13話
帰りの馬車に揺られながら、私はステーシア様が言っていた第二王女殿下のことを考えていた。
先ほどの話が事実なら、正式にルイス様にお話があったなら断れることではない。
マーガレットがそうだったように、王家からの話は絶対だ。だとしたらやはり、私がこのままルイス様のお側にいることは迷惑になってしまう。いくらルイス様からのお話だったにしても、王家から正式な打診があったなら私に対しての話はないものとして扱われて当然だ。
やはりすぐにでもきちんと先日の話は辞退しなくてはいけない。
そんなことを考えながら屋敷に着くと、私のワインで汚れたドレスを見た使用人が
「お嬢様、どうなされたのですか」
と大騒ぎをしてしまい、それを聞きつけた両親と異母兄が駆け寄ってきた。私は心の中で
『こんな日に限って皆屋敷にいるだなんてついていないわ』
と溜息をつきながら
「大丈夫です、なんともありませんから」
と言って私室に戻ろうとすると
「ロザリー、こちらに来なさい」
とお父様に呼ばれてしまった。
私は
「分かりました、でも着替えだけさせて下さい」
と言って、一旦私室へと向かった。
そしてどう話すべきか考えながら侍女に着替えを手伝ってもらっていた。
悩みながらも、やはりことがことだけに正直に話すべきだと覚悟を決めて、三人が待つ居間へと向かった。
そして、先日言われたルイス様からの言葉と今日、王宮であったことを包み隠さず三人に話すと、まずお父様が
「それはとんだ災難だったな、それにしてもわざとワインをかけるなんて許せないな」
と怒りながら、今度は異母兄が
「あの令嬢は本当は自分が好きなんじゃないのか」
と呆れていた。お母様だけは
「まあ、公爵家嫡男にエスコートしてもらってる時点で、反感を買ってしまうのよね」
と冷静だった。私は
「このお話はなかったことにしますので、それで全て終わりです」
と告げると、お父様が
「お前はそれで本当にいいのか?」
と仰ったので
「いいも悪いもそれしか選択肢はないではありませんか」
と言うと
「まだルイス殿の口から聞いたわけではないのだから、ちゃんと話してからでも遅くはないぞ」
と言われた。でも私は
「これ以上面倒事はごめんですから」
と言ってから私室に戻った。
そしてベッドに仰向けになりながらこのモヤモヤした気持ちはなんなのか考えていた。
そして今まで感じたことのないこの思いの正体がわからぬまま、この日は眠りについてしまった。
それから朝になり、昨夜のモヤモヤした気持ちがまだ消えていない自分に戸惑っていると、下が騒がしくなっているようなので階下に降りると、驚くことにルイス様がいらしていた。私は思わず
「こんなに朝早く、どうなさったのですか?」
と口を開くと
「こんな時間に、先触れもなく非常識なのは重々承知で伺った」
と仰ってから
「昨夜のことを全てを一緒にいた他の令嬢たちから聞いて、すぐにこちらへ来ようとしたら、もう遅いからと周りに止められて、居ても立っても居られず朝を待って、来てしまったんだ」
と謝られているので
「取り敢えず、お上がりください」
と居間へとお通しすると、両親と異母兄までもがついて来た。
そして皆の前でルイス様は
「昨夜は私のせいでロザリー嬢に辛い思いをさせてしまい申し訳なかった」
と頭を下げられたので、私は
「そんな、ルイス様のせいではありません」
と言うと
「いいや、前もって第二王女殿下のことやステーシア嬢のことを君に話しておくべきだったと後悔している」
と仰ってからルイス様のお話が始まった。
何でも第二王女殿下からのお話は一年ほど前にあったが、その時は『幼い頃から知っていて、妹のように思っていたので結婚相手としては考えられない』とお断りをしたそうで、そのことがあり、今回のマーガレットの縁談の話は余計に断り難く、マーガレットには申し訳ないことをしたと思っていたが、マーガレット自身、王子殿下のことを知るうちに惹かれていったので良かったと胸を撫で下ろしていたところだった。
ということと、王女殿下をお断りした際に、だったらとスペクター公爵家からステーシア様との縁談の話が持ち上がったが、それもきちんとお断りした、と聞かされた。
多分ステーシア様はその時のことが気に入らず、ルイス様にエスコートをされた私に嫌がらせをしたのではないかということだった。
そして全てを話し終えたルイス様は改めて両親たちの目の前で
「ロザリー嬢、私と結婚して欲しい」
と言ってから
「先日も伝えた通り、すぐに返事をしなくて構わないから、真剣に考えて欲しい」
と仰った。それを聞いた私は内心でとても嬉しく感じていて、こんな気持ちがあるのだと驚き、昨夜から続いていたモヤモヤの正体が分かってしまった。
だから私はそんなルイス様に
「いいえ、今、お返事をさせて下さい。今回のことで自分の気持ちがはっきりしました」
と言ってから
「私もルイス様をお慕いしています。私のような者でも良かったら、是非ルイス様と一緒になりたいです」
とお伝えした。するとルイス様は目の前の私の手を握り
「ありがとう、必ず幸せにすると誓う」
と、とても嬉しそうな表情で仰って下さった。
そんな私たちのことを側で見ていた家族は皆微笑みながら、お父様が
「おめでとうロザリー」
と言って下さり、お母様と異母兄は『うんうん』と頷いていた。
その後、ルイス様は家族にきちんと挨拶をしてから、とりあえず今日のところはとお帰りになった。