えれぬ』だろうか。しかしこれは完璧ではない。あくまで近いだけで、正解には少し遠い。
「では聞くが、何故今日抱こうと思ったんだ。他にも機会はあっただろうし、これからもまだあるのではないのか?」故に俺も問い返させてもらった。
「それに応えれば、私の質問にも答えてくれますか?」
「…考えてやっても、いい」
言って、少しだけ後悔した。こいつは良くも悪くも真っ直ぐで正直な男だと思いだしたのだ。こう答えた以上本当のことを返してくるのは間違いないだろう。それが分かる程度には共に旅をしてきた。しかしこちらとて、いまさらその発言を撤回することは出来なかった。そういう決まりだからだ。
「一週間ほど前に、今代の勇者が召喚され祝福の儀を受けられたのは、ご存知ですよね?」
「そもそも、その話題を最初に振ったのは俺だったからな。知っているぞ」ただ、この話を振った時のブレイドはさほど変な反応をしていなかったはずだが。
「ギルドから名指しで、私のもとに依頼が来ました、【ハンターギルド】の方です。内容は『祝福の儀の際、占い師よりお告げがあった。勇者の旅に同行せよ』というものです。」
「…つまり、俺とのペアが強制的に消えると。それであの行為に走ったのか」なるほど、寝耳に水の話だが、それなら納得できる。
「はい」
「勇者の旅で辿るルートはさほど難しいものではない、と言われている。だがそれでも普通の冒険者達に比べたらはるかに危険だ。」
「ええ」
「だが占い師からのお告げだった以上、お前は俺とのペアを解散して絶対に勇者のパーティに参入しなければいけない。」
「本来なら私の想いは、私の中でとどめて消化させるべきなんでしょう。ですが、今の私にはそれは耐えられません。」
ふむ、先ほどの想像通りか…。
「いいだろう。それだけ話してくれたなら俺には十分だ。俺もお前を拒絶した理由を答えよう。」等価交換は、俺にとって当たり前のことだ。こいつはおそらく嘘を言っていない。ならば俺もそれに応える必要があった。
「先は『考えておく』としか言っていなかったはずでは…ああ、等価交換ですか」
「察せれたならなによりだ」
「これでも4年はペアをやっていましたし、ね」そう言って奴は少しだけ微笑んだ。
「俺が拒絶した理由だが、お前の言を借りれば『理由を答えれぬ』の方だ」
「答えれない、ですか」今度は少し怪訝そうな顔で反芻した。
「まあ詳しいことは答れんが、簡潔な事情だけなら話せる。昔、ちょっとした…事故があってな、そのことがきっかけで知り合った人物と、そいつの一族を主とした契約をしたのだ。その契約の内容には『契約者の許し無く、契約者以外のものと肉体関係を持ってはいけない』というのがあるのだ」
「…それで、ですか」
「ああ。許可を取りたくても、その契約した一族は今どこにいるかすらわからん。だから拒絶した、これが俺から話せる理由だ。」
ブレイドは、しばし考えてから納得したように頷いた。
翌朝、日も登らないうちに俺とブレイドは別れた。別れ際に抱き付く程度なら問題ないと伝えると、一瞬虚を突かれたように動揺して、俺が気づいた瞬間には強く抱きしめられていた。身長差のせいで、あまりかっこつけられるものでもなかったが。
ブレイドはここから勇者の元までまっすぐ行き、一月ほど他のパーティーメンバーと親交を深めたりしてから、魔王討伐の旅へ出るらしい。出る時ぐらいはせめて遠くから顔ぐらいは見てやろうと、彼を見送って宿に戻ってから思った。何だかんだと4年の付き合いは短くはない、それぐらいはしてやろうと思った。そしてそれまではソロで活動しようとも決心した。
後から考えると、おそらくこの考えが一番悪かった気がした。
淡々と思い付きでやっているせいで、展開が謎くさいです。
あと、主人公の名前がさり気なく公開されてます。主人公の名前はカイです。