１０話
先日の舞踏会から帰って来て、しばらくして、ルイス様から観劇のお誘いをお受けした。思わず
『何故私が誘われるのかしら？』
と不思議に思ったが
『ああ、マーガレットは婚姻の準備等で忙しいからかしら』
と、納得した。それならとお返事をしたら
「すぐに迎えに行く」
とのことだったので、今日の午後に決まり、今、ちょうどルイス様がいらっしゃった。
「ロザリー嬢、急に誘って申し訳ない」
と仰ったので
「いえ、私も丁度あの演目には興味があったので、ありがとうございます」
と言うと
「それは良かった、妹からロザリー嬢が好みそうな物を聞いて正解だったな」
と仰ったので
「もしかして私のためにわざわざ取ってくださったのですか？」
と聞くと
「勿論そうだが」
と返され、私は頭の中が？ マークでいっぱいだったが、開演も迫っていたのでそのまま考えることをやめた。
それから私はルイス様にエスコートされながら観劇を楽しんで、その後軽くお茶をしているところで、ルイス様が
「なかなか楽しい演劇だったな」
と仰ったので
「はい、あれでしたら男性の方も楽しめますね」
と返した。すると急に改まった表情になり
「ロザリー嬢、もしよかったら私と結婚を前提に付き合ってもらえないだろうか？」
と言われて
『いきなりすぎるわ』と驚いていると
「実はロザリー嬢の婚姻が決まる前から、ずっと好きだったんだが、いつの間にか婚姻が決まってしまい、一旦は諦めたんだ。だが、こうやってまたチャンスがやって来た。だから今度こそは絶対自分の気持ちを伝えようと思ったんだ」
と仰った。私は突然すぎてなんと答えたらよいのか分からずにいると
「急で、驚かせてしまったみたいだな、返事はすぐでなくても構わない、ただ真剣に考えて欲しい」
と言われた。私は
「確かにかなり驚きました。正直、思ってもみなかったことなので、少しお時間をください」
と告げた。するとルイス様は
「勿論だとも、いい返事を待っているよ」
と言ってから話を変えられた。
その後はいつも通りの会話をしながら、その日は自宅まで送っていただき帰宅した。
私室に戻ってからベッドに横になりながら
『何てお返事したらいいのかしら』
と独り言を呟いた。
そして、どう考えても私では釣り合わないと思った。だって私は大勢の前で婚姻無効を告げられたのだから、そんな女と婚姻したらルイス様に傷をつけてしまうような気がした。ましてやマーガレットは王族に嫁ぐのだし、その兄が私みたいな女と結婚したのではと申し訳なくも思った。
『はー、困ったわ、何と言ってお断りしたらいいのかしら』
と溜息が出た。
それから二日後、マーガレットが訪ねて来た。なんだかニヤニヤとしているのできっとルイス様から聞いたのかしらと思っていると案の定
「それで、お兄様のことはどうするつもりなの？」
とあまりにも単刀直入に聞いてきた。私は
「マーガレットが王族に嫁ぐのに私みたいな婚姻無効を告げられた者が身内になっては不味いわ」
と言うと
「何言ってるの？ あくまでも無効になったのだから、何もなかったということでしょう」
と言われた。それはそうなんだけどと心の中で思いながらも
「世間はそうは思わないわ」
と返すと
「もう、じれったいんだから、そんなことわたくしも殿下も全く気になんてしてないわ」
と言われた。そして
「それより一番大事なのはロザリーの気持ちなの」
と言われ、考えてみても自分の気持ちは分からない。正直、人を好きになったことなどないのだから。
ウェル様の時だってただの使命感だけで結婚したわけだし、自分の気持ちを考えたことさえなかったわ。だから
「ごめんなさい、自分の気持ちもよく分からないのよ」
と返すしかなかった。そんな返事にマーガレットは
「仕方ないわね、もう少し時間をかけなくてはダメみたいね」
と言われた。そして私は
「マーガレットは、殿下のことはお好きなの？」
と聞いてみた。すると
「まあ、最初はこちらからは断れる相手ではないからとお付き合いはしたけれど今は本当に好きでお付き合いしているわ」
と答えてくれた。それを聞いて
「だったら私もそうなるかしら？」
と聞くと
「そうね、取り敢えずお付き合いだけでもしてみたら？ 何か自分の気持ちに変化があるかもしれないわ」
と言われた。
その後はやはりマーガレットの言う通り、少し時間をかけて、ルイス様とお付き合いしていくことにして、その日の話は終わった。
