9話
《マグレイン公爵邸にて》
「お兄様、今度こそ早くなさらないと、また誰か別の人に持っていかれましてよ」
と妹のマーガレットに言われてしまった。私は
「そう焦らすなよ、ロザリー嬢だってあんなことがあったばかりではないか」
と返すと
「そうやってお兄様がボヤボヤしているから、あんな評判の悪いウェル様みたいな男に持ってかれてしまったのよ」
と言われ、たしかにそう言われれば返す言葉がなかった。
私は妹のところに遊びに来ていたロザリー嬢のことがずっと気になっていた。しかし彼女はいつも淡々としていて、上手く話すキッカケを掴めずにいた。そうしているうちに、彼女の婚姻が決まってしまったのだ。
あの時は、どれほどの後悔をしたことか、そして一旦は諦めた恋だったが、彼女が婚姻無効を告げられたと聞いて、再びチャンスが訪れたというのに、またもキッカケが掴めずにいた。
そんな時、妹のマーガレットのところに彼女が遊びにやって来ると先触れが来た。今度こそはと、偶然を装い、マーガレットと一緒に居間で彼女を待った。そして訪ねて来た彼女を思い切って社交界へと誘ってみた。すると妹のマーガレットも助け船を出してくれた甲斐があって、私はロザリー嬢のエスコートを勝ち取った。
そしてついに初めて彼女をエスコートして舞踏会へと行くことが叶った。
ドレスアップした彼女はいつにも増して美しかった。
こんなに美しい彼女をエスコートできることを嬉しく感じながら、会場に入ると、予想通りと言うべきか、悪意のある言葉が飛び交っていた。
しかしそこは、私を含め、周りの助けもあり、なんとか乗り切ることができたのだが、彼女との関係はあまり、進展することはなかった。
それでもこうして少しずつ距離を縮めていけばと期待していると、妹のマーガレットがあせらすことばかりを言ってくる。
どうしたものかと考えてみたが、やはりまだ婚姻無効になったばかりの彼女には早すぎる気がして、なかなか踏み出せずにいる。
しかし、今度こそは、このチャンスを無駄にはしないと己を鼓舞した。