1話
今、私はいったい何を見せられているのかしら? 目の前で抱き合い、口づけをしているこの二人は、私がこの部屋に入って来たことさえ気づかず、行為に没頭している。
それにしても男性の方は、三日後に私との結婚式を控えたルイノート公爵家嫡男のウェル様よね。
女性の方は、私にここへ来るよう、ここのメイドに伝言したという、レンフリー男爵令嬢のアンリさんご本人だったのね。
ということは、私に見せつけるためかしら? と思い、ため息をつきながら尋ねた。
「あのーレンフリー男爵令嬢、ここに来るようこちらのメイドに伝言しましたよね? 何かご用でしたか?」
声をかけると、公爵家嫡男のウェル様の方がとても驚いている。
「いつから居たのだ?」
「ほぼ初めからでしょうか」
「こ、これは違うのだ。アンリ嬢が急に抱きついてきてだな」
そう言ってしどろもどろになっている。
「大丈夫ですよ、他人には言いませんから」
すると今度はアンリさんが
「あら、これはエドリアン侯爵令嬢のロザリー様、見られてしまいましたか」
「私の勘違いかしら、見せるために呼び出したのではありませんか?」
「それは本当なのか?」
「あらウェル様ったら、わたくしのことが気になっていたと仰ったではありませんか」
「いや、あれはだな」
言い訳をなさろうとしていたので、私は何の三文芝居を見せられているのかしらと呆れていた。
「用が無いようなので私はこれで失礼致します」
そう言ってその場を後にした。
舞踏会の会場に戻った私は、一緒に来ていたお母様に全てを話した。
「やはりお母様が言っていた通りでしたわ」
するとお母様は呆れた顔をしながら
「いくら何でも結婚式三日前にしなくても」
そう言って憤っていた。
お母様は私に常日頃から『男は地位とお金がある者ほど、浮気をするものよ。まず浮気をしない男など、いないと思いなさい』と言っている。
まさに私のお父様も同じだった。
だから私もずいぶん前からそう思っていたので、先ほどの光景もさほど驚きもしなかった。
しばらくするとウェル様がばつが悪そうに私の元にやって来た。
そして一生懸命言い訳をしている。だから私はにっこりと微笑んで
「大丈夫ですよ。気にしていませんから」
そう言って差し上げた。それでもまだ言い訳をしているので、いい加減うんざりしていたので
「別に怒ってもいないし、それ以前に興味もありませんから」
そう言ってから、隣にいるお母様に
「ねえ、お母様」
と同意を求めた。すると母は
「娘の言う通りですよ、浮気をしない男はいないと言い聞かせ、育てましたのでお気になさらず」
それなのにウェル様は額に汗をかきながら、繰り返し謝っている。
「本当に申し訳なかった」
「政略結婚なんて皆そんなものですわ、だから本当にもう謝らなくていいのですよ」
そう言って差し上げた。そんな私にお母様は
「では今日はこの辺でお暇いたしましょうか」
と何もなかったように言うので、私はウェル様に笑顔を向けた。
「そういうわけですので、お先に失礼させて頂きます」
そして軽く一礼してから退出した。それをただ呆然と見送るお姿が笑えた。
それから三日後、ついに結婚式当日を迎えた。
ウェル様はなんだか少し緊張した様子で、それでもマナーとして女性を褒めることを忘れなかった。
「ロザリー、今日はいつにも増して綺麗だ」
そう言って私のベールを上げて口づけをした。私はそれを儀礼的に受け流しながら
「ウェル様も素敵です」
挨拶のように言って差し上げた。
こうして結婚式は予定通り無事に終わり、今、私は侍女によって初夜に備えての支度をされ始めた。そんな侍女のランナに私は当たり前のように声をかけた。
「今夜は私、私室で一人休みますので初夜の支度は必要ありません」
それを聞いたランナはかなり驚いている。
「そう申されましてもご主人様がお待ちになっています」
「だったら、私が直接お断りをしてきます」
そう言って部屋を出てウェル様の待つ夫婦の寝室へと行った。そして扉をノックすると、中から
「どうぞ」
と声がしたので
「失礼致します」
中に入るとそこにはベッドに座っているウェル様がいらした。
「ウェル様、本日は初夜を迎えましても子供は出来ない日ですので意味がありません」
すると、ポカンとしたお顔で見つめてきた。なので私は丁寧に説明をして差し上げた。
「今から丁度一週間後からの三日間が一番確率が高いので、その日の夜にこちらに来ます。では、今夜はこれで失礼させて頂きます」
そう言ってから部屋を後にした。
残されたウェル様は呆然としながらも何か言おうとしていたが、私はそれを遮るように部屋を出た。
私室に戻った私はランナににっこりと微笑んだ。
「ウェル様にはきちんと伝えましたから、私はこれで休みますのでランナも下がって大丈夫ですよ」
するとランナは心配そうな顔を向けてきた。
「本当にこれで宜しいのでしょうか?」
私は安心させるようにさらに微笑んだ。
「全く問題ありません。だからゆっくり休んでちょうだい」
ランナはそれでもまだ心配そうな顔をしていたが、その夜は諦めて部屋を出て行った。
その後私は朝まで爆睡した。




