第一章14 『リーファ』
目の前に、レリーファがいる。
約一ヶ月前に失踪した、あのレリーファだ。
その事実に、ティアラは思わず目を見開いた。
「レ、レリーファ様!?」
「誰それ。私はリーファ。リーファ・ウォン……いや、何でもない」
「レリーファ様、じゃない?」
思わぬ返しに、ティアラはキョトンとした顔で応じる。
たしかによく見てみると、髪型も結ぶ位置の高いポニーテールで、身長もレリーファより少し高いかもしれない。
それがわかれば、ティアラは少しずつ落ち着きが戻ってくる。
「それで、あなたは?」
「私は……ティアラ」
「そう、ならティアラって呼べばいい? それともさんってつけた方がいい?」
「ティアラでいいわ」
「そ、わかった。私のことはリーファでいいから、これから同じ部屋で過ごすことになるんだし、ね?」
「わ、わかったわ」
ぎこちない返事を返して、会話が終わる。
未だティアラの心は、レリーファが見つかったという誤認の影響を受けていて、心臓の鼓動がいつもより少し早い。
『びっくりしたねティアラ……』
「ホントよ。レリーファ様が見つかったのかと思ったわ……」
ほっと息をついて、ティアラは小声でティアに応じる。
それに気づいたリーファが不思議そうな表情でティアラを見た。
『あんなに似てることってあるんだね』
「えぇ、ホントにそう思うわ。身長と髪型以外違いがないもの」
「ねぇ、えっと……ティアラ、誰と話してるの?」
「へ? ぃ、いや、誰とも話してないわよ!」
「それは嘘でしょ……」
じーっと見つめてくるリーファと目が合い、ティアラは頬に冷や汗が流れる。バクバクと心臓を鳴らしながら、一秒、二秒と沈黙が続いて――、
「あ! リーファいた!」
「え?」
その一言が、二人の間に生じていた空気を崩壊させた。
反射的に声の方向へ視線を向けた。水色のツインテールを揺らす少女が、部屋を覗き込むようにしてこちらを見ている。
「ミファー……」
ティアラと同じく少女へ振り向いたリーファが、ちょっとばかしめんどくさそうな表情を浮かべて名前を呼んだ。
「もう! おいてくなんてひどいじゃんリーファ!」
言いながら、少女――ミファーはコツコツと足音を鳴らしながら部屋に入ってくる。
「待ってとは言われてない」
「えぇ!?」
あからさまに驚いて目を見開いたミファー。すると次の瞬間小首を傾げて――、
「ゆってなかったっけ? ゆってなかったかぁ。それなら仕方ないや」
その子供っぽい顔立ちは、完全にミファーの雰囲気と合致していた。
こういうのを能天気というんだったか。それとも天然というやつだろうか。どちらにしろ、あまり賢そうには見えないというのがティアラの感想になる。
「そんなことよりあなただぁれ? 名前なんてゆうの? 身長ちっちゃいね! ミファーより五センチくらい低い!」
「リーファ、この子殴っていいかしら?」
「いんじゃない?」
「ううぇ!? なんでぇ!?」
「ミファーが身長ちっちゃいって言うからでしょ……。人によっては嫌にもなる」
「そっかぁ! ごめんなさい……えっとぉ」
「ティアラよ」
「じゃあえっと、ティアラ、ごめんなさい」
そう言って頭を下げるミファーを前に、ティアラは困惑する。
謝ってくれるのはいいが、ここまでされるとさすがに驚く。
「ぁ、えっと、もういいから顔上げて」
「殴らない?」
ちょっとだけ顔を見せて言うミファーは、不安に満ちた面持ちだ。
「しないわよ。さっきのは冗談だし……」
「ほんとぉに?」
「ホントよ」
「許してくれる?」
「うん」
しばし沈黙し、ミファーはティアラの顔をじっと見つめる。
そして――、
「ありがとぉ!」
「えっちょっわぁ!?」
満面の笑みを浮かべ、ミファーがティアラに向かって飛び込む。なんとかそれを受け止めるが、勢い余った。そんな二人をベッドが受け止める。
「ねぇねぇティアラあそぼ! そうだ! トランプ持ってきたの! 一緒にやろぉ! リーファもだよ!」
「えぇ……」
「ダメぇ?」
涙目になるミファー。その表情は今にも泣きだしそうで、リーファは仕方ないとばかりに息をつき、『わかった』と答えた。
「やったぁ!」
「え? あたしもやるの?」
「やらないと多分泣くよこの子」
「うん泣く!」
「――っ! うん泣く、じゃないこのバカ!」
「バカじゃないもん! それでティアラ、トランプ……」
ミファーの淡い水色の瞳がこちらを捉える。その顔は不安と期待が入り混じっているように見えた。やや不安が強いとも思えるが、どちらにしろティアラの選択肢は一つになった。いや、一つだった。
「わかったわ。ならトランプ準備しなさい」
「やったぁ!!」
――喜びに笑みを浮かべ、舞い上がる。
そんな様子のミファーを前にすれば、ティアラは自然と頬が緩んだ。




