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雪の記憶に溶けた恋  作者: あかり
第1章
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冷たい日常

11月のはじめ、街はもう冬の気配をまとっていた。朝の空気は冷たく、吐く息が白くかすむ。高校の教室で、私はいつも窓際の席に座って、外の景色をぼんやり眺めていた。名前はあかり。高校1年生、16歳。でも、そんな普通の響きが、自分には似合わない気がする。


家は、普通じゃない。母親は水商売をしている。深夜に帰ってきて、疲れた顔で化粧を落とす姿を、私は何度も見てきた。客の匂いが染みついた服、笑顔の裏に隠れた影。学校ではそれが噂になる。「あかりのお母さん、夜の仕事だって」「そんな家の人と関わらない方がいいよ」。友達なんていない。腫れ物扱いされて、みんなが避ける。孤立した私を、誰も見てくれない。


父親はもっとひどい。アルコール依存で、毎日DVを繰り返す。夕方まで家で寝て、パチンコに行って朝まで帰ってこない。でも、もし私が学校から早く帰ったら……。想像するだけで体が震える。昨日も、夕飯の支度を遅れたってだけで、母親が殴られた。父親の怒鳴り声が耳に残る。「お前みたいな女に育てられた娘なんか、ろくなもんじゃねえ」って。私もいつかそうなるんじゃないか。母親みたいに、疲れた顔で生きていくんじゃないか。そんな恐怖が、心を蝕む。


母親になりたくない。強くそう思う。でも、母親のあの顔を見ると、怒りと一緒に微かな愛情が湧く。彼女は私を守ろうとしてるのかな? 客との関係の影が、時々家にまで忍び込んでくる。それを見て、恥ずかしさが胸を締めつける。普通の女性像に憧れる。温かい家庭を持って、笑顔で生きる。でも、私には無理だ。自己肯定感なんて、地面に落ちたガラスの破片みたいに砕け散ってる。


学校が終わると、私はいつも公園に行く。父親がいない時間に家に帰るため。公園は、私の唯一の逃げ場。ベンチに座って、本を読んだり、空を眺めたり。11月の風は冷たいけど、そこにいるだけで、少しだけ心が落ち着く。雪がぽつぽつ降り始めた日も、そうだった。白い粒が、地面に溶けていく。私の人生みたいに、儚くて、消えやすい。


今日も公園のベンチに座っていた。手がかじかむ寒さの中、母親のことを考えていた。昨夜、彼女が帰ってきたときの疲れた目。客の電話が鳴って、慌てて出かけた姿。「あかり、ごめんね」って小さな声で言った。あの言葉が、胸に刺さる。私は彼女を恨むのに、愛さずにはいられない。こんな葛藤が、私を無力にさせる。父親の暴力の恐怖が、日常を覆う。殴られる痛みより、心の傷が深い。誰かに話せたらいいのに。でも、誰もいない。孤独が、雪のように積もっていく。

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