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001

 俺、宮本無二斎みやもと むにさいは剣術オタクの両親の元に生まれた。剣豪好きの両親は何故か、誰もが知る大剣豪の父の名を俺に名付けた。

 何故剣豪の名をそのまま名付けなかったのかは今でも分からない。だが、俺はこの名前を気に入っていた。

 無二斎。それは二が必要ないと言う意味だ。つまり一の太刀で全てを斬り伏せるが故に二が無い、故に無二。こんなに心躍る名前が有るだろうか。


 そんな名前を付けられたからだろうか、俺も両親に負けず劣らず、いやそれ以上の剣術オタクとなっていた。

 動画投稿サイトに上がっている数々の達人の真似をし、剣術書を読みそれもまた真似し、道場に行ってはこっそりと練習の様子を見てそれもまた真似し、そんな俺を見ていたからか、両親は地元でも有名な剣道の道場に俺を通わせてくれた。


 だが、俺の心は全く燃えなかった。俺がやりたかった事はこれだったのかと。剣道が悪いと言ってるのでは無い。現代において道を学べる素晴らしい物だと思う。

 しかし俺は真剣を振るいたかったのだ。両親にその思いを伝えると、今のお前にはまだ早いと言われたのだ。お前は人を傷つけるために武道を習って居るのかと。


 確かにそうだ。現代において真剣とは対人には使われない。鑑賞するための美術品としてか、居合術の道場において使われる程度である。

 俺は出来ることなら真剣を持って人との斬り合いがしたい。だがそれは現代の倫理観、常識、法律そのどれもが許してはくれない。

 俺の夢はこの現代では叶わないのだ。


 すこし落ち込んだ俺を見て、父は十八になってお前が正しい心で剣を振るえる様になったら、真剣を扱う道場に通わしても良いと言ってくれたのだ。確かに今の俺の動機は少し不純かも知れない。

 俺は心を正した。斬り合いがしたいと言っても無差別に殺人がしたい訳では無い。あくまでも剣を扱う者同士、真剣に戦いたいだけなのだ。

 しかし、それは現代では叶うことのない夢、ならばせめて居合の達人にでもなってやろうと。それまではありとあらゆる武術を学び、体も心も鍛えようと、そう決心したのだ。


 そうして俺は剣道も続けながら、手当たり次第に武術を学んだ。ボクシングやテコンドー、合気道に至るまで学べる物は全て学んだ。

 そして、現代の日本で成れるだけの剣豪と成るために日夜ありとあらゆる物を振った。木の枝からフライパン、バットにバールのような物、通販サイトで買った木刀などありとあらゆる物を、時に素振り、時に岩に向かって斬りつけるように振った。

 だが、一度として岩を斬ることは無かった。

 

 そうして毎日修行に明け暮れ、遂に十八歳となる前日、事件は起きた。

 いつものように重りを背負って朝の登山をしていた時の事だ。突如として、山の上から巨大な岩が転がり落ちて来たのだ。

 気が付けば眼の前まで接近していたそれは、しかし俺の鍛え上げられた肉体をもってすれば、簡単に避ける事が出来た。


 だが、岩を避けようとしたその時、俺の頭の中で何かが囁いた。この程度の岩も破壊できずして何が剣豪になるだ、と。

 全く意味が分からない。そもそも俺は今剣を持ってなどいない、代わりに振れるものも持っていない。剣で斬り伏せろなら分かるが、拳を持ってして岩を破壊した所で、剣豪と何の関係が有るんだと。

 そう、思いかけた。


 成る程、確かに。剣豪たる者この程度の岩を剣を持たずに破壊できて当然だろうと。そもそも“剣を持っていない”だから斬れないと言うのは好きでは無い。

 剣ならここに有るじゃないか、宮本無二斎と言う、最強の剣が。


 そう思った俺は、右の手を刀の形にして、転がり落ちてきた岩に向かって思いっきり斬りつけた。


 めきょめきょと腕から聞いたことのない音がして、その音を聞いたとほぼ同時に、俺の意識も黒く塗りつぶされた。







 目が覚めた時、初めに見えたのは木の天井だった。少ないとも自分の家ではない、だが、恐らく病院でも無いだろう。今どき木製の天井の病院など聞いたこともない。

 辺りを見渡そうとして首が上手く動かせない事に気が付く。体を起こそうとしてもなかなか上手く起き上がれない。


 なんとかならないかと腕を動かしてみる。すると小さい赤ん坊の様な手が目の前に現れた。近くに赤ん坊が居るのかとも思ったが、それにしては手の出てくる位置がおかしい。

 そこで俺は思い至る、まさか俺が赤ん坊になっているのでは無いかと。そんな馬鹿なと思考するが、否定しようとすればする程、自分が赤ん坊である証拠が出てきてしまうのだ。


 これは…まさか…もう一度人生最初から鍛えられると言う事だろうか!?なんと最高なのだろう!誰もが一度は考える、記憶を持った状態で生まれ変わり、一からやり直す事が俺には出来るのだ!

 俺はワクワクを抑えられたかった。だが、俺は一つだけ気がかりな事が有った。それはあの時の岩を俺は斬れたのかと言う事だ。


 ここが地球のどの場所かはまだ分からないが、あれから時間も経っているかも知れないし、確認するのは難しいかも知れない。

 だが、確認できないのであればもう一度挑戦すれば良いのだ!期待感に胸を膨らませていたが、突然猛烈な尿意が俺を襲った。

 それは我慢する暇もなく、俺のおしめを濡らしていき、今度は猛烈な不快感が俺を襲ってきた。


 現在周りに人がいる気配は無い。仕方なく俺は大声で泣き、人を呼ぶのだった。

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