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終焉世界冒険譚  作者: niko
始まりの依頼
1/11

プロローグ

「ん?なんだ?このクエスト」


クエストカウンターのすぐそばにある、まるで魚の鱗のごとく大量の依頼クエストの紙が貼られているボードの前で、エシル・シードは首をかしげて独り言ちた。


彼が今いるのは冒険者ギルドの出張所である。

この世界で最も巨大な組織であろう冒険者ギルドには日夜各地から様々な依頼が舞い込んでくる。

それらの依頼は各地方ごとに存在する出張所に振り分けられ、冒険者が任意の依頼をこなしていくシステムだ。

依頼の内容は様々で、魔物モンスターの討伐から庭の草抜きまで多岐にわたり、

正直言って冒険者以外の者でもこなせるような依頼も以外に多いので子供がお小遣い稼ぎに利用したり、日雇いのアルバイト感覚で日銭を稼ぐものも少なくはない。


しかし、危険で難しい依頼だからと言って報酬金が高いとは限らないのがこのシステムの面白いところである。

依頼者に金銭的余裕がなかったら依頼達成の努力に見合わない金額しか手に入らないこともあるのだ。

もちろん、そんな割に合わない依頼を受ける酔狂な者はほとんどいないと言っていい。

どんなに助けを求めている哀れな人がいようが結局世の中〝カネ〟なのだ。


さて、そんな世の中の厳しさを体現しているクエストボードでエシルが発見したのは、

別の意味で割に合わない依頼だった。


「依頼内容は…アゾル在住のグルド・アムル氏の御息女に氏の遺品である懐中時計を届けること、か。

しっかし配達依頼にしては報酬金が高すぎる気がするぞ…?」


配達依頼とは、通常一般の配達員が配達するのが困難な僻地に依頼品を配達するのが目的になるのだが、

港町アゾルとは今いる出張所のある街からそう遠くない場所に位置していた。

つまり、正直言って一般の配達員でも配達可能な依頼なのである。


(報酬金が相場の20倍はある…。

一般の配達員には頼めない曰くつきの品なのか…?)


彼がボードの前で思案していると後ろからバシーンッと背中を叩かれ、

不意をつかれた彼は盛大にむせ返った。


「うっ、うえっ…ゴホゴホ…あのなあ、お前叩くなとは言わないからもっと加減ってものをだな、誰かの背骨いつか絶対折るぞ…」

「うん?おお悪い悪い!!なんだか珍しく悩んでたみてえだかんな!活入れてやったのよ!

どうしたんで?お前さんが珍しく悩むあぶねえ依頼でもあんのか?ん?珍しく」

「珍しいって言いすぎだろ!私はそこまで日々能天気に生きてるつもりはないよ」

「え?おめー、この前受ける依頼決まんなくて目ぇつぶって依頼決めてただろうが。

俺もなげえことここのギルドマスターやってっけどありゃあ見たことなかったぞ?」

「あー、あの時は農家の依頼引いて一日中牛の乳搾りしてたな…。ハハ…あれは流石に…もうしたくはないな…」

「だっはっは!!そんな依頼だったのか!」

「ああ、報酬が全部乳製品で…」

「お前は実力あんだから高難易度依頼受ければよかったじゃねーの。

んで、なーにぼっけと突っ立てたんで?あぶねえ依頼でもあったか?」

「危ないっていうか怪しいってほうが強いな。これなんだが…」

「どーれどれ」


ギルドマスターのドルダスはひったくるようにしてエシルから依頼書を受け取ると、

上機嫌だった赤ら顔を次第に曇らせていった。


「なんだこりゃ、本当にこんな報酬払えんのかね依頼主さまは?」

「さあな、でもなんだか怪しくないか?」

「そうさなあ、でも、ほれ、先の戦争で一部配達が遅れたり配達物が紛失してるらしいかんな。

よっぽど心配性な依頼者さまなんじゃねえか?」

「そもそもこれの依頼者はなんていうやつなんだ?この街の人間なのか?」


ビッ!と、エシルは依頼書を自分よりも頭二つ分大きいドルダスに突き付けて問いかけた。

そうさなあ、どれ調べてみるか、とドルダスはのしのしとカウンターの受付嬢のもとに歩いて行った。


(戦争か…まあ、なくはないかもな)

戦争はあまりひとつの場所にとどまらない冒険者達にとっては迷惑以外の何者でもない。

国境線で足止めをくらったり、傭兵募集の依頼以外の依頼が極端に減ってしまったりするからだ。

それに、もう一度訪れようと思っていた街が消えてしまったりもする。

(ごく一部の人間だけなんだよな、得をするのはさ…)


エシルがボードの横の壁にもたれながらドルダスを待っていると、

先程よりいくらか真剣な顔つきになったドルダスが戻ってきた。


「なんだ、珍しく神妙な顔じゃないか。珍しく」

「お前さっきのこと根にもってんな?ん?

まあ、それはいい。こいつの依頼者が判明した」

「誰だったんだ?いたずらだった、てオチではなさそうだけど」

「ああ、これの依頼者は…、うむ…、」

「本当に珍しいな、お前のそういう顔は。そうやってるといっぱしのギルドマスターらしいぞ」

「まったく茶化すな!こいつの依頼者はアリシア・アムル…つまり依頼品の持ち主であるグルド・アムルの家族ってことだ」

それを聞いてエシルは胡散臭そうにドルダスを見やった。

「家族…?ならなんで自分で娘に渡しに行かないんだ…?」

「そこなんだよなあ、しかも一般の配達に頼まず、高すぎる報酬金をかけて…。

悲しい話だがよっぽど娘に会いたくねえってことなのかねぇ。

なあ、エシル、お前さんこの依頼受けろや。んでコトの真相をあとで聞かしちゃくれねーか?」

「まあ私も気になるしな。いいさ、受けてみる」

「そう来なくっちゃなあ!楽しみにしてるぜえ!!」

「まったく、調子がいいなぁ、お前…。

ええと、たしかアゾルにはここから徒歩三日位だから…最速でも話せるのは一週間後くらいだな」

「お前さんの事だ。さっさと済ましてさっさと帰ってこれるさ。

ま、気ぃつけて行ってこいや。酒持って待ってるからよ」

「ああ、じゃ、少し買い物したら買ったら出発するよ」

そう言うと、サラサラと銀色のポニーテールを揺らしながら、エシルは踵を返して出張所の出口へ向かって歩き出した。


「港町なら酒の肴も頼んだぜー!!」

そう言うドルダスの声にひらひらと手を振って答え、

エシルは出張所を後にした。



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