表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/28

第2話  『溺愛されると見せかけて』

今回は短めです。


「桃香…。オレ、迎えに来たぜ。アンタのこと、やっぱりほっとけなくて。」


 気づけば私は、ベッドに仰向けで、リュシアンがそのすぐ上にいた。彼の手が肩を押さえてる。重くはないけど、逃げられないくらいの力。シーツの上に倒れ込んだ私の右手が、彼の腰に軽く触れてしまう。


 彼は無言で私を見下ろしていて、その体温がじわじわ伝わってきた。逃げようとしても、肩を押さえる彼の指がぴくりとも動かない。心臓の音が耳に響いて、自分の呼吸がうるさいほどだった。


 吐息が髪に触れて、妙に熱い。息をするたび、彼の香りが近づいてくる。


 絹のように光る白髪に、ほのかに漂うバラの香り。耳に落ちてきた声は、まるで楽器の音色みたいに上品だ。一体、どうなっているのだろうか。中に、声優でも飼っているのか…?


 目の前に、リュシアンがいる。ゲームの画面でしか見たことのない彼が、まばたきをして、呼吸をして、服の裾が空気に揺れている。それが、どうにも現実感を失わせた。ゲームのスチルと同じように、白と赤の王子様のスーツを着ている。


 時計の秒針が聞こえなくなる。心臓が飛び出そうで、どこを向いたらいいのか分からなくて。どの方向を見つめても、彼の存在が溢れてしまう。


「あ…。」


彼と目が合う。ルビーの瞳が綺麗。絵本から飛び出したみたい。いや、本当に次元が違うんだけど。


 も、もしかして、この流れって…


 もしかして、これって…三次元の私に恋しちゃって、現実で甘々に溺愛しちゃう…そんな夢みたいな展開?


 ああ、これ多分夢だ。普通に考えて、二次元の乙女ゲーのキャラが私の部屋にやってくるわけ無い。どんだけ欲求不満なんだ、わたしは。


 それじゃあ、ちょっとだけ思い切ってもいいよね。夢ならお願い、覚めないで。神様。


 私は、勇気を振り絞って目をきつく閉じた。


 ええい! もう、どうにでもなっちゃえ!


「….は?」


 低い声を発した彼。恐る恐る、目を開けるとさっきよりも、彼がクリアに見えた。こんな完璧すぎている顔を再確認して、私がさっきやろうとしていた行動が恥ずかしくなる。


「いやああああ! やっぱり、本当、本当に無理だからあ!!」

「いや、無理なのはオレのほうなんだが・・・。」

「あ、あの!! わたし、そ、その…。」


 私がもじもじしていると、彼が起き上がって、頭を掻いていた。


「何してるんスか。おばさん。」

「お、おばさん!? 」

「何がしたいんですか・・・。早く、桃香に会わせて下さい。それに、ここどこですか。なんでこんな、ボロい家にオレ様が・・・。」


 ぼ、ボロい…?


 はっ!


 散らかったプリントと化粧ポーチ、飲みかけのペットボトル、昨日脱いだパーカーが椅子の背に引っかかってる。床にはゲームのケースやぬいぐるみが転がっていて、とても『女の子』が住んでる空間じゃない。


「ちょ、ちょっと! 私、おばさんじゃない! ピチピチの十七歳です! あと、私が宮桃香なんだけど!」

「わ、私のことが好きなんでしょ? お城で私のこと探してたんでしょ? いいじゃない。ここにいるわよ。私も、リュシアンのこと、ずっと、ずっと待ってたし…。」

イケメン相手に、私は言葉がつまり、意味の無いことをべらべら話し始める。

「気安くオレの名前を呼ぶなよ。きもち悪いな。」

「…え?」


 言い合いしても埒があかないと分かったので、とりあえずお互いの状況を整理した。


 まず、彼の名前を聞くと、やはり、リュシアン・アーチャーと、ゲームと一緒のようだった。メルシェン学園3年生で、今日が卒業式だったらしい。そして、主人公である、宮桃香の事が忘れられず、父親の反対を押し切り、ベル・エタルノ城に駆け込んだ。そのとき、私の姿が見つからず、急いで走っているとき、不自然なまばゆいトンネルを見つけて、吸い込まれるように、こちら側に来たらしい。


 つまり、リュシアンは、二次元の私を捜し求めた結果、三次元の私と出会ってしまったというわけだ。

一応、私の話もしておいたが、一ミリ単位も信じてもらえず、『リュシアンは、この乙女ゲームの攻略対象の男だよ。』と話しても、攻略本を見せても、ゲームのカセットを見せても、そもそもこの世界の言葉が通じないらしく、『インチキだ。』といって、最終的には何も聞いてくれなくなった。


 ではなぜ、日本語は話せるのだろうか。それは一向に謎である。まあ、夢というモノはいつだって矛盾が多すぎるから、よしとしよう。このまま夢を見続けよう。


「…にしても、アンタが桃香なんて、作り話しないでもらえます? 桃香が汚れますので。」

「は!? だから、私が宮桃香だって言ってるじゃん! 何度言ったら分かるの!? 二次元の私と勘違いしてるでしょ。本物の私はこれですー! どう? かわいい? 現実の私も可愛いでしょ?」


 腕を組み、偉そうな彼のまえで、私は、勢いよく立ち上がり、この地域では評判の高校の制服をアピールしながら、1回転した。


「中途半端なツインテール、アホ毛もでてるし、肌も綺麗じゃない。まあ、優しく言えば、芋女だな。靴下も、左右長さがちがうし。」

「ちょっ、女の子にそんな言うことないでしょ。」

「アンタがオレに惚れたからって、自分の事を宮桃香だと言い張るからだ。これくらいちゃんといった方が現実見れていいだろう。オレ様に惚れるなんて、百年早いんだよ。ジャガイモ女。」

「だ、誰も惚れたなんて言ってないじゃん! 勘違いもほどほどにしてもらえますかねっ!」

「オレは、桃香が一番なんだよ。」

「…っ、それは、私!!」

「はあ、よくしゃべるジャガイモだな。」


 やっぱり、絶対夢だ。こんなこと。


 確かに、リュシアンは、どこか棘はあるけど、ユーモアのある言い方をしてくれる。なのに、これじゃあ、冗談じゃなくて、本気で言われてるみたいじゃん。


 まあ、最近にしては面白い夢だったな。


次回はすぐに更新できるかと思います。お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ