エピローグ
幼い頃、母に読み聞かせてもらった絵本、『たった1つの王子との約束』。
それは、結末の書かれていない不思議なお話だった。
私があの瞬間、王子様と出会い、恋に落ちて、努力を重ねて結ばれたその過程こそが、あの絵本が伝えたかった「その先の物語」だったのだと。
『お話の続きは、そのときになったら、ももちゃんが自分で考えるの。』
まだ5歳だった私に、なぜ母がそんな言葉を残したのか。
今なら、ちゃんと意味が分かる。
王子様と結ばれるには、ただ待っているだけじゃダメ。
お姫様だって、自分を磨き、勇気を出し、信じて動く必要がある。
きっと、あの絵本の中のソフィアも、ルイスと結ばれることを心から願い、行動して、想いをぶつけたのだろう。
私にとっての『王子様との約束』は、
どんな世界にいても、想いは通じ合うということ。
そしてそれは、結ばれてからも変わらない。
私たちは、これからも手を繋いで、見つめ合いながら、人生という物語を紡いでいく。
それが、私たちの選んだ『答え』だから。
「おい、何ぼーっとしてんだよ。学校、遅刻すんぞ。」
私の王子様の声がする。
「わかってるって! すぐ行く!」
玄関の扉を開けると、そこにリュシアンがいる。
制服姿の彼は、まるで最初からここにいるのが当たり前のような顔をして、私の方を見た。
そして、私にそっと手を差し伸べる。
「ねぇ、今年のクリスマス、どうする?」
「寒い。家に1票。」
「え~!? せっかく恋人になれたっていうのに! ちょっと奮発してどこか出かけようよ〜!」
「……ったく、ワガママだな。相変わらず。」
「誰がワガママよ! あ、私フランス料理食べたい!」
「考えとく。」
「絶対だからね!」
不意に吹き抜ける冬の風が、彼のマフラーの端を揺らす。
彼はフッと笑って、その手をさらにぎゅっと握った。
冷たい空気の中でも、彼の手のぬくもりだけは、ちゃんとそこにあった。
空を見上げると、真っ白な雲の隙間から、柔らかな光が差しこんでいる。
まるで、これからの私達を導いてくれるようだった。
この世界で、リュシアンと共に生きていく。
それこそが、私が選んだ『物語の結末』。
でも、本当はまだ始まったばかりの――私たちだけの、物語。
これから、私たちはどうなるんだろう。
でも大丈夫。
王子様とお姫様は、いつまでもお互いを見つめ合って、愛し合い、いつかは永遠を誓うのだから_____。
これにて完結です。
短い間でしたが、本当にありがとうございました。
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