15話
あの幸せな結婚式から四年の歳月が流れていた。
残念なことに私たちはまだ子供には恵まれてはいなかった。
それでもルイス様は相変わらず優しくしてくださり、毎日が幸せに満ちていた。
ルイス様は
「子供は授かりものだからそんなに気にすることはないんだよ」
と言ってくださるが、やはり私は焦っていた。公爵家の後継ぎを産まなくてはと。
そしてこのままずっと子供を授かる事ができなかったらと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
ある日、私は思い切ってルイス様に
「私に遠慮などせずに、外に子供を作られてはどうですか」
と言うと、急に怒り出して
「私が他の女性とそういう関係になっても君は平気なのか?」
と言われた。私は
「勿論いい気持ちはしませんが、もしこのまま出来なかったらと思うと、それしかないような気がして」
と言うと
「君以外とそういう関係を持とうとはこれから先も決して思わないから、そのつもりでいてくれ」
と仰った。それを聞いてどれだけ私が嬉しく思ったか、思わず涙が溢れそうになったが必死で耐えた。
そんな私にルイス様は何か察したように
「いざとなれば、マーガレットのところには元気な男の子が三人もいる、いつかその時が来たら養子に迎えられるよう私から話してみるよ」
と言ってくださった。
今までの私は、ただ、己の欲だけで外に女性を作る男ばかり見てきたので、ルイス様のこの言葉が、どれだけ嬉しかったことか、私はそれを素直にルイス様に伝えた。
すると私のことを思い切り、抱き寄せ口づけをしてくれた。そして
「私は君さえいてくれれば、それだけで充分なんだ、だから今回のようなことは二度と口にしないで欲しい」
と言ってくださった。思わず私は、そんなルイス様に抱きついてしまった。
そんな辛い日々を乗り越えて二年後、ついに私は子供を授かった。
その子はとても可愛い女の子だった。
勿論可愛いし、嬉しかったが、やはり心の底では男の子を期待してしまった。そんな私を気遣ってかルイス様は
「私は君に似た女の子で、とても嬉しいよ」
と言ってくださった。不思議なことにルイス様の優しさのお陰で、あまり気負うことがなくなった私はその次の年にまた子供を授かることが出来た。
そしてそんな私にプレッシャーをかけまいとしてか
「今度もまた、君に似た女の子だったら嬉しいよ」
と、生まれる前から言ってくれていた。
しかし、驚くことにそんな私たちに授かったのは男の子と女の子の双子の赤ちゃんだった。
これには周りもとても驚き、かなりの難産だった私の身体も、一度に二人の赤ちゃん誕生の喜びで、思っていた以上に早く回復した。
人生とは何が起こるのか本当に分からないものだと痛感した。
ルイス様と一緒になってからの私は、幸せなことばかりだったけれど、この時の幸せはまた格別なものとなった。
その後、お祝いに駆けつけた両親は孫の顔を見ながら
「本当におめでとう」
と言い、お母様は私に
「ロザリー、ごめんなさい。私は貴女に『浮気しない男はいない』なんて言いながら育ててしまったわね、こんな素敵な旦那様がいたというのに」
と言って、謝られた。それを隣で苦笑しながら聞いていた父の顔が忘れられない。
私の両親も今では平和に暮らしている。尤も母の心の中までは分からない、やはりどこか蟠りは消えてないような気がするが、表面上は父を許しているようにも見える。
父もこれからの残された人生は母だけを思い、生きていくと、とりあえず今は口にしている。
異母兄も子爵令嬢と結婚して、今のところは彼女一人に尽くしているようだ。
まあ、皆、どうなるかは先のことだから分からないが、それぞれが反省しているように感じた。
いつだったかルイス様が遊びに来た異母兄に
『普通の幸せが一番幸せなんだよ、きっとそれは無くした時に分かるんだ。でもその時にはもう手遅れになっているかもしれないよ。だから気をつけるように』と言っていたことが思い出された。 きっと異母兄はその時の言葉が身に染みているのかもしれない。
そしてルイス様は付け加えるように
『スリルやときめきばかり追いかけて、次々女性を替えていたら、いつか気づけば一人ぼっちになってしまうよ』
とも言っていた。
ルイス様のご両親は相思相愛で今も新婚の時のように仲がいい、そんなお二人に育てられたからこそ、そういう言葉が言えるのだと思った。だから私も子供たちの為にもルイス様のご両親のようになりたいと思う。
私はルイス様とこれからも信じ合い生きていく。
ルイス様が私を選んでくださったことに感謝をしながら
「ルイス様が、私を選んで良かったと思ってくれるよう、生きていくわ」
と口にすると
「私は初めからずっと、君で良かったと思っているよ」
と言ってくれる。そしてルイス様は
「私はね、君と出会った頃よりも今の方がずっと君のことを愛おしく思っているよ。それはきっと時の流れの中で家族愛という感情が増えたせいなのかもしれないな。これはね、上手くは言えないけれど血の繋がりのような感覚なんだよ」
と呟くように言ってくれた。
そんなルイス様に私は少し照れながら
「ルイス様は私のこといつも甘やかし過ぎです」
と言い返しながら、こうしてまた幸せな一日が過ぎていく。
完