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第一章15 『ミッション! 遅刻を回避しろ!』


「……アラ……ティアラ!」


「ん?」


 体を揺らされるような感覚を味わい、ティアラは目を覚ます。――否、ティアラではなくティアだ。

 寝ぼけた目をゆっくりと開けて、ティアは視界にミファーの姿を捉えた。その瞬間、ティアの意識は急速に覚醒へと加速した。


「おはよう!」


 満面の笑みであいさつするミファーに、ティアは引きつった笑みで『お、おはよう』と返した。


 どうしよ、ティアラ起きてない……


 いつもなら、精神世界へティアラを起こしに行くところだが、目の前にミファーがいる以上それもできない。

 ティアラを起こすのに最低でも一分はかかるだろう。その間にミファーが起こすことといったら目に見えている。

 ――きっと騒ぎにするだろう。


 つまり、ティアラが起きるまでしのがないといけないってことか……


「ティアラ?」


「な、何でもない……わ。今日は、学園で入学祭とかの説明があるのよね?」


「そおだよ!」


「何時くらいに行くの?」


 その瞬間、ミファーはポカンと口を開けて――、


「わかんない」


「わかんないかぁ」


「リーファなら知ってると思う!」


 ミファーがそういうので、リーファの姿を探して部屋の中をぐるりと見回す。と、隣のベッドで寝ていた。

 合わせた両手に頬をのっけて眠るリーファの姿が可愛くて、ティアは思わず笑みがこぼれる。


「というか、今何時なの?」


「五時半だよ?」


「五時半なの!?」


 思わぬ情報に驚きの声を上げて、ハッとしたように両手で口を覆う。

 恐る恐るリーファを見やる。が、大丈夫だ、起きなかったみたいだ。

 ティアはほっと息をついて、改めてミファーに向き合う。


「起こすの早くない?」


「それは、ごめんなさい……」


 シュンと身を縮めて、ミファーは視線を落とす。


「いや、怒ってはないんだけどね。……なんで起こしたの?」


「だって、寂しくて……」


「――。ふっ、可愛い」


「へ?」


 両手の人差し指同士をつんつんしていたミファーの頬が紅潮する。ほのかに赤くなったその頬は桃色で、それを見てティアは自分の失敗に気付いた。


 あやばっ! そうだわたしティアラのフリしなきゃなんだった……


「はぅ、わぁ……そ、そおかな」


「忘れなさい今のは嘘よ!」


「ううぇ!?」


 よしティアラっぽくできた!


 きっと思わず可愛いなどと言ってしまったら、ティアラはきっと恥ずかしいのを隠すために口調がちょっと強くなる。

 そんなティアの勝手な解釈のもとに成功としたが、おそらくこれをティアラが聞いたら『そんなことないわよ!』と吠えるだろう。


「寂しいのはわかったけど、五時半じゃ早すぎるわ。頑張って寝なさい」


「うぅ、わかった」


 そう言ってベッドに戻るミファーを見届けると、ティアもベッドに潜り込み、目を閉じて――、


「ん?」


 ガヤガヤとした少々騒がしい音が鼓膜を打って、ティアは小さく瞳を開く。

 どこからだろう。そう思って体を起こし耳を澄ます。――廊下の方からだ。


「ねぇミファー何か騒がしくない?」


「スゥ……」


「寝るの早いな!」


 もう寝息を立て始めたミファーに、ティアは思わず突っ込みを入れる。

 それからしぶしぶと起き上がって、ティアは部屋のドアの前まで足を進めた。そしてドアを開けると――、


「――――え?」


 絶句する。

 廊下には生徒が歩いていたのだ。しかも数人じゃない。十数人だ。その誰もが急いでいる様子で、ティアはゴクリと唾を飲み込んだ。


 まさか、学園の時間ってもうすぐ……


 ティアは焦ったようにドアを閉め、振り返ってベッドで眠るリーファの体を揺らした。


「リーファ、リーファ!」


「ん? ティアラ……」


 寝ぼけまなこを擦るリーファに、ティアは問う。


「リーファ、今日学園って何時から?」


「――? えっとぉ、六時、だったかな」


「あぁ……」


 血の気が引く。

 学園初日から遅刻なんてしゃれにならない。


「なんでそんなこと……まさか!」


「うん、今五時半……」


 リーファの顔が真っ青になる。


「急いで準備しないと!」


 タイムリミットは三十分、それまでに学園につかなければならない。

 ――ミッション開始だ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 リーファとティアは、速攻で身支度を開始した。

 寝ているミファーを起こすのは至難に思われたが、意外にもリーファの『ミファー起きて!』という一言で目を開けてくれた。

 そのあとミファーも事態を理解するとそそくさと身支度を始めてくれた。

 全員の身支度が整うのに大体二十分といったところだ。とくにティアが時間を多く消費した。

 というのも、ティアはいつもティアラが身支度しているのを見ていた立場だ。ゆえに身支度が久しぶりすぎて手間取ってしまった。性別が違うからわからないことがあったのも理由の一つ。

 そんなこんなで身支度を終え、三人で部屋を出る。その時点で残り時間は十分を切っていた。


「ねぇリーファ、朝食はどうするの?」


「寮の食堂を使ってる暇はない」


「なんで?」


「ミファーが席に座って食事して、早く終わると思う?」


「あぁなるほど!」


「今ミファーのこと悪くゆった!?」


 吠えるミファーを無視して進み、寮の外までやってくると、


「それでリーファ、どうするの?」


「持ち運べる食べ物を店で買う」


「そんなコンビニみたいな店あるんだ」


「コンビニってなぁに?」


 あっやばっ!


 思わず口に出た単語をミファーに指摘され、しまったと焦る。が、リーファが『あの店行くよ!』と話を終わらせてくれたため助かる。

 そうして店に駆け込み、急いで食べ物を購入して店を出る。会計はリーファがしてくれたので助かった。ティアは色々とわからないからボロが出る。

 近くにあった転移魔法陣に乗り、三人は学園前までやってくると、急いで中に入り、自分の教室を目指すとなってティアは気づいた。


 ティアラって何組だ?


「ねぇ、二人は自分が何組かわかってるの?」


「E」


「ミファーも」


「わたし、自分の組わかんない」


「え?」


 先行して走っていたリーファの足が止まり、驚いた顔で振り返る。


「それは……う~ん、一先ず同じ教室に行こう。そこで先生に聞けばいい話だし」


「う、うん」


 リーファの対応に不安が少し和らぐ。その優しさがとても心に響いた。

 やがてE組の教室へと辿り着き、リーファがドアを開けて――、


『『『あ!』』』


 チャイムが、鳴り響く。

 ――ミッション、失敗だ。

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